なので、他の話に比べて極端に字数は少ないですがご理解の程よろしくお願いします。
・・・・・ト・・・・・・・・・
誰だ……?
誰かが喋っている。微睡みに浸る僕の耳に誰かの声が届く。
僕の意識自体がはっきりしていないからだろうか?
声ははっきりとは聞こえない。
・・・・・ト・・・モ・・・・・
周りは白い闇。自身と周囲との空間の境が分からなくなる。
・・・・・ト・・・モ・・・・・
・・ソ・・・・コ・・ニ・・・・
聞こえてくる声は、いつだったか聞いたことがあるかのような懐かしい声。
ただ、ノイズがかかっているのか雑音に掻き消されてほとんど聞こえない。
・・コ・・・ン・ド・・ハ・・・
・・・ワ・・タ・・・シ・・ガ・
聞こえる声から感じられるのは、
切望・歓喜・悲哀・消失
といった感情のうねり。
だけど、その声を聞いても不安を覚えることはなかった。寧ろ、入学式の日に奏と会った時に感じた安堵にも似た感情が蘇ってくる。
・・・マッテ・・・テ・・・・・
その言葉を最後にその声は聞こえなくなった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
『トモ~、朝だよ』
操緒の声が僕に覚醒を促してくる。
「ふぁ~あ」
学生なら普通はまだまだ寝ていられる時間だけど、僕の場合はその時間じゃ間に合わない。だから、布団の中に蹲りたい願望をはねのけ体を起こす。
『おはよ……って、どうしたの?』
寝惚け眼をこすりながら僕の顔を見ていた操緒が突然驚きの声をあげる。だけど、別に心配した声という訳ではない。純粋に驚いているだけだ。
「……なにが……?」
とはいえ、僕も寝起きで何がどうなってるのか全く分からない。操緒が何に驚いていて、その原因が僕にあるのだということぐらいしか分からない。
『……ほんとに分からない……?』
「だから、なんのことなのさ……?」
互いに疑問に疑問で返すという下手したら収拾がつかない状態に朝から陥っている。サッサと動き出さないと学校に遅れるんだけど……
『涙』
「え?」
そんな風に思っていた僕に操緒からかけられたのは予想外の言葉だった。
『泣いてるよ、トモ……』
そう言われて、手を顔に持っていく。手が頬に触れると、
「……え……?」
確かに自分のそこは濡れていた。しかし、自分で認識した事によって止まることもなく、逆に止め処なく溢れてくる涙に戸惑ってしまう。
「……どうして……?」
自分でも何故自分が泣いているのか分からない。悲しくも嬉しくもなっていない。だけどその事で不安になったりすることもない。寧ろ、何かすっきりした気分だ。
『夢で何かあったの……?』
「夢?」
言われてみれば原因はそれしかないような気もする。起きてすぐだし、寝る前は特に何もなかったんだから。
「……あれ?」
『どうしたの?』
「いや、何か見たような気はするんだけど……」
だけど、どんな夢を見たのか全く覚えていない。普段だったら多少引っかかるだけで、それ以上何かあるわけでもないけど、今回は自分が泣いているんだ。気にならないわけがない。
必死に頭を捻りながら思い出そうとしていると、
『……げ、トモ!!
時間!!』
時計を見た操緒が異様に興奮しながら話しかけてくる。
「なんだよ、今いいとこ……」
それの意味するところは、
「ヤバッ!!」
普段行動を始める時間より、15分ぐらい遅くなっていた。速くしないと、学校に遅刻する……!!
操緒に急かされながら、着替えを終え、いつものトレーニングを始める。普段よりも急ピッチで。
その時にはもう夢の事は頭からすっかり抜けてしまい、涙も止まってしまっていた。
ただ、何か優しい声音の感触だけが耳に残っていた。