オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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本格活動前の、小休止

「面を上げよ」

 

 偉大なる絶対支配者、モモンガの低く厳かな声が響き渡る。

 

「ラプチャーさんの活躍により、このナザリック近辺の村の一つに、我らの威光が知れ渡った。お前たちは我らの従属神として見られることになるだろう。タブラさんが村に滞在する事もある為、村に出る際、常にその事を念頭に置いて活動するように」

 

 その言葉を皆しかと受け止め、深く頭を下げる。

 

「それと、私とラプチャーさんは暫しエ・ランテルなる城塞都市に出向き、情報収集を行う。無論、我々だけではお前たちも納得はしないだろうからな。そこで、護衛となる者を選出したい」

 

 モモンガの目が紅に輝く。

 

「そこで、お前たちに問おう―――――お前たちにとって、人間とは何だ?」

 

 返ってきた答えは、殆どが人間を見下し、侮ったもの。その答えに思わず頭を抱えるモモンガたちへと、一段下に立つラプチャーはメモを読むフリをして、クリップボードの片隅に配置したメモを彼らに見せる。そこには、比較的マトモな回答をした者たちの名が記されていた。

 

「………我々の護衛には、セバス、コキュートス、ユリ、ルプスレギナから選出しよう」

 

 シズの名を挙げなかったことに、ラプチャーが疑問を示す。シズはナザリックのギミックを把握している都合、確保された後が大変である為、外出については慎重になっているのだ。

 

「次に、森の深部の調査についてだが………」

 

 モモンガが続けて話題を切り出し、ラプチャーがクリップボードに会議内容を記録するべく、ペンを取る。

 

「ペロロンさん主導として、アウラに加わって貰うつもりだ。他、意見はあるか?」

「委縮する必要はないよ。思ったことを口にすればいいんだ」

「で、では、僭越ながら」

 

 おずおずとシャルティアが手を挙げ、モモンガを見つめる。

 

「私も加えていただきたいでありんす!」

「………それは、戦力的に不安だから、という事か?それとも私情によるものか?」

「せ、せせ、戦力的な不安からに決まっていんす!」

「ふむ………」

 

 ラプチャーがモモンガに目で問う。実際のところ、後衛型のペロロンと魔獣頼りのアウラの組み合わせに、回復支援も戦闘もいけるシャルティアを突っ込むのは悪くない。その答えに行き着いたモモンガがペロロンチーノへと目を向け………

 

「おい、アウラにヘンな事したらタダじゃおかねえからな?」

「わーってる、わーってるから!」

「アウラの前でヘンなことしてみろ?お前の12歳の時の―――――」

「だー!?わーった、わーったから!それだけは勘弁して―ッ!」

 

 ………そっと、目を覆った。

 

「え、えーっと………」

「シャルティア、ペロロンチーノの合意があろうと下手なことはしない事だ………ぶくぶく茶釜を怒らせたくないなら、な」

「は、はいぃっ!」

 

 シャルティアが顔を真っ青に変えて必死に頷き、創造主に心配されるアウラはその顔をだらしなく歪めている。その隣では、マーレがあからさまな不満を露わにしていた。

 

「えへへ~………」

「むぅ………」

「ま、マーレは、茶釜さんと共に、ナザリック周辺に広げた森の調査を任せるつもりだ」

「「ッ!?」」

 

 マーレが歓喜を、アウラが驚愕を浮かべ、モモンガを見つめる。

 

「こちらに、意見がある者は?」

 

 特に自らの意思を示す者はおらず、モモンガは手を叩き会議の終了を示した。

 ………しかし、彼らは気付かない。デミウルゴスが意味深な笑みを浮かべていた事に………いや、ラプチャーは気付いていたのだが、NPCの設定などを知らない為、何を思い付いたのか、何をしようとしているのかを知りたいが為に、あえて見逃していたのだった………

 

―――――

 

「美味ぁっ!?」

「………ッ!!!」

 

 そして、食堂。会議を終えた一同の内、モモンガ以外はそれぞれテーブルに着き、夕食を愉しむ………を通り越して、感涙と共に一口一口噛み締めていた。何せ、リアルでは味らしい味皆無の流動食や合成食品が殆どだ。そんな中、いきなりリアルの超高級品以上の素材をふんだんに使った代物を出されれば、こうなるのも必然と言えた。

 

「………ボク、こっちに永住します」

「同じく………こんな美味しいモノ味わったら、リアルに戻るとか有り得ませんよ」

 

 ソリュシャンの膝に乗り、丁寧に食べさせて貰っているヘロヘロが感激の涙を拭いながら呟くと、同じく感涙と共に食事を味わうタブラが同意を示す。

 

「う、羨ましい………!」

 

 モモンガが羨望を滲ませる中、ラプチャーは驚愕と歓喜に目を輝かせながら料理を静かに口に運ぶ………その目前には、既に無数の空皿が積み重なっている。それに気付いているのはモモンガ一人だけな辺り、リアルの食糧事情の過酷さがよくわかる。

 そして、ヘロヘロとタブラの発言にシモベ一同が歓喜し、アウラとマーレ、シャルティアらがソリュシャンの役得に羨望と共にハンカチを噛み締め悔しさを露わにし、アルベドは食べられず一人寂しそうにしているモモンガの身を案じている。

 

「………タブラ・スマラグディナ様、お食事中のところ申し訳ございません」

「ああ、アルベド………モモンガさんのことだろ?大丈夫、確か私の部屋にそういうアイテムがあった筈だ」

 

 チラッとモモンガに視線をやりながら、こっそりと器用にメモを作り、アルベドに渡す。

 

「探してきなさい」

「し、しかし………」

「いいのいいの。ほら、行った行った!」

 

 創造主の部屋に踏み入るという行為にアルベドが躊躇を見せるも、タブラは乱暴に背中を押して向かわせる。そうしてモモンガにサムズアップを向けるべく振り返り、そして彼の視線が別の方向に向いている事に気付く。

 

「あれ?あっちにはなに………が………」

 

 タブラは視界に入った大量の空皿と、その前で淡々と食事を続けるラプチャーの姿に言葉を失う。色々な意味で凄まじいギャップなのだが、野郎のギャップ萌えはノーサンキューらしいタブラは、そっと目を伏せ食事に戻る。

 

「すまない、おかわりを頼む」

『はい!?』

 

 そして、モモンガと同時にラプチャーのおかわり宣言にツッコミを入れた。

 

「モモンガ様」

 

 そして、驚くべきスピードで戻ってきたアルベドが、モモンガに声をかける。

 

「む?アルベ………その腕輪は?」

「はい!これをお付けになれば、食事も可能かと思われます!」

「本当か!?」

 

 モモンガは迷いなく差し出された腕輪を受け取り、装備する。すると、いきなり強烈な食欲と空腹感が襲ってきた。

 

「うぉっ!?な、なんだこれ!?どういう効果だ………?」

 

 モモンガが腕輪を調べようと視線を落とすと、そこには皮ばかりながらもしっかりと肉の付いた腕が。

 

「は?え?は?」

「………あの、タブラ様?これは一体………」

「ああ、それね、ステータス半減の代わりに人間化する腕輪。ワールドアイテムと違って職業とか種族レベルの振り直しはいらないけど、その分無効になってる職業とか分ステが落ちるのが難点でさー」

「ちょ、これタブラさんのですか!?てか、え?誰か鏡!」

「は、はいっ!只今!」

 

 メイドの一人が手鏡をモモンガに差し出し、その顔を映し出す。そこに映るやや健康的になっている顔を見て、モモンガは目を剥いて叫んだ。

 

「リアルの姿じゃん!?」

 

 鈴木悟の姿で慌てふためくモモンガを、ラプチャーが好奇心を隠さず見つめる。

 

「どういうことだ?」

「あー………あのアイテム、使用時にアバター作成ができる筈なんだけど………仕様が変わってるのかな?後で試そ………ってぇ、アルベドぉ!?」

 

 タブラが推論を展開し、既にアバター登録済みの自分で試してみることを決め、料理に手をつけようとして。モモンガを押し倒さんと動くアルベドに目を見張り、慌てて駆けて行く。

 

「ああ、もう我慢できませんッ!」

「しまった、淫魔にビッチ設定で性欲が強くなり過ぎたか………!」

「ちょっ、なんて設定付けてんの!?あ、ヤバい、アレ絶対ヤバい!」

「ちょちょ、食堂でソレやっていいのはエロゲん中だけだからな!?」

「いやそもそも衛生的にダメですよね!?」

 

 流石に騒ぎに気付いたぶくぶく茶釜らも、アルベドを止めるべく動き出す。が、筋力低めのスライム二人に後衛バードマン、マジックキャスターでは、欲望で色々限界突破したパワー型のアルベドには勝てず、動きを止めるので精一杯。とてもではないが引き剥がせない。

 

「ラプチャーさん、ヘルプ!モモンガさんの貞操がー!」

「つかモモンガさん、はやく逃げてくださいよぉ!?」

「あ、アルベドの力が強すぎて………!」

 

 色々、大惨事である。シャルティアらがアルベドを抑えに向かう中、ラプチャーは興味深げにメモを取っている。

 

「ラプチャーさあああああん!?」

「む、失礼。あと五秒待て」

「いやいや、ちょっと!?」

「よし、できた。今向かう」

 

 ラプチャーが向かい、アルベドが徐々に離れていく。尤も、彼の筋力は魔法戦士という職業配分上、そこまで高くないのだが………

 

「………如何いたしんしょう?」

「流石にあそこまでやっちゃってる以上、何らかの罰は与えるべきかと思います」

 

 そして、マーレによりアルベドが食堂から投げ出され、一時の平和が戻る。

 ………色々大変な目に遭ったモモンガだったが、美味しい料理に舌鼓を打ち機嫌を直した。リアルが酷すぎた為、当然のことだろう………が、モモンガが人間化中、アルベドの入室は厳重に禁止されることとなった。

 

―――――

 

 そして、そんな一幕があった翌日。城塞都市エ・ランテルの一角を、二つの影が歩んでいた。

 

「ラ………ルシフェル様、御身がこのような………」

「構うな。俺たちに必要なのは情報であり、座して待つより直接出向いた方が手早く、確実に、大量に得られる。だから、こういった手を取っているに過ぎんからな」

 

 ルシフェルの偽名を名乗り、ラプチャーは街を悠然と進む。プレアデスで最もレベルが高く、且つNPCの意識改革は可能かの実験に最適と判断され供として連れ歩いているのは、ナーベラル・ガンマ。ナザリック内と違い、服は性能を大幅にグレードダウンした代物を身に着けてはいるが、それでもその美貌故に人目を引く。

 

「………チッ」

「不快か?だがそれは、それだけお前の創造主(おや)が優れていたという事の証明に他ならない。人間(他者)への嫌悪ではなく、弐式炎雷(おや)への称賛だと思い受け取ってみてはどうだ?」

「な、成程………」

 

 ラプチャーのアドバイスを受け、ナーベラルは人間から向けられる視線への認識を改めるべく努力を始め………しかし、上手くいかないのか顔を歪め、嫌悪を露わにした。

 

「………不躾なものが多すぎます………その」

「いいさ、無理にとは言わん。しかし、やはり性別か………」

 

 ラプチャーが纏うのは、ガゼフらの前に出た際の伝説級(レジェンド)装備一式だ。この世界の水準では文字通り伝説の代物ではある為、それなりにナーベラルに向かう視線を引き付けてはいるのだが、やはり欲望全開の不躾な視線は少なからずある。

 逆に、真っ当な視線を引き付けてしまっているせいで、ナーベラルに向かう視線が悉く宜しくない連中のモノとなってしまっているのだ。

 

「申し訳ございません」

「謝罪は無用だ。人との交流はモモンガ(冒険者)の役割であり、俺たちの役割は神話、伝承といった御伽噺の類や、大雑把だろう地図の入手だ。お前が必要以上に気負う事は無い」

 

 あくまで淡々と、ラプチャーは言葉を紡ぐ。それもその筈、彼の意識は無数にある看板に刻まれた、リアルのどれとも異なる文字に向けられているのだ。どのような言語体系から派生したものなのか、また文字の起源は何なのか………ひたすらに検討違いな方向に思考を巡らせていた。

 しかし、ナーベラルにしてみれば淡々とした様子が却って不安を煽り、恐怖を生む結果にしかならない。如何に新参とはいえ、モモンガが認めた人物である以上、相応の敬意を抱いているし、他ならぬ創造主を称賛されている以上、敵意など抱く訳が無いのだ。

 

「ナーベラル、文字はわかるか?」

「は………?いえ、申し訳ございません。何が何だかさっぱり………」

「ふむ………現地の文字の法則性の解明も急務か?」

「しかし、偉大なる御方々が下等生物(ウジムシ)の文字の為に手間をかけるなどと………」

 

 難色を示すナーベラルに、ラプチャーはあくまで私的な好奇心だと笑って告げる。

 比較的単純な部類であるナーベラルはあっさりと納得し、ラプチャーは直ぐに左右の目から入る現地文字と翻訳の差異から規則性を見抜こうと意識を切り替えた。




一人だけ食べれないのは可哀そうなので追加したら、別の意味で可哀そうなことになりかけた………
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