ダンジョンで赤龍を追うのは間違っているだろうか 作:たーなひ
俺達は昨日に引き続きダンジョンの異変を調査している。
まあ念のため、というやつである。
今いるのは25階層。24階層までは森が広がっていたが25階層からは水の迷都と呼ばれており、水辺のマップである。
ちなみにここからが下層だ。
とはいえ、何も異常は見当たらない。
普通にモンスターは出てきているし、変な痕跡なんかも無い。
「異常は無さそうだな。」
「そうだね。一応念のために27階層ぐらいまでは行ってみよう。」
ということで、27階層までいくことになった。
ー27階層ー
何も無い。
ただ普通にモンスターがいるだけだ。
ちょっと久しぶりにガノトトスだとかロアルドロスだとかを狩れると思ってた俺からすれば拍子抜けも良いところだ。
だが、ダンジョンがここで終わるはずも無かった。
帰還しようか、とフィンが口にしようとした瞬間
巨蒼の滝《グレートフォール》が爆発した。
「なに!?」
「なんだありゃ…」
そこにいたのはモンスター。ナバルデウス程はあろう巨躯に2つの頭。
「アンフェス・バエナ!!」
「あれが階層主か…。」
階層主とは、要は中ボスだ。
その領域において1番強いモンスターで、迷宮の孤王《モンスターレックス》と呼ばれる。
「また厄介なタイミングで来おったのぉ!」
「どうするの、フィン?」
「…………倒すしかないだろうね。全員、気を引き締めろ!」
フィンの言葉で気を引き締める。
初めて出会った階層主。
知識としてはあったが、こうして見るのは初めてだ。
蒼炎を使う様子はナナ・テスカトリに見え、二つの頭があるのはオストガロアにも見える。
とはいえ、負ける気はしていない。俺は初見とはいえこちらにはレベル6が3人もいる。アイズだって戦闘力はレベル5だし、戦力としては全然倒せる…はず。
しかしなかなか攻撃にうつれない。
間合いがわからないし、どんな攻撃方法を使ってくるのも把握出来ていない。無理に攻めて倒されでもしたら本末転倒だ。
とりあえずは引き気味に戦って、アンフェス・バエナを見切ることに専念する。
________________________________
アイズはクラウドを見ていた。
今までは彼が戦ったことのあるモンスター、いわば間合いを把握しているモンスターとの戦いだった。
しかし今戦っているのは完全初見のモンスター。
彼は
『初めての相手はまずは間合いを見極めろ。相手の引き出しを全部開けさせろ。
最初から攻撃に転ずる必要はない。』
と、言っていた。
彼にとっての初めての相手。
彼の立ち回りを見ておく事は私の糧になるはずだ。
転身して上手く躱しながら相手を観察するクラウド。
これまで何度か攻撃をくらっていたが、ポーションを飲んでまた戦線に復帰していた。
そしてついに、反撃を開始した。
相手の攻撃を数センチ単位で躱してカウンターを叩き込む。
続け様に大回転斬り。
そして抜刀術の構え、アンフェス・バエナの攻撃を躱しながらすれ違い様に斬りつける。
しかし、どこか危なっかしい。
炎に対する恐怖が無さすぎる。
普通は、炎とは避けるものだ。私はもちろんフィンだってガレスだって炎は避ける。アンフェス・バエナのブレスともなれば尚更だ。
なのに、ブレスを喰らっても平気な顔をしているかと思えば、まだ炎が燃えている地面を平気で歩いて攻撃を加える。
なにか、こう、危ない。気がする。
________________________________
ぶへぇ!
なんやそれぇ!
ちょっ知らん知らん知らんぐばぁ!
アツゥイ!アツゥイ!アツゥイ!
なんて思いながらアンフェス・バエナと戦っていた。
初見はいつもこんなもんだ。知らないモンスターのモーションを把握するのに何発か被弾してしまうのは仕方がない。
骨格も今まで戦ったモンスターと全然違うから被弾が増える増える。
だが、いつまでもそうという訳ではない。
把握したモーションをカウンターしながらヒット&アウェイを繰り返す。
一先ずある程度把握出来たので、しっかり前衛に参加する。
順調だ。
危ないところもあったがガレスが助けてくれたし、リヴェリアの魔法が当たってからは目に見えて弱っている。
魔法をちゃんと見るのは初めてだが、すごい。すごすぎてすごい以外の言葉が出てこない。ゴイゴイスー。
動きが緩慢になったアンフェス・バエナを見切り斬りからの大回転斬り、特殊納刀から抜刀鬼刃斬りの黄金ムーブで斬りつける。
そのまま押し切って、ガレスの大振りでとどめとなった。
「そういえばクラウド大丈夫だった?」
帰っていると、ティオナが話しかけてくる。
「そうよそうよ、あいつのブレスまともに食らってなかった?」
みんな俺の心配をしているらしい。
だが安心して欲しい。
炎王龍の加護があるこの防具があればダメージはくらうが焼けることはない…と、説明するのが1番簡単なんだが、「そんなモンスターがオラリオの外にいるの!??」ってなる可能がある。
「大丈夫だ。問題ない。」
説明させられるかも知れないがその時はその時だ。
「…なら良いけど。」
ティオナが納得したかと思えば少し不満そうだ。
リヴェリアが近づいてきた。
「な、なんだ?」
「見せてみろ。」
いうや否や、俺の防具を外して隅から隅まで見始めた。
いや、進めないんですけど。
「………確かに、どこにも怪我は無いようだ。」
「え、ホントにどこにもないの!?」
「痩せ我慢してるんだと思ってたわ…」
ここで天啓。
「ポーションで治したんだ。」
「へーそうだったんだー!」
「早く帰ろう。シャワーを浴びたい。」
これ以上追求されたくないので話を逸らす。
「そうだね。」
ようやく進み始めた。
ー黄昏の館ー
「はぁー疲れた。」
湯船に浸かりながらひとりごちる。
初めて戦った階層主。この世界のモンスターであれだけ苦戦したのは初めてだ。流石は階層主といったところだが、アレより強いのがいるというのが驚きだ。
冒険者の戦闘力が高いのにも頷ける。
そういえば、この世界には3大クエストなるものがあるらしい。ベヒーモス、リヴァイアサン、そして黒龍それぞれの討伐である。
で、この3大クエストに挑んだのが当時最強だったゼウスファミリアとヘラファミリア。
結果は黒龍以外の二体を倒すも、黒龍に全滅させられ、団員を失ったゼウスとヘラはオラリオから追い出された。
なぜこの話を思い出したかというと、"黒龍"と聞くと真っ先に思いうかぶモンスター
ミラボレアス。
恐らくこちらの世界とは違う存在なのだろうが、気になる。
閑話休題。
昼過ぎには地上に戻って来ていたので、夕飯まで暇だ。
連日の戦闘で疲れているので鍛錬をする気にもならない。
リヴェリアにもらったオラリオの地図を見ながら考える。
すると、ある一点に目が止まった。
念のため装備をつけて、目当ての場所に向かった。
さて問題です。俺は今どこにいるでしょうか。
答えはバベルの中でーす。
はい。なんとなくリヴェリアに貰った地図を眺めてたら、バベルの中には鍛治の神ヘファイストスファミリアの店があるというので行ってみることにした。
毎日見て慣れていても剣やら防具なんかにはついつい心が躍る。
はぇーなんて感嘆しながらショーケースを見て回る。
なんかめっちゃ高いんですけど…。
何千万とかあるし。俺の装備なんか百万もかかってないぞ?
まあ新大陸若干デフレしてる節はあったけど。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
あまりに高すぎる値段に旋律しながら歩いていると、声をかけられた。
声の方を向いてみると、赤い髪に眼帯……それにこの感じは神か?
「一応自己紹介しましょうか。私はヘファイストス。ここの主神よ。」
へぇ、鍛治の神っていうから男なのかと思っていたが女神だったのか。
「俺はクラウド・ベロキシナム。何か用か?」
「えぇ…その前に、どこのファミリアか聞いてもいいかしら?」
ファミリア?目的がわからないな。別に隠すほどでもないから構わんが…。
「ロキファミリアだ。」
「ロキのとこの子か…」
そういえば、ロキ以外の神と話すのはこれが初めてだ。
そう意識するとなんか緊張してきた…。
「ロキの子なら大丈夫そうね。それで、お願いがあるんだけど…」
「お願い?」
「君がつけてる装備、見てもいいかしら?」
あれよあれよと言う間に書斎らしき部屋に連れて行かれてみぐるみ剥がれた。
確かに、この世界ではモンスターの素材を使った武器や防具ってのはあまり無い。ドロップアイテムしか素材が無いから材料が足りないのだろうか。
神ヘファイストスは食い入るように俺の装備を見つめている。
しかし、そうなると困った。
この感じだと何処の誰が作っただとか、どうやって作っただとか、素材はなんだとか言われるに決まっている。
嘘をついてもバレるから適当に誤魔化すこともできない。
また黙秘権使うのか…。
「ねぇ、これ誰が作ったの?」
ほら来た。
「内緒です。」
「なら素材は?」
「内緒です。」
「ならどうやって「内緒です。」…別にいいじゃないの減るもんでもないんだし。」
「技術は宝だ。製作者本人ならともかく顧客が他の鍛治師に技術を伝えるなんて言語道断。そうだろう?」
「そうだけど…。」
「さ、貴方の"お願い"は俺の装備を見ること。もうその願いは果たされた。帰ってもいいか?」
「もうちょっと!もうちょっとだけ待って!」
「……なんの対価も無しにか?」
折角だ。どうせならせがんでみよう。
「……………装備のメンテナンスを無料でしてあげるわ。」
「いらん。自分で出来る。」
「………なら私が貴方の武器を作ってあげる。」
「いらん。」
「私の武器がいらないなんて言う子供初めてよ……」
そりゃあ鍛治の神だから作る武器もさぞ素晴らしいんだろう。
しかし残念ながら俺は特に他の武器を必要としていない。
……………………ん?他の武器?
「じゃあ一体何が欲しいのよ。」
「……いや、武器にしよう。」
「あら?」
「俺の要望通りに作って貰えると思っていいんだな?」
「えぇ。全力で打たせてもらうわ。」
よし、言質は取った。
「俺は今日中ずっと俺の装備を見せる。
その対価にヘファイストス様は俺の要望通りに武器を作る。それでいいか?」
「ええ、構わないわ。」
「よし。契約成立だ。」
ガッチリと握手を交わした。
「おーい主神様ー。」
どんな武器を作って貰うか設計図に起こしていると、一人の女性が入って来た。
ヘファイストス様と同じような眼帯をつけた肌黒い女性だ。
「お、客人か。これは失礼をした。」
「いや、構わない。俺はクラウド・ベロキシナムだ。」
「手前はここの団長の椿・コルブランド、よろしく頼むぞ。」
ほー、ここの団長か。
「主神様は一体何をそんなに見ておるのだ?」
「俺の装備だ。」
「ふむ……どれ、手前も見て」
ん?止まった?
いつの間にか釘付けになってるのが2人に増えてる。
やっぱりこの世界の鍛治師には無い技術なのか…。
「これなんの素材かしら…」
「手前が思うに…毛…いや皮だな。」
「でもこの硬さよ?皮だけじゃないんじゃない?」
「……なら甲殻とかじゃないか?」
「そうよねー、こっちはどう思う?」
「おぉー、すごい、業物じゃな…」
「でしょでしょ!」
…なんでヘファイストス様は一度も顔上げてないのに普通に会話してるんだ。
というかなんでどっちも顔も上げずに見ながら話してるんだ。
「あのー」
「ーーーー、ーー。」「ーー!ーー。」「ー!ーーー、ー。」
……まあ届かないよな…。
……俺もとっとと設計図書くか。
結局、一度ホームに帰ってご飯を食べてから見に来てもまだ見てたので、日にちが変わるまで待つことにして、日が変わった瞬間に全部回収して有無を言わさず出て行った。
今日はよく寝れそうだ。
________________________________
ヘファイストスは驚いた。
眷属たちの作品を眺める1人の冒険者、彼のつけている装備にだ。
見せて貰うことに成功したが、何もわからない。
作成者どころか、素材すらもわからない。そもそもオラリオではないだろう。ゴブニュも剣は打つが、こんなものを打てるとは思えない。
聞いてみても教えてくれない。
と、思えば帰ると言い出したので慌てて引き留めた。
まだ見せてくれと頼んだが対価が欲しいと言われた。
確かに、冒険者の命とも言える装備品を預かるのだから対価を払って然るべきだ。
しかし、あろうことか私が装備を作るという申し出を断ったのだ。即答で。
自惚れでなく、自分の鍛治の腕は最高だと思っているし、他の誰にも負けていない。
私が打つ武器は軽く億を超える値がつく。
どんな冒険者にしても私に武器を打って貰えるなら即答で「お願いします」と言うはず。
しかし、彼はそれを一度は断った。
結局私が武器を打つことになったのだが…。
「ナニコレ?」
彼の残した設計図を見てそう零す。
そこには、剣と盾、そして斧のような武器が書かれていた。
うーん、モンハンばっかりやとアレかなーって思ったけどアンフェス・バエナ全然わからんわ。これぐらいで許して下さい。
それとキャラがちょくちょくブレるのは許して下さい。