オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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絶望の始まり、戦士たちの輝き

 ―――――カッツェ平野。霧が晴れたその地に集結した王国の軍と冒険者一同、そして傭兵たちの目前に広がるのは、ただの空白であった。

 

「………どうなってんだ?難易度180超えのがいるんじゃねえのか?」

「おいおい、折角雇われてやったってのにそりゃねえだろ」

 

 アダマンタイト級《朱の雫》の一人の言葉に同意するように、蒼髪の剣士が肩を竦める。

 

「油断するなよ、()()()()()()

 

 それを咎めたのは、かつて御前試合において彼に勝利を収めた男、ガゼフ………その言葉に肩を竦める敗者、盗賊崩れの傭兵団の一員として雇われ、参加しているブレイン・アングラウスは至極どうでも良さそうに戦場を指し示す。

 

「つってもなぁ。いない相手は斬れねぇだろ?」

「相手は我々の想像を遥かに上回る存在だ。常識で測るだけ無駄だぞ」

 

 イビルアイがつまらなそうに鼻を鳴らし、戦場の奥を見つめる。

 

 そして、漆黒の靄が広がると共に。

 

『ッ!?』

 

 絶望が、広がる。

 気が付けば、目前には鎧に身を包む、大盾を構えたアンデッドの騎士に加え、それを背に乗せる靄を纏う白骨の馬で構成された騎兵団。それらと不釣り合いなまでに神々しい天使の軍勢が、何の前触れもなく前方に展開したのだ。

 

「な、ぁ………」

「そ、んな………死の騎士(デス・ナイト)をあんなに………それにあれはッ!」

 

 イビルアイは………十三英雄に加わっていた彼女は、知っていた。

 空に浮かぶ天使の軍勢の大部分を占める存在は、かつて魔神を滅ぼした存在であると。スレイン法国が最高位天使と定義する、普通の人間では勝ちえない化物………

 

威光の、主天使(ドミニオン、オーソリティ)………」

「知ってるの?イビルアイ」

「第七位階魔法を使う化物だ………それが、あんなにたくさん………」

「だいなな、いかい………お、おいおい、なに馬鹿なことを」

 

 大地を満たす不死者が、空を満たす天使が道を開ける。

 その奥には、いつ作り上げられたかも定かではない玉座と、そこに座す支配者の姿………ガゼフが知る者は影武者だったのではないか、と錯覚するほどに威圧感を増した、黄金の杖を携えたモモンガの姿があった。

 

「………あれ、が………」

「なんて戦力だ………」

 

 それを遠目から監視するツアーと、その友人である老婆が絶望の声を零す。

 絶対なる死の支配者(オーバーロード)に並び立つ、黄金の鎧の鳥人、漆黒の、そして桃色のスライムが一匹ずつに加え、おぞましい姿の脳食い(ブレインイーター)、そして………モモンガの杖に並び得る圧倒的な威圧感を放つ黒鉄の輝きを放つ鎧を纏う、漆黒の十二枚羽を持つ美丈夫。

 

「………なんだよ、あれ………」

 

 そんな彼らを守護するように立ちはだかるは、軍服を纏う埴輪顔の異形に加え、漆黒の鎧を纏い、ハルバードと大盾を構える騎士、巨大な馬上槍を手にした真紅の騎士、兄妹らしきダークエルフの双子に、浅黒い肌をした悪魔、そしてこちらに向かい重々しい音と共に歩を進める、肩に特徴的なメイド服を身に纏う美女を乗せた、ライトブルーの外殻を持つ巨蟲………

 玉座に座す者たちに背後に控えるメイドたちも、格は大きく劣るが、彼らにとっては100が99になった程度の誤差に過ぎまい。なにより、その背後に並び立つ無数の異形こそが、何よりも恐ろしい………あれが動き出せば王国など、いや………この世界など、容易く滅ぼされるだろう、と。誰もが、確信を抱いた。

 

「何をしているッ!進めッ!貴様らが命を懸けて、我々が生き延びる時間を―――――」

 

 前線に居た貴族の言葉は、不自然に途切れた。

 冒険者たちの視線は、腕を突き出した巨蟲へと固定されている。

 

「………コキュートス、もう少々加減なさい」

「ム………イヤ、問題アルマイ。アレノ周リニイルノハ、総テ取ルニ足リン雑兵ダ」

 

 巻き込まれたのは、貴族の私兵で。氷柱に貫かれたのは、彼ら(ナザリック)が消すべき貴族………

 

「サア、始メルトシヨウ」

 

 四本の腕が、武器を掴む。それに対し、隣り合う男たちはそれぞれ異なる反応を示した。

 

「来るか………ッ」

 

 ガゼフ・ストロノーフ………王国戦士長の地位を有し、王に忠義を捧げる男は、死を受け入れ剣を構え

 

「ひぃっ!?」

 

 背負うものの無い流浪の男は腰を抜かし、逃げの姿勢に。

 

「………貴様デハ勝テヌ。ソレヲ知リナガラ、尚挑ムカ」

「無論。私は王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ………陛下の剣なれば」

「ヨイ気概ダ………故ニ、惜シイ」

 

 コキュートスが、彼を手で制すような素振りを見せる。

 

「ココハ貴様ガ在ルベキ戦場デハナイ」

「何だと?」

「急ギ戻ルガイイ。尤モ、手遅レダロウガナ」

「どういう………ッ!?」

 

 陣の後方から、動揺の声が広がる。振り返ろうとしたガゼフを手で制し、右に逸れる事で本陣前まで見通せるようにしたコキュートスは、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「隠密ニ長ケ、転移魔法ヲ使エルシモベ達ダ………貴様ガココニ来テイナカッタトシテモ、結果ハ変ワルマイ」

 

 そこで言葉を切り、コキュートスが再び立ちはだかる。

 

「貴様ノ主ガ降伏ヲ決定スルヨリ早ク、我ヲ越エテ行クガイイ………オーレオール、下ガレ」

「全く………騎馬隊、下がりなさい!騎竜隊は前へ!」

 

 ソウルイーターに座すデス・ナイトたちが下がり、代わりに前に出たのは、スケリトル・ドラゴンに座すデス・ナイトたち。上空の天使たちは、動くことをしない。

 

「援護ハ無用ダ………好キ武人ガイルトハ、王国モ捨テタモノデハナイナ」

「全く………冒険者たちを通すな!殺すな!ただ、手足の一、二本程度なら誤差の範囲内よ!」

 

 オーレオール・オメガの戦闘力は、レベル100NPCでも下の部類だ。が、その本質は戦士ではなく司令官………個としての戦場ではなく、軍を率いた時にこそ輝くものだ。軍の運用という点ではデミウルゴスに劣るが、軍団の強化という彼には無い長所を持つのが、プレアデスの末妹たる彼女だ。

 そして、それによりモモンガの職業スキルによるバフに加え、オーレオールの指揮官職の効果が発揮され、ミスリル級冒険者でも対処可能な骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に、アダマンタイト級でも厳しいデス・ナイトたちの能力が引き上げられ、彼らでは勝ち目が皆無のレベルに達したのだ。

 

「クソがッ!」

 

 エ・ランテルのミスリル級《クルラグラ》の者たちが挑みかかるが、ダメージらしいダメージが通らぬまま弾き返される。

 

「うおっ、らああああああっ!!!」

 

 蒼薔薇のガガーランがその戦鎚で渾身の一撃を叩き込むが、それで漸く体勢を微かに崩せるだけのダメージが通るかどうか。

 

「エルダーリッチ隊!」

 

 そして、背後に控える支援特化型の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の軍団の手により、そのダメージも回復されるどころか、強化魔法によるバフがかけられる。軍勢の質が、あまりにも違い過ぎた。

 

「超技ッ! 暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ォッ!」

魔法最強化(マキシマイズマジック)水晶騎兵槍(クリスタル・ランス)ッ!」

 

 ラキュースの一撃がスケリトル・ドラゴンを、イビルアイの魔法がデス・ナイトを軽く退かせるが、直ぐにダメージを回復されてしまう。相手側からの攻撃が一切無いとはいえ、既に重要人物の悉くを抑えられている以上、状況が最悪であることには変わりがない。

 

「うおおおおおッ!六光連斬ッ!」

「フンッ!」

 

 ガゼフが放つ武技は、しかしコキュートスには届かない。そして、その一撃を防いだコキュートスは、初めて至高の存在たるギルドメンバーたちの決定を嘆いた。

 これほど素晴らしい武人が、自らの命を賭して挑みかかっているというのに、殺害を禁じられている以上容易く武器を振うことが許されない。ただ放たれる攻撃を防ぎ、最低限の牽制しか出来ないというのは、武人たる彼にはこれ以上無い苦痛だった。

 

「素晴ラシイ、全ク以テ素晴ラシイ………!」

「スゥゥ………ッ、―――――ッッッ!!!」

 

 大きく息を吸い、ガゼフは持てる全ての武技を駆使し、自身が放てる最高にして最強の一撃を、コキュートスへと放った。

 

「ォォ、オォオオオオオオオオオッ!?!」

 

 そして、リ・エスティーゼ王国の至宝………王家の秘宝全てを纏う男が放つ斬撃は、武器戦闘最強の武人のその身に深い、深い傷を刻み、噴き出す蟲王(ヴァーミンロード)の体液を以て、カッツェ平野の大地を汚して見せた。

 

「ナント………我ガ身ニ傷ヲ穿テル者ガイルトハ………!」

 

 数歩退きながら、コキュートスは歓喜と驚愕、そして賞賛を込め叫ぶ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ………ッ」

 

 極限まで武技を使い尽くした疲労困憊といった様子で地に膝を着くガゼフへと、コキュートスは惜しみない称賛の言葉をかける。

 

「ぐ………っ」

「素晴ラシイ一撃ダッタ………ダガ、惜シイ。傷ヲ穿ツコトハ出来テモ、ソレハ致命傷足リ得ナイ………」

 

 一歩、また一歩と進むコキュートス。ミスリル級から上の者たちはスケリトル・ドラゴンらの突破を試みており、それ未満の者たちは圧倒的過ぎる相手に尻込みしてしまう。

 しかし、そんな中でも。

 

「神閃ッ!」

「………ホゥ」

 

 甲高い音と共に、刀が弾かれる。コキュートスが見下ろした先には、先程まで腰を抜かし、逃げようとしていた男………ブレイン・アングラウスの姿があった。

 

「アングラウス、お前………」

「………俺には、覚悟が足りて無かったんだろうな」

「………イイ目ヲシテイル」

 

 その眼には、確かな恐怖は在るが………それをねじ伏せる強い意志もまた、存在していた。

 

「そりゃどうも」

「アア、惜シイ………御方々ヨリ命令ヲ受ケテイナケレバ、相応ノ力ヲ以テ闘エタダロウニ」

 

 故にこそ、嘆く。その覚悟に応じる事の出来ない、今の境遇を。

 

「そうかよ………おいガゼフ、もう限界か?」

「………何を………言うかと、思えば………ッ」

 

 大地を殴り、王国の至宝たる男が立つ。

 

「陛下はまだ降伏されていない………ならば、俺が倒れる訳にはいかないだろう………!」

「それでいい………俺は、こっからがスタートラインだ」

 

 ブレインが刀を、ガゼフが剣を構える。命を賭した二人の戦士の放つ輝きに心を震わせながら、コキュートスは敬愛する創造主より賜った大太刀を、最後まで残ってくれた御方よりこの戦の為にと賜った刀の二振りのみを構える。

 

「我ガ名ハコキュートス………アインズ・ウール・ゴウンニ仕エル、一振リノ剣ナリ………!」

「我が名はガゼフ・ストロノーフ!この国を愛し、守護する者だ!」

「ブレイン・アングラウス………今は、それ以外何も持っちゃいないが、救国の英雄ってのも悪かない」

 

 コキュートスが斬神刀皇、建御雷八式………創造主たる武神建御雷が最後に選んだ、二振りの刀を構える。ガゼフは王国の秘宝たる剃刀の刃(レイザーエッジ)を、ブレインは神刀を構え、それぞれ腰を落とす。

 

「「「………」」」

 

 三人の知覚から、音が消え失せる。

 蒼薔薇の者たちの放つ攻撃の轟音が、冒険者たちの攻撃が虚しく弾かれる音が耳に届かなくなり、ただただ相手の出方を窺い続け―――――風が、吹いた。

 

「―――風斬ッ!」

「ガゼフッ!」

「おう!」

 

 迫る斬撃。言葉を交わすより早く二人はその場を飛び退き、共にコキュートスへと迫る。

 

「ヌゥンッ!」

「っつ!?」

 

 防御は、不可能。故に、常に回避を前提として、ギリギリまで相手の動きを見極めなくてはならない。

 

「おおおおおおおおッ!」

「グッ、ゥゥ………ッ」

 

 得物のリーチ、相手の体格………それらを活かしたガゼフの斬撃が、再びコキュートスへと傷を穿つ。ルベドに比べ、姉妹以外に対しても仲間意識が多少マシなオーレオールが微かに顔を顰めるが、コキュートスは構わず続ける。

 

「ハァァッ!」

「神閃ッ!」

「ヌッ、グゥゥ………!」

 

 コキュートスの傷を抉るように放たれたブレインの斬撃が、微かなダメージを与える。

 

 侮り………確かにあった。そして、殺してはいけないという制約故に、手を抜いていた事も事実。しかしコキュートスは、それを現状に至る理由であるとは露ほども思わない。

 

「見事、見事………ッ!」

「だったら、さっさと道を開けてくれよなッ!」

「ソレハ、無理ナ相談ダナッ!」

 

 空いた腕の一本でブレインの刺突を防ぎ、下から両腕を斬り飛ばそうと刃を振り上げる。

 

「アングラウス!」

「おわっ?!」

 

 そしてそれは、ブレインの襟首を掴み後方に放り投げたガゼフのお陰で空振りとなり、地面に突き立った刃を踏み越え、ガゼフがその胴体の傷へと剣を突き立てんと迫る。

 

「甘イッ!」

「がっ!?」

 

 そして、二本目の空いた腕でその身を掴まれる。そしてガゼフは、その手に握る剣を手放し………

 

「借りるぜ、ガゼフッ!」

「ソウ来ルカ………!」

「神ッ、閃―――ッ!」

 

 翡翠色の刃が、ライトブルーの外皮鎧へと吸い込まれ―――浅くない傷をつくり、その体液を噴出させた。




戦争、開幕………一応、本作は建国時点で一端のENDを予定しております。


地上には威圧感を出す為のアンデッド騎馬隊、マジックキャスターメタの騎竜隊、その支援のエルダーリッチ隊。空には殺意満点のドミニオン級主力の天使部隊が展開という地獄絵図………尚、本陣にはもっとヤベーのがわんさかいる模様。


ガゼフ&ブレインVSコキュートス、色々制限がある&二人が死力尽くしまくって限界突破している為、割と接戦に………レイザーエッジくん便利ですわぁ………
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