オーバーロード ~新参の堕天使~ 作:初心者騎空士
クッソはずい………
ナーベラル・ガンマの目に映るラプチャーという男は、掴みどころのない存在だ。
思い付いたかのように人間の薬師のもとにポーションを売り渡しに行き、そこからカルネ村………御方々を崇める、比較的マシな下等生物どもの集まりに向かうよう仕向ける。彼女の眼には、優れた観察眼と叡智を共に持ち合わせる素晴らしい御方、と映っていた。
「しかし、
「恵んでなどいない。正当な対価は、しっかり受け取っているじゃないか」
貨幣文化が存在している以上、金銭は必要不可欠だ。そうなれば、いずれどうにもならない時が来ただろう。その時の為にも、比較的在庫の多いユグドラシルポーションの価格調査という、そこそこ重要な目的もあった。問題があるとすれば、ラプチャーの行動自体はその場の思い付きであることくらいか………
この男、頭は非常によく切れるのだが、それ以上に好奇心が強い上、それを抑える自制心を捨てており………言い換えるなら、頭脳と戦闘力、好奇心を大きく向上させた代わりに、自制心が欠如したモモンガか。
要は、より軽率な行動が増えた代わり、相応の成果も上げる問題児である。一応、それなりに考えてはいるが………蘇生手段の機能に加え、現地戦力を脅威と見做していないのもあるのだろう、割と我欲に忠実である。
「それに、貨幣文化がある以上、何を得るにも金銭は必要だ。我々の活動の上で、必要な情報の一つだからな」
金貨、銀貨、銅貨を一枚ずつ掌に置き、その形をしっかりと観察する。
「模様はしっかり刻まれているが、形は歪だ。鋳造技術が低いのだろうな。詳しく調べれば、金の含有量などの違いも見えてくるだろう。無論、この国だけでは一概に言えんが………他の国家も回り貨幣を調べれば、この世界の技術水準を知ることも可能だろうからな」
リアルで嫌というほど頭を使っていた反動か、殆ど思ったことをそのまま口にしているラプチャー。ある意味、原作モモンガ以上である。
「技術水準がわかれば、段階を飛ばしてユグドラシル貨幣並の代物を扱う国家や集団が出現すれば、即座にそこをマークできるという訳だ」
「な、なるほど………!」
そして、そんな彼の発言でも、比較的素直なナーベラルはあっさりと信じ込んだ。彼が基本的に表情を表に出さない事も功を奏したと言えよう。
「それで、次は如何なされますか?」
「そうだな………折角国境沿いの街なんだ、帝国にも足を延ばしてみるか」
「では、馬車を?」
「ふむ………いや、一度ナザリックに戻ろう。やはり、休むならあそこの方がいい」
「ッ、ハッ!」
嬉しそうに頬を緩ませ、ナーベラルが跪く。一瞬咎めるべきか思案するが、それだけ神に気に入られているという風に設定を弄ればいいかと気にも留めず、転移魔法でその場から消え、ナザリック上空まで戻る。
「………む?」
「如何なさいましたか?」
「何か見えた………ナーベラル、先にナザリックに戻って街で得た情報をデミウルゴスに伝えろ。俺はあちらを追う」
そして、森に見えた奇妙な色の影について、数瞬程思考を巡らせる。そして、彼が知るアウラの魔獣に該当する者がいない事に気付き、ナーベラルに指示を下すや否や、興味本位で一気に飛翔。自分が構築したナザリック外縁部の森の道筋と、影の動きから移動ルートを予測し、急降下。
「ひぃぃぃぃっ!?今度は何でござるか―――ッ!?」
「………これは」
ラプチャーは瞠目し、その陰に平然と接近。
「ジャンガリアンハムスター?しかし、ここまで巨大な事は疎か、尻尾もここまで長くはない筈だし、喋る事など有り得ん………この世界の固有種か?」
「なんと!?そ、其方、某の種族を知っているのでござるか?!」
そして、予想外極まる一人称と口調に脱力した。
「もし同族を知っているのなら、教えて欲しいでござる!子孫を作らねば、生物として失格でござるが故に………」
(………コーチがいたら不味かったな)
『おいおい、この体格差で子作りかよ!』と興奮する変態的な智者が脳裏をよぎる中、ラプチャーは顔を上げ呆れ気味に答える。
「………俺が知るジャンガリアンハムスターはそこまで大きくも無ければ、尻尾も長くはない。生殖は先ず不可能だろう………できたとして、子が成せるかもわからんが」
「そ、そうでござるかー………って、それどころではなかったでござる!?では、某はこ」
「逃がすかー!」
「ぴゃー!?」
逃げようと踵を返した巨大ハムスターへと、ピンクの粘液塊が激突。そのままその体を押さえ込んだ卑猥な形状の粘塊は、ラプチャーもよく知る人物だ。
「………ぶくぶく茶釜か」
「あ、ラプチャーさん。いやね、この子この世界の固有種っぽいし、アウラのご褒美様に捕まえようかなー、と思いまして………あと、なんか話せる感じっぽいんで、色々聞き出そうかなーと」
「成程………ただまあ、どうも希少種らしいから、殺すのはやめて貰いたいな」
「あ、マジですか?」
「それの言によれば、この辺りには同族がいないらしいからな」
「そっかー………それじゃ、ペット枠で確保!」
「キュー………」
激突の衝撃で目を回しているハムスターを抱え、茶釜が首を傾げるような仕草をする。
「そういえば、なんでこっちに?」
「エ・ランテルで調べられそうなことは一通り調べたからな。一旦戻った」
ラプチャーが掲げるのは、幾つかの本と地図。それを前に、茶釜は軽い歓声を上げた。
「はっやーい!というか、お金はどうしたんですか?」
「ポーションを売った」
「ああ、ポーショ………ポーションをォ!?」
「ああ。下から三種を適当な数売るだけで、街一番と噂の薬師の店が傾いたがな」
「えぇー………」
「とはいえ、お陰でこちらで一般的、且つその中でも比較的高品質とされるポーションを確保で来たぞ?あと、得た金銭は適当に崩してモモンガとも共有しておいた」
驚き、そして呆れる茶釜。しかも、一見するとしっかり考えているように見えるのがタチ悪い。
「後で、適当なNPCにでも頼んでタブラ・スマラグディナに届けさせるつもりだ」
「それがいいですねー。あ、あと弟も呼び戻しましょう!多少周辺地理がわかった方が、調査も楽だと思いますし」
「それもそうだし、伝説の類についても本を確保しておいたからな。曰く付きの地が近くにある様なら、そこは警戒して調べてもらう必要がある」
「ですね。マーレと合流次第戻りますんで、先に行っててください!場所は円卓の間で!」
「ああ」
スムーズに今後の方針を決定し、ラプチャーらは一旦ナザリックに戻る事に。ラプチャーが地表部分に戻ると、そこにはエントマが待機していた。
「こちら、お預かりしていた指輪でございます」
「ああ」
指輪を受け取り、ラプチャーは第九階層へと転移。早速ヘロヘロへと
「俺だ」
『あ、ラプチャーさん。どうしたんですか?』
「この辺りの伝承についての書籍と地図を入手した。これから、情報共有をする予定だ」
『あれ?モモンガさんとタブラさんはいいんですか?』
尤もな疑問だが、ラプチャーとて想定内。
「モモンガは冒険者業との兼ね合いもあるし、タブラの方は当面出歩かんだろうし、何よりルベドがいるからな。それに、モモンガらはカルネ村に向かっているから、後でタブラ共々伝えればいい」
『大丈夫ですかね?』
「大丈夫だろう」
そう口にできる程度には、ラプチャーはモモンガの慎重さを評価している。
「円卓の間で待っている。あとでペロロンチーノも合流する予定だ」
『はーい』
軽い返事と共にメッセージが切れたのを確認し、ラプチャーは一足先に円卓の間に入り、十三英雄、八欲王を始めとした伝説について記された書物を開き、重要と思われる要点の抜出と並行して、文法の規則性を解明しようと試みていた。
「………難解だな」
意味が解っても、文法がわからなくては意味がない。自力で文字を真似て書こうにも、イマイチ上手く書けないせいか、モノクルの翻訳機能が仕事をしてくれない。
「………いかんな、集中集中」
ラプチャーは付箋を取り出し、地図上の地名を訳しつつ当該地に貼りつけていく。それと並行して伝説の翻訳、及び要点の抜粋を進め、伝承ごとに番号分けしつつ関連の疑われる地に注釈を入れて行く。
こうしてみると非常に有能なのだ………ただ、良くも悪くも好奇心最優先、且つ必要最低限以下しか考えずに動いてしまうだけなのだ………いや、そこが最大の問題な訳でもあるが………
「あ、もう来て………うわ、付箋だらけ!?」
「ん?ああ、すまな………」
ラプチャーの手が止まる。
コールタールのような粘液塊が、見目麗しいメイドに抱き抱えられてのご登場だ。色々な意味で、インパクトあり過ぎる絵面である………尤も、彼のギルドではマッチョなナマモノにバックブリーカー喰らうセクハラ堕天使など、中々インパクトのある絵面が多発していた訳だが。
「………今、情報を整理していてな。少し待っていてくれ」
「あ、大丈夫ですよ。暗号解読用のアイテムは今モモンガさん持ちなんで、ボクたちじゃ読めませんし」
そう笑い、ヘロヘロはメイドに下ろして貰い席に着くと共にぐでーっとのその体を崩す。
「あー、こうやってだらけられるのも久しぶりだなぁ………」
「まあ、リアルは効率的な労働すら理解できん馬鹿どもに牛耳られていたからな」
余程嫌な思い出でもあるのか、ラプチャーが本気で顔を顰め、明確な悪感情と共に吐き捨てる。咄嗟に地雷だと感知したヘロヘロは、大慌てで話題を逸らした。
「そ、それで、なんか進展はありました?」
「ナザリック裏の森、トブの大森林とやらの奥にある山脈………アゼルリシアと言うらしい山だが、どうやらドワーフが住んでいる可能性がある」
「ドワーフかぁー………鍛冶系のイメージがありますけど、やっぱり?」
「そこまでは………ただ、可能性はあるな」
ラプチャーが淡々と情報を書き出していく中、ヘロヘロはその手際の良さに目を奪われていた。少なくとも、彼が知るどの人物よりも早く、且つ文字もしっかり読めるレベルで綺麗である。
「凄いですね………」
「そうか?これくら―――――ッ!?」
ラプチャーが目を見開き、本の一点を凝視する。突然のことに面食らいながらも、ヘロヘロはただならぬ雰囲気を察し、急ぎ彼のもとに向かった。
「何があったんですか?」
「………浮遊都市」
「………は?」
ヘロヘロが、信じられないと言わんばかりの声を上げる。それも当然で、浮遊都市から彼が連想した代物といえば………
「ランキング五位内の超強豪じゃないですか!?は?え、冗談でしょう!?」
「遥か南の砂漠にあるとされているが………どこまで事実か。完全な事実とするならば、八欲王なるプレイヤー集団は既に全滅しているという事になるが………」
如何に強いとはいえ、ラプチャーはあくまで浪漫ビルドの一個人に過ぎない。ガチ勢であろうと、一対一ならば大抵の相手に勝つ事ができるが、相手が三人以上となると流石に無理だ。一応、彼の場合《
「とりあえず、完全に死んでることを祈りましょう。流石に八人相手は勘弁ですし」
「周辺の安全確保が済み次第、調べねばならんな………こればかりは、NPCに任せる訳にはいかん」
上位ギルドの多くは、人間種オンリーや人間種亜人種異形種混成であり、AoGとの仲はよろしくない。冷静に損得勘定をしていたからこそ討伐隊に加わらなかっただけでしかない為、万一プレイヤーが生きていれば、そうでなくともギルドNPCがいれば、こちらのNPCが接触した段階で存在が判明、そのまま戦争になりかねない。
「ですね………ワールドアイテムでのごり押しも厳しいでしょうし」
「ああ。幸い、余程の事が無ければ南方に出向く事もあるまい。地図を見る限り、砂漠はかなり遠いようだしな」
地図上には、砂漠は描かれていない。雑な地図ではあるが、技術レベルを考慮すれば当然と言える。
「ここまでのことを考えると、十三英雄にもプレイヤーがいると考えた方が良さそうですが………ギルド拠点はどうなんでしょうね?」
「一応、帝国にも出向くつもりだ。その折にでも、他の本を探しておこう」
「頼みます」
緩い空気で休んでいる場合ではないと判り、ヘロヘロも真剣な様子で頭を回転させている。そして、自分一人の問題ではないと判断したラプチャーもまた、真剣に思考を巡らせていた。
最悪手前=八欲王が強豪ギルド
そして、ラプチャーを知将キャラと思った方々にご報告。
いやまあ、知将足り得るポテンシャルはあるんですよ?
どうしようもないくらい頭を使わないだけで。