オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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帝都での成果

「セバス、セバス」

 

 ヘロヘロに声をかけられた老執事は、一流を超え超一流と呼ぶべき見事な佇まいを崩すことなく振り返り、流れるような一切の無駄を排した所作と共に跪いた。

 

「これは、ヘロヘロ様。如何なされましたか?」

「実は、ラプチャーさんが帝国に行こうとしてまして。ナーベラルを信用してない訳じゃないんですけど、帝国は情報が少ないので、セバスにも一応同行して貰いたくて………」

「畏まりました」

 

 ………と、一つ返事で了承したセバスとナーベラルを背後に従え、ラプチャーは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を操作し、帝都内部で転移しやすそうな場所を探している。鏡面に映し出される街並みは、王国のエ・ランテルとは比べるまでもない程に整っている。

 

「やはり、王国に比べ発展しているな」

 

 心なしか、エ・ランテルに比べ人の顔が明るい。ラプチャーが帝国の政治に興味を示す中、他二人は転移に向いていそうな場所を探している………のだが、路地裏のような目立たない場所を選ぼうとせず、相応の演出に相応しい場所を選ぼうとしている。

 

「………ここでいいか」

 

 そして、探すのが面倒になったラプチャーが転移門(ゲート)を発動。そのまま黒い靄へと悠然と足を踏み入れ、帝都の地を踏む。

 

「ら、ラプチャー様!お待ちください!」

「ルシフェル、だ。それに、別にどこだろうと問題は無い」

 

 ユグドラシル基準では大した事なくとも、現地基準では桁違いの代物だ。さらりと帝都の門を見た限りでもわかる程に厳重な警備体制である以上、即座に不審者と見做されよう。

 ラプチャーの狙いは、その先。そこからの相手の出方や、兵の武装………要は、戦力を確かめるつもりなのだ。体を張って………他の面々が聞けば確実に説教コースである。

 

「さ、行くとしようか」

 

 路地裏の闇をも掻き消す純白のローブを纏い、ラプチャーは二人を引き連れ表通りに姿を現す。突然のことに誰もが言葉を失う中、ラプチャーは周囲を一顧だにせず、悠然と通りを歩む。目指すのは、一番情報源が多いだろう書店で、片眼鏡のお陰で文字も簡単に認識できる為足取りはスムーズだ………アイテム頼りになってしまっている現状を、早く自力で読めるようにしたいと考えている辺り、この男も大概である。

 

「………ふむ」

 

 人間の街に無関心なナーベラルと、護衛として一切表に出すことなく周囲を警戒するセバス。そんな中、ラプチャーは何処かに向かうマジックキャスター風の少女と、エルフらしき女に興味を向けた。

 一見すると冒険者に見えたが、ラプチャーが王国で見た者たちと違い、身分を示すプレートが見つからなかったのもある。それが帝国の冒険者なのか、それとも似て非なる何かなのか………加えて、見たところ買い出し中に思えた、というのもあるのだろう。

 

「ルシフェル様?」

「少々気になる事ができた」

 

 無詠唱化した魔法による追跡と並行し、ラプチャーも動き出す。帝都内の地図も持たぬ彼がより早く確実に情報を得るには、そうするのが合理的だろう。欠片もやましい気持が見えないのが逆に素晴らしい。

 

 そんなラプチャーたちがついて来てることに気付いている二人は、当然訝しみ、撒こうと試みる。当然、そんなことは御見通しのラプチャーは、あえて撒かれたフリをして、魔法により二人を追跡。

 ナザリック最高の叡智を持つ悪魔にも並ぶ頭脳を以てせずとも、リアルタイムで得られる情報から相手の動きを割り出すことは容易いのだ………この頭脳をフル活用すれば、もっと色々スムーズに事が動いたのだが………余程、リアルでのアレコレが嫌だったようだ。

 

「撒いた、かな?」

「多分………ッ!?」

 

 店に入り、必要な巻物(スクロール)等を買い揃えるべく意識を向けた二人だが、安堵した直後にドアが開く音が耳に届いたが為に、思わず身構えた上で振り返る。

 

「ほぅ、巻物(スクロール)か………そちらは調べていなかったな」

「な、んで………」

 

 エルフ耳の女が、呆然と呟く………知覚すら出来なかったのだから、当然だろう。まあ、タイミングを見計らって転移したのだから、知覚できなくても仕方ないと言えるか。

 

「ああ、気にする必要はない。この街に疎くて、こういった店を探し出すのも一苦労でな」

 

 警戒を露わにする二人に構うことなく、マイペースに巻物(スクロール)を漁る。ナーベラルが不快感を剥き出しにするも、セバスはそれを無言で制す。ここで事を起こしては、ラプチャーの妨げになると考えたのだろう。

 

「………だから、つけてきたの?」

「案内を頼もうとも思ったが、急いでいるようだったのでな」

「………素直に頼まれた方がマシよ」

 

 撒くためにあちこち走り回っていたエルフ耳の女が肩を落とす中、もう一人の少女は訝し気にラプチャーを見つめている。当然ナーベラルが苛立ちを露わにするが、ラプチャーはどこ吹く風である。欠片程も気に留めない図太さは流石というか。

 

「………ふむ」

(大体は第一位階………見覚えの無い魔法もあるが、どうしたものか)

 

 位階に反し、予想以上に高額だった。ラプチャーは巻物から興味の対象を移し、渋々といった様子で買い出し中の二人に問い掛ける。

 

「ところで、お前たちは冒険者か何かか?」

「………冒険者じゃないわよ。プレートが無いのを見ればわかるでしょ?」

「成程、帝国の冒険者もプレートを有しているのか」

 

 納得したように頷くフードの人物に、エルフ耳の女は全力で脱力する。

 

「どこのボンボンよ………知らな過ぎじゃないの?」

「この辺りに来るのは初めてでな。お前たちがどのような存在なのか、教えて貰いたいところだな」

「………ワーカー、よ。冒険者みたいな組合に属さない、組合のルールに縛られたくない連中の集まりね」

「はみ出ものか」

「言い方、もうちょっとどうにか………ッ!?」

 

 ナーベラルから放たれる殺意を前に、女が竦み上がる。

 

「抑えろ、ナーベラル」

「ですが………」

 

 ラプチャーの苦言に躊躇うナーベラルをセバスが下がらせ、柔和な笑顔と共に謝罪する。

 

「申し訳ございません。ナーベラルはルシフェル様の護衛でして、主が侮られていると感じてしまったのでしょう」

「あ、いえ、その………こっちこそ、すみません」

 

 慣れないながらも謝罪する彼女を、少女が驚いた様子で見つめていた。

 

「………イミーナが………?」

「ちょっと、アンタの中であたしはどうなってるワケ?」

 

 気の抜けた空気を察知し、ラプチャーは一瞬何とも言えない表情を浮かべ、そのまま頭を振って店を後にしようとする。

 

「厭きてきたな………転移を使う。ナーベラル、セバス」

「「ハッ」」

 

 ラプチャーが転移門(ゲート)を発動。彼らの目前に黒い靄の塊のようなものが発生すると、背後から息を呑む音が幾つも聞こえた。

 

「な、なに、その魔法………」

転移門(ゲート)だ。複数人の仕様が可能な、転移系魔法の最上位だな」

「さい………っ!?」

 

 さらりと告げられた事実に、悲鳴染みた声が迸る。

 

「有り得ない!師匠だってそんな魔法は使えないし、ましてや魔力の見えない貴方に、そんな魔法が使える訳が………ッ!?」

 

 その瞬間、少女の目前にラプチャーの顔が迫っていた。顎に手を当てられ、その瞳を蒼い瞳で覗き込んでいるのだ。

 

「魔力が見える、と言ったか」

「ぇ、ぁ………」

 

 突然のことに、思考がフリーズする。予想以上に顔がイイ、冷たい瞳なのに妙に輝いて見える、何故こんな………思考が思考として機能していない彼女は、ラプチャーが放つ質問を右から左に受け流してしまっている。というか、周りの音が頭に入ってこない。

 

「ちょっと、何してんの!?」

 

 イミーナと呼ばれた女がラプチャーを引き剥がそうとするも、根本的なステータス差があり過ぎて何も出来ない。ここでギルメンがいれば何かアクションを起こしてただろうが、生憎とNPCたちに御方を無理矢理にでも止める、という選択肢は存在しない。

 

「「………」」

 

 セバスはどうしよう、と言わんばかりに内心狼狽え、ナーベラルは羨望にも似た不快感を少女に向けている。

 

「この、アルシェから離れなさいよ!」

「………反応ナシ、か。ああ、すまないな、今離れる」

 

 正気に戻った(?)ラプチャーがアルシェと呼ばれた少女から離れ、MP探知対策装備がどれだったかを記憶の中から漁り出す。そんな中、イミーナは必死にアルシェを揺すり、正気に戻そうと奮闘する。

 

「アルシェ、アルシェ!」

「ぇ、ぁ………いみー、な………?」

「大丈夫?ヘンな事されてない?」

 

 不快感剥き出しの舌打ちを零すナーベラルに構わず、ラプチャーは魔力探知対策の装備を外そうとした。

 

「イミーナ、いるかー………って、アルシェ!?」

「む?」

 

 背後から駆けて行く男に意識が向き、装備を外し損ねる。

 

「おい、どうした?!イミーナ、なにがあった?!」

「そこのが………その、いきなり顔を覗き込んで」

「そこの、だと………?」

「ナーベラル、落ち着け」

 

 二人が殺気立つのを感じ、改めて先程の行動を顧みて………欠片も表には出さないながらも、猛省した。少なくとも、初対面であるないに関わらず、異性にやっていい行為ではないだろう。相変わらず、好奇心が先行すると考え無しが過ぎると自嘲し、睨みつけてくる青年へと視線を落とす。

 

「すまないことをしたな。魔力を見れると聞いて、どのように見えるのか気になってしまった」

 

 気付けば、転移門(ゲート)は効果時間を過ぎ、消えている。消費がエグいラプチャーにはやや痛いミスだが、それくらいのことを気にするほど細かい男ではない。

 

「………引き抜きは勘弁だぜ?」

「まさか。そこまで拘ってはいない。単に、どのように見えるのかが気になっていただけだ」

 

 再び転移門(ゲート)を発動し、ラプチャーは帰還の準備に入る。

 

「また会うことがあれば、その眼について色々聞かせて貰うとしよう」

 

 あまりにも一方的な上、反論の暇さえ与えぬ威圧的な言葉。反発すらする間もなく、ラプチャーたちはその場から消えた。魔法である、とまでは理解できても、何が起きたのかはまるで理解できなかった。

 

「どう、なってんだ………?」

「転移魔法の最上位、って話だけど………」

「最上位だぁ?!おい、それマジかよ………」

 

 そんな会話が交わされているなどとはつゆ知らず、ラプチャーはナザリックの第九階層、ロイヤルスイートにて溜息を零していた。

 

「やれやれ」

「始末いたしますか?」

「不要だ。ワーカーというものについて詳しく判れば、何れ使える時が来るだろうからな」

 

 成果らしい成果も無しに戻ったラプチャーは、微かな後悔を抱きながらも止まる事無く部屋に戻る。

 

「やはり、もう少し情報を得てからが得策か」

 

 笑い、ソファに腰を落とす。続けて鏡を幾つも引っ張り出し、帝都の異なるポイントを映し出しながら、今回得た情報をクリップボード上の紙に書き記していく。

 

「独自の魔法、及び現地の巻物(スクロール)の価値、冒険者と異なるワーカーの存在………」

 

 帝都の街をせわしなく動き回る騎士たちの姿が、鏡越しに見える。探している者がいるとすれば、恐らくラプチャーに他なるまい。

 

「迅速かつ効率的な動き………やはり、あちらの為政者は切れ者のようだな」

 

 感心の声と共に、鏡が映す風景の一つを空に切り替える。一応は持ち合わせのある巻物(スクロール)を惜しみなく使って隠密系魔法の看破を行えば、隠れていた筈の騎兵―――それもただの騎兵ではなく、魔獣………鷲馬(ヒポグリフ)に座す、現地基準でこそあれ、明らかに上等な装備を纏う兵たちも居たのだ。

 

(見たところ、下の兵とは文字通り格が違う装備だな………随分と警戒されているようだ)

 

 鏡の一つに、人影が映る。周囲とは明らかに異なる輝きを纏う、支配者然とした人物。

 

「アレが皇帝か………成程」

 

 一目で只者ではないとわかる上、声は聞こえないまでもてきぱき指示を下している事はよくわかる。読唇術を学ぶべきだったか、と思案するも、言語体系が異なる疑惑故に対して役に立たないと結論付け、頭を振る。

 

「さ、て………どれほどの頭脳か、見てみたくなってきたな」

 

 チェス盤があれば、どれほど様になっていたか。

 今のラプチャーの顔に浮かぶのは、知性に溢れる冷酷極まりない笑みであった。




※働きません。マジになったらナザリック第四の頭脳となってしまうので、色々手に負えません。
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