時系列的には15回の間かな?
さて、他の二つ(バレンタインとホワイトデー)の外伝はどうしたものか……
要望があれば上げるだけ上げますけど。
“夢、夢を見ている。”
夢の中の私は自分でも信じられないほど楽しそうで、隣にいる少年の腕を持って嬉しそうに少年を引っ張って回っている。
少年も苦笑しながらも、特に嫌がることはなく一見したところ、諦めた様子で少女に付き合っている。
そんな2人の姿は傍から見れば、付き合っている年頃のカップルに見える。
押しの強い少女と気の弱い少年。
周囲がどう思っているのか分からないけど、少なくとも当人たちはそのつもりだった。
普段から少年と一緒にいる黒髪の少女も、少年の友人である男子生徒も、少年と少女の先輩の眼鏡の少女も、誰も彼らの間にはいない。
居ても、周りで微笑ましく2人の様子を見ている。
“ああ、きっとこんなのが私の理想なんだ”
普段から少年に触れることができて、それでいて周囲には何も問題がなく――勿論日常の騒々しいイベントなら大歓迎――、皆が私たちを認めてくれる世界。
……だけど、それはきっと叶わないこと。
諦めるつもりはないけど、無理に叶えようと、今の私は思わない。
あの2人の間を邪魔してまで、少年の心を自分に向けさせることなんてきっと私には出来ない。
だけど、
……本当に?
自分の心の奥からそんな声が聞こえてくる。
今迄必死に隠してきた物が溢れだそうとする。
私だって、自分の気持ちを否定する訳じゃない。
けど、これは表には出したらいけない!!
だって、出したら私と2人の関係が……!!
なんで、我慢するの……?
だけど、今の私の気持ちは私だけのものじゃなくて、あの子……いや、あの人のものまであるから……
夢の中だというのに、意識が落ちる。
夢から覚める時の様な上昇していくような感覚ではなく、深い沼に足を捕られ、抜け出ることのできないような感覚。
……今度こそ、幸せニ……
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「う、う~ん……」
「操緒~!?
早く起きなさい!!」
「むぅ~……あと、50分……」
「何馬鹿なこと言ってるの、サッサと起きなさい!!
もう智春くん、来てるわよ」
「え、トモが!?」
誰だか分からない、けど、どこか懐かしい声を聞きながら“被っていた”布団を“手で”撥ね退け、急いでベッドから降りる。
って、え……?
「うそ……」
布団に触れる……?
私、足で立ってる……?
「な、なんで、なんで、どうして……?」
ペタペタと、両手を動かし自身の体中を弄り、近くの壁に手を触れてみたり……と。
そうして、自身の腕が壁をすり抜けないと分かると今度は、
むぎゅ~
自身の頬に手をやり思いっきり抓り上げる。
「いっ!?」
慌てて指を離す。
い、痛い……
手加減なんて全くする気がなかったから力一杯抓ってしまった。
う~……なんで私がこんな目に……?
まぁ、自分でやったからなんだけど……
それが分かってても痛いものは痛いのだ。
赤く染まった頬を先程抓り上げた手で押さえ、その場に蹲る私。
傍から見れば馬鹿そのものだろう。
そんな私を、
「……何してるの、操緒?」
当然ながら、すごく不思議そうな顔で見ている母親の姿が……って、
「お、お母さん!?」
「何よ、急に。
そんな慌てた様子で……」
蹲っていた状態からすぐさま立ち上がり母親に詰め寄るが、詰め寄られている方のお母さんは娘の様子に若干の戸惑いの声を上げていた。
けど、そんな母親の様子なんてその時の私には分からなかった。
ただただ、今目の前に自分の母親がいて、私のことを認識できていて、私に“触れ”ているということが信じられなかった。
そのことに、また改めて気付いて、戸惑って……結局、自身の寝ていたベッドの上に座り込んでしまう。
「……大丈夫、操緒?」
そんな私を心配そうに覗き込むお母さん。
ていうか、なんでいるのよ……?
母親のことや自身の身体のことを疑問に思い、頭を悩ませていると、
「ま、大丈夫そうなら良いわ。
それよりちゃっちゃと制服に着替えなさいよ~
智春くんだからっていつまでも待たせるのは流石にね……遅刻しないにこした事はないんだから」
お母さんはそう言葉を残し、さっさと部屋から出ていった。
「……制服……?
……着替え……?」
母親の言葉に促され、ツイと視線を動かすと壁にはハンガーに掛けられた中学の制服があった。
その制服に視線をやるのと同時にその上にある時計に目をやると……
「ヤ、バッ!!」
時計の長針は8、短針は7と8の間にあった。
つまりは7時40分。
なんで私の身体がこんなことになっているかはさておき、急がないとマズイ。
普段通りに学校があるんだとしたら……このままいけば間違いなく遅刻だ!!
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
ここしばらく忘れていた生身での着替えに四苦八苦しながらも――特に胸部につける下着とか……ええそうですよ!!私は奏ちゃんみたく大きくないから今迄まともに付けたことなんてありませんでしたよ!!――なんとか着替え終わり、これまた懐かしい髪をリボンで結うという作業を行い、鞄を持って部屋から飛び出す。
部屋から出て左手にある階段を慎重に下り、洗面所で顔を洗って歯を磨く。
忘れていると思っていたけれど、存外覚えているものだ。
玄関に向かう途中でリビングに顔を出す。
「お父さん、お母さん、おはよう」
「ああ、おはよう、操緒」
以前と変わらない、私の知っている様子で返事を返してくれるお父さん。
「おはよう、朝ごはんはいいの?」
さっきまでの私の奇行を一言も聞かず、朝食のことを訊ねてくるお母さん。
「時間もないから今日はいらない」
「あら、そう」
特別不思議にも思わず、お母さんは弁当を差し出してくれる。
私は弁当を受け取り、鞄に詰め込みながら玄関へ向かう。
「じゃあ、行ってきまーす!!」
「ああ、いってらっしゃい」
「はい、いってらっしゃい」
リビングを抜け、玄関で靴を履き、扉を開ける、と、
ガンッ!!
「だっ!?」
「え?」
勢い良く何かにぶつかった。
咄嗟に扉を閉めようとするも、時既に遅し。
今度はそ~っと扉をゆっくり開き、玄関前の様子を伺う。
と、
「っ~!!」
「……何やってるの、トモ?」
玄関前で腰を押さえ、蹲っている幼馴染の姿が……
多分、玄関扉の前で待っていてくれた所に私が扉を思いっきり開き、激突させたのだろう。
抑えてるのは、丁度出っ張っている取っ手の付いていた高さの腰の辺りだし……
うん、私の身体がおかしいことになっていても、この少年の不幸体質っぷりは相変らずの通常運行の様でなんとなく安心する。
「“何やってるの?”じゃないって……お前がいきなりドアを開けるから……」
よろよろと腰を押さえながら力なく立ち上がるその姿は、老人の姿に見えなくもない。
そんな彼の姿に吹き出しそうになるが、流石に自分が悪いと分かっているので我慢する。
「あ~、ごめんごめん。
って、そうじゃなくて、トモ時間は!?」
さっきリビングで時計を見た時は既に50分ぐらいだったけど……
「多分50分ぐらいじゃないか?
僕が家出てから15分ぐらいだし……」
「じゃあ呑気にこんな所にいて良いわけないじゃん!!
急ぐよ、トモ!!」
未だに腰を押さえたままのトモの手を握り、引っ張り走り出す。
うわ~、体が風をきって走るこの感覚……やっぱり良いなぁ~
つい足に力を込めてしまった私を誰が責められようか。
「……ちょ、ちょっと待てよ、操緒!!
どうしたんだよ、いきなり!?」
後ろでトモが何か叫んでいるけど、あまり気にならない。
今迄1年程トモの後を憑いて回っていただけだったけど、うん、やっぱり憑いて回るより自分の足でトモを連れ回してる方が私の性に合ってる。
今はただ、遅れないことを理由に走り続けよう。
……その後すぐに赤信号で止まることになったのはかなり虚しかったけれど……
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「はぁ、はぁ、はぁ……ぜぇ、な、なんだってこんな目に……?」
なんとかギリギリ時間前に学校に到着した私たちは階段を上がり、無事に教室に到着した。
到着すると同時にトモは自身の机に崩れ落ち、荒い息を吐き始める。
「……はぁ、はぁ、はぁ、え?
そこまで飛ばしてないでしょ?」
少なくとも、私がこれまで付き合ってきた今迄のロードワークはこれより何倍もきついものだったのだから……
クラスメイトにさりげなく聞いた自身の席に鞄を置いて腰掛けながら、トモにそう声をかける。
「……いや、部活の練習でも、ここまで飛ばさ、ない、か、ら」
「……へ……?」
トモの口から飛び出てきた予想外の単語に、呆気にとられる。
部活?
トモは部活なんてやってなかったはずなんだけど……どういうこと?
私が疑問に思い、頭を悩ませている横で、
「トモ~、大丈夫?」
「あ、おはよう、杏。
なんとかね……」
杏ちゃんがトモに話しかけていた。
トモの予想外の疲労困憊ぶりに驚いているようだけど、そこまで重要視せず、
「操緒ちゃんもおはよう」
「……………………」
「操緒ちゃん……?」
「ん?
ああ、おはよう、杏ちゃん」
近くにいた私にも挨拶してきた。
最初は私が呼ばれているとは分からず反応できなかったけど、考えてみれば幽霊の方が普通じゃないんだから、こうして肉体があるなら声を掛けられて当然か……
改めて慣れって怖いなーと思う。
「……ねぇ、トモ……操緒ちゃんどうしちゃったの?」
が、杏ちゃんは返事を返した私を不思議に思ったのか、何かをトモに問いかけている。
一応私には聞こえないようにしているつもりなのだろうけど、小声とはいえ流石に目の前で話し始めたら分かるって。
まぁ、私がおかしいと思うのは事実だから、今回は気付かないふりぐらいしてあげるけど。
「いや、僕にも、よく、分からない」
乱れている息を整えながらヒソヒソと話を続けるトモと杏ちゃん。
以前までの私がどんな生活をしていたのか知らないけれど、そんなに今の私はおかしいのだろうか……?
私も長い――と言っても一年になるかならないかぐらい――幽霊生活の間に一般常識が抜け落ちてしまったのだろうか……?
うー……無いとも言えないのが怖いなー
若干の不安を覚えながらもトモと杏ちゃんの会話に耳を傾ける。
「……いつもだったら散々トモを弄ってるのに……それをしないで考え事なんて!!」
「いや、今日はひょっとしたら朝のランニングがそれなのかもしれない……」
「ランニング?
何それ?」
「……操緒が遅刻寸前に家から飛び出してきて、そのまま学校まで全速力……」
「うわー……ご愁傷様。
けど、それと学校での操緒ちゃんとはまた別でしょ?
見た感じ、操緒ちゃんは全然疲れてないし……」
「……そうなんだよ……それがまた不気味でさ……」
む、いくら以前の私とは違うとはいえ、流石にそこまで怖がられる筋合いはないと思うけど……
そんな風にやや不条理なものに怒りを覚えつつも、
≪ここの私って、そんなだったの?≫
トモと杏ちゃんの会話からある程度判明した“ここ”での私の性格や態度については頭を抱えずにはいられない。
“ここ”の私はまるで、小学生の時の私がそのまま体だけ大きくなっただけのようで、同じ水無神操緒としてはそれなりに思うところがある。
お父さんとお母さんがいるから、多分、この世界では私もトモもあの飛行機事故に遭っていないのだろうけれど……それにしたってここまで変わるものだろうか?
……まぁ、私の場合トモが実は未来から来ていたり、奏ちゃんが既にトモの彼女だったりと色々あったから普通の女子中学生よりも精神的な成長は上だとは思うけど……って、そうだ!!
「トモ!」
ガタッ、と音をたてながら椅子から立ち上がり、トモに声をかける。
「な、なんだよいきなり……?」
突然の私の行動に驚いたのか、若干怯えた様子でトモが返事を返してくる。
隣では杏ちゃんも驚いた表情で私の方に視線を向けている。
が、今重要なのは2人のそんな反応ではなく……
「トモ、奏ちゃんは!?」
彼女の所在だ。
嵩月奏
私が今迄過してきた世界での中学に入ってから出来た初めての友達で、トモの彼女で契約悪魔。
当然、この学校にも通っているはずだ!!
だけど、
「……は?」
私の言葉を聞いたトモから返ってきたのは予想外の言葉。
心底不思議そうな顔で私の顔を眺めている。
「だ、か、ら、奏ちゃんだよ奏ちゃん、嵩月奏!!」
この時の私はトモがふざけているんだと思ってた。
だって、そうでしょう。
あれだけ普段から一緒にいた2人が。
これでもかと言うほど私の前でイチャついていた2人が。
相手のことを知らないなんて、考えられるはずがない!!
あの2人の絆がないのなら、一体何が本当の絆なのだ!?
そう、どこか無根拠に、ただ自分を納得させる為にそう思っていた。
けれど、私に帰ってきた言葉は、
「……いや、誰?」
トモの呆れたような表情から放たれた無情な一言だった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
若干呆然自失となりながらも、朝礼が始まったので自身の席に戻り、担任からの連絡を聞く。
そうして、嫌な事を思い出してしまった。
そうだ、今私が座っている席は彼女――嵩月奏が座っている席じゃないか……
私の記憶が確かなら、今の教室内の席順は私が過してきた中学生活と変わらない。
違いがあるのは、私か彼女かという違いだけ。
嵩月奏という存在が抜け落ち、水無神操緒という存在がそこに居座っているかのようだった。
けれど、クラスが違うだけかもしれない。
そう思った私は授業と授業の合間、それに昼休みや放課後を使って徹底的に校内を探し回った。
学年が違うかもしれないと思えば、上級生のクラスにも足を伸ばした。
幸いにも学校内で私の顔は(良い意味で)広い方だったので人探しは思ったよりも容易だった。
けれど、
「……いない……」
嵩月奏という人物の姿は学校内には全く見当たらない。
「う、そ……」
その事にはっきりと気付いてしまった。
別に気にすることじゃないかもしれない。
奏ちゃんとトモによれば、以前の世界?では中学は違っても、高校は一緒だったのだし……
だけど、やっぱり……
そんな風に私には珍しく結構真面目に気落ちしていると、
「ああ、いたいた。
何やってるんだよ操緒、こんな時間まで……?」
「え?」
突然声をかけられた。
声に反応して、俯いていた顔を机から上げると、
「トモ……」
今迄一度も見たことのない格好をしたトモが夕日に照らされた教室に立っていた。
「……なにそれ?」
「何って、お前も普段から見てるだろ?
陸上部のユニフォームだよ」
「……そう」
確かに物珍しいものではあるけれど、今はそんなトモの格好以上に気になることがある。
だから、と言う訳ではないけれど、視線を目の前にいるトモから逸らし、校庭へと向ける。
視線を向けた先には、夕日に照らされ朱に染まった校庭で部活動に勤しむ生徒たちの姿。
それは、どこまでも平和な日常で、それでいて活気に満ちた世界。
悪魔や機巧魔神(アスラ・マキーナ)なんてまるで関係のない世界。
………本当に、なんで私はこんな所にいるのか。
十中八九、あの人が原因なのだろうけれど……
目が覚めて、今日一日を過ごすようになる前に見ていた夢。
いや、あれは本当に夢だったのだろうか?
「み…お……」
夢にしては妙にリアルで、だけど、現実にしては朧気で……
ひょっとしたら、私が今迄過してきた世界の方が偽物なんじゃないかと思ってしまうほどに。
けど、そんな筈がない。
あれだけ必死に未来を追いかけていたトモが、奏ちゃんが、偽物のわけがない!!
「……さお……」
じゃあ結局この世界は何……?
私は一体……誰?
「操緒!!」
「ふぇ!?」
ガタン
突然大きな声をかけられ、慌てて椅子から立ち上がる私。
そんな私の目の前には、呆れた様子のトモが……
「どうしたんだよ、操緒。
今日のお前、本当におかしいぞ?」
「そ、そうかな……?」
珍しく、トモからジト目での視線を向けられる。
「……………………」
「う」
別に私自身に後ろめたいことがある訳でもないのに、なんとなく私が悪いことをしてる気になってしまう。
「何か悩み事があるなら聞くぞ?」
トモは、ドカッ、と私の前の席に座り、しっかりと話を聞く体勢になる。
こうなると、私がある程度何か話さないと動かないだろう。
だけど、今更目の前のトモに相談して何になるというのか。
目の前にいる幼馴染は本当のことを話したとしても、あからさまな否定はしてこないと思う。
だけれども、やっぱりこの夏目智春には話すべきではない。
危険のない日常を謳歌する彼と、私の悩みは無縁の話だ。
「……………………」
10分ぐらいだろうか、暫く私が沈黙を続けていると、
「……分かった。
お前が話さないならそれも良いさ。
代わり……ってわけじゃないけど、僕の話を聞いてくれないか?」
「……うん」
「僕はさ、ずっと一人の人物に憧れてたんだ。
その人はいつも縮こまって何も出来ない僕を引っ張ってくれた。
僕が失敗しても、笑って前を向かせてくれた。
僕が成功したら、一緒に喜んでくれた。
気付けば憧れてただけの筈だったのに、いつの間にか自分もその人みたいになろうと努力していた。
そうして、憧れが恋慕へと変わっていった」
そこまで言って、私のことを正面から真剣に見据えるトモ。
それに、ただボンヤリと視線を向ける私。
唐突に始まったトモの話。
それは、全く予想外のもので、だけど、
「操緒」
ある意味この世界では、
「好きだ。
僕と付き合ってくれないか?」
必然の話だった。
私に向けられたトモの視線は真剣そのもの。
間違ってもふざけて返事を返していいものではない。
だけど、
「………そういうこと、か……」
私の口から洩れたのは、人を嘲るかの様な口調の言葉。
何故なら、私には彼が、目の前にいる少年がふざけているようにしか見えなかったのだから。
当然、目の前の幼馴染は私の突然の変貌に戸惑っている。
が、私がここにいる理由も、なんでこの少年から告白されてるかも、奏ちゃんが学校にいないのかも、今の彼の一言で全部分かった。
だから、今は彼の相手をしている場合ではない。
それでも、しっかり返事だけは返してこの場を立ち去るとしようか。
「ごめん、トモ」
「え?」
まさか、ふられると思っていなかったのだろうか、私からの返事にトモは唖然とした表情になる。
その顔に若干の胸の痛みを覚えながらも、言葉を続ける。
「その言葉はちゃんと、“この世界”の私に言ってあげて。
私もトモのことは好きだし、付き合いたいけど、それは“この世界”のトモじゃなくて“私のいる世界”のトモだから」
それだけ言って、教室を飛び出し、目的地に向かって走り出す。
教室に取り残されたトモのことなど、今はもう全く気にならない。
悪いけど、私は人の夢に付き合うほど酔狂な人間ではないのだ。
例えそれが、自分と同じ人間であろうと関係ない。
自分が進む道は自分で決める!!
目指すは、鳴桜邸
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
学校を抜け、街中を走り抜け、一度も来たことがないはずなのに、その屋敷に辿り着く。
既に日は沈み、夜の住宅街に浮かび上がるその屋敷は、遠目から見れば誰がどう見ても幽霊屋敷だ。
「はぁ、はぁ……」
全力で走りぬけてきた所為で乱れた息を整え、鉄郷士で出来た門扉を押し開ける。
その際、金属が擦れる音が周囲の住宅街に響き渡るが、気にしている暇はない。
門扉の隙間から体を滑り込ませ、屋敷の庭へ。
目指しているのは屋敷の中、ではなく、
「あった」
庭に立っている大きな桜の木。
何か確信があった訳じゃない。
ただ、なんとなく幽霊と言ったら桜の木じゃないかと思ったのだ。
そして、
『……ナンデ……』
「やっぱり」
いた。
私と殆ど同じ背格好で来ている服も同じく中学のもの、だけど違う。
宙に浮いていてどこか薄らと透けている。
私、いや、以前の世界の私。
「もう、何勝手なことしてくれてんのよ!!」
開口一番、口から飛び出たのは文句の言葉。
『……………………』
そう、私が今日一日何故か肉体を持って学校を一日過ごしていたのも、奏ちゃんが中学にいなかったのも、トモから告白されたのも、全部、目の前のこの人の所為。
『……ダッテ……アナタハ、ウラヤマシクナカッタノ……?』
きっと、目の前の彼女はずっとトモを探し続けてきたから、トモのことしか考えられなくなってるんだと思う。
なのに、トモが選んだのは結局奏ちゃん。
それが残念で、せめて私には幸せになってもらおうとでも考えたのだろう。
だから、こんな夢を見せてるんだ。
けどね、
「何言ってんの、羨ましかったに決まってるでしょ!!」
私があの2人の関係を全くなんとも思ってないと思ったのなら大間違いだ。
『エ……?』
「人が見てるのに気にせずイチャつき出すわ、普段から互いが互いのことを一番分かってるかのような行動をするわ、さりげなく奏ちゃんが私のことを気遣ってきたりするわ……!!
羨ましいし、妬ましいったらありゃしない!!」
『……………………』
目の前のワタシが呆気に取られているが、知ったことか!!
あー、思い出すだけでムカついてきたぁー
次から次へと私の口からあの2人に対する愚痴が飛び出してくる。
けど、言ってる途中に気づいてしまった。
妬ましいけれど、それ以上に、やっぱり私はこの世界よりもあの2人がいる世界の方が好きなのだと分かる。
口を閉じ、一旦愚痴を切る。
そうして、再度口を開き、
「けどね、私はもうあの2人の関係は認めてるの。
そりゃあ、隙あらば私がトモの彼女になりたいとは思うけどさ、それで奏ちゃんが消えるようなことになったら嫌でしょ?」
『ソレハ……ソウ……ダケド……』
目の前のワタシも分かってはいるようだ、分かってはいるようだが、どうにも納得できないらしい。
この辺りになると、幽霊の悔恨の念みたいなものかな?
恋愛絡みで自殺した女性の怨霊って凄いらしいし……
だけど、その辺りを声に乗せるようなことはせずに、
「じゃあさ……私があっちに戻ったらすぐにトモに告白するよ……それで良い?」
そう、提案する。
『……エ……?
デ、デモソレハ……』
私の気持ちを想ってくれたのか、ワタシは否定的な態度を取るが、
「良いの、私もこんな気持ちのままあの2人と付き合っていきたいとは思わないからね」
それをバッサリと切って捨てる。
私だって、ふられること前提の告白なんてしたいとは思わない。
告白するからには、成功したい。
だけど、これから私たちがしようとしているのは普通の恋愛とは違う。
「ここで区切らないと、私たちはきっと先に進めないと思うんだ」
だから、
「それで、納得してくれない?」
上手くいくとは思えない。
ほぼ間違いなく振られるであろうことが分かっている告白。
それでも、
『……ウン……イイヨ』
彼女は笑って許してくれた。
そんな彼女に心の中で何度も謝りながら、
「じゃあ、戻ろっか」
『ウン』
私は夢から醒めることにしました。
・
・
・
その後の結果は御存じの通り、見事玉砕。
あの時は大声で泣いたりしたけど、それでも確かに一つの区切りには出来た。
これで、あの人も納得してくれると良いな……