オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
目の前で繰り広げられる言い合いを余所に、ルシフェルという偽名を名乗ったラプチャーは思案していた。
(王国の腐敗については、戦士長とやらが否定しなかった辺り事実か。そして、顔を隠しているだけでバレない辺り、法国とやらにも高位の索敵魔法は無し、と考えるべきか………しかし、まさか国王直轄地とはな)
「第一に、我が国の腐敗は事実であるとしても、辺境の民を巻き込んでいい理由にはならないだろうが!」
「この腐り切った現状を良しとしている時点で同罪だ!何より、貴様らは仮にこの村が亜人やモンスターの襲撃を受けて壊滅したとしたら、何か手は打つのか?打たないだろう!その癖して、こんな時ばかりいい面をするのか?」
「ぐ………っ」
王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフが顔を歪める。その様子に溜息を零しながら、ラプチャーは静かに口を開いた。
「成程、事情は理解した………そうだな、この場合双方に非がある………無論、陽光聖典とやらの方が重いがな」
「………ッ」
陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインが顔を歪める。空を舞うラプチャーを神と信じ、今目前に居るルシフェルを名乗るマジックキャスターを彼を導いた存在と認識している男は、微かに食い下がる様子を見せる。
「しかし、国を変えんと動こうとすらしないのは………」
「ストロノーフの言う通り、辺境の村に求めるにしては些かハードルが高い。加えて、王直轄地というならば、他に比べ腐敗もしているまい………貴族派閥、とやらの思惑の犠牲になった形か」
ラプチャーは、この場で
「………恐らくは。スレイン法国も、そちらと繋がっているのだろう?」
「繋がっているとは失敬な。この方法を含め、持ち掛けてきたのは貴族派閥の愚図どもだ。先見の明の無い連中の集まりだよ、本当に」
吐き捨てるニグンに、ガゼフは苦い顔をしながらも無言の同意を示す。これにより、村人たちの王国に対する信頼は完全に消え失せた。
「………神の使徒よ、どうか」
「私の一存では決められん。それに、あの方々は人類の為に動くのではない」
ラプチャーの言葉に、ニグンが首を傾げる。
「彼らが掲げるのは《弱者救済》だ。人間も亜人も、異形であろうとも、助けを求めたのならば手を差し伸べるだろう」
「な………っ」
信じられない、とニグンが目を剥く。その様子を前に追加の情報を与えることなく、ラプチャーは彼に帰国を促した。
「法国とやらに伝えに戻るといい。お前の一存では、決められまい」
「………お言葉に、甘えさせて貰います………ガゼフ・ストロノーフ!」
立ち上がったニグンが叫び、ガゼフが身構える。しかし、その口から飛び出したのは予想だにしない言葉だった。
「しっかり知らせるといい。国王は馬鹿ではないが、第一王子や貴族どもは馬鹿の集まりでしかない以上、無礼を働き神の怒りを買うだろう。そうなれば、上手くいけば国の腐敗が消えるかもしれんな」
上手くいかなければ滅びるだろう、という事を口にせず、ニグンは陽光聖典を率いて立ち去る。その姿が消えるまでガゼフは睨み続け、消えると共にラプチャーへと視線を移した。
「………先程のは、事実でしょうか?」
「さて、な」
その言葉の真意を掴めず、ガゼフは顔を顰める。しかし、真意を探るより先に告げるべきことを村長に告げる事を優先し、一礼すると共に村長の下へと向かっていく。
(………失敗だな)
ラプチャーは、ガゼフが村長に持ちかける話の内容に薄々勘付いていた。ズバリ、犠牲になった村人たちの受け入れ先だろう。
好奇心を優先して実験したが、この調子では犠牲者は多いだろう。ならば、表向き神の降臨により死者ゼロで済んだこの村の住人と、それ以外の人々とで軋轢が生じかねない。というより、ほぼ確実に生じるだろう。生死が絡んだ感情は、単純な矛先を作るだけでは解消できないのだから。
「ではルシフェル殿、我々はこれで………王都に来ることがありましたら、ぜひ私の館に寄って欲しい。ささやかになるでしょうが、歓迎させていただきたい」
「礼は無用だ。私はただ彼らを偶然この地に導いたのみなのだからな」
「いえ、だとしてもです。貴殿がこの地を訪れていなければ、より多くの命が喪われていたのです。それに、最悪我々は奴らと対峙する事となり、敗死していたでしょう。貴殿は彼らのみならず、私の部下の恩人でもあるのですから」
その真っ直ぐすぎる言葉に面食らい、ラプチャーはフードの下で呆れていた。
「………馬鹿だな。それも、気持ちのいいタイプの、真っ直ぐな馬鹿だ」
「誉め言葉と、受け取らせて頂きましょう」
ガゼフが笑い、部下と共に撤収していく。その背を見届け、ラプチャーは深い、深い溜息を零した。
―――――
「―――――以上が、俺があの場で聞いた話だな」
「予想以上に情報量が多い………!」
「スレイン法国って、プレイヤー知ってんのかよ………これ、対策必須だよな?」
ラプチャーに齎された情報を精査しながら、プレイヤー一同は行動方針を考えていた。というのも、予想外の情報が転がり込んで来た為だ。
「ユグドラシルプレイヤーとの関連がある以上、こっちも相応の対策をしませんとね………とりあえず、外出時はワールドアイテム装備必須ってことで」
「「異議なーし」」
「まあ、ボクと茶釜さん、ペロロンチーノさんはあんま外出できそうにないですけど」
「タブラさんがカルネ村で………俺とラプチャーさんが?」
モモンガが首を傾げる中、ラプチャーが口を開く。
「俺はこの中で純粋な人型に近くて、モモンガは骨さえ隠せれば人間に紛れやすいだろう?」
「あー………え?ラプチャーさん、出歩くんですか?今回みたいなことはもう勘弁ですよ?」
「………それについては、申し訳ない」
流石の彼も神扱いには参ったのか、本気で頭を下げ謝罪する。
「まあ、俺はいいですけどね?ロリっ子に涙は似合わねーし」
「それしか言えんのかお前は?………あ、あたしも気にしてないよー!お陰で気兼ねなくあの子たちの様子見に行けるし♪」
「私も同じく」
「や、タブラさんはそもそも、カルネ村に出向くから関係ないですよね?」
ヘロヘロがツッコミを入れると、和やかな笑いが円卓の間を満たす。
「まあ、神様扱いのお陰で色々手を貸しやすくなったのはいいですね。精神的には………恨みますよ、ラプチャーさん………」
「いや、本当にすまない」
「………まあ、ラプチャーさんを止めなかった俺にも責任はありますよね。言い過ぎました」
モモンガが頭を下げ、話を戻す。
「えーっと、それじゃあ今後の活動方針ですが………エ・ランテルでしたっけ?そこに行くってことでいいですね?」
「いいんじゃないですか?私が滞在する予定はありますが、カルネ村だけじゃ情報収集も満足にできないでしょうし」
「あたしもそれでいいと思いますよー」
ラプチャーは当然動く側である為賛成であるし、他二人も反対の意を見せない。
この時点で、今後の方針は凡そ決定された為、ペロロンチーノは気分転換も兼て、新参者に話を振った。
「そういや、ラプチャーさんのギルドってどんな感じだったんすか?いやまあ、ギルマスが超キャラ濃いってのは知ってますけど………」
「あー………あたしもまあ、一人は知ってるかなー………」
苦い声を絞り出す茶釜の反応に、皆が興味を示す。そして、そんな人物に心当たりのあるラプチャーは肩を竦め、苦笑を浮かべた。
「コーチか」
「コーチ?」
「セクハラ堕天使」
「よく垢BANされなかったなおい」
ラプチャーが告げた名に対し、茶釜が渾名を返す。その渾名に驚き、次いで18禁に厳しかったユグドラシルでよく生き残れたなとペロロンチーノが驚いていた。
それに応えるべく、茶釜とラプチャーは軽く溜息を零して口を開いた。
「アイツねー、手口が巧妙なのよ………淫語を上手くオブラートに包みながらもわかりやすく言い換えたり、古いスラング使ったり、アクションとかで示したり………挙句、『男女でアツくなってヤることっつったら、ねぇ?』とか………よくやまちゃんにブッ飛ばされてたなぁ」
「とはいえ、ちゃんと自分をブッ飛ばしてその場を収められる相手が居る時しか、そういうムーブはしていなかったがな」
コーチといえば、ラプチャーがいたギルドでも有数の問題児であった。言動が色々アウトな反面、しっかりと相手を見極めて煽ったり、割と戦術面は的確だったりと頭のキレる問題児であった。なお、ラプチャーを誘った本人でもある。
「………うわぁ」
「エロ方面に吹っ切れたるし★ふぁーさんですか」
「ギルマスも別ベクトルですげぇぞ?確か、オイラーだっけ」
「ああ、アイツだな………ドラゴン、だったな、うん」
オイラー………ラプチャーのギルドのギルマスであり、色々な意味で古参に有名なモンクだ。
というのも、自由度の高い課金
「なんですかその微妙な答えは」
「………とりあえず、アルバムでも見るか?」
『見るッ!』
ラプチャーの周りに皆が集まり、彼のギルドのアルバムの表紙を見下ろす。そこにあったのは、名状しがたいナマモノからアヘ顔のワイルドイケメン、無表情のラプチャーを始めとした集合写真と、『オレたちのハメ撮り写真集』………と、何とも酷いモノだった。
『うわぁ………』
「あのバカの考案だからな。我慢しろ」
開かれた次のページにあったのは、白金の輝きを帯びた巨竜の背でそれぞれ決めポーズを取るギルドメンバーたち。ラプチャーと肩を組みキメ顔をする大鎌を手にしたコーチと、イヌが飛びついたような異形が天秤を突き出し、その下で大蛇の頭で幼女がドヤ顔で仁王立ちしている………など。中々にカオスだ。
「ロリアバターかよ………イイ趣味してんなぁ」
「いや、そっちはドヤ顔がデフォのNPCだ。制作者が、こっちの蛇だな」
「マジか!?そこ変われください!」
「うぐ、この銀髪さんを見てるとなんか古傷が………」
「あー、なんか中二病全開って感じですもんね」
「ぐはっ!」
ペロロンが嘆き、モモンガが古傷を抉られ倒れる。その様子にヘロヘロやタブラ、茶釜が笑いながら、ラプチャーにページをめくるよう急かす。その次のページには、コーチとマスクを身に着けた堕天使、ラプチャーと茶髪の天使の写真、コーヒーを飲むラプチャーと茶髪の天使の間にコーチが割り込んだなんちゃってツーショットを始めとした数多の写真が。
「わお、このイケメンさんは?」
「無表情ですし、NPCですよね………えっと?」
「俺が作ったのはステータスデータくらいで、他は全部コーチだ。なんでも、『こういうのも悪く無いだろ?』だそうだ」
「なんていうか………見境なしの噂は本当だったんだなぁ、って………」
ぶくぶく茶釜が苦笑の気配を零す中、ラプチャーも苦笑していた。
「ああ。ギルメン相手にも猥談吹っかけては、大抵オイラー辺りにぶっ飛ばされていたからな。フレンドリー・ファイア無効でも、吹き飛びはする」
「苦労してたんですねぇ………」
苦労人仲間と思ったのか、モモンガがしみじみと零す。が、ラプチャーは珍しく声を上げて笑いながら、それを否定した。
「まさか。アイツはどちらかというと問題児だよ………ほら」
ラプチャーが見せたのは、仲間だろう黒鉄の巨人と大蛇、下半身キャタピラに上半身人型の
「………自由人なんですね」
「ちなみに、ギルドのトラップにはコイツと同じ暗室に閉じ込めるというのもあった」
「いきなり目の前にこんなの出たら悲鳴上げて失神するわ?!」
ラプチャーが笑い、ページを戻す。先程までの空気はどこへやら、彼らはかつてあったマイナーギルドの内情を愉しみ、雑談に花を咲かせた。
セクハラ堕天司はNPCだと思った?
残念、プレイヤーだよ!そしてギルメンは基本星晶獣モチーフ。
ギルマスが一番色々な意味でブッ飛んでいるという………