オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
モモンガ、タブラの両名が数多のNPCと共にエルフの王国、ひいては彼らと戦争中だったスレイン法国との調停、及び和平に向かっている中、ラプチャーとペロロンチーノが頼まれたのは留守中のナザリックの守護だった。
「大丈夫なんですかね………?」
「少数精鋭、という事だな。それに、俺とお前とでは問題を起こしかねないと判断されたんだろう」
「やべぇ、反論できねぇ………」
暴走しやすい二人を外すのは、英断と言えよう。戦力的にも、彼らの不足を補えるようNPCを選出している為、問題は無い筈だ。それを理解しているからか、ナザリック表層にて読書に勤しむラプチャーには不安の色が欠片もない。
「つか、何読んでるんです?」
「最古図書館にあった小説だな。版権切れの代物とはいえ、興味が無かったジャンルのものは新鮮でいい」
「小説かー………エロ系は運営がNO突き付けてたしなぁ」
なお、ラプチャーの仲間のセクハラ野郎は上手く言語の壁を駆使し、かなりきわどい小説をたんまり持ち込んでいたりしていた。その才能と努力をもっと有意義に使え、と誰もが口を揃えて叫んだものだ。
「………まあ、趣向は人それぞれか」
ラプチャーは思考を放棄し、本のページをめくる。文字の世界に意識を沈み込ませようとする彼だが、不意に放たれた問いによりその行動が一時停止する。
「そういや、前のギルドについて前に色々聞きましたよね」
「………ああ、そうだったな」
思い浮かぶのは、馬鹿馬鹿しい日々。彼にとっては何もかもが新鮮で、退屈など欠片程もする事が無かった、出来なかった仲間たち。
「いやー、アルバムに載ってない事とかも、色々聞きたいなーと思いまして。ほら、ウチは良くも悪くもネームバリューすごかったっすけど、その」
「ああ、そうだな………中二病系ヘタレだの笑顔系魔王だの常識人の皮を被った脳筋だの肉食系同性愛者だの、濃いには濃いが」
「いやいやいやいや、ナニソレ初耳なんすけど!?つか濃い!?ウチのが可愛く見えるレベルで濃い!?あと肉食系同性愛者が女の人だったら詳しく!」
ツッコミを入れながらも喰い付くところには食いつく。流石である。
「ああ………テーバイ、あいや笑顔系魔王を口説いては殴り飛ばされていたな。わざわざ
「つまりはロリコン………いや、そのテーバイって人は?」
同士に会えなかった無念を噛み締めながらも、ペロロンチーノは笑顔系魔王に喰い付く。
「普通に美人な女性アバターを使っていたな。ただ、魔法火力もだが筋力も凄まじくて、俺でも余裕で競り負けた」
「ガチめのネタビルドじゃねーか」
「あと、怖い。いつも笑顔な上に怒り狂っても声のトーン一つ変えないからな………」
「ヒェッ」
ラプチャーの脳裏に浮かぶのは、リアルの感覚を喪わない為と相応に豊満なアバターを使っていた彼女を『パイさん』呼びしてはぶっ飛ばされるコーチ、といういつもの光景。問題は、ラプチャー以上にガチビルドの戦士であるコーチが成す術無くぶっ飛ばされる程の筋力を、眉一つ動かすことなく笑顔のまま振う事か。
そして何より、ラプチャーが顔を引き攣らせ、微かに青ざめた上で『怖い』と零したのだ。ペロロンチーノが恐怖を抱くには十分過ぎた。
「魔境じゃないですか―ヤダー!?」
「安心しろ―――――コーチ以外は飛び抜けて強い、という事は無い」
「あ、そなの?いやセクハラ野郎そんなすげぇんすか?!」
「アイツに関しては、何より『読めない』からな」
ギルドの仲間との交流で見せていた表情、心情に関しては、嘘偽りはないだろう。だが、それ以外がひたすらに読めない………ラプチャーでさえ、あの男のパターンを掴むことが出来ていない。本当の意味での真剣勝負には決して乗らず、言葉巧みに敗北の言い訳を挙げ、しかしギルド間抗争においては知略武勇併せて個人でトップクラスの戦績を齎す………まさしく『
「そこまでっすか………」
「ああ。面白い男だったよ………ここでなら、全てを解明できただろうにな」
未知の解明、という意味合いでも、友人としても。
「うわー………会いたいような、会いたくないような………」
「多分、シャルティア辺りはセクハラの餌食になるな。アイツ、そうやって相手を感情的にさせた上で情報を零させるには、あの単純さはもってこいだ」
「あ、多分俺そうなったらブチ切れて殺しにかかりますね」
「問題は、アイツはやろうと思えばワールドチャンピオンくらい簡単だろうポテンシャルがありそうなことくらいか」
「………ルベドくらいしか勝てそうに無いなぁ」
「敵対関係になった場合、ギルド関係で沸点が低すぎるNPCたちだと一方的に殺されかねんな」
ここで何故ナザリックとの敵対方向で考えているのか、と疑問が浮かぶ。
愉快犯でセクハラ魔ではあるが、分別はつくし弁えるべき相手にはしっかり弁える事ができる人間だ、とラプチャーは評価している。そして、弁えているように見せかけてここ一番で背中から刃を突き立て、相手を徹底的にこき下ろして嘲笑い、精神を逆撫でして冷静さを消した上で一方的にねじ伏せる外道である、とも思っているが。
「………なんつーか、ヤバいっすね」
「ああ。本当に、面白い男だよ」
そう笑い、ラプチャーは本を閉じ―――――
「ところで、いつまでそこに隠れているつもりだ?」
ナザリック周辺に広がる森の一角へと、目を向けた。
「え?あれ?ラプチャーさん、
「ここまで興味津々に聞かれては、気付かぬ訳もあるまい」
嘆息し、興味深げに目を向ける。そして、ペロロンチーノへと教授するかのような口調で続ける。
「それに、何のために森にしたと思っている?隠蔽の難易度もあるが―――――」
姿を現した白金の鎧から、声が響く。
「成程。この辺りでは見かけない草木が多いと思ったけど………釣り出された、って訳だね」
「ああ。ユグドラシルにおいても、エルフ、亜人、異形種は寿命が長いと定義されていてな。それらのルールもこちらにあるとなれば、そしてその定義に当て嵌まるような高位存在が広域を視ているとすれば」
ペロロンチーノの目に、微かな畏怖が宿る。鎧の影でさえ、隠し切れぬ驚愕を滲ませている。
「ただ丘陵を創るよりも劇的な視覚的変化に釣られ、出てくるだろうと。森そのものを気にする事が無くとも、そこに特異な草木があれば、否応なしに目につくだろうからな」
「………そこまで考えていたんだね。ああ、別に監視はしてないよ。ただ、『漆黒』が突然消えたから、仕方なく序でに周りを見て回ろうと思っていたんだけど………」
ラプチャーにしては珍しく、本気で思考を巡らせていた。ナザリックが無防備に近い事もあるのだろう、彼の思考は、ユグドラシル時代の知識までをも引っ張り出してのものとなっている。
「………アストラル系か?」
「へ?」
「鎧の稼働音が純粋な金属音だけだからな。スケルトン系なら骨と金属の接触音が、それ以外なら金属と肉体の接触でここまで綺麗な金属音にはならん」
「マジ?」
「ユグドラシルではそうだった」
「そうだったの!?」
鎧の主は、目前の人間風の男への評価を切り替える。優れた頭脳を持つ者から、優れた頭脳を持つ変人へと。そう思うことが、隣の鳥人間を見る限り正解なのだろうと考えたからだ。
「ああ、誤解を解いておくと―――この鎧は空洞だよ。遠くから操作している」
「そうか………念の為聞くが」
剣が二本と、漆黒の十二枚羽が展開される。一瞬、その掌に光り輝く羽根が見えた気がしたが、直ぐに拳は握り締められてしまい、その正体は掴めず仕舞い。
「敵対の意は?」
「君たち次第かな。君たちぷれいやーがこの世界にどんな影響を齎すかはボクたちにも読めないからね」
プレイヤー、と口にした瞬間、ラプチャーがその姿をどす黒い蒼黒の炎へと変え、ペロロンチーノが弓を構える。
「八欲王!?」
「彼らとは違う。寧ろ、彼らと敵対………いや、ボクは戦いには出ていなかったけどね」
「成程、異形種狩りではないか………それとも、異形種そのものか?」
「正解だね。
ドラゴンはユグドラシルでも強大であり、単純なAIでありながらもエネミーステータスでのレベル100ともなれば苦戦必至だったのだ。プレイヤー基準でも十分過ぎる程超スペックである為、否応なしに警戒が高まる。
「それで、こちら次第とは?」
「そのままの意味だよ。八欲王のようにこの世界を乱すなら、ボクは君たちと戦わざるを得ない」
「………あー………エルフの国の建て直しとか、国家の建設はその内に入るか?」
「………エルフの、って?………その、すまない。あまり外の情報は持っていなくてね。彼は共に魔神を倒した仲間だから信頼していたんだけど………なにが?」
二人が顔を見合わせ、全力で肩を落とした。
「知らねえの?」
「本当に知らないらしいな………とりあえず、立ち話もなんだ」
ラプチャーが
「お前たちは戻れ」
「ですが」
「これはあくまで話し合いだ。威圧する理由も無いし、お前たちではコイツを止める事は叶うまい」
プレアデスが有無をいう間もなく下がるよう命じ、その姿が消えてから、鎧に座るよう促す。
「えっと………大丈夫ですかね?」
「諦めろ。説教コースは確実だ………とはいえ、あちらはスレインとエルフの和平序でに上手く友好関係を築くのに忙しいだろうからな。全く、毎度毎度タイミングの悪い」
スレインとの、という箇所に反応を示し、鎧が首を傾げる。
「スレイン法国とエルフの国が?………詳しく聞かせて貰っていいかな?」
「詳細は省くが、エルフの王がスレインの女を強姦して孕ませ、その女を奪還された末に戦争状態だそうだ。アレが女ばかり前線に送るせいで、捕虜はそのまま奴隷行きになっていてな」
「………そんなことが………」
鎧が俯き沈黙する中、ペロロンチーノはただ黙っていた。
この場においては、自分が不用意に発言するよりラプチャーに丸投げする事が正解であると思えたからだ。彼が畏怖すら抱くほど先の先まで見通し、思考を巡らせる怪物………なのか変人なのかイマイチわからない元人間の方が、色々と有利だろうと考えてのことだ。
「奴隷、というのもそうだが、王の愚行にも不快感が凄まじくてな。揃って王を殺しに行ったわけだ」
「………彼は?」
「ちょっとしたアンデッドにさえ敗けるだろうまで、殺して蘇生してを繰り返した。考え得るのは、エルフの欝憤晴らしのための公開処刑か、スレインに身柄を引き渡すかだな」
「そう、か………彼も、善良なぷれいやーだと信じていたんだけど………」
悔いるような、嘆くような声に、二人が顔を曇らせる。
「………直接来て正解だったね。八欲王に比べ格段に理性的で助かるよ」
「………その八欲王だが、恐らくネームバリューに乗っかった末端プレイヤーだったんだろうな。浮遊都市とやらを有していたギルドは、ユグドラシルでも最上位のギルドの一角だったからな」
「あー、ありますよね。強豪ギルド入りしたから俺TUEEEE!って勘違いしてる奴。サ終迫ってた訳ですから、枠もあったでしょうしねー」
ペロロンチーノの言葉に微かに首を傾げる鎧だが、深く追及はせずに続ける。
「成程、つまり彼らは大したことない存在だった、と言いたいのかな?」
「レベル的には十分高いだろうが、実力的には間違いなく低いだろうな。そもそも、連中はこの墳墓………ナザリックへの1500人規模での討伐隊に対し、メリットの薄さとデメリットの大きさを以て参加を蹴った連中だ。伝承に語られるような短慮を起こすとは到底思えん」
微かに険のある言葉に対し、ラプチャーはあくまで淡々と自らの想定を述べる。
「せ、せんごひゃく!?」
「ああ!そういやあん時、上位ギルドは全く動いてなかったっけ!」
「その辺りのリスク管理の徹底が、ユグドラシル五指に踏み込めた理由だろうからな」
途方もない数に呆然とする鎧に、ラプチャーは内心笑みを零した。
先の反応から、八欲王やプレイヤーのおよその実力を知る事を見抜いていたからこその、ナザリック地下大墳墓に座すギルドの実績だけを端的に挙げ、牽制を測ったのだ。そして、その牽制の情報が与えた効果は絶大であった。
「………キミたちは、一体」
「アインズ・ウール・ゴウン………ユグドラシルプレイヤーに知らぬ者はいないだろう、数千にも及ぶギルドの最上位の一角に座していたギルドだよ。尤も、俺は新参だがね」
内側は空洞だ、と鎧の主は語っていたが。ペロロンチーノは、鎧から生唾を呑む音が聞こえた気がした。