オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
ナザリックを覆い隠す程の大森林が出来上がる。地上でぶくぶく茶釜同伴のもと、マーレが侵攻を困難にする為に地形を弄る様を、ラプチャーが冷静に見つめる。
「え、えっと、これくらいでいい、ですか?」
「うんうん、グッドグッド!」
ラプチャーが
彼が行っているのは簡単で、急成長させた太い木の根を絡み合わせて壁にして、ナザリックへの道を巧妙に塞いでいるのだ。そうして誘導した先に、ユグドラシルでもレアな部類に入る果実系アイテムのなる樹を群生させる、などのトラップも完備だ。
「す、凄いですね………」
「森の生物がどうかは知らないが、こうすればある程度移動経路を誘導できるし、ある程度散開させておけば時間次第で天然のトラップになるだろう。その為に、野生動物が住処にしやすいような環境を整えたからな」
無論、知識として持っているだけで、実用性のほどは定かではないが。
「それじゃ、そろそろ帰りましょっか。あたし、ワールドアイテム装備とはいえちょっと装備が………」
「………すまない、気付かなかったな。では、戻ろうか」
ラプチャーが
「ああ、新入りさん!」
「………タブラ・スマラグディナ?」
グロテスクな
「何故ここに?」
「ええ!?あれ?宝物殿でドッキリやるからって伝えませんでしたっけ?」
「………?」
「あ、もしかして………」
闘技場でのわちゃわちゃ騒ぎの中、モモンガはあるコトに思い至った。
「………その時のラプチャーさん、本読んでました?」
「………あ」
「それでか………すまない、気付かなかったようだ」
「うそーん………」
「てか、何がどうしてこうなったんすか?」
ペロロンチーノの疑問も尤もで、守護者たちも興味津々。
そして、タブラ・スマラグディナのキャラネームを持つ異形は、ぽつりぽつりと語る。
簡単に要約すると、新入りの紹介をギルマスの口から聞きたいから、とラプチャーに伝言を頼み宝物殿に引っ込むも、ラプチャーがその事を聞いておらず、装備一式が残ってることに感動したりしている内に時間も迫り、半ばヤケクソ気味に宝の山に埋もれて最後の時を迎えた………と思ったら、という事だそうだ。
「………え?!俺たちの装備、残ってるんですか!?」
「うっそぉ………てっきり売っ払われちゃったと思ってた」
「ボクも………え、装備残したまま、ギルドの維持費稼ぐって………」
三者三様の反応ながら、自分たちの装備が残っている喜びと、自分たちの装備の売却額抜きでギルドの維持費を稼いでいた苦労を思っての驚きを示す。
「………あー、んんっ!それじゃあ、俺と………茶釜さんで装備を取りに行きましょう。ペロロンチーノさんとヘロヘロさんだと、毒耐性が………」
「あ………」
宝物殿のトラップの関係上、素で毒耐性が無い二人は行けないのだ。行けば秒で死ぬ以上、迂闊な行動は出来ない。
「ラプチャーさん、こっちを任せます。表で色々やったんで無いとは思いますが、万一侵入者が来た場合は」
「皆まで言わずとも、わかっているさ」
モモンガ同様、ガチ装備のままのラプチャーならば問題は無いだろうという判断だ。マジックキャスターとしても第十位階、つまりは標準レベルに加え超位魔法、更には戦士職も有している上、中途半端な職業構成を防御寄りの天使から攻撃的な堕天使の切り替えを利用し組み上げたバランスの良いステータス、スキル構成で補うなど、魔王ロール的な意味合いのスキル込でもかなり強いのだから。
「それじゃあ、頼んだよーねーちゃーん」
「はいはい、シャルティアと仲良くね~」
「18禁に抵触する行為なら、部屋でやってくれよ?ああ、可能か不可能かについては、感想含めて、そうだな―――――」
「ラプチャーさぁん!?」
デレデレで引っ付くシャルティアを見てか、ラプチャーがさらりと告げた言葉にシャルティアが目を妖しく輝かせる。捕食者の眼光に怯むペロロンチーノは、ラプチャーの顔に微かに浮かぶ笑みから確信犯であると判断。
「ヘロヘロさん、ヘルプ!」
「いやぁ、いいんじゃないですか?ユグドラシルの制限がどの程度あるか判りませんし」
「そこでノらないでいいから!?」
このスライム、ノリノリである。なお、ラプチャーの発言は大抵が知的好奇心によるものである為、ヘロヘロが口にしたことを試す意味合いもある。
「シャルティア」
「っ、モモンガ様!」
支配者モードで名前で呼ばれ、シャルティアが一瞬で真面目な姿に戻る。対し、モモンガは軽い茶目っ気を発揮。
「合意の上で、な?」
「モモンガさぁあぁぁぁん!?」
ペロロンチーノの悲鳴が、響き渡った。
―――――
走る。走る。走る。荒い息と蓄積する疲労を押して、必死に森を走る。幼い妹と共に走り、少女は迫る脅威から逃げ延びんと足掻く。
「あっ」
「っ、ネムッ!?」
妹、ネムが転びかけ、つられて彼女、エンリも体勢を崩す。その間にも命を狙う騎士は迫り、足が震えて立てない妹を負ぶる間もなく、彼らの手にする剣が届くまで接近を許してしまう。
「―――えっ」
そして、その間に。黒い靄のような何かが出現し、そこから白い布地と共に鎧を纏う何者かが現れ、黒い布で包まれた細い指を彼女の喉に当てる。当然、初対面の相手にそんなことをされれば………
「ひっ!?」
恐怖もしよう。だが、その反応に構わずローブの下から綺麗な声が零れた。
「………発声機能は同一か。すまない、少々―――」
「こ、このっ!」
逃げて、と叫ぶ間もなく、白いローブの貴人、もとい奇人へと、剣が振り下ろされる。エンリは白い布が赤く染まる様を幻視した………が、結末は違った。
「え………?」
剣が折れる。ローブには傷一つなく、ローブの人物は気に留めた様子もない。
「ふむ、コレで防げる程度か―――――では、次は防具の強度だな」
ローブが光と共に消え失せ、鎧を纏った白髪の青年の姿が露わとなる。
「まずは、そうだな………物理だ」
紅の剣閃の直後、騎士の体が斜めにズレ落ちる。その手に握られているのは、漆黒の羽根が絡みついたような、細身の片刃の剣。
「脆すぎるな………次は魔法でいこうか」
楽しそうに笑い、麗しの美貌の青年は魔法を口遊む。神話に語られるような、桁違いの力を。
「
数多の雷撃が収束し、強大な剛雷として降り注ぐ。たった一人の、それもレベルにして一桁でしかない人間相手には過剰すぎる一撃により、その身は呆気なく消し炭と化し崩れ落ちた。
「ふむ………では、次の実験だな」
「あ………ま、待ってくださいっ!」
エンリが叫び、青年が振り返る。端正な顔立ちに一瞬目を奪われるが、その目に宿る光を前に思わず身を竦める。が、その感情をねじ伏せ、必死に懇願する。
「お願いです!お母さんとお父さんを助け―――っ!?」
「やはり、聞こえる音と口の動き、喉の震えに乖離があるな………どういう原理だ?」
見下ろす青年は、またも彼女の喉に手を当て、興味深げに目を細める。
「ああ、お前たちの頼みは聞き入れよう。俺としても、試したいことがあるからな」
三つの流れ星が刻まれた指輪を幾つか取り出し、一つを指に嵌める。残りを虚空に放り込むと、青年は漆黒の十二枚羽を広げ、空へと飛び立った。その姿を、エンリとネムは呆然と見届ける。
「さて、死者が出ているが………」
彼―――ラプチャーが求める実験は二つ。一つは魔法による死者蘇生………ギルメンに万一のことがあった場合の対策で、もう一つは超位魔法が正常に機能するか。より厳密には、リキャストタイムの共有は存在するのか、課金アイテムによる短縮は可能か、また彼が使おうとする超位魔法の仕様はどのように変わっているか、などだ。
そんなことを冷静に思考しながらも、ラプチャーは仲間に
「モモンガ、俺だ」
『ラプチャーさん!何ひとりで………いや、それもですけど、なんですかあの
「仲間のへそくりが丸ごとアイテムボックスに入ってた」
『………まあ、それは今はいいですけど』
明らかな不満と、懸念が見て取れる声。
『大丈夫なんですか?』
「俺の第九位階で簡単だし、刀一振りでどうとでもなったぞ?」
『いや、そうじゃなくて………』
「それと、蘇生魔法を試す」
『はぁっ!?』
「
『いやいやいや、現地のレベルがわからない以上軽率は―――』
「有事の備えだ、何れ試すなら今がベストだろう。恩も売れるし一石二鳥だ」
そこまで言い切られ、ギルドで仲間たちと手分けしてアイテムにより周囲を調べていたモモンガが頭を抱える。
「モモンガさん?」
「………ラプチャーさんが、蘇生とかを試すって」
「その為に一人で出向いたのかよ?!え、ちょ、急いで追いかけませんと!」
「待った待った!モモンガさんのトコに映ってる姉妹、無防備じゃないですか!あっちの保護が先ですよ!」
「いや、そんな―――――いや、前言撤回。幼女は世界の宝、守らずしてなんとする!」
「変わりませんねぇ、ペロロンさん」
「ねー………あ、けどあの顔で腹黒とかだといい感じにギャップが………」
「タブラさんもブレませんねぇ!?」
非常時だというのに、この和みようである。
「それじゃあ、俺とペロロンさん、茶釜さんであの姉妹の保護、お二人はラプチャーさんの方で戦闘をお願いします」
モモンガの決定に異を唱えることなく、各々が動く。
そんな中、村の上空に辿り着いたラプチャーは翼を広げ、地上を見下ろしていた。
「さて、実験開始だ―――――
ラプチャー………厳密には、ワールド・ディザスターを有する堕天使、もしくはワールド・ガーディアンを有する天使系種が使用可能となる、一日に一回のみ、MPの9割を消費して放つ事ができる強力な広範囲攻撃スキル。
ワールド・ディザスターを持つ
レベルさえ対等ならば、しっかりと魔法防御を積んでおけば弱点属性以外ならギリ耐えて反撃が可能なのだが………相手はレベル一桁。降り注ぐ光の雨から逃れる術も、防ぐ術も持たない鎧の騎士たちは、瞬く間に蒸発していった。
(終わりか………まあ、あの程度の防具では、魔法耐性もたかが知れる)
降り立ったラプチャーの視界に入ったのは、抵抗の跡が見える村人らしき老人の死体。
「丁度いいか」
ラプチャーが取り出したのは、
「
魔法が発動した手応えは、確かにあった。なのに、死体は起き上がる事無く、灰へと変わってしまったのだ。
「………どういうことだ?リスクはレベルダウンしか………?待て、まさか………」
失態に気付き、頭を抱える。ユグドラシルにおいて、蘇生によるレベルダウンでレベル1を下回る事は無かったのが、感覚として残ったままだったのだ。だが、お陰である程度レベルを測る事は出来た。
「はぁ………失態だ」
周囲からの目が険しい。怒り、恐怖………それらをごちゃ混ぜにした視線を背に受けながら、ラプチャーは溜息と共に指輪を嵌めた手を空にかざし、望みを強く思い描く。そして、青白く輝く魔法陣が多重に広がる中で、彼は静かに呟いた。
「―――――
タブラさん、参戦です。茶目っ気発揮させて宝物殿に籠ってたら、色々感動している内にログアウトし損ねて………とギャグチックかつ若干無理のある理由ですが………
なお、ラプチャーは一切気付いてなかった模様。
モモンガさんも仲間がいるってことでメッセージでのお試ししてませんしね。