一ヶ月後、デルカダール城下町
新しく建てられた施設に思い出の品は飾られていき、ついに今日、思い出の館としてオープンする事になった
赤いレンガを基調として作られ、黄色い屋根に大きな窓がいくつもある広い館の前にはデルカダール王達が並び、それを国民達が見ていた
デルカダール王「マルティナ、このオープン式はお主が主役じゃ。頑張ってくるのだぞ」
マルティナ「はい、お父様。最後で最初のお仕事、しっかりやり遂げます」
マルティナはそう言って一歩前に出た
マルティナ「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます!この思い出の館は、皆様のご協力がなければ存在するはずのないものでした。ですが、皆様が寄付してくださった大切な思い出の数々、全てしっかりと拝見させてもらいました。どれも素敵で大切な、美しく優しい思い出が感じられました。
そんな思い出を皆様とも分け合いたい。私は、この施設ができる事を誰よりも楽しみにしていました。皆様のおかげでこの温かく素晴らしい建物が出来ました。心から感謝しております、ありがとうございました」
マルティナは深々とお辞儀をした
マルティナ「それでは、この思い出の館、オープンです」
マルティナが入口にある赤い紐を切る。国民達からは盛大な拍手が贈られた
その後、デルカダール城 玉座の間
オープン式が終わった後、マルティナ達はいつも通りの仕事に戻っていた
マルティナ「私も皆の意見聞きたかったわ。とってもいい施設になったと思ってるけど、皆はどう感じてるでしょうね」
グレイグ「私もあそこまでのしっかりとした場所になるとは思っていませんでした。中の展示も全て姫様のご希望通りです」
ラース「わざわざあそこまでしなくてもよかったと思うけどな」
マルティナ「駄目よ、そんなの。皆の思い出はとっても綺麗で温かかったの。それなら、その思い出がより相応しくなるようにしっかり整えてあげなきゃ皆にも思い出にも失礼だわ」
ラース「......はは、そっか。マルティナらしいな」
バタン
ロベルト「し、失礼....します...。マルティナ様.......国民達から.......お手紙です」
ロベルトがふらふらしながら入ってきた。その手にはロベルトが見えなくなるほどの大量の手紙が山になって重ねられている。それを見たラースとグレイグが駆け寄っていく
ラース「だ、大丈夫か、ロベルト。よく落とさなかったな」
グレイグ「俺達も手伝う。少し下ろすんだ」
ロベルト「その声、ラース将軍にグレイグ将軍。はい、ありがとうございますって、うおっ!!」
全員「あ!」
バサァ!!
山のバランスが崩れて床に手紙が散乱した
ロベルト「も、申し訳ございません!」
ロベルトは大慌てで集めていく
マルティナ「ふふ、大丈夫よ。こんなにあると私一人じゃ大変だし、皆も一緒に読みましょう。楽しみだわ」
マルティナも笑いながらやってきて、しゃがみ込んだ。そのままおもむろに落ちていた手紙を拾って封を開けた
ロベルト「お、俺までいいんですか?」
マルティナ「ええ、もちろん。ロベルトもたくさん手伝ってくれたんだもの。皆の感想、楽しみじゃない?なんて書いてあったか教えてちょうだい。もちろん、ラースもグレイグもね」
ロベルト「じゃ、じゃあ、これにしよっと」
グレイグ「わかりました」
ラース「どれどれ。........お、やっぱり褒めてくれてるぞ。思い出の品があんなに綺麗になってて嬉しかったってよ」
マルティナ「ふふふ、そういう意見が聞きたかったわ。見て、この手紙。ルリちゃんのやつだったわ」
マルティナが開いた手紙には拙い字で精一杯書かれていた
マルティナさまへ
うーちゃんをとりかえしてくれて、ありがとうございました。マルティナさまのおかげでうーちゃんがきれいになりました。うーちゃんのけがをなおしてくれたときいて、とてもうれしかったです。うーちゃんもきれいなばしょにすめてよろこんでます。
こわいひとにたちむかったマルティナさまは、とてもかっこよかったです。うーちゃんをガラクタといわれてとてもかなしかったけど、マルティナさまがいいかえしてくれてうれしくてないちゃいそうになりました。
わたしもいつか、マルティナさまみたいなかっこよくてきれいなひとになりたいです。またいっしょにおはなししてください。おかあさんやおとうさん、マルティナさまにわたし、いっぱいのひとのおもいがあつまったこのくにがわたしもだいすきです
ルリ
マルティナ「嬉しいわ。ルリちゃんが喜んでくれてよかった」
マルティナは大切そうに手紙を抱きしめた。その目尻は少しだけ光が見えた
ロベルト「.....ええ、本当にそうですね。ご自身で裁縫されていた時は驚きました」
グレイグ「それもそうだし、姫様は一つ一つの思い出の物にコメントまでして飾ってあるのだ」
ロベルト「ええ!?け、結構な量ありましたけど!」
ラース「わざわざ寄付した本人にどんな思い出なのか聞きに行ったんだぜ。流石というか、なんというか」
マルティナ「ふふ、だってその方が嬉しいじゃない。思い出を共有出来るのは幸せな事だわ。実際、思い出を話してる時の皆の顔はとても活き活きしてたし優しい顔をしてたわ。あんな顔にさせてくれる物は大切にしたいの」
ラース「優しいな、マルティナは。そういえば、マルティナが出したあのグリズリーのぬいぐるみにも何か思い出があるんだろ?なぜか片目だけ取れてたけど。マルティナならすぐ縫えそうなのにずっと部屋に飾られてたままなのも不思議だよな」
マルティナ「あれはあのままがいいのよ。ね、グレイグ?」
グレイグ「....私に言わましても。あれはホメロスと姫様の思い出でしょう」
二人「ええ!?」
マルティナ「そうなの。昔にね、あのぬいぐるみをお父様が買ってきてくれたの。私はそれが嬉しくて、ずっと肌身離さず持ってたわ。ご飯の時もお城にいる時も、お風呂の時でさえもね」
ラース「そ、そんなにだったのか。凄いな」
グレイグ「だが、そうしていたせいかすぐにぬいぐるみは汚れてしまってな。一度洗った方がいいとなったんだ」
マルティナ「それをね、私が嫌がったの。取られるではないんだけど離れたくなかったのよ。お父様もグレイグもすぐに諦めてくれたんだけど、ホメロスはずっと諦めてくれなかったの。私も汚れますよとか言って」
ロベルト「ま、まあ、当然といえば当然ですね。ホメロス将軍のお気持ちもわかりますし、マルティナ様のお気持ちもわかります。大切な物は離したくないですよね」
マルティナ「そうして二人で引っ張り合った結果、片目が取れちゃったの。それを見た私は大泣き。ホメロスは顔を真っ青にして大慌て。お父様もグレイグも駆け付けて大騒ぎだったわ」
グレイグ「凄まじかったですからな、あれは。王のあやしをもってしても泣き止んでもらえませんでしたから」
ラース「うわぁ、それはそれは。で?それがどうして未だに取れたままなんだよ。それなら付けてしまえばよかっただろう」
マルティナ「その目のボタンがね、特別性だったみたいでもう売られてなかったの。だから代わりとして違う物を付けたんだけど、それはそれでなんか違くて嫌だったのよ」
グレイグ「ホメロスは大陸中を駆け巡って同じボタンと同じ人形を探したのだが、かなりレアみたいでな。どうやらプレミア物だったらしい。王もそうとは知らずに買われたからな。買う事は出来なかったのだ」
マルティナ「私はホメロスと大喧嘩。一切顔も合わせなければ口も聞かなかったの」
ロベルト「いや、なんか楽しそうに言ってますけどホメロス将軍随分とかわいそうに...」
グレイグ「ホメロスも見た事ないほどに落ち込んでいてな。常に上の空だったし、部屋に来ては姫様にどうしたら仲直りしてもらえるかを延々と聞かされていた」
ラース「は、ははは....。思ってたより凄いドタバタしてる思い出だな」
マルティナ「ええ、そうね。今となっては笑えるいい思い出だわ。でも、あれを見る度に思い出してたわ。昔のホメロスも、あのホメロスもきっと変わってなんかいなかった。心の中は同じだったけど、求めようとした方法が違ったの。敵対してしまったけど、願うならば彼も救ってあげたかった」
グレイグ「......」
マルティナ「ごめんなさい、こんな雰囲気にさせるつもりじゃなかったの。つい、口からね」
ラース「.....大丈夫さ。思い出もいい物ばかりじゃない。苦しいもの、つらいもの、後悔するもの。たくさんある。でも、それを乗り越えたからこそ今の俺達だ。今の俺達になるための必要な思い出だ。絶対忘れないでいこうぜ」
グレイグ「そうだな。姫様、ホメロスとの大切な思い出をありがとうございます。ホメロスもきっと喜ぶでしょう」
マルティナ「ええ!そうだと嬉しいわ」
館にあるグリズリーのぬいぐるみにはマルティナのコメントとしてこう書かれていた
私の昔からのお友達です。ここには二人の記憶が刻まれています。一人は、まだ幼くて駆け回っていた自分。もう一人は、綺麗で強くて実は優しいこの国を支えていてくれた人。これまでも、これからも忘れません。せめて、この言葉が貴方へ届きますように。
私と遊んでくれてありがとう