オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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足掻いた者たちの敗北

 腕の外皮鎧の傷が訴える痛みのお陰で、コキュートスは冷静に対応する事ができた。

 手先で刀を上下反転させ、手首のスナップを利用し刃を振う。それにより、ブレインの肘から先が喪われた。

 

「がっ、ああああああああああっ!!!」

「アングラウスッ!?」

「………武技、侮ッテイタカ」

 

 そう、武技。この世界の戦士特有の技能。

 ガゼフとブレインは、コキュートスとの体格差、武器の長大さからくる小回りの利かなさを上手く利用する立ち回りに加え、巧みに肉体強化系の武技のオンオフによる緩急を加えるなど、コキュートスに無い技術を駆使していたのだ。

 

「………」

「コノ剣、カ………返ソウ」

 

 転がるブレインの腕が握り締める剣を持ち上げ、ガゼフへと差し出す。

 

「敵に塩を送るのか?」

「元ヨリ対等トハ言エヌ勝負ダ。今更構ウマイ」

 

 これがシャルティアであれば。セバスなら、アルベドなら、もっとあっさり終わっていただろう。アウラやデミウルゴスでさえ、もっと早くに無力化できていた筈だ。それほどまでに、体格差を、武器のリーチによる小回りの悪さを、相手は上手く利用していた。

 

「………ならばッ!」

 

 ガゼフが剣を構えると共に、コキュートスの四本の腕に、それぞれ武器が握られる。

 

「………来イッ!」

 

 傷に反し、コキュートスへのダメージは微々たるもの。だが、そんなことは些細な問題だ。

 戦士として、全力を以て目の前の勇士を打倒する。それこそが、最大限の礼儀だ。

 

―――――

 

 時は遡り、ナザリック側本陣。集められた貴族らを見下ろすギルメンたちの目は、冷徹を極めていた。

 

「きっ、貴様らっ!この俺を誰だと思っている!バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ、何れこの国を支配する男であるぞ!」

「へぇ………違法風俗通いが、ねぇ………」

 

 大きく声を荒げるバルブロへと、茶釜が憤怒を秘めた底冷えするような声を零す。

 

「なんっ」

「ああ、安心するといい」

 

 モモンガが手を挙げた瞬間。風を切る鋭い音と共に、バルブロの頭が消し飛んだ。

 

「貴様はもとより不要だ………シャルティア」

「ハッ」

 

 転移門(ゲート)へとその亡骸を放り込み、その場を雑に片付ける。この後、バルブロは蘇生された上で死を懇願する程の苦痛を与えられるのだが………それを知るのは、ナザリックの者たちのみだ。そもそも、その事を教えてやる理由など、欠片も無い。

 

「さて………」

 

 感慨の欠片も無い声と共に、ラプチャーが彼らを見下ろす。

 

「ランポッサ三世、だったか」

 

 そして、モモンガが口を開く。その先には、最後尾で二体のデス・ナイトに取り押さえられたリ・エスティーゼ王国国王、ランポッサ三世の姿が。

 我が子を目の前で殺された絶望を隠せぬ王へと、絶対なる支配者は無慈悲に語り掛ける。

 

「降伏の宣言をして貰いたい。我らとしても、虐殺は望むところではないのでな」

「………断る、と言えば、其方らはどうするのだ?」

「ほぅ、この状況でその言葉が出るとは、中々に豪胆だな。もう少し決断力があれば、多少は違ったのだろうが………そうだな、ではアルベドよ」

「ハッ」

 

 モモンガたちは当初の予定通り、『粛清』を前倒しに行うことに。

 

「では、まずは………ボウロロープだったか」

「なっ、何故私なのだ!?」

「八本指と繋がりがある………それでは不十分かな?」

 

 ハルバードが降り抜かれ、また一つ血の花が咲く。

 

「………っ!?」

「では、次はリットンか」

「ま、待っ」

 

 次に放たれたのは、槍の一閃。鮮血が撒き散らされ、枯れた大地を潤す。

 

「ブルムラシュー」

「かっ、金なら」

 

 今度は、魔法による業火で。悶え苦しむ様を見せつけ、数多の者に絶望を叩きつけた。

 

「フォンドール」

「ひっ!?」

 

 姓を呼ばれた枯れ果てた老人は、情けなく逃げ出すも、デス・ナイトたちに散々嬲られ、遊ばれ、痛めつけられた末に、断末魔の悲鳴を迸らせ続け………エルダーリッチが回復魔法でその身を癒し、更に徹底的に痛めつける事の繰り返し。

 

「ひぃぃっ!?」

「さて、では次は………」

 

 貴族の名を呼び、次々に惨殺していく。死体が出来上がっては、未知の黒い靄に放り込まれては、跡形もなく消え去る様は、恐怖でしか無いだろう………だが、中にはその法則性を見抜き、静かに座す者も居た。

 

「………ほぅ、貴様は怯えぬのだな」

「元より老い先短い身だ。今更死が早まる程度、恐れはせぬ」

 

 ウロヴァーナ辺境伯は、既に気づいていた。彼らが殺害しているのは、八本指に深くかかわり、数多の利益を得ていた者たちばかりであると。

 

「それに、だ。貴殿らは、殺す者を厳密に選出しているのだろう?」

「………全く、いい目をしている」

 

 モモンガが微かな苦笑を零し、左右に目配せする。

 

「………まあ、意志は固いみたいですし?チマチマやっても無理っしょ」

「ですね」

「では、いい加減面倒になってきたところだ。纏めて始末しろ」

 

 その瞬間、数多の命が散された。ラプチャーがニグレドの協力のもと、守護者たちに徹底的に始末していい人間の顔を教えたお陰だろう。

 

「こ、れは………」

「八本指と繋がっていた者たち、ですね」

 

 腰を抜かしたペスペア侯へと、レエブンが静かに事実を告げる。知っていた人間とはいえ、目の前で繰り広げられる殺戮劇には耐え切れなかったのか、大分顔が青い。

 

「さ、参考までにお聞きしたいのですが、どのようにしてこの軍勢を?」

「予め超位………ああ、こちらでは第十一位階か?魔法の屍軍氾濫(タルタロス)天軍降臨(パンテオン)で召喚したアンデッドや天使を、広域化した第十位階魔法、完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で隠していた。序でに、強力なアンデッドに誘引されてきた連中を支配下に置いて加えたりもしたな。エルダーリッチより上位のオーバーロードを組み込んだからこそできた芸当だな」

 

 参考にすらならない話だ。前々から超位魔法を使用可能になる度発動して軍勢を作り上げて置き、それを魔法で隠していた………アンデッド反応に敏感なイビルアイですら気付けなかったのは、ここカッツェ平野は常にアンデッド反応があるからか。

 

「………なんと」

「さて、貴様の忠臣は、果たして我々の軍勢を超えて………ッ!?」

 

 モモンガが、玉座に座す異形たちが一斉に立ち上がり、従者としての立ち位置を取っていた者たちが一斉に殺気立つ。そのあまりの強烈さに怯え竦みながらも、生き残りたちは背後へと目を向け………言葉を失った。

 

「おお、ガゼフ………!」

「コキュートスッ!?」

 

 どす黒い液体を撒き散らし、コキュートスがたたらを踏んでいた。

 その光景を作り出したのが誇るべき忠臣であると理解したランポッサが歓喜の声を零し、モモンガは悲鳴を零す。

 

「な、何故ですか!?コキュートスがあの程度の者に傷を負わされる等………!」

「………成程、ガゼフ・ストロノーフの剣ですか」

 

 パンドラが冷静に事態を分析する中、コキュートスの親友であるデミウルゴスが食って掛かる。

 

「どういうことです!?そんな報告は受けていませんよ!」

「ええ、しておりませんからね」

「パンドラズ・アクターッ!」

「報告してしまえば!貴方方は怒りに任せ行動してしまう………そうなれば、計画は破綻してしまいます。それは、それだけは避けねばならなかった………わかりますね?」

「………なにが、あったのですか?」

 

 パンドラの言葉で冷静さを取り戻したデミウルゴスは、冷静に問う。

 

「あの剣は、モモンガ様に傷を刻んで見せました」

「「殺しましょう」」

「はやまるな」

 

 アルベド、シャルティアが殺意を漲らせ一歩前に出る中、ラプチャーが待ったの声をかけた。

 

「ですがっ!」

「………ナーベラル・ガンマ。意見があるのだろう?」

 

 食い下がるアルベドに何も言わず、ラプチャーはコキュートスへと微かに他者と異なる視線を向けていたナーベラルへと声をかけた。

 

「………いえ、言うべきことは何も」

「命令だ」

「………できれば、介入は控えていただきたくございます。コキュートス様は今、非常に満たされているように思えますので………」

 

 火花は、散らない。武具の差があり過ぎるからこそ、防御は不可能。故に、武具と武具の衝突により火花が散る事は無い。

 体格差とリーチ差、その二つを存分に利用して賢しく立ち回る人間二人と相対するコキュートスを冷静に見つめ、デミウルゴスもまた納得の様子を見せた。

 

「………そう、ですね。彼が満たされているのであれば、介入は控えるべきでしょう」

「デミウルゴス、甘すぎるのではなくて?コキュートスはナザリックの、それも階層守護者の一人。そんな存在が、人間風情に後れを取るなど、到底許されることではなくてよ?」

「冷静におなりになられるべきかと、守護者統括殿」

 

 怒気を滲ませるアルベドをどう説き伏せるか思考を巡らせんとしたデミウルゴスへと、パンドラが助け舟を出した。

 

「あの二人はリーチ差、体格差をよく活かしております。コキュートス様がお選びになった二振りは、リーチがあるが故に潜り込んできた相手に弱く、また我々より大柄であるが故に、潜り込んでしまえば動きを大きく制限できる………そこに武技を用いた緩急を加え、動きを読み難くしているのですよ。いやはや、お見事です」

「………それにだね。その姿ならば兎に角、本来の姿を取ってしまえば、キミも彼のようになると思うのだがね?」

「う、ぐ………」

 

 アルベドが言葉に詰まる中、モモンガらは静かに席に戻り………戦局を見極めている。

 

(コキュートス………頑張れよ)

 

 武人建御雷から託された刀、建御雷八式を与えたのは、他ならぬモモンガだ。

 それが足枷になってしまったのか、と後悔を抱きもしたが………活き活きと戦う姿を見ると、思い出すのだ。戦闘が大好きで、全滅する事も楽しみとしていた武人の姿を。ああ、やはりあの人の作ったNPCなのだと改めて実感する事ができて、何とも言えない温かい気持ちに、なれるのだ。

 

「………ガゼフ・ストロノーフがここまで辿り着けたのなら、我々は手を引こう」

「ラプチャーさん!?」

「ただし、だ。貴様らが再びこれまでのような腐った国を造り上げることがあれば………」

「………わかっておる」

 

 モモンガが非難の視線を向けるが、ラプチャーはこれでいいと考えている。

 

『どういうことですか?!』

『あのコキュートスを超える事ができたのであれば、それは素晴らしい偉業だ。ならば、相応の褒賞は必要だろう』

『そうですけど………』

『それに、それくらいの気概を見せねば奴も納得するまい』

 

 メッセージでの短いやり取りを終え、一行はコキュートスの戦闘に目を向け………宙を舞う、鎧に包まれた腕を見た。

 そして、コキュートスの足元。片腕を失い、膝を着くガゼフの姿を。

 

「………降伏しよう」

 

 ランポッサの判断は、早かった。

 

「我々の勝利、だな」

 

 こうして、リ・エスティーゼ王国の歴史は幕を閉じた。

 しかし、ガゼフ・ストロノーフの名は、絶対者たるアインズ・ウール・ゴウンの一員へと一矢報いた人間の勇士として、ナザリックが在る限り語り継がれ続ける事だろう。

 

「これよりリ・エスティーゼ王国は解体され、我らアインズ・ウール・ゴウンによる新たな国となる。貴様らの処遇は追って伝える事としよう………デミウルゴス、帰してやれ」

「ハッ!」

「シャルティア、コキュートスとあの二人の治療をしてやれ」

「よ、よろしいのでありんすか?人間なぞに………」

「構わん。あのコキュートスにあそこまで抗って見せた人間だ、それくらいはしてやれ」

「は、はぁ………」

 

 デミウルゴスの転移魔法により、国王や貴族たちが返され、シャルティアがコキュートスらの治療に向かう。が、不承不承といった様子だった為、大分してから心配になったペロロンチーノが後からついて行くことに。

 

「大丈夫かなぁ………」

 

 心配して空に舞う天使の合間を縫って向かったペロロンチーノは、五体満足に戻った上で、妙に仲良さげに大地に胡坐をかく三人と、呆然とそれを見つめるシャルティアの姿が。

 

「………」

「成程、あれが『少年漫画的展開』というものか」

「うわっ!?いつの間に!?」

「天使の損耗確認をな………アンデッドは知らん。モモンガやエルダーリッチ、オーバーロードたちが適宜自然発生個体を制御下に置いていたから、総数を確認できていない」

「逆に、天使の方は把握してんのかよ………」

「損害はゼロ………レベルを考えれば納得がいくがな」

 

 呆れるペロロンチーノを余所に、ラプチャーは天使の損耗報告を上げる。

 下で芽生えている男たちの友情のことは、すっかり頭から抜けていた。

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