オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
「―――――俺たちが居ない間に!?」
「ああ、理性的で助かったよ………お陰で、奥の手を使わずに済んだ」
何故かダークエルフを引き連れたモモンガらが帰還してから。プレイヤー全員で円卓の間に向かい、ラプチャーとペロロンチーノは来客についての情報を共有していた。
「確か、あーぐらんどひょうぎこく?とかのつぁい………なんでしたっけ?」
「ツァインドルクス・ヴァイシオンだ。プラチナム・ドラゴンロードと名乗っていたな」
「ぷら………!?法国が言ってた『真なる竜王』とかいうのの一人じゃないですか!?」
情報、大事。お陰で、モモンガらは事の重さを二人以上に強く受け止め、警戒を見せているのだ。
「それで、どうしたんですか?!」
「ギルドマスターと話がしたいそうだから、一旦お帰り願った」
「ラプチャーさんが討伐隊の件を伝えたもんで、結構ビビってましたけどね」
「八欲王というわかりやすい危険勢力が『叩き潰された』ではなく『自滅した』と書かれていた辺りから予想はしていたが、どうやら連中の手にも余る程度には厄介だったようだな」
プレッシャーを与えると同時に、伝承が事実であるかを見抜いていたらしいラプチャーの発言に、驚き疲れたペロロンチーノが肩を落とす。
「余裕っすね………」
「そうでもない………それで、そちらの収穫は?」
モモンガたちが一度顔を見合わせ、代表としてギルマスである彼が直接語る。
「とりあえず、エルフの国はナザリックの管理下、って形になります。後日、茶釜さんを暫定的な王として置いて、アウラとマーレで復興支援とか諸々をして貰うことになりますね」
「ふむ………それで、ダークエルフの方は?」
「エルフの国がある森の、更に南に住んでた一族です。なんでも、昔はこの近くの大森林に居たそうなんですが」
たったそれだけの情報から何をせんとしているか見抜いたラプチャーは、軽く頷き了承と、警告を伝える。
「成程、大森林の危険因子の調査、及び排除………序でに彼らの住居を保証する、ということか。だが、それをすればデミウルゴス辺りが『国家建設』を大真面目に始めかねんが」
「理解早っ!?いやまあ、その通りですけどね?あと、デミウルゴスたちに解ってなかったって伝える訳にもいかないんで、スレイン法国了承のもと、ナザリック中心にもう『アインズ・ウール・ゴウン』って国を造ることを決定しましたし」
「………と、いうことは人間とダークエルフらの共存を目的にするのか」
ラプチャーが納得したように頷き、そして笑みを深める。
「後日、というのもその怪物の件を片付ける為か………となれば、早急に調査せねばな」
「ただ、法国とやらが『カタストロフ・ドラゴンロード』とやらと同一と思われるとかって話なんで、俺の方で索敵向けのアンデッドを揃えるつもりです」
「アウラもだけど、魔獣たちも下手に傷付けたくないですしね」
「ああ、戦闘にはルベドも参加させるつもりです。ほら、相性的に理論上はウチに勝てる人いませんでしたけど、どれくらい強いか見てみたいじゃないですか?」
「というより、敵の規模が不明である以上可能な限り手札を切るべきだろうな。万一ワールドエネミー級だったら、俺もコレを使わざるを得んからな」
ラプチャーが持ち出したのは、光り輝く黒の羽根。
「………え、っと?」
「モモンガさんも知らないんじゃ、ボクたちにはわかりっこないですね………」
興味津々に見つめられる羽根を掲げ、ラプチャーが嘆息と共に告げる。
「
「ッ、ワールドエネミー化!?」
一時期、ワールドチャンピオン・ムスペルヘイムがワールドエネミー化アイテムを使用し暴れ回り、レベル100プレイヤー30人がかりで何とか撃破した、という事件があった。
要は、それと同等………レベル100プレイヤーが二桁人必要な程の力を得る事ができるアイテム、というある意味破格の代物だ。尤も、入手難易度も相応に高く、そもそもワールドエネミー自体、生半可なプレイヤーたちでは呆気なく全滅がオチなのだが。
「マジかよ………え?ってことは、成功したの!?」
「何度かソロで挑んで、行動パターンを完全に把握して、その情報を共有してな」
『は?』
ラプチャーの言葉に嘘偽りは無く、一人で挑んでAIのパターンを完全に割り出してから、仲間内にそれを共有。緻密な計算に裏打ちされた超絶細かなヘイト管理を徹底し、何時間にもわたる激闘の末に勝利したのだ。
なお、コーチ以外は二度とやりたくないとげんなりしていた模様。
「AIは人間に比べ格段に単純だからな。シチュエーションごとに行動を割り出す必要があったお陰で、手間はかかるが」
「………それが出来る時点で異常だと思うなぁ………」
リアルプログラマーの呟きに、一斉に同意が返ってくる。そんな簡単にできるのであれば、それこそ山のような討伐報告が上げられている筈である。
とはいえ、今はそれに突っ込んでいる場合ではない。ぶくぶく茶釜が咳払いと共に、スレイン法国から求められた諸々の案件を列挙していく。
「まあ、そこは置いておくとして。問題はそこ以外にもありますからね」
「王国の制圧、帝国との面会………あとは竜王国への救援もお願いされましたっけ」
「多っ!?」
「あたしもそう思う」
「ボクもですけど………まあ、仕方ないと思いましょうか」
弱者救済が理念の『アインズ・ウール・ゴウン』だ。王国の民、そして帝国の奴隷たちと竜王国で日々貪り喰われる人間たちもまた、彼らが救済すべき弱者に他ならない。ギルド古参の面々がいれば、誰もが首を縦に振っただろう案件ばかりだ。
「力あるものの義務、とでも言うべきか。まあ、いいだろう………それでは、役割をわけねばな」
ラプチャーがクリップボードとルーズリーフを取り出し、六つの項目と割り当てるべき人員を調べ上げて行く。
「ぶくぶく茶釜、及びダークエルフ姉弟はエルフの国で決定………」
「いやいや、大森林のドラゴンロードの件は!?」
「そちらもそうだが、お前は冒険者業があるだろう」
「あ………」
さらりとモモンガ、ルプスレギナを枠外へと書き出し、ラプチャーが続ける。
「とはいえ、手はある―――――まず、今回受けている依頼を完遂次第、俺がラプチャーとして直々に招集をかけに向かおう。既にルプスレギナの身の上を明かしている以上、あちらとしても神直々の招集とあらば動かぬ訳にもいくまい………まあ、代役のパンドラといつ入れ替わるかが問題なのだがな」
『はぁ!?』
「え、ちょ、初耳なんですけど!?」
「お前が代役も立てずに向かったからな………苦労したんだぞ?」
………そう。このポン骨、エルフ国関係の為に大慌てで出て行ったため、エ・ランテルに戻るべき冒険者としての件をすっかり忘れていたのだ。その結果、ラプチャーが一人でパンドラにこの件についてを話し、ラプチャー監督下でのルプスレギナ指導のもと、何とか演技を及第点レベルにまで上げて合流させたのだ………そして、パンドラの設定は………
「本ッ当に、すみません」
「まあ、人間ミスはある。そこを補い合えるのが、集団の強みだ」
同情を集めるラプチャーだが、特に気にした様子もなく方針を決めて行く。
「未知のモンスターだが、最悪俺とモモンガで何とかなるだろう」
何故、とは口にしない。ギルドの仲間は皆知っているから、と切札について教えている以上、彼がそれを知らない筈はないからだ。
「けど、効かなかったらどうするんです?」
「アレを無効化できるのはワールド級くらいだ。逆を言えば、それ以外なら問題無く倒せる」
何より、魔法も物理も平均以上にこなせるラプチャーの存在が大きい。種族レベルの比率が非常に大きい堕天使に加え、種族特性込で第十位階を使えるようにする分の魔法職と戦士職という、ちぐはぐ極まりないビルドを三大ワールド職の内の二つを取得することで強引に補うごり押しスタイルだが、そのどちらも桁違いに強力であるコトに変わりは無いのだ。
「うわ、想像しただけで極悪………」
「実際、たっちさんが前衛に居る時にモモンガさんとかウルベルトさんに喧嘩売る人皆無でしたしね」
「次に、帝国の件だが」
『って、スルーかい!?』
マイペースに進行するラプチャーへと、総ツッコミが入る。
「俺はたっち・みーと比べると壁としてもアタッカーとしても劣るがな」
「超火力魔法スキル持ちの癖によく言う………で、帝国の件は?」
「ヘロヘロ辺りがベストだろう。個としての防御能力はぶくぶく茶釜に次ぐし、何より見た目だけならば警戒され難い筈だ。交渉事に際しては、デミウルゴスかアルベドを連れて行き、一任すれば間違いはそうそうあるまい。特にデミウルゴスならば、相手のレベルを測るいい目安になるからな」
『支配の呪言』のスキル効果は、この世界の一般的な人間戦力全般に通じるとされている。つまり、危険因子か否かの判断を凡そ一任できる、ということだ。そして、仮に動けたとしてヘロヘロは防御に秀でたスライム系である上、戦士相手ならば酸で武器を破壊するという嫌がらせも可能………後々に響くいやらしい選出である。
「竜王国だが―――――単騎戦力として最強クラスのシャルティアを前衛に、援護をペロロンチーノ、打ち漏らし対策の」
「待って待って待って!?え?いや、なんでそこまで詳しいんですか!?」
悲鳴を上げるぶくぶく茶釜と、無言で同じように目を剥く他三名。ペロロンチーノに関しては、もう驚き疲れたのか呆れ気味である。実際、現実世界の住人がナザリック最高知能クラスの超頭脳を持ち合わせているなどと、予想しろという方が土台無理な話なのだ。
「救援、ということは相応の戦力に追い詰められているという事だろう?そして、スレイン法国は他に比べ全体的に見て優秀な戦力がある………そんな連中が手を焼くとなれば、人間種以上に優れた身体能力を持つ亜人種か異形種だろう。その規模が個であれ群であれ、強力な前衛戦力二名と後衛を連れて行くのは理に適っていると思うが」
「………ほぼ正解です、ハイ………いや、そんなに頭いいのに何で普段はあんな………」
モモンガらが浮かべるのは、こちらに来てからのアレコレだろう。
「日頃、イチイチ頭を使って行動するか?………俺はしない」
「おいこら」
「あー、だからやたら無鉄砲というか、行き当たりばったりというか………」
周りが妙に納得すると共に呆れ、そして頭を抱える。ワザとやらかするし★ふぁーとは違うベクトルの、特大の問題児だと否応なしに理解させられたからだ。しかも、考え無しな分あちら以上に予想がつかないという意味でも厄介だ。
「で、話を戻すぞ」
「ちょっとぉ!?」
「王国の件は、先ずセバスとユリを王都に潜り込ませておくべきだろう。犯罪組織と貴族が繋がっていると仮定するならば、最も集まりやすい王都に総本山があると見るべきだからな。あの二人の目に余るような真似をしているようならば、こちらから先手を打って秘密裏に潰す。そうして死人にして口を潰してから、連中の在り方を理由に王国に戦争を吹っかける」
最後の最後に、とんでもない発言である。
それこそ、彼らの目的に反しかねない発言だが………それくらい、この男も織り込み済みだ。
「そして、死者を出さずに大将首………つまりのところ、王などを捕らえる」
デミウルゴス辺りなら勿体ぶる、或いは既に知っていると思って話さないだろう細部まで、しっかりと続けて伝える。
「王国は毎年の戦争で膨大な死者を出し、日々国力を低下させていると聞く。ならば、戦術らしい戦術も皆無だろうと容易に予想できるし、死者を出すことなく勝利に持ち込んでしまえば最後、民の心をこちらに移す事も不可能では無いだろうからな」
「成程………確かに、死者ゼロで勝利すれば戦力差もわかりやすいですし、あえて死者を出さなかったって事でこちらの評価も多少は好意的にできますね」
「序に言えば、重鎮貴族の中でも腐敗側に属する者を早急に発見できればそこで始末する事も出来る。秘密裏に始末するよりも、大々的に始末した上で広く報じる方が民衆の欝憤はよく晴れるだろうな」
あっさりと結論を出し、ラプチャーは一呼吸置く。そうして周囲の反応を窺い、これまでの暫定的な選出を書き連ねたクリップボードをぶくぶく茶釜に手渡す。
「確認してくれ。異論が無いようならば、NPCたちも交えた会議を開き、これらの件を告げようと思う」
そう告げる彼の選出に異を唱える者は、居なかった………というより、色々あり過ぎて思考を放棄していた。