その夜
マルティナが目を覚ました
マルティナ「ん?ここ....は」
ベロニカ「あ!皆!マルティナさんが目を覚ましたわ!」
セーニャ「マルティナ様、大丈夫ですか?」
全員がベロニカの呼ぶ声に集まってきた
マルティナ「......ラースは、もう.....いないのよね」
マルティナは全員を見渡すと、下を向いて呟いた
イレブン「うん。ラースは、僕達を守って死んでいった」
ベロニカ「ちょっと、イレブン!そんな直球に!」
マルティナ「いいのよ、ベロニカ。はっきり言ってもらえた方がありがたいわ。そうよね....私に力が無いせいで....」
マルティナは両手を握りしめる
ロウ「姫よ、わし達はさっきまで皆とこれからの事を話しててのう。お主とラースに伝えたい事があるんじゃ。外に来てもらえるかな」
マルティナ「私とラースに.....伝えたい事?」
キャンプ場
マルティナ「それで、伝えたい事って?」
イレブン「マルティナ、僕達はラースにこの世界の未来を託されたんだ。マルティナも見たよね?ラースが爆発に飲まれる前、僕達に後は任せたぞって言ったのを。
だから、僕達全員はラースの想いを受け継ぐ。
ラースが願っていた魔王を倒してこの世界に光を取り戻すんだよ!そうすればきっとラースは喜ぶし、ラースに対する謝罪と感謝にもなる。
その為に、マルティナ。君の力が必要なんだ。
僕達と一緒に魔王を倒すんだ!」
イレブンはマルティナに強く真っ直ぐに語りかけた
マルティナ「........ラースの......願い.....。そうだわ....私は、ラースに教えられた。彼の想いを、無念を、そして、私に対する愛を。
.........そうよね。このまま悲しみに暮れてても、ラースはきっと喜ばない。
イレブン、私も行くわ!そして、絶対に魔王を倒しましょう!!」
マルティナはイレブンの目を見てはっきりと宣言した
イレブン「!マルティナ!!ありがとう」
マルティナ「ふふ、お礼を言うのはこっちの方よ。やっぱりイレブンは勇者ね。絶望に落ちていきそうな私の手を掴んで引っ張り上げてくれた。大事な事に気づかない所だったわ。本当にありがとう。皆も、ごめんなさい。
もう迷わないわ。私は皆と一緒に行く。ラースにもこの誓いを伝えましょう」
ガラッシュの村 奥地
墓の前にはラースがつけていたオレンジのミサンガが落ちていた
マルティナ「あら?これは.....ラースがつけていたミサンガだわ」
シルビア「どうしてここに。もしかして、さっきのラースちゃんの姿はこのミサンガが見せてくれたのかしら」
イレブン「そうかもしれないね。よし、皆。ここでもう一度誓おう」
イレブンは墓の前に向かっていく
イレブン「ラース、僕達を助けてくれてありがとう。僕は、僕達は、君の想いを絶対に無駄にはしないからね。
僕、あれから少しは強くなったんだよ?魔法もちょっとは得意になってきた。だから、魔王を倒してこの世界に光を取り戻す!もし出来たら、また前みたいに褒めてくれると嬉しいな」
イレブンが終わると、続いてカミュが交代で墓の前にやってくる
カミュ「ラース、お前は周りをよく見てたよな。前に俺がクレイモランから離れたがってたのも気付いてくれたもんな。お前は最後まで皆を想っていた。
お前の願い、しっかり受け止めたからな。見てろよ。こんな世界、さっさと終わらせてきてやるよ」
カミュの後ろからベロニカが走ってきた
ベロニカ「ちょっと、ラース!あんたは本当に馬鹿なんだから。.....でも助かったわ。ありがとう。
まだ言いたい事はたっくさんあるけど、それは魔王を倒してきたら言うわ。首洗って待ってなさいよ」
ベロニカはすっきりした表情でセーニャとバトンタッチした
セーニャ「ラース様。私達を助けてくださった事、大変感謝いたします。あなたの想いは私達の中にしっかりと残りました。私も、ラース様のように強くあります。
もう、ついていくだけのセーニャにはなりません!遠くで見ていてください、私の精一杯の勇姿を!」
セーニャは綺麗に一礼してシルビアと交代する
シルビア「んもう!ラースちゃんったら。最後までカッコイイんだから。アタシはね、あなたの笑顔とっても素敵だと思ってたわ。
だ・か・ら、これからもずっとその笑顔でいられるように、アタシ頑張るわね。アタシの皆を笑顔にする力、必ずそこまで届けてあげる」
シルビアはクルッと回って華麗にポーズを取ると、向かってくるロウの背中を支えた
ロウ「ふぉっふぉっ、お主はわし達を何度助ければ気が済むのかのう。お主はいつも立派じゃった。姫を想い、皆を救った。その功績に元王として答えなくてはならぬのう。
見ておれ、ラースよ。このロウ、ただの老いぼれになるのはまだまだ先じゃ」
グレイグが歩いてくると、墓の一歩手前で礼をしてやってきた
グレイグ「お前とは喋った事はなかったな。あの時の俺は愚かだった。何も出来ず、ウルノーガに騙され、友に裏切られた。
お前が姫様達を守り続けてきたからこそ、今こうして俺達はここにいる。本当にありがとう。お前は、俺よりもよっぽど英雄という名がふさわしい。だが、俺もタダでは転ばん。
お前という盾がいなくなってしまった今、俺がお前の代わりに勇者の盾となる。どんな攻撃にも耐え、皆を守ってみせる。見ていてくれ」
グレイグが言い終わると、ゆっくりとマルティナがやってきて、墓の前でしゃがみ込んだ
マルティナ「......私とあなたが初めて出会ってから、私はあなたに何か返す事ができたかしら。あなたは、私にたくさんのものを残してくれた。力、勇気、希望、そして愛情。どれも、大切なもの。私は皆と行くわ。
少し寂しいけど見ていてね、ラース。私頑張るから。魔王を絶対に倒してみせる!」
静かに立ち上がってナイフを取り出すとマルティナは長い髪をほどき、首から下の髪をバッサリと切った
全員「!?」
長かった黒髪が風でハラハラと飛んでいく
マルティナ「これが、私の覚悟の証よ!」
粗い切口のショートヘアーとなったマルティナが強い覚悟と決意のこもった目で墓を見ていた
......皆
どこからか声が聞こえてくる
全員「!?」
マルティナ「この声は、ラース!?」
皆が辺りを見渡していると、ミサンガがあった場所にラースが現れる
全員「ラース!!」
ラース「朝が来るまでの短い間だけだが、思いを伝えたくてな。皆、ありがとな。挫けずに、そして俺の想いを受け止めてくれて」
そう言うと、ラースは各仲間達の元に歩いてきた
ラース「イレブン、見ない間に強く逞しくなったな。カッコイイぜ。お前は立派な勇者だ。負けるなよ。魔王なんかぶっとばしてやれ」
ラースはイレブンの肩に手を置いて励ました
イレブン「うん!絶対に負けないよ!」
ラース「カミュ、色々あったみたいだな。お前はいつも気を張ってたからな、たまには仲間達に頼れよ?皆もお前の事を心配してるんだからな。魔王のやつには、俺の分もしっかりと頼んだぜ」
カミュ「ああ、任せな!」
カミュとラースは互いに手を握り合った
ラース「ベロニカ、お前も色々考えすぎだ。あの魔導書は確かに覚えていたが、ベロニカが責任を感じる必要は全くもってないんだからな。
俺が勝手にやった事だ。大丈夫、そんな物に頼らなくたってお前は強い。頑張れよな」
ラースはしゃがんでベロニカの目線に合わせると優しく帽子越しに頭を撫でた
ベロニカ「.....ありがと」
ラース「セーニャ。君の回復魔法にはいつも助けられていた、ありがとな。でも、君も本来はもっと強いのでは?
なんたって、ベロニカの妹なんだからな!自信を持つんだ。君達姉妹がいれば、イレブンは安心だ。2人で使命をしっかり果たすんだぞ」
セーニャ「ぐすっ!はい、ラース様!」
ラースはセーニャにもベロニカと同じく優しく頭を撫でた
ラース「シルビア、いつも皆のムードメーカーになって、相談相手になったりしてくれてありがとう。俺もシルビアの笑顔には元気をもらっていた。乙女心、バカには絶対にできないな。
それに、剣の技術も相当なものだよな。あの基礎の固まり方を見ると、君はどこかの騎士や兵士の出なのかな?これからもみんなを支えてやってくれ」
シルビア「ウフフ、流石ラースちゃんね。任せてちょうだい。皆を笑顔にしてみせるわ!」
ラースとシルビアは互いに笑い合っている
ラース「じいさん、その年でよく動けるよっていつも思ってんだ。無理だけはするなよな。孫にしてもらいたい事、まだいっぱいあるんだろ?
じいさんは俺なんかよりずっと博識だし、魔法もできるしすげえよ。いっぱい長生きしろよな。これは俺だけじゃなくて、皆の願いだぜ」
ラースはロウの両手を優しく包むように握った
ロウ「......いかんのう、年をとると涙が出やすくて敵わんわい」
ラース「グレイグ、君と話すのはこれが初めてだな。知ってると思うが俺の名前はラース。このガラッシュの村の一番の戦士だ。
お前にも色々あったんだろうが、あまり考えすぎるなよ。もっと楽にいこうぜ。そうすれば、自ずと見えなかったものが見えてくる。聞こえなかった声が聞こえてくる。世界はもっと優しさと楽しさに満ちているぞ。
俺は皆の盾だったつもりはないが、デルカダールの英雄様に守られてるなら、俺の時よりもずっと強固な盾になったな。皆を頼んだぞ」
グレイグ「ああ........すまない。感謝する」
グレイグはラースに深く礼をした
ラース「マルティナ。俺は君に恋をしたのはいつだろうか。気付いたら、俺の心の中に君がいたんだ。そしてマルティナは分からなかっただろうが、俺はマルティナから貰ったものは多く、そしてどれもが大切だったんだ。
......朝が来てしまうな、消える前に伝えないと」
マルティナ「本当だわ。ラース、体が薄くなってきてるわ」
辺りはだんだんと明るくなってきている
ラース「まず、君に最初にもらったものは、俺である事だ。
俺は村が無くなったあの夜、あのままマルティナとイレブンが来なかったら俺は、ラースでは無くなっていたと思う。俺の中にあった絶望が、俺の体を支配し尽くしていた。だが、君達が来た。
イレブンが過去を見せてくれ、マルティナが俺に声をかけてくれた。もし、それが無かったらと思うと恐ろしい。少しでも自分の思いを口に出す事で、俺自身の中にある本当に大切なものにも気づき、ラースである事ができた。あの時、君には生きる希望を貰った。
次に、マルティナに分かち合う喜びをもらった。
俺は一人旅が長かったから、他人と協力する事や分かち合う楽しさも知らなかった。だが、マルティナと一緒に戦って、街を巡って、キャンプをして。そうするうちに今まで一人でしていた事がとても楽しくて、嬉しくて、輝かしく見えた。あの日々のどれもが俺にとっては凄く楽しかったんだ。
次に、マルティナに愛をもらった。
俺は、マルティナと恋人同士となってから嬉しくて嬉しくて仕方なくてな。ずっと不安に思っていた時とは違う。マルティナが、俺の事を思っているのがわかったから。戦闘の時も一緒に戦って、お互いの事がわかっているあの瞬間、俺は幸せだと感じていた。
他にもたくさん貰ったものがある。だから、君は心配する事なんて何もない。今でも、皆にこうやって思われて俺は幸せだ」
マルティナ「ううっ、ラース......体が」
ラースは薄くなり、透けて景色が見えてきていた
既にその後ろからは朝日が顔を覗かせている
ラース「泣かないでくれ、マルティナ。君には泣き顔よりも、笑顔の方がよく似合う」
ラースはマルティナの目についた涙を指で拭った
マルティナ「ラース.......」
ラース「前にも言ったな。だから、たくさん笑ってくれ。それだけで俺は嬉しいんだ。そして、あの約束をここでもう一度するよ」
その言葉を告げると、ラースはミサンガを手に取った
ラース「マルティナ、これは俺からの最後のプレゼントだ」
ラースの持っていたオレンジのミサンガが綺麗な銀の指輪に変わった
全員「!?」
ラースは跪き、マルティナの薬指にそれをはめる
ラース「俺は神に誓おう。
俺はずっと君の隣で君を守り続ける。
君がいつまでも幸せで、笑顔でいられるように。
俺は、君の事が大好きだ。君を愛している。マルティナ」
マルティナの目を見てはっきり伝えた後、指にキスをひとつ
マルティナ「うん.....うん.....私も大好きよ、ラース」
ラース「へへ、俺もだ」
今にも消えそうなラースと泣きながら抱きしめるマルティナ
そして、2人でキスをした
その瞬間、朝日が登りラースの姿は消えた
マルティナを抱きしめていた腕も、合わせていた唇も、ほんのりと感じていたラースの体温も、まるで夢を見ていたかのように全てなくなった
マルティナ「.......」
マルティナはその場に立ち尽くしている
ロウ「......姫よ、大丈夫かの」
マルティナ「はい、ロウ様。私にはラースがいます。もう涙は見せません。ラースが好きな笑顔でいます」
皆に振り返ったマルティナは笑顔だった
イレブン「うん、僕も皆にずっと笑顔でいてほしい。さあ、ラムダに戻ろうか」
全員「うん!」
笑顔の中、戻っていく勇者達
朝日が照らす影はそこに9つあった
村一番の戦士、ラース。ここに眠る