オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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受け入れられた堕天使

 純白のローブに身を包む影が、陰鬱とした湿地帯を進む。当然、無防備なその影を狙うようにして動く影もあり、不気味且つ巨大なカエルがどんどん集まってくる。

 

「邪魔だ」

 

 虚空に指を滑らせたかと思うと、豪炎の竜巻が巻き起こり、カエルたちを呑み込んでいく。

 

「………やれやれ」

 

 一撃で倒れなかったカエルたちが動き出す中、影は淡々と虚空に指を滑らせ、純白のローブから黒の鎧姿へと変わり、紅の刃を持つ長剣を振い、巨大なカエル―――ツヴェークと呼ばれる系統のモンスターたちを斬り伏せていく。

 病的なまでに色白な、首に縫い痕の残る白髪の青年―――しかし人間でないことは、その背から伸びる六対十二枚の漆黒の翼が何よりも雄弁に物語っている。紅の刀身を持つ細身の両刃剣と、金色の刃を持つ片刃の剣を巧みに操り、無数のツヴェークを斬り伏せ進んでいく。

 

「全く、手間ばかりかけてくれる………」

 

 この湿地………グレンデラの沼地に来るのが初めてだったせいで、鳴き声でどんどん集まってくるツヴェークの群を相手に時間がかかってしまう。舌打ちを零していると、突如として甲高い悲鳴が迸り、ツヴェークたちが倒れ、消滅する。

 その現象に、当然心当たりがあった。

 

「まさか、そちらから来てくれるとはな」

「………」

 

 警戒を隠さぬ黒と紫、そして金の縁取りのローブの影へと青い瞳を向け、肩を竦める。

 

「そう警戒しないで欲しいな。俺はただ、話がしたかっただけだ」

「話?」

 

 二本の剣を消し、白いローブを纏い直した堕天使が向き直ると共に、ローブの影………彼らがいる世界(ゲーム)において最も悪名高い悪役(ヴィラン)系ギルド、《アインズ・ウール・ゴウン》のリーダーである死の支配者(オーバーロード)へと素直に頭を下げる。

 

「俺を、そちらのギルドに入れて欲しい」

「え………えええええええ?!」

 

 ―――これは、ユグドラシルのサービス終了(この世界の終わり)が通知される半月ほど前の出来事。最後の時を迎える仲間が、一人増えるきっかけとなる一幕である。

 

「いや、あの、俺一人じゃ決められないというか………そもそも、募集も辞めてますし」

「む………そうか」

 

 声は静かながら、どことなく落ち込んだ様子を見せる。

 死の支配者(オーバーロード)のモモンガとしては、その反応は少々意外だった。

 

「というか、確かラプチャーさん、もうギルドに所属してるんじゃ………」

 

 ギルドランキング的には大した事の無いギルドではあるが、ラプチャーの名を持つ目の前の堕天使が所属しているという一点で、そこそこ名を馳せているギルドでもある。

 何せ、魔法戦士というよく言えばバランスのいい、悪く言えば中途半端なビルドでワールドチャンピオン・ニダヴェリールへと至った実力者。とはいえ、ワールドチャンピオンの中では下の方に位置する程度の実力しか持たない………が、同時にワールド・ディザスターをも収めているという一点で、指折りの知名度を誇っていた。

 

「………ホームの維持が出来なくなってな。潰れた」

「………ッ」

 

 明日は我が身、とはならないだろう。モモンガにとっても無視できない問題であり………同時に、彼がアインズ・ウール・ゴウンへの加入を望んだ理由が、なんとなく察せてしまったのだ。そして、ギルドホームが潰れる程の資金難という事はつまり………

 

「貴方も、一人なんですね」

 

 安い同情心、と言われればそれまでだろう。だが、彼は目の前のプレイヤーに自身と同じものを見た、見てしまった。

 

「………まあ、いいですよ。ただ、皆さんが戻ってきてダメって言ったら、その」

「………わかっているさ。温情に感謝する」

 

 驚きによる空白の後、喜色の交じった美声と共に告げられる感謝の言葉に、モモンガは笑みの気配を零す。

 仲間が戻らないことくらい、彼も理解している。だが、ラプチャーはそれを指摘せず、そうなることを望んでくれた。また仲間が戻ってくることを望んでくれた。

 

「それじゃあ………ハイ」

「ああ」

 

 二人がシステムコンソールを操作し、モモンガはラプチャーに勧誘を、ラプチャーはそれを受諾する。

 

「ようこそ、アインズ・ウール・ゴウンへ!………それじゃあ、ギルドに案内しますね」

「頼む」

 

 楽しそうな雰囲気を醸し出す黒と白が、軽やかな足取りで毒の沼地を進んだ。

 

―――――

 

 そして、あっという間に迫った終わりの日。

 

「あ………ラプチャーさん………」

 

 ログインしたモモンガは、ほんの僅かな間だけのギルドメンバーと目が合う。

 初めて会った時の人間風の姿で、その手にあるのは最古図書館(アッシュールバニパル)の蔵書だろうか、いつも読んでいる本。その理知的な人間風の風貌も相まって、非常に様になっている。

 

「やはり来たか」

「そりゃあ、最終日ですからね」

「………俺も、この場所を気に入っているからな。悪いが、最後まで居させて貰うよ」

「いえ、そんな!寧ろ、こっちが感謝したいくらいですよ………」

 

 ログインすれば、二日に一度はラプチャーに会えた。それだけでも、彼にとっては少なくない救いだった。

 昔の冒険について語り合ったり、互いの仲間の自慢をしたり、失敗談で盛り上がったりと、日々疲れている彼には貴重な清涼剤でもあった。物静かな彼が喜色を見せるその会話は、過去の仲間たちとの時間に次ぐ楽しい時間となっていたのだ。

 

「最近は暇を持て余していてな。とはいえ、まだ全然知り尽くせていないのだから、凄まじい広さだよ………いや、一人で維持してきたその手腕には脱帽だ」

「いや、そんな………いえ、ここは胸を張っておきましょうか」

 

 穏やかな笑い声が響く中、モモンガはラプチャーのリアルを思い起こす。

 あくまで本人が口頭で口にしたのみだが、リアルは一応学者の類………らしいのだが、色々あって仕事が消えた状態らしい。そんな彼がユグドラシルにログインできないほど多忙な日々が続き、漸く終わって戻った時には、既に………だったという。中々に笑えないが、相手が積極的にネタにしている為、いつの間にか普通にノるようになっていた。

 

「いや、本当にいいギルドだ………ウチも敗けてはいないがな」

「ウチだって敗けてませんよ?」

 

 互いに相手を貶すことなく、仲間を自慢し合う二人。仲良く談笑する姿は、長い付き合いの友人のようにも見える。

 

「む、もうこんな時間か………すまない、少々散策に行ってきていいかな?」

「え………?」

 

 半ば呆然とするモモンガに、ラプチャーは苦笑を零す。

 

「なに、そろそろ仲間が来るかもしれないだろう?折角の時間なんだ、水入らずで過ごすといい」

 

 彼なりの優しさなのだろうが、それが妙な物寂しさを生む。が、結局指輪の機能で移動したラプチャーを呼び止める暇はなく、モモンガの伸ばした手は空を切った。

 

「………」

 

 暫し言葉を失うモモンガだが、直ぐに仲間がログインしてきたことで、そちらとの会話に花を咲かせた。

 

―――――

 

 最古図書館(アッシュールバニパル)での読書に勤しむラプチャー。その巨大さも然ることながら、様々な人物が持ち込んだだけあり蔵書も豊富で、彼の興味の外にあった本なども置かれていることから、よく本を持ち出し、読み漁っていたほどだ。

 

「………」

 

 静かにページをめくり、文字列を目で追う。視界の端に表示される通知にも気づかず、淡々と本を読み進める。そんな彼が時間に気付いたのは、本に挟まれていた栞に意識を向けた瞬間だった。

 

「………?っと、時間か」

 

 23:57………終了時間が近い事に気付き、ラプチャーは急ぎ立ち上がり最古図書館を出る。そのまま表に出た彼は周囲を見回し、少々の思考の後に玉座の間に向け駆ける。

 

「あ、ラプチャーさん!」

「やはり居たか………?!」

 

 ラプチャーが目を剥く中、知識として知るだけの三つの影から声が漏れる。

 

「うお、マジか!?ワールドチャンピオンじゃん!」

「これは予想外だわ………」

「モモンガさんが隠すワケですね~」

「………驚いたな」

 

 ラプチャーのその言葉に偽りはなく、純粋に予想外であった為、驚いていた。驚愕もほどほどに嬉しそうな笑みを浮かべ、彼は玉座へと向かう。その先にいるのは、モモンガとバードマン、そして色の異なる二人のスライムだ。

 

「ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、ヘロヘロ………まさか、こんな時間に会えるとはな」

「やっぱ知ってますよねー………てか、呼び捨てですか」

「ああ、失礼。どうも、仲間内で呼び捨てに慣れてしまっていてな」

 

 苦笑気味に謝罪しながら、彼は課金でカスタムした人間態の外装(ヴィジュアル)から本来の姿―――蒼黒い炎により形作られた、亡霊の如きヒトガタへと変貌を遂げ、玉座から一歩引いた位置に立った。

 

「あ、あれ?」

「俺は部外者だからな。一歩引いたところで終わりを見届けるさ」

「えー?気にしないでいいのに、ねえ?」

「ええ………でも、ラプチャーさんがそう言うなら………」

 

 その言葉に、どこか寂しそうな返事を返し、モモンガは虚空を見上げる。

 

「………ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん、ヘロヘロさん」

「うん?」

「なーにー?」

「なんでしょうか?」

 

 表情が感じられない骸骨の顔。しかし、その声には隠し切れぬ喜びと、隠す必要のない感謝の意に満ちている。

 

「ありがとうございます」

 

 野郎二人が笑みの気配を零し、モモンガの首に腕を回す。ぶくぶく茶釜は一瞬呆然としたものの、直ぐに笑っていた。

 

「え、あ、ちょっ!?」

「水臭いぜ、モモンガさん!なぁ、ヘロヘロさん!」

「本当ですよ!今までナザリックを維持してくれた人がそれを言いますかね?」

「モモンガさんってばーもー!」

「ふ、あは、あははははは!」

 

 感激のあまり、リアルのモモンガの顔はぐしゃぐしゃだろう。そう思える、涙声での笑い。

 

「いい友人を持ったな」

「ええ、俺には勿体ない、最高の親友ですよ」

 

 モモンガが自慢げに笑い、ラプチャーも笑みの気配を零す。

 

「俺の仲間を見せつけられなかったのは残念だが………いいものを見せて貰ったよ」

 

 嬉しそうに零し、ラプチャーは三人と同じように天井を見据える。

 

(損得勘定抜きの、感情だけなのにここまで強固な………これだから、()()()()()()

 

 散々汚い人間関係を見てきたからか、それともその知能が極めて高いからか。どこか他人事のような思考を巡らせながら、ラプチャーはアインズ・ウール・ゴウンの面々を称賛する。

 

「素晴らしきギルドに。素晴らしき友情に、栄光あれ………なんてな」

 

 気取った物言いながら、その美声からか、超然とした振る舞いからか、異様に様になっている。その発言に一瞬ぽかんとした三人だが、モモンガが最後だから、と羞恥心を振り切り、空に向け叫んだ。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

「お、おう!アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

 ノった三人が叫び終えると共に、デジタル表示の時計が00:00を刻む。その瞬間、四人の視界からコンソールが消失。

 

『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!』

「うぇ!?」

「ふぁ!?」

「ええ!?」

 

 そして、玉座の周囲に待機していたNPCたち………『守護者統括』のアルベドに『六連星(プレアデス)』の戦闘メイドたち、そしてそのリーダーであるセバス・チャンが叫んだ。

 NPCの自発的行動。それ自体が異常であり、モモンガたちは一斉に驚愕し、凍り付いた。そんな中、驚愕と共に動いたのはラプチャー。

 

「ふぇっ!?」

 

 人間態に戻ると共に、プレアデスの長女、ユリ・アルファへと顔を近付け、その首筋に手を当てる。

 

「………脈は無く、冷たい。なのに瞳孔は収縮している………アンデッドだからか?だが………」

 

 興味深げに目を細め、息を吸い込む。

 

(………腐臭は無し。だが、香水と思しき匂いはある………電脳法で禁止されている事項が現実に?)

「18禁に触れる行為は試せんが………セバス・チャン」

「ハッ!」

 

 ラプチャーが静かに呼びかけると、一切の感情を見せることなくセバスが傍まで来る。

 

「異常事態だ。すまないが、一度冷静になりたい。紅茶の用意を頼めるか?」

「畏まりました。銘柄は如何なさいますか?」

 

 スムーズな会話に驚くも、それもまた異常の一つとして処理し、ラプチャーは回答する。

 

「任せる。とにかく早急に頼みたい」

「ハッ」

 

 見事な身のこなしで消えたセバスの背中を見届け、ラプチャーはその瞳に好奇心の輝きを灯した。




ファーさんのヴィジュアルとか諸々がツボったんでブッ込んでみた。
反省はしている。けど後悔はしていない。
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