オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
巨大な魔樹を滅ぼした二人の監督兼護衛のもと、ダークエルフたちが自分たちに合った住居の作成を開始する。労働力として、モモンガとラプチャー両名がスキルで作成、召喚したアンデッドや天使が加わるその光景は、非常に異質だ。
「………なにメモってるんです?」
「こちらの木材加工の工程や使用する道具、序でに彼らの建築様式についてだ」
なお、その傍らで炎を上げる紙については、モモンガは見なかったことにした。単に、格式張った書き方になってしまった書き損じに過ぎないのだが、ラプチャーはその旨を告げていない。
「な、成程?」
「仮に首都を造ったとして、ダークエルフの居住区なんかを造る際の目安になるからな。まあ、人間相手には役に立たんが」
「まあ、そりゃそうでしょうけど………」
高空から見下ろしている二人の声は、下には届かない。
「しかし、こういったものを見る機会は無かったからな。いい勉強になる」
「新鮮ですよね、確かに」
眼下でせわしなく繰り広げられる作業を、なんとなく集中して見つめるモモンガと、興味の対象を適宜絞りながら観察するラプチャー。
一言で表すならば、ただただ、平和であった。
―――――
対し、バハルス帝国。
「いやはや、見事な手際にございます。流石は、バハルス帝国皇帝陛下」
(………最初の難関は越えた、か?)
眼鏡をかけた悪魔の賞賛に愛想笑いを返しながら、ジルクニフは必死に思考を巡らせる。
「これで最低条件はクリア、という事で宜しいですね?ヘロヘロ様」
「ええ。奴隷となっているエルフたちの一斉回収、及び王国への侵攻の停止………こちらとしても喜ばしい限りです」
ヘロヘロが笑う中、ジルクニフは表情の見えない難敵相手に微かに冷や汗を零した。
まだ足りないのか、と。
「ええ。ですが、大森林については、一応帝国の領土となっておりますので。我々が管理、保全いたしますので、お譲りになっては如何でしょうか?元々、帝国側の森の管理はスレイン法国に一任していたと聞き及んでおりますし、実りの無い領土は不要でしょう」
(ぐ………っ)
眼鏡の悪魔は淡々と、こちらを突き崩しにかかる。
「もしそちらに実利が少ないと仰るのであれば、我々から森の資源を格安で提供することを約束しましょう。加えて、高位のマジックキャスターであるアンデッドを、帝国魔法学院の教員として派遣する事も。フールーダ殿もより高い領域に至れることでしょう」
(ぬぅ………っ)
ここで弱みとなったのは、先に悪魔ことデミウルゴスと相対し、その魔力に魅せられ、会議の場から放り出されたフールーダ。そして、国力強化の為に運営されている帝国魔法学院の存在だ。ジルクニフは即座に、そのアンデッドがフールーダを超える戦力足り得ると見抜き、欲をかけば却って実質的な不利益を被ると理解させられる。
「………いいだろう」
「賢明な判断、感謝致します。今後、貴国の有事においては、全力を以て支援する事を約束しましょう」
スレイン法国が『神である』とした存在相手に、不敬は百も承知。だがそれでも、赤の他人の言葉より自分の直感を信じる方が百倍マシだと判断できる程度には、目の前に悪魔は信用ならなかった。
「………ああ、感謝するよ。デミウルゴス殿」
「いえ、こちらこそ」
その笑顔の下に隠された感情を読めぬままという不安は在れど、ひとまずは良しとするべきだろう、とジルクニフは判断した。
そして、王国がどう動くか、どう対処されるかを以て、今後の身の振り方を決める事を、固く誓った。
―――――
その頃、竜王国の一角。新鮮な人肉を求めてビーストマンの軍勢が侵攻する筈のその地は、今や散り散りに逃げるビーストマンで溢れていた。
「っべー、単調すぎて寝そう」
その戦場に在るのは、豪炎による遠距離攻撃で適度にビーストマンを消し炭にするペロロンチーノと、召喚モンスターと共に万を超える軍勢の半数以上を葬り去ったシャルティア、相手が圧倒的と見るや否や逃げの一手を選んだ彼らへの失望を隠さず息を零すコキュートスの三人だ。
「弱イ………コノヨウナ者ドモニ喰ワレタトイウ人間タチモ、コレデハ報ワレン」
周りに散乱する肉片に構わず、業火が降り注ぐ中でシャルティアは舞い踊る。創造主と被造物の関係のお陰か、シャルティアとペロロンチーノは言葉を交わしていないとは思えないほどに見事な連携を見せており、一撃たりとも誤射は生じていない。
シャルティアと、彼女が放つ吸血魔獣から逃げようとすれば業火に焼かれ、業火から逃げようとすれば巨大な
「あれが、神の………」
「すげぇ………これなら、もしかしたら!」
食人獣人のあまりの惨状を前にしながらも、これまでの無念が、悔恨が彼らへの同情を消し去り、自分たちの故国を取り戻せるかも、という希望へと変わっていく。
「やる気出てんなぁ………うっし!ロリ王女様の為、もうちょい頑張りますかね!」
上目遣いで頼んできたロリモードの竜王国女王の姿を思い起こし、ペロロンチーノが奮起する。一層情け容赦の消えた業火が大地を抉る様に爆ぜる中、ペロロンチーノは眼下のコキュートスへと大声で叫んだ。
「掃討戦に入る!お前はそこの門を任せた!」
「承リマシタ」
その両翼を広げ飛翔し、ペロロンチーノは独り言ちる。
「このまま本陣までカチコむか!」
………ブレーキが無いのは恐ろしい事である。ペロロンチーノは女王にカッコいいところを見せようとやる気を出し、シャルティアはそんなペロロンチーノにいいトコロを見せようとやる気を出し、それがペロロンチーノに不甲斐ない姿を見せるまいとやる気を引き出し………と、早い話が無限ループである。
「っしゃおら吹っ飛べ―――ッ!!!」
思うがままにぶっ放しまくるペロロンチーノが止まったのは、陽が天高く昇ってからのことだったとか。
―――――
昼時。ラプチャーがメモを取り続ける中、暇潰し的にアイテム整理を始めたモモンガのもとに
「っと………私だ」
『モモンガ様』
「セバスか?まさか、早々になにかあったか?」
『はい………ユリと協議の末、違法な娼館をひとつ、潰しました』
(はやいよ!?)
モモンガがあんぐりと口を開けたことで、ラプチャーは何かを察したらしく、思考を切り替える。これまでの考え無しの行き当たりばったりモードは一旦お休みで、デキる男ラプチャーとして動くべき時だと判断したのだろう。
「なにがあった?」
「………違法娼館を、潰したとか………シャドウデーモン経由でこちらに運ぶ許可をくれ、だそうで」
「わかった。ナザリック外部に場所を用意する。ペスを動かしておいてくれ」
ラプチャーが素早く飛翔するのを見届けながら、モモンガは言われた通りの指示を下す。
「では、ナザリック外部にゲートを繋がせろ。その後は、ラプチャーさんの指示に従え」
『ハッ………如何なる罰であろうと』
「構わん。予想より早くはあったが、自由に動くよう指示したのは私だ。まさか、王国の闇がそこまで深いとは思っていなかったからな………まあ、丁度いい」
『………畏まりました。流石はモモンガ様にございます』
(え?セバスも深読みキャラだっけ!?あ、丁度いいって言っちゃったのが不味かったのか?ヤバイ、コレ絶対ヤバいよ………下手したら計画を大幅に修正する羽目になるぞ………!)
モモンガが頭を抱える中、ラプチャーの感情を挟まぬ冷徹にも近い的確な指示により無事被害者一行は保護され、ペストーニャの手による手厚い看護を受け、夜までには肉体的に全快の状態となっていた。
そして、一同が揃った夜。
「潰しましょう、今すぐ」
「潰しましょうか」
「ぶっ潰す以外ありえない」
ラプチャーが報告した、セバスたちに回収された人々についての情報により、満場一致で王国との敵対が決定された。
「そうなりますよねー………まあ、構いませんけど………問題は」
「一気に戦争を仕掛けるか、それとも八本指とやらを始末してからにするかは任せるが」
『先に八本指(です)!』
「………やれやれ、作戦立案は不得手なのだがな。それに加え、あまりに情報が無いが………」
そう苦笑しながらも、ラプチャーは自身の案を提示する。
「ナザリック総出で始末するぞ。悪寄りの者たちは特に、ガス抜きが必要だからな」
幸いと言うべきか、この中に連中に慈悲をかけるような者はおらず。
「異論が無いなら、デミウルゴスに丸投げするが」
『丸投げかい!?』
「俺よりアイツの方が、他者に肉体的精神的問わず苦痛を与える案を出すのには向いているだろう?」
全くその通りである。知能が高くとも、趣向の差異から来る作戦の性質の違いはあるのだ。
「うわー………クッソエグいコトになりそうなような」
「ラプチャーさんが言ってた内容的に、それでも温いと思うけどな?糞野郎ども、楽に死なせやしねぇぞ………!」
(あ、姉ちゃんガチギレだ)
(茶釜さんガチギレだよ………デミウルゴス、ハードルが高くなったぞ………主に残虐さの)
静かに怒り狂ったぶくぶく茶釜に、一同戦慄。テーバイ以外が恐ろしいと思ったのは初めてだ、と後にラプチャーは語る。
「………善は急げ、早急に動くとしよう」
「たりめぇだ………生かして朝日を拝ませてやるわけねェもんなぁ………!」
怒り狂ったぶくぶく茶釜に配慮して、ラプチャーはデミウルゴスに繋ぐ。
「デミウルゴス、緊急案件だ」
『ラプチャー様?』
「王都の犯罪組織、八本指を消す。オーダーは我々の存在を匂わせない、その上で末端の末端にまで、考え得る中で最大最悪の苦痛と屈辱、絶望を与える事だ。完了次第、連絡しろ。我々を含む、ナザリックの全戦力の使用を許す………ぶくぶく茶釜のオーダーだ」
『ッ、畏まりました!』
やる気満々のデミウルゴスを確認し、ラプチャーは直ぐにメッセージを切る。
そして、時間にして10分もたたず。デミウルゴスからの連絡を確認した一行は、玉座の間にナザリックのNPCたちを招集。そこでデミウルゴスによる作戦の披露、及び茶釜による『生温い』発言による敵対者への処遇の修正を経て。
「あー………うむ、見事だ、デミウルゴス。茶釜さんの言ったような、敵対者への処遇を除けば完璧であった」
「ハ………申し訳ございません」
「いや、お前が謝罪する事ではない。相手が茶釜さんの逆鱗に触れたことを伝えていなかったからな」
「っ、茶釜様の?!」
「直ぐ殺しましょう」
アウラが殺気立ち、マーレが恐ろしいくらいドスの効いた低い声を漏らす。
「ダメだよ、アウラ、マーレ。茶釜様がお望みなのは死ではなく死以上の苦痛と屈辱だ」
「あ………」
「ご、ごめんなさい!」
二人が顔を真っ青にして謝るが、茶釜は優しい声で二人をあやす。
「大丈夫だよ。二人とも、ありがとうね~………デミウルゴス、連中の処分、もっとエグくできない?」
「………申し訳ございません、ナザリックの設備では」
「いや、無理言ってごめんね」
(こえぇよモモンガさん!一瞬で冷静になって逆に超こえぇんだけど!?)
(言わないでくださいよ!俺だって何度も抑制されてるんですから!)
(今だけはアンデッドが羨ましい………!)
そして、冷静に怒り狂うぶくぶく茶釜に、男性陣ガクブルである。
「それじゃあ………八本指を、地獄にぶち込むぞ。デミウルゴス、連中とつるんでる貴族とかの情報はしっかり抜き出せ。ことが済み次第、王国に戦争を吹っかけて………該当連中を、八本指のと同じ目に遭わせる」
「は………ハハァッ!」
怒気を噴出させた茶釜に、男性陣のみならずNPCたちまでもがガタガタ震えている。怒り狂い様は、エルフの王の件の比ではなかった。
スランプ気味故、短めです。
茶釜さんガチギレにより、ナザリック内のパワーバランスが決まりました(白目)