オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
ラプチャーが帝都から、大した成果も無しに戻った頃。
「ど、どうなってるんだ………?」
(………えぇー………)
カルネ村に到着したモモンガは、いつの間にか立ち並んでいた強固な城壁に目を剥いた。この世界における希少金属であり、最硬の金属であるアダマンタイト………数だけは腐る程あったそれをフル活用したと思しき城壁は、この世界のあらゆる城砦を超越した防御力を有するだろう。
「アダマンタイト………あの希少金属をこんなに………」
(そうだよなぁ………こっちじゃ希少金属だから、色々怪しまれるよなぁ………)
なお、原因はラプチャーに『侮るな』と警告されたデミウルゴスが、茶釜の手で第六階層に移送された巨大ハムスターに聞き出した森の主の情報―――主に、巨人の気性―――に危機感を抱き、ヘロヘロらに嘆願して融通して貰った
これでしっかり連絡が行き届いていればよかったのだが………ヘロヘロはそこまで大事になるとは思っておらず、タブラは娘からの口撃で沈黙して、と報告できる者がいなかったのだ………NPCに報連相を徹底していなかった、彼らのミスでもあるが。
「―――――」
(えーっと、どうすればいいんだ?タブラさん………そうだ!タブラさん!)
絶句する皆の傍ら、モモンガは無詠唱化した
『………あれ?どちら様ですか?』
『ちょっ、タブラさん!?大丈夫ですか!?』
生気を感じられないタブラの声に、モモンガが動揺を露わにする。何があったのか、まさか敵対ギルドによる襲撃か―――そんな危機的想像が次々浮かぶ中、タブラの答えはまさか過ぎた。
『………娘に罵られるのって、意外とキますね………』
思わずずっこけずに留まれた自分を褒めてやりたい―――後に、モモンガはそう振り返る。
『む、娘って………え?』
『ルベドに、クソ親父だのクズ親父だの言われております………モモンガさん、その………ホント、すみませんでした』
『タブラさん………あ、すみません。今それどころじゃなかった………村の防壁について、何か知ってます?』
『はい!?え、ちょ、ルベド!村に防壁って………デミウルゴスが言ってたの!?ちょ、それ早く教え………ア、ハイ、すみませんでした。生返事で適当に応答してた私が悪いから、お願いだからそんな冷たい目で睨まないで』
『タブラさん!?てか、犯人デミウルゴスか!』
いきなりの友人の豹変に驚きながらも、しっかりと犯人について聞き出す事に成功。
『あの、取り合えず門開けて貰っていいですか?』
『あ、了解で―――――え?私だと大惨事確定だから一旦すっこんでろ?………ご尤もです、ハイ………え?誰が来たのか?モモンガさんしかいな―――――ぎゃひんっ!?』
『タブラさああああん!?』
今にも死にそうな声と共にメッセージが途切れ、モモンガは無言で凍り付く。そして、門を見上げ―――――猛烈な勢いで接近する『ナニカ』を察知。それより僅かに遅れて、
「何か来る!急いで下がれッ!」
「むぅんっ!」
渾身の力で荷車を引いた、その直後。轟音と共に、猛烈な勢いでアダマンタイト製の分厚い扉が跳ね開けられ、その余波に皆が顔を庇う。少しして顔を上げると、紅の鎧を纏う影が目に入る。
「お待ちしておりました、モモン―――様」
勢いが良かった言葉は、モモンガの名を呼ぶ段階で尻すぼみになり、最後には消え入りそうになってしまう。これ以上無い程に明確な歓喜と、それに続く言葉に籠る微かな羞恥を感じ取りながらも、モモンガはあくまで設定に順じて対応する。
「お久しぶりです、
「………ええ、まあ」
(今の間は何?!え、なんで目を逸らしたの?………タブラさん、大丈夫かなぁ………)
モモンガは知らない事だが、実際に会ったことは皆無であれど、自分に甘い
「では、モモン様はタブラ様のトコってことで―――貴方達はどうするのかしら?」
ルプスレギナが、従者としての柔和な顔と、従属神としての冷徹な面を使い分ける。あくまでお前たちは他人なのだと、部を弁えろと暗に告げる―――以上のことは、考えていない。
「ぼ、ボクはエンリの………友人のところに行ってます!」
「はいはーい」
冒険者一行はンフィーレアに同行することを決め、それぞれが行動に移る。モモンガらは、いつの間にか出来上がっていたタブラ宅に上がると共に装備を解除し、一息を吐いた。
「ふぅー………ああ、ルプスレギナ。ナザリックに帰還する事を許可しよう。姉妹たちと顔を合わせてくるといい」
「っ、お心遣い、感謝致します!」
ルプスレギナを
「タブラさ………ちょ、マジで大丈夫ですか!?」
ぐったり倒れ伏すタブラに大慌てで駆け寄り、その身を起こす。
「ああ、モモンガさん………たっちさんがギルド武器作成後によく落ち込んでた理由、わかった気がしますよ………アハハハハハハハ」
「いや、ホント何があったんですか………」
モモンガが引き気味に問い掛けながら周囲を見渡し―――――気付く。
「あれ?ラプチャーさんから、現地のポーションは受け取って無いんですか?」
「………え?あ、すみません、ちょっとナザリックに戻ります」
急ぎナザリックに戻ったモモンガは、即座にラプチャーの部屋に直行。
「ラプチャーさん!ポーション!」
ドアを跳ね開けると共に叫ぶ。沈静化が発動する程怒り狂ってはいないようだが、それなりにお冠なのは見ればわかる。そして、ラプチャーもその少ない言葉から真意を見抜けぬほど馬鹿ではない………普段は、頭を使わないが。
「………え?あれ、ペロロンチーノが『ネムちゃんと遊ぼっかなー』とか言ってたから、序でに渡しておいてくれと頼ん………あ」
「………シャルティアとイチャついて忘れてたな、アイツ………」
性癖ドストライクに作られたNPCだけあって、シャルティアとペロロンチーノの関係はかなり良好………というか、シャルティアの押しが強すぎてペロロンチーノが尻に敷かれかけているまである。
「今日はまだ外に出ていない筈だ………俺が戻るまでに何もなければ、だが」
「え?どっか行ってたんですか?」
「帝国だ………エ・ランテルでは気づかなかっただけだろうが、こちらのオリジナルと思しき魔法を発見して、ワーカーなる連中とも会った………ああ、魔力を見れるとかいうタレント持ちも居たな。どう見えるのか試し損ねたが、まあ、何れやればいいだろう」
欠片も相手のことを考慮していない物言いだが、モモンガもさして気にした様子はない。恐らく、精神が異形種のそれに引っ張られつつあるからだろう。
「ああ、それと昨日纏めた情報だ。目を通し次第、タブラにも回しておいてくれ」
「あ、了解です」
ラプチャーに手渡された報告書の束を受け取り、モモンガはペロロンチーノを探すべく移動を開始した。
―――――
「え?森の賢王?このハムスターが!?」
「らしいんですよ~」
そして、第六階層。巨大なジャンガリアンを前に唖然とする骨と、和やかに笑うピンク。
「そ、某、なにかやっちゃったでござるか!?え、もしかして殺されちゃうでござるか!?」
「いや、流石に殺しはしないぞ?………というか、なんで捕まえてるんです?」
「アウラのご褒美にいいかなー、と思って」
「ああ、アウラの………彼女、ビーストテイマーですからね」
納得したように頷きながら、モモンガは一番効果がありそうな手段に出た。
「あ、そうそう。実はラプチャーさん、ペロロンチーノさんにこの世界のポーションを渡して、タブラさんに届けてて欲しいって頼んでたらしいんですけど」
「え?アイツ、確か、『ラプチャーさんが要点をまとめた資料を見返したらエルフ云々って書いてあったから探してくる!』って、ついさっきどっか出かけてた気が………」
「はい?え、あの、確かペロロンさんの担当って、森でしたよね?」
「「………」」
二人揃って、顔を合わせ沈黙。ぶくぶく茶釜が震えている気がするのは、気のせいではないだろう。
『―――――モモンガ様』
「む?ああ、ルベドか」
『人間どもが呼びに来ております。如何なさいますか?』
モモンガは、それはもう盛大に悩んだ。怒り狂いつつある茶釜を押さえ、問題児をとっ捕まえに行くか、それともあちらに戻るか………
「モモンガさん、戻っててください」
「え?でも、ペロロンさんの方は」
「総出で殺ります」
「アッハイ」
ガチギレだ………そう理解し、モモンガは
「………あんの馬鹿タレがぁッ!!!」
「ひぃぃぃ!?」
ぶくぶく茶釜怒りの絶叫は、ナザリック中に響き渡ったとか、響き渡らなかったとか………
「あ、あの、モモンガ様?ナザリックの方から凄い声が聞こえたような………」
「き、気にする必要はない。うん、大丈夫、我々は我々でやるべきことをやればいい」
「は、はい………」
怯えているルプスレギナだが、まあ仕方ない。至高の存在が怒り狂っているなど、シモベにとってみれば恐怖でしかない………救いは、それが向くのはペロロンチーノくらいであろうことか。シャルティアの創造主だからか、妙なところで抜けているのが悪い。
「お待たせしました、ンフィーレアさん」
「いえ、そんな………あの、この館に神様が?」
「ええ、タブラ・スマラグディナ様がおられるわ」
「ただ、今は(精神的に)忙しいらしくてな。先に、薬草集めを済ませてしまおうか」
堂々とした佇まいと共に、森へと向かおうとする二人と五人。その中で、異変に気付いたのはンフィーレア。
「あれ?こんなところに、道なんてあったっけ………」
「少し、行ってみましょう」
(また誰かやらかしてないといいけど………)
外壁を出た先に会った、謎の道を進む一行。その先で、モモンガはまたも唖然とする羽目になった。
(えええええええええええええ!?)
「これ、は………」
「初めて見る、壮大な神殿であるな………」
見る者を圧倒する、壮大な神殿であった。踏み込む事すら躊躇わせる見事な出来栄えは、王国は疎か、帝国でさえお目にかかれないだろうと確信を抱かせる程。ナザリックを彩る調度品の数々とは、文字通り素材の『質』が違うとはいえ、装飾一つを取っても、緻密さには遜色がない。
(それに加え、これは………
「行ってみましょう」
モモンガが踏み出し、中に踏み込む。そして………絶句し、項垂れたくなった。
「ひっ!?」
「モンスター!?いえ、これは………像?」
「まさか、このモンスターたちが………神………?」
純白の鎧の騎士、武者鎧の
(みんな………っ)
かつての仲間たちが絶対ノリノリでしただろう、見事なポージング。モモンガにとっての唯一無二の拠り所であった、記憶の中の彼らと100%合致する見事過ぎる造形は、彼の記憶を刺激し、久しく戻った、新たに加わった仲間たちとの交流で消えつつあった炎を再燃させてしまった。
(………俺たち以外にも、いるのかな………)
もし、会うことが叶うならば。
(会いたいな………それで、また………いや、今度は42人で………)
そんな望みを抱き、そして感謝した。大切な仲間たちを忘れず、こうして形にしてくれた、大切な友人の息子に。
(………今度、褒美を渡さないと。何がいいかなぁ………)