オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
ラプチャーのキャラクターネームを持つ堕天使は、プレアデスの
(ドッペルゲンガーの本来の姿から考えて、あれは擬態………どこまで人間と同様になっている?)
純粋な好奇心なのだが、じっと見つめられるナーベラルはたまったものではない。
「ん、んんっ!」
「っ!?ああ、すまなかったな」
モモンガの咳払いにより現実に引き戻され、ラプチャーは謝罪と共に彼らのもとに向かう。
「ラプチャーさん」
「そう怖い顔をするな。どこまで擬態できているのか、興味があっただけだ」
「あ、それは確かに」
「おいこら」
ペロロンチーノが別の意味で同意を示したと思ったのか、ぶくぶく茶釜からの折檻を受ける。
そんな中、そっとヘロヘロへと手を伸ばしたラプチャーは、装備から上がる微かな煙を前に即座に手を引く。それを目にしたプレイヤー四人は目を剥き叫ぶ。
「ラプチャーさん!?」
「
「うぇっ!?マジですか!?」
「危なっ!?ヘロヘロさんとか一番の危険人物じゃないですか!?」
悪のロールプレイギルドとして大多数を占める人間種ユーザーに忌避されてきたアインズ・ウール・ゴウンだが、ヘロヘロは特に嫌われているプレイヤーの一人だ。というのも、彼の種族が極めて高い酸性を有している上、そんな強酸性ボディで殴ってくることで武具を破壊してくるからだ。
要は、フレンドリー・ファイア解禁によりヘロヘロが一番危険な存在に変化したのだ。希少品を注ぎ込み作り上げた
「ええと、スキルって切れるのか………?」
「わからん………」
「お待たせいたしました」
ふと、セバスの声が耳朶を打つ。振り返れば、紅茶セットを用意したセバスが見事な姿勢で佇んでいた。何気に、カップはしっかり人数分ある………モモンガは飲めないだろうが。
「ああ、すまないな。用意を頼む………皆も、確認して欲しい。その方が確実だ」
「んん?………あっ、そういうことですか!」
「え?どういうこと?」
「味ですよ、味!」
スライム二人がその意図を理解する中、セバスが紅茶を淹れたカップを差し出し、皆がそれを受け取る。
「………あの、俺飲めないんですけど」
「「「あ………」」」
「やはりか………いや、すまないな。少々試していた」
申し訳なさを滲ませながらも淡々と謝罪し、ラプチャーがカップの中身を煽る。
「「「「………うまっ!?」」」」
「ちょちょっ、ええ?!なにこれ、超美味しい!?」
「すげぇ………こんな美味いの、飲んだ事ねぇ………!」
「これがあったらあと10時間は働けた………!」
「いや、効率的な労働には適度の休息も必要だぞ………しかし、これは………」
ラプチャーはこの味覚情報を以て、何らかの要因でゲームが現実に変わっていると断定した。
そうなれば、次に確認すべきは決まった。が、ラプチャーがそれを口にする前にそれに思い至ったらしいモモンガが声を上げた。
「セバス、墳墓を出て周辺地理を確認しろ。周辺1キロ内でいい。知的生命体がいた場合、なるべく穏便に接触、交渉してナザリックまで案内せよ」
「ハッ」
「丁度いい、俺も出向こう」
「なっ!?いえ、ラプチャー様のお手を煩わせるわけには………」
ラプチャーの宣言に困惑するセバスだが、ラプチャーは構わず指輪の機能を使い
「お前は地上から、俺は空からだ。それで問題あるまい」
「いや、しかし」
「ツーマンセルだ。その方が効率がいい」
ラプチャーはそれだけ残しゲートへと消え、セバスも躊躇いがちにゲートに飛び込む。
「………んんっ!ラプチャーさんはセバスに任せるとして………」
モモンガは異常を確認するべく、NPCたちに指示を飛ばす。
そんな中、外へと出たラプチャーは大きく息を吸い込み、驚きに目を見開く。
「空気が美味しい、とはこういうコトを言うのだろうな………しかし」
感慨深げにつぶやき、空を見上げる。初めて見る生の星空を興味津々に見つめながら、星々の配列を探る。一世紀以上前には見られていた、星座を探しているのだろう。
(………星座は無し。月がある辺り、重力環境等は地球に近いのだろうが………)
「ではセバス、地上を任せる。俺は空を行こう」
「畏まりました」
ラプチャーが空高くへと舞い上がり、セバスが
「モモンガ」
『ラプチャーさん!そっちは?』
「毒の沼地から草原に変わっている。コンパスが正常に機能していると仮定すると、北部に森林と山脈らしきモノが、森沿いに南西辺りに集落と思しき明りがある。距離があるから、接触は控えさせて貰うぞ」
『早………わかりました。あとで、アイテムを使って調べます。一旦戻ってください。第六階層の闘技場です』
「わかった―――――セバス」
地上に降り立ち、ラプチャーがセバスへと告げる。
「戻るぞ」
「ハッ」
「戻ったぞ」
鎧の堕天使の蒼眼が、跪くNPCたちを射抜く。そこに宿るのは、純粋な好奇心。
(どのような身体構造をしているんだ………?)
「それでは皆、至高の御方々に忠誠の儀を」
ラプチャーが思考を巡らせる中、アルベドが主導となりNPCたちが動く。
「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」
「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ」
「お、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ」
「「御身の前に」」
ラプチャーが目を剥くほどにスムーズな所作だが、他の面々はそんなふうに見られていた事実に驚いている。
「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
「プレアデス総括、セバス・チャン。御身の前に」
信頼が重い。そんな思いを抱きながらも、皆表には出さない。
「守護者統括、アルベド。御身の前に―――――第四階層守護者ガルガンチュア、及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る………御命令を、至高なる御方々。我らの忠義全てを、御方々に捧げます」
一糸乱れぬ見事な平伏。暫し言葉を失っていると、モモンガが低く威厳のある声で告げる。
「面を上げよ」
守護者たちが顔を上げる。
「………素晴らしいな。流石、九つの世界でも指折りのギルドだ」
ラプチャーの称賛に、守護者たちが自慢げに笑みを零す。
「でしょでしょ?ウチのシャルティア可愛いでしょ?」
「ちょいちょーい、あたしのアウラとマーレの方が可愛いでしょー?」
「そこは個人的趣向も加わる以上、何とも言えんな」
硬い雰囲気に耐えかねた二人の
「んんっ!えーっと、ラプチャーさん?外の様子ですが………」
「瘴気一つない草原だ。背後………コンパスが正常なら北にあたる方角には森林と山脈と思しき山肌が。森沿いの南西、かなり離れた位置に集落らしき明りがあった」
「なんと………」
「地上と空の視界の違いだ。気にする必要はない」
気付けなかった、と苦い顔をするセバスにフォローを入れつつ、ラプチャーは思考を巡らせる。
「―――警戒レベルの引き上げは必須か」
「ですね。アルベド、デミウルゴス、お前たちには―――――」
モモンガが必死に頭を回転させながら指示を下し続ける中、ラプチャーは別のことに意識を向けていた。
(人間はいるのか、それとも別の知的生命体か………文字文化はあるのか?言語体系は?物品は物々交換なのか、貨幣による交換か………いかんな、調べたくて仕方ない)
持ち前の好奇心が鎌首をもたげ、直ぐにでも動きたい欲求にかられる。未知の多さで知られていたユグドラシルを始めたのも、未知を解き明かすというキャッチフレーズに惹かれてのことだった程だ。
そう。未知しかない今の状況は、この上なく興味深いモノなのだ。
「―――――ラプチャーさん」
「ん?ああ、失礼。考え事をしていた」
「そうでしたか………今後のナザリックの外部調査についてなんですけど」
モモンガが言いたい事を理解し、ラプチャーが頷く。
「そうだな。とにもかくにも、情報を集めてから。俺が発見した集落については、夜が明けてから秘密裏に調べるべきだろう」
「夜が明けてから、ですか?」
デミウルゴスの名を持つ悪魔の疑問は尤も。
「そうだ。お前たちを疑うつもりはないが、まだ確認していない事項が多い。万一の可能性を考えて、万全を期してから動くべきだ」
好奇心旺盛ではあるが、それ一辺倒の無謀でもない。その頭脳が、この男がワールドチャンピオンとワールド・ディザスターという二大ぶっ壊れ職を今まで有し続けて来れた由縁でもある。
「それには同意ですね。では、その方向で行きましょう」
「さんせー」
「こういう時は慎重に、ですよね」
モモンガが方針を決定し、他三人が異を唱えない。多数決を重んじるAOGの方針により、これで今後の動きが決まった。
「それと、次は隠蔽か………
「あ、は、はいっ!ボクですっ!」
ラプチャーの言葉に慌て気味に応じたのは、ダークエルフの女装男子、マーレ。その姿にぶくぶく茶釜から少々殺気の乗った視線が飛んでくるも、ラプチャーは動じない。
「ぶくぶく茶釜は確か、防御特化ビルドだったな」
「そうだけど………」
「あとは後衛がいるとベストか………」
「え、えっと、どうすればいいんでしょうか………?」
「辺りは平坦な草原だから、森を広げてナザリックを呑み込む。可能か?」
「えっと………」
口籠るマーレへと、冷徹な雰囲気を変えることなく告げる。
「誇張は不要だ。ただ、可能か不可能かで答えるといい。長期間の維持が困難ならば、そう言えばいい」
「………できます!けど、範囲によってはMPがちょっと………」
「む………」
そこで、MPの存在を思い出す。ワールド・ディザスターである彼にとっての死活問題の一つだ。
「あー、そっか………んー」
「ドルイド系の
ぶくぶく茶釜とモモンガが考え込む。ユグドラシル産のアイテムの補給については、生産職の居ない現状どうすればいいかが不明瞭な問題だ。
「ああ、
ラプチャーがアイテムボックスから引っ張り出したのは、果実や草花で満たされた断面を持つ山羊のものに似た角。超位魔法以上に緩いとはいえ、使用制限の存在するそのアイテムは、モモンガもよく知っている。
「
「ああ。コレの実験に丁度いいと思ってな。とはいえ、俺一人でやっては、NPCたちの心証も良くはないだろう?」
つまりのところ、NPCたちに配慮はしていたのだ。その姿勢に守護者らが感激を示す中、ラプチャーはモモンガに問う。
「それで、どうする?」
「そうですね………茶釜さん、ラプチャーさん、マーレの三人で行ってください。あ、ラプチャーさん、もう一個のワールドアイテムを」
「ああ、そうだな。警戒は必要か」
ラプチャーは一見粗末な皮鎧を引っ張り出し、茶釜に差し出す。この二つが、彼のギルドが保有していたワールドアイテムであり、加入後すぐにサービス終了の告知が来たが為、宝物殿にも移されなかった代物の一つ。
「
要は、素手での攻撃なら軽減されずに通じるという事。なお、獲得クエストが超鬼畜だったのは言うまでもない。
効果は破格だが、装備枠が防具である為、その分防御面以外の恩恵が損なわれる欠点もある………が、防御極振りの茶釜には関係ない。
「わぁ………ワールドアイテム、ですよね?」
「ああ。対策はするに越した事が無いからな」
淡々と告げ、ラプチャーは再度
「では、初めての大仕事だ。気負い過ぎるなよ?」
「は、はは、はいっ!」
「大丈夫だよ、マーレ」
ラプチャーが先行し、安全を確認次第、二人が続いた。