オーバーロード  ~新参の堕天使~   作:初心者騎空士

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カルネ村の大神殿 / モモンガの冒険者デビュー

「………なぁにこれぇ」

 

 タブラが目を剥き、素っ頓狂な声を漏らす。

 カルネ村外れの森、ラプチャーらがエンリとネムと接触した地。そこには、いつの間にか神殿のようなものが出来上がり、村人たちが中で平伏していた。

 

「簡素ですが、村人たちが聖地としたこの地に神殿を作らせていただきました」

「アッハイ」

 

 褒めて褒めて、と言わんばかりに尻尾を揺らすデミウルゴスの前で、タブラは内心頭を抱えた。そして、その護衛のルベドは冷めた目でデミウルゴスを見ていた。

 

「………この程度で神殿、だと?」

「それについてはご容赦願いたいね、ルベド。私が最も重視すべきモノは、他にあるのだから」

 

 ルベドの苦言に顔を歪めながらも、内部に案内するデミウルゴスに続き、神殿の中に踏み入る。

 そして、神殿の内部に設置された黄金で仕立てられた、四十二の像を前に、言葉を失う。

 

「これ、は………」

「私めの記憶頼りの拙い像で申し訳ございません。修正すべき箇所があるならば、即座に」

「いや、いい。これで完璧だ………ああ、完璧だとも………」

 

 完璧だった、完璧すぎた。どの像を取っても、目を離せば動き出すのではないかと思える程に完璧な造形で、そのポージングの一つ一つを取っても、タブラが知る仲間たちならば確実にノリノリで取るだろうモノだ。

 

「………本当に、完璧すぎるな………」

 

 気を抜けば、懐かしい日々が蘇って涙が溢れそうになる。それほどまでに瑞々しく、生命力に溢れる造形だった。

 

「村の人たちの邪魔をしちゃ悪いな………デミウルゴス、私はそろそろ」

「ハッ、研究室でございますね?村の方にご用意させていただきました。ご案内いたします」

 

 タブラが案内された先は、村の外れに近い位置にいつの間にか建てられた豪邸だった。

 

「………」

「ロイヤルスイートには及びませんが、如何でしょうか?」

 

 不安を滲ませるデミウルゴスだが、タブラにしてみればやりすぎである。

 

「あー………見事だ。見事過ぎて何も言えないや」

「ご謙遜を。タブラ様ほどの叡智であれば、この程度予想の範囲内でしょうに」

「え?」

「………申し訳ございません。少々、甘く見ていたようです」

(え?)

 

 タブラが目を剥くも、訂正する暇もなくデミウルゴスに屋敷の中を案内され、案内が終わるや否やそのままデミウルゴスに帰還を促し、一人頭を抱えた。

 

「え?何、どういうこと?」

「なにしてんだよ、クソ親父」

「待って、予想以上に効くんだけど、その言葉」

「創るだけ創ってほっぽったのは、どこの誰だっけ?」

「ぐはっ!?」

 

 ………ルベドに与えられた設定の一つに、『実は寂しがり』というのがある。そのせいで、創るだけ創って封印という名のほったらかしをくらったことで全力でグレており、忠誠心の類は全NPC中最低で、かなり辛辣な物言いをするようになってしまっているのだ。父親に当たるタブラは、娘からの容赦の無い言葉を喰らい満身創痍である。

 

 なお、ナザリック散策の一環で会いに来たり、ワールドアイテム産NPCという事に興味を示したりで度々来ていたラプチャーには、全力で懐いていたりする………というか、桜花聖域の守護者といった僻地勤務と共に、好感度はトップクラスである。

 

「ほら、さっさと始めるぞ、クソ親父」

「クソ親父呼びはやめて!?」

「じゃあクズ親父」

「ぐっはぁぁっ!?」

 

 予想以上の精神的ダメージに倒れ伏すタブラだが、ルベドは構ってくれない。

 結果として、彼に救いの手を差し伸べる者もまた、居なかった。

 

―――――

 

(しかし、これで大丈夫なのかなぁ………)

 

 魔法で作り上げた鎧を纏い、冒険者モモン―――モモンガは、ルプスレギナ・ベータと共に冒険者組合にて登録を済ませ、依頼を見繕っていた………尤も、文字が読めない為、何も出来ない訳だが。

 

(タブラさんも思い切ったシナリオを描くよなぁ………まあ、説得力はあるけどさ)

 

 適当な依頼書を手に取り、カウンターに叩きつけるようにして差し出す。漆黒のフルプレートに加え、レベル100相当のステータスも合わさり、威圧感満点である。

 

「すまない、この依頼を受けたいのだが」

「えっと………こちらですが、ミスリルプレート限定の依頼でして」

「知っている。だから持ってきた」

 

 押し問答の末、彼らのプレート………(カッパー)の中で最も難しい依頼を出させようという策は、順調に進む………かに思われた。

 

「それでしたら、私たちの仕事を手伝いませんか?」

 

 そこに声をかけてきたのは、一見して共通点皆無の四人組だった。

 

「構いませんが………どちら様で?」

「詳しい話は、上の方をお借りし」

「ああ、やはりここに居たか」

「うぇ!?」

 

 モモンガが大慌てで振り返ると、純白のローブを纏うラプチャーと、その背後に控えるナーベラル、そして彼女に半目で睨まれる少年の姿があった。

 

「バレアレさん!?」

「………ルシフェルさん、どういうことですか?」

「何、色々あってな」

 

 ラプチャーが会話の合間に手で促したことで、少年ことンフィーレア・バレアレが動き出し、モモンガに依頼を持ちかけようとする。応答をルプスレギナに頼み、モモンガは伝言(メッセージ)の魔法でラプチャーを問い詰める。

 

『何したんですか!?』

「なに、ユグドラシルポーションを幾つか売ってみただけだ」

「ちょっとぉっ!?」

 

 メッセージ越しの穏便な会話で済ませるつもりが、予想以上にとんでもないことをしていたと判明したことでモモンガが声を荒げる。低い歴戦の勇士然とした声から、穏やかな青年といった様子の声色に豹変したことで、周囲の者たちが驚愕に目を見開く。

 そんな中、モモンガは周囲の視線を前に咳払いしながら、しっかりとラプチャーに詰め寄った。

 

「んんっ!………いや、マジで何やってんのお前?アレはタブラ………様に授かった物だよな?」

 

 あくまで、設定の話である。ラプチャーが売却したのは彼の私物である為、ナザリックには影響がない。

 

「何、あの方はこちらのポーションを知りたがっていたからな。序でに、街最高の薬師と名高いと聞いた老婆を、少々対抗心を焚きつけてみただけだ」

「お前なぁ………」

 

 彼が売却したのは、下級(マイナー)10本、中級(ミドル)5本、序でに上級(ハイ)を1本。それだけで店が傾きかねない額になった為、完全治療薬(フル・ヒーリング・ポーション)については保留となった。序でに、持ち主がカルネ村に居る事を伝えると、本気で移住を検討し始めていた。

 

「それで?銅ということは大したこと無さそうだが」

「ああ。お陰で、相応しい依頼を受け損ねた。俺が(あの方の)思っていた以上に、夢の無い仕事だよ」

 

 彼らの肩書は、カルネ村に降臨した神の使い………として、周辺を見て回る事を命じられた存在だ。そして、ナーベラルとルプスレギナの役割は、そんな彼らの監視、及び補佐というのが表向きだ。

 

「まあ、頑張れ。(ラプチャー様)には及ばないとはいえ、お前の実力は折り紙付きだからな」

「比較対象を考えろ………全く」

 

 ひらひらと手を振るラプチャーに見送られる………フリをして、モモンガは時間停止(タイム・ストップ)の魔法を発動。誰もが凍り付く中、時間対策済みの二人だけが動く。なお、内容は金銭のやり取りである。

 

「当面の路銀だ。適当に崩して細かいのも用意してあるから、安心しろ」

「助かります………けど、どうやって?」

「適当な英雄譚だの地図だのを買う時に、金貨で払って崩した」

 

 そう笑い、戦利品を提示する。するとモモンガも笑みの気配を零し、そして次の瞬間に肩を落とした。

 

「程々にお願いしますよ?目立ちすぎると………」

「安心しろ。生半可な相手なら適当なスキルで吹き飛ばせる」

 

 自信有り気に笑い、ラプチャーは元の姿勢に戻る。それに伴い、モモンガも元の姿、姿勢に戻り、魔法を解除。それぞれ自然な姿で動き出した。

 

「ふむ………面白そうな者も無いか。撤収するとしよう」

「畏まりました」

 

 ラプチャーが踵を返す様は、見ようによっては失礼にも当たるだろう。だが、有無を言わさぬ冷たい瞳と、背後のメイドが放つ強烈な殺意を前に、誰一人として動く事は出来なかった。

 

「………えっと、モモンさんでしたっけ?あの方は………」

「ルシフェル様っすか?偉大なる御方―――に、認められたマジックキャスターよ」

 

 畏まった口調に戻りながらも、ルプスレギナはしっかりと与えられた設定どおりに演じて見せる。

 

「偉大なる御方?」

「ルシフェルさんの先導によりこの辺境に辿り着き、貴族派閥とやらの策略で滅びかけていたカルネ村をお救いになった神々のことですよ。薬神のタブラ・スマラグディナ様が、あの村に身を置いている筈です」

「か、カルネ村が!?って神!?それに、薬神!?」

 

 あまりに荒唐無稽な内容に、周囲から驚愕が零れる。ラプチャーが大雑把な事しか伝えていなかったのか、ンフィーレアの驚きは一層凄まじいものだ。

 

「ええ。こちらで知られる神とは違いますがね………実を言いますと、この鎧も神の魔法で作り出され、授けられた物です。私もかつては、彼らに救われた身でしてね。救って下さった御方への憧れを見抜いた死神様が、授けて下さったのです」

 

 モモンガの言葉は、設定に基づく脚色こそあれ、彼がクランに、そしてギルドに身を置くまでの過程そのものだ。たっち・みーに救われ、生きる希望を得て、彼のような正義の騎士になってみたいという想いから、魔法で作り出した鎧だ。

 そして、しっかりと事実が組み込まれているからこそ、嘘を見抜くのに長けた人間でも断言が出来ない。更には、経験に基づく発言だからこそ説得力があり、先程まで冗談だろうと笑っていた者たちも、真剣な様子で聞き入っている。

 

「………んんっ!まあ、そういう訳でして、私と彼は知り合いなのですよ。一時期、神々とはぐれてしまっていた時期がありまして、彼と出会えたからこそ、また仲間(神々)と再会できたんです」

「で、私はそんな迷子がちなモモン様の、妹のナーちゃん………ナーベラルは、好奇心旺盛なルシフェル様のお目付け役として、偉大なる御方々に派遣された、って訳っすね」

 

 ルプスレギナが茶目っ気たっぷりにウィンクして、言葉を締めくくる。

 

「神に………まさか、従属神様であるか!?」

「従属神………って、マジかよ!?いや、ルプスレギナさんの綺麗さ見たら、納得だわ」

 

 ここで意図せぬ誤算となったのは、六大神信仰に付随した従属神の存在。それにより、ルプスレギナが従属神≒ギルドNPCであるという事が発覚してしまう事態となる。

 

「じゅ、じゅじゅ、従属神!?」

「そっすよー。可愛いケモ耳の神様っすよー。あ、けど崇め奉るのはノーサンキューっす」

 

 お陰で、上から下まで大騒ぎ。ルプスレギナが内心ほくそ笑む中、ンフィーレアは食い気味にモモンガに詰め寄った。

 

「モモンさん!カルネ村付近の森での薬草採集の護衛依頼、受理していただけませんか!?勿論、報酬も相応の額を払います!」

「か、構いませんが………いえ、私は先にあちらの方々の依頼に………」

 

 そこで言い淀むモモンガ。しかし、思わぬ方向から救いの手が差し伸べられた。

 

「でしたら、我々もご一緒させて貰えないでしょうか?幸い、まだ依頼は受領してませんし」

「そうなんですか?いや、しかしそうなると彼の負担が………いえ、では私が皆さんを雇いましょう。バレアレさん、それでいいですか?」

「あ………す、すみません、気を遣わせてしまって………」

「構いませんよ。こういうのも、年長者の役目ですから」

 

 兜の下から笑みの気配を零し、モモンガが頷く。その振る舞いにより、冒険者モモンの印象は『金持ちのボンボン』から『神に認められた、人格的にも優れた好人物』へと瞬く間に豹変した。この場においては、それが最大の成果と言えるか。

 

「では、早速行くとしましょう。タブラ様がいつまで滞在しているかは、私にもわかりませんからね」

「ぁぅ………」

 

 真の目的の一端を見抜かれ、ンフィーレアが沈黙する。その様子を微笑ましく思いながら、モモンガは一行と共に組合を出る。

 

 そして、その頃カルネ村では………

 

「いい加減立ち直れ。窯に放り込むぞ」

「マジでごめんなさい………ホントごめんなさい………」

 

 冷たい床で今にも死にそうな痙攣を繰り返すタブラを罵倒しながら、ルベドが機材の準備をしていた。

 

「………クソ親父でごめんなさい………クズ親父でごめんなさい………」

………そう思うなら、もう何処にも行かないでよ………

 

 寂しがりな最強NPCのデレ発言が耳に届かぬまま、タブラは痙攣し続ける。

 

 数日後、タブラがしみじみとこのことを語ったことで、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜、ヘロヘロが大惨事になったのは、ちょっとした余談である。




Q,ルベドがヤバいのはなんで?
A,本作だと、寂しがり拗らせてグレちゃったからと解釈。創造主には特に容赦がない。


色々ぶっ壊れてるけど、気にしない方向で。
大体好奇心で動くラプチャーが悪い。これだから知者は(偏見)
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