オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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規格外の知者

 炎に焼かれながらも、エルフの王はまだ生きていた。

 耐性が無い代わり弱点も少ないことが幸いした結果とも見えるが、ここは現実。炎により灼熱を帯びた空気に喉も肺も焼かれ、呼吸もままならない。しかし、その身を滅ぼすには足りない。余程の条件が重ならない限り、同レベル間での一撃死は先ず起こり得ないのだから。

 

「お、おおおおおおおおおっ!!!」

 

 業火の中、気合の咆哮と共に駆け、バルコニーに座す者たちの合間をすり抜け、街へと飛び出す。

 

「なっ!?」

「っべ!?んの野郎!」

 

 咄嗟のことでデミウルゴスがスキルを解除してしまい、ペロロンチーノも反応が遅れる。

 

「ラプチャーさん!てん………!?」

 

 ヘロヘロが大慌てで叫ぶ中、下で市民らしきエルフを人質にしたのを目撃。

 

「げぇっ!?きたねぇぞ、あの野郎!」

「ラプチャーさん、急い………あっれえ!?」

 

 振り返れば、既にラプチャーの姿はない。慌てたぶくぶく茶釜が城下町を見渡していると、虚空に突如として漆黒の翼が現れる。

 

「ッ!?」

 

 ラプチャーの不幸があったとすれば、でたらめな転移故に位置調整が甘く、その身で太陽を隠したが為に位置がバレたことくらいか。

 

「ふんッ!」

 

 気合の咆哮などなく、ただ振り下ろされる一閃。その合間に突き飛ばした人質を挟むことでその斬撃を受ける壁を作り、次の一手を妨げようと画策。しかし、その程度予想済みのラプチャーは素早く武器をショートカット登録を利用し交換。

 

「っ?!」

「《ファイター》は便利でな………これ一つあるだけで、全ての戦士系武器が装備できるようになるんだ」

 

 構えられているのは、蒼い鉱石の輝きを帯びた小柄な銃剣。

 

「友人の私物だ―――さて、壁は無いぞ?」

 

 突き飛ばされた人質を受け止めつつ、純光属性のレーザーが放たれる。純粋な魔法属性故に盾での防御には限界があり、その身を炎以上に純粋な熱で焼かれる。急ぎポーションを取り出し、その傷を癒し始めるが、苦痛による動きの鈍りまではカバーしきれない。

 

「ぐ、おおおおおおおっ!!!」

 

 素早い剣閃を、入れ替えた真紅の剣で受け止め、金色の剣による重い一撃を振り下ろす。回避を取ろうにも、真紅の剣で自身の剣を絡め取られていた為、咄嗟に盾で受ける。それにより、重い衝撃をモロに貰ってしまい、体勢を崩してしまう。

 その隙を逃さず、剣を弾き飛ばすと共に武器を入れ替え、骨を柄にしたような真紅の大鎌をショートカットで呼び出し、下から掬い上げるようにしてその身を切り裂いた。

 

「ぐ、がああああっ!?」

「む?」

 

 鎌を装備すると同時に手から零れ落ちた剣に気付き、しかしそれを意識するより先にショートカットによる武器の交換を行い、二刀流に戻る。この点での自由度は、ユグドラシルを大きく上回っていると言えた。

 

「舐めるなァッ!」

「ふっ」

 

 素手での攻撃に対し、肘関節から刃を入れ、腕を斬り飛ばすことで対応。その動きの勢いを利用し、もう一方の剣を脇腹から突き立て、肩口まで一気に貫く。

 

「が、あ………っ」

「失せろ………万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)

 

 素早く剣を抜き、蹴り飛ばしたエルフの王へと魔法を放つ。目前に降り注ぐ轟雷を前に眉一つ動かすことなく、目前で消し炭になり行く男を眺める………つもりだった。

 

「ぐ、おああああああっ!!!」

「ほぅ」

 

 死なないどころか、万全の状態で腕を突き出してくるエルフの王。それに驚きながらもその手を掴めば、そのままその身を投げ飛ばされる。

 

「蘇生アイテムか」

 

 漆黒の十二枚羽で制動をかけ、ラプチャーは攻撃スキルを発動。

 

次元断切(ワールド・ブレイク)

 

 現断(リアリティ・スラッシュ)の上位互換スキルにより、エルフの王の体を両断し、弾き飛ばした。流石に縦真っ二つは即死らしいが、しかしアイテムによるものでか直ぐに復活してしまう。

 

「厄介だな………まあ、いい」

 

 弾き飛ばされたことで、先程失った剣を得たエルフの王だが、既に戦意は皆無。しかし、ここで逃す理由もない。

 

「な、なあ、頼むよ」

「安心するといい。()()のような暴君を見逃す理由など、初めから存在していない」

 

 ラプチャーの目を見て、気付いてしまった。

 自分はただのモルモットとして見られているだけなのだと。

 

(に、逃げっ)

「おや、何処に行くおつもりで?」

 

 振り返った先には、転移魔法で移動したらしき一行の姿。

 

「あ………」

「逃がさないよ?アンタのせいで酷い目に遭ってるエルフが沢山いるって話だし………逃げられる訳無いよねぇ?」

 

 絶望に打ちひしがれる彼へと、ラプチャーは再びその剣を振り上げる。

 

「ッ!」

 

 往生際悪く足掻くエルフの王は、振り向きざまにがら空きの胴へと剣を突き立てんと振り返り―――甲高い金属音。

 

「な、あ………」

「生憎と、()()()()()()()()()

 

 ラプチャー最大の恐ろしさは、ユグドラシルにおける戦士職、それも最上位を争うレベルのプレイヤーに必須な運動神経………ではない。一対一であれば、一分とせず相手の行動パターンを割り出し、逐一対処可能な桁違いに優秀な、それこそデミウルゴスさえも舌を巻くほどに卓越した頭脳だ。

 専ら思考に使う事は無い知能の高さを、相手の動きを先読みする為にフル活用する………手の内が明かされてしまえばわかりやすい事この上ないが、その原理を知る者は一人しかいない上、その一人とて、あくまで朧気に予測を立てていた、程度でしかないのだ。

 

 なお、一番対処できていたのは、嫌がらせの如くワールドチャンピオン限定大会で必ず最初に当たっていた課金拳使いによる『予測しようのない超パワーで確実に殴り続ける』ブルジョワ戦法であった。

 

「ふっ」

 

 剣から、ショートカットで入れ替えた刀に逆手で持ち替え、刃を防いだラプチャーの対応は早い。刀で剣を絡め、腕をあらぬ方向に伸ばすと共に、剣伝いにエルフの王の脇の下から腕を切断。そのまま首元へと刃を突き刺し、心臓までを貫いた。

 

「が………あ………」

「む?もう終わりか」

 

 痙攣し、力なく崩れ落ちたエルフの王から刀を引き抜く。目前で死を迎えた男に思うところは欠片もありはしないが、一応念の為仲間たちへと振り返り、無言で意見を求める。

 

「………《燃え上がる三眼》の騒動、覚えてますか?」

「ああ、プレイヤーが蘇生しての無限PK………俺は信仰系はからっきしだぞ?」

「ペストーニャ辺りかなぁ………それなら、しっかり縛っとかないと」

「あ、使うなら最低位の死者復活(レイズデッド)で。レベルダウンが一番デカいですし」

 

 三人が盛り上がるのは、カルマ値マイナスが作用しているからか。

 ここで異を唱えないのは、レアケースでしかないプレイヤーの死に関する諸々を調べる絶好の機会だからか………優秀過ぎる頭脳ではなく、人間の醜悪さを見た事が直接的な原因とはいえ、ラプチャーの在り方は彼ら以上に人間性が欠けているようにも思える。

 

「では、そうだな………デミウルゴス。ペストーニャに連絡を。俺が第九階層に転移門(ゲート)を繋ごう。そこから蘇生開始、完了まで俺とコキュートスが護衛に入る。問題は無いな?」

「もち。俺たちじゃちょいとキツいっすわ」

 

 この場でパワーのある前衛足り得るプレイヤーは、ラプチャーのみ。とはいえ、エルフの王の武具はヘロヘロたちが回収している為、装備品が基本伝説級(レジェンド)である彼らを相手に深手を与える事は困難を極めるだろうが。

 

「お呼びに預かり、只今参りました」

 

 犬頭のメイドが降り立つのを確認すると共にラプチャーが頷き、意識を切り替える。ここで私的な思惑と利益を切り離して動けるのは流石というべきか、普段からそうしろと頭を抱えるべきか。

 

「セバス、戦闘中だろうエルフたちの救援を。デミウルゴスは魔将を指揮して、セバスがエルフを回収するのを補佐してくれ。仮に人間と接触したとして、殺害は厳禁だ」

「「畏まりました」」

「人間と接触した場合、デミウルゴス。お前が交渉しろ。万一に備え、コレを渡しておく」

 

 ラプチャーが指示を切り出し、二人が了承の意を示した。そして、ラプチャーはデミウルゴスへと自身のワールドアイテムを差し出す。

 

「しかし、それでは御方が!」

「コレがワールドアイテムを持っていないのは、ここまでで判った。ならば、ここからは無用になる。お前が役立てろ」

「………ハッ!必ずや、最高以上の成果をッ!」

 

 二人と二人に率いられた魔将が動き出し、王都を去るのを確認してから、ラプチャーはペストーニャ、コキュートスへと意識を向け、続けて三人に顔を向けた。

 

―――――

 

 約半日もの時間をかけ、エルフの王のレベルを一桁まで落としたラプチャーは、興味を失ったことと事後処理の準備が整った事を受け、ペロロンチーノと共に、一足先にナザリックに帰還していた。一応、交渉が出来そうなデミウルゴスと、交渉材料足り得るエルフの王の身柄は残してある………なお、ペロロンチーノが帰らされた本当の理由は、十中八九エルフ相手にアレコレ暴走する事を危惧されてだろう。

 

「あーあ、もうちっと色々見たかっ」

「ペロロンチーノ様ああああああっ!!!」

「ぐほああああああ!?」

 

 帰還早々、第六感で主の帰宅を察知したシャルティアに抱き着かれ悶絶するペロロンチーノを放り、ラプチャーは伝言(メッセージ)を繋ぐ。相手は、ある程度立場を偽る事無く活動可能で、即座に動けるだろうタブラ・スマラグディナ。モモンガに報告しないのは、最悪冒険者業をほっぽってこっちに来かねないからか。

 

「タブラか?」

『ええ、私です………どうしました?』

「色々あって、エルフの国の王をしていたプレイヤーを始末した。今後どうなるかは、茶釜たちとデミウルゴス次第だ」

「『はああああああああああ!?』」

「ちょちょ、タブラさん!?部屋の外まで響い………ラプチャーさん!ペロロンチーノさんも揃って、どこ行ってたんですか!?」

 

 モモンガがナザリックに居た。想定外の出来事に軽く目を剥きながらも、引き摺られていくペロロンチーノを意識の外に追いやり、今は自分一人である程度事を収める覚悟を決めた。

 

「………あー、モモンガ………とりあえず、タブラを呼んで欲しい。詳しい話は、円卓の間でしよう」

 

 三分とかからず三人で円卓の間に踏み込み、ラプチャーは二人にこれまでの顛末を掻い摘んで開示。すると、当然の如くモモンガが激怒した。

 

「何してるんですか!?相手の情報が欠片も無いのに、なんでそんな無茶を!」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。それで、事の顛末はわかりましたが、原因は何だったんです?」

 

 タブラがモモンガを落ち着かせながら問うと、ラプチャーは苦笑交じりに口を開いた。

 

「ペロロンチーノが、南の平野でエルフを拾ってな」

「南の………カッツェ平野でしたっけ?え?なんであそこで?」

「率直に言うと、奴隷だ。それも、王の私欲のために戦場に放り込まれた女性兵が、捕虜とされそのまま奴隷にされている、という訳だ。序でに、プレイヤーだったその王は強い子供の量産を目的としていた………レベル100純戦士の強姦魔、とも言い換えられるな」

 

 すると、二人の雰囲気が豹変した。言わんとする事を察したのだろう、当然の反応だ。

 

「ナザリックのNPCたちが被害に遭う可能性を想像して、茶釜さん辺りがキレたんですね」

「私も多分、キレてましたね………とはいえ、幾らなんでも無茶無謀が過ぎたんで、後で説教ですね」

「覚悟の上だ。俺は、な」

「………まあ、三対一で止めろってのは無謀ですよね………ラプチャーさんが、本気で止めようとしたかは置いておくとして」

「………」

 

 無言で目を逸らすという事は、そういうコトだ。モモンガが溜息を零し、軽く頭を抱える。

 

「情状酌量の余地なし、と………今度からは、せめて報告くらいしてくださいね?」

「今回については、お前の場合冒険者業をすっぽかすリスクを考慮したんだがな」

「………それについては、感謝します。絶対すっぽかしてましたもん、俺」

「私も同意ですねー。で、エルフの国がどうなるかによっては、どでかい後ろ盾になる訳ですが」

「ああ。デミウルゴスがお前の望みと勘違いしている『国興し』の第一歩になるだろうな」

「「国興しぃ!?」」

 

 二人が唖然とした様子を見せ、ラプチャーが楽しそうに笑う。

 

「アイツと同じ前提条件があれば、思考回路を理解できそうなのだがな………どうする?」

「いやいや、どういう理屈ですかそれぇ!?何をどうしたらアイツはそんな勘違いに行き着くんだ!?」

「………もしかしたら、アルベドもそうかも」

「………ヤバい、胃が痛くなってきた………」

「「いやお前、胃無いじゃん」」

 

 現実逃避気味のモモンガの泣き言に、二人からの無慈悲なツッコミが入った。




相手の動きから行動パターンを予測しての疑似未来予知………何だこのチート!?
なお、あらゆる意味で読めない課金拳は天敵中の天敵。ただし、相応の技量が無いとカモられる。
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