ただ、このフラグ、どこで回収したものか……
むかつく!!
むかつく、むかつく、むかつく!!
思えば最初にあの二人の事をお兄様から聞いて以来、いつも私はあの二人に対して否定的な感情しか持っていなかったような気がする。
自分でもどうかとは思うが、こればっかりはどうしようもないと思う。
何故なら、彼らに否定的な感情を向けることを私自身が何も問題だと思っていないからだ。
なんせ、相手の片方は悪魔だ。
学校では巧妙に隠しているようだが、私は知っている。
彼女の本性が人間を堕落させるようなものなのだと。
一部には『悪魔こそがこの世界を救う存在だ』などと言っている連中がいるが、馬鹿らしい。
世界を救う存在ならばなぜあいつらは私たちを襲ったのだ。
3年前の地中海沖で起きた事件
あいつら――悪魔崇拝者――が襲ってこなければたくさんの人が死なずに生きていられたのだし、何より、哀音が死なずにすんだ。
お兄様は哀音と普段から一緒にいるらしいが、私には見えない。
姿が見えなければ、声も聞こえない。
あの元気溌剌な彼女の声を、周囲にいる私たちを元気づけてくれる彼女の姿を、私はもう感じ取ることはできない。
今は大分楽になったけれど、彼女がいなくなった当初の私たち兄妹は酷かった。
叔母様は娘が亡くなったことを信じられず、ただ呆然と日々を過ごし、私は悲しみの果てに泣き叫び、お兄様に辛く当った。
そして、お兄様はそんな私たちを見て、自責の念に駆られたのか、ただひたすら自分の体を虐めていた。
誰もが思ったことだ。
どうして、彼女なのだ!!
と。
代われるものなら代わってあげたかった。
お兄様の取り合いをしていたことはあったけど、本当にお兄様の事を好きなのは哀音なのだと、子供心に分かっていたからかもしれない。
だけど、あの悪魔の生贄に選ばれたのは私ではなく、哀音。
私たちに悲痛を齎したその事実を徐々に受け止めつつあった私たち兄妹の前に現れたのがあの二人。
夏目智春と嵩月奏
片や演操者(ハンドラー)、片や四大名家の悪魔の家の跡継ぎ娘。
別にこの二人が同学年で、同じクラスにいようが、特に思うところはないはずだった。
勿論、嵩月奏を認める訳ではないが、学校に通うだけであれば特に何も問題はない。
私たちが通っている中学はごく普通の公立校なのだから。
私がどうこう言える訳がない。
同じクラスにいることぐらいは我慢する。
だが、あの二人は私たちの予想通りの存在ではなかった。
定説通りでいくならば、演操者(ハンドラー)と悪魔は仲が悪い。
互いが互いを滅ぼし合うが故に敵となってしまうから。
そんなものこの世界に関わっている者の間ならば常識。
たまに魔神相剋者(アスラ・クライン)なんていう例外が生まれているが、それだってすぐに排除される。
なのに、仲が良い
それこそ、『付き合っているのではないか?』と私が恐怖を覚えるぐらい。
朝は一緒に登校してきて、教室でもほとんど一緒。
昼食や休憩時間はそれぞれの友人と摂っていることもあるが、その友人も互いの共通の友人である場合が多い。
そして、授業が終わると二人揃ってサッサと下校。
放課後に何をしているかまで“私は”知らないけれど、どうせ碌な事じゃない。
……これで“付き合ってない”などと周囲には言っているのだから、ふざけているのかと思う。
私たち兄妹が不安なのは夏目智春が嵩月奏の契約者(コントラクタ)となり、彼が魔神相剋者(アスラ・クライン)になることだ。
彼がそうなった場合、どれだけの被害が周囲に及ぶか分からない。
学校生活で見る彼は、そこらにいる一般生徒よりも少し押しが弱いが責任感が強い程度の少年だ。
だけど、力を手にしたら人間なんてどうなるのか分かったものじゃない。
私たちが遭った事件の様な関係者だけのモノならまだ良い。
最悪、一般人に被害が出る。
過去にそんな事例はいくらでもある。
別に裏の事件じゃなくても、一般社会で起きる事件でも良い。
そんな事件が起きた時周囲の人間は口を揃えて、
『そんなことをする人間には見えない』
と言っているモノなんてまさにそうだ。
だから、私も、お兄様も、神聖防衛隊や学生連盟に常日頃から、『彼らを即刻排除』する許可を出して貰えるように嘆願している。
けれど、どちらの組織からも芳しい返答は返ってきていない。
神聖防衛隊側からは、
『未だ対象――夏目智春――がイクストラクタを開き、機巧魔神(アスラ・マキーナ)を得たという情報はどこの組織からも入ってきていない。
その為、監視体制の強化に努める』
といった内容の返答が返ってきている。
この言い分はまだ分からないでもない。
私たちは未だに彼の機巧魔神(アスラ・マキーナ)を見た訳ではなく、副葬処女(ベリアル・ドール)を見ただけ。
ならば、ただの幽霊憑きかもしれない可能性が高いし、世界中に散らばっている機巧魔神(アスラ・マキーナ)が全て確認されている以上、彼が幽霊憑きというのはほぼ確定していると言っても良い。
勿論、予断は許さないが、彼らにも他に仕事があるのだ……仕方ない。
問題なのは学生連盟。
『対象――夏目智春、嵩月奏両名――が校外で引き起こした事件は今の所確認されておらず、現段階で我々が干渉すべきではないと判断する』
何よこの返答は!?
事件が起きてからでは遅いのに、事件が起きないと動かない。
学生連盟がそう言った組織だって言うのはお兄様から聞いていたけど、まさか本当にそんな組織だとは思わなかった。
哀音をあんなことにして、たくさんの人に被害を及ぼす悪魔を、契約者(コントラクタ)を、私たちは決して認めない。
……だというのに、彼らの周りには何故か人がいる。
嵩月奏と同じ、悪魔のアニア・フォルチュナ。
オカルトマニアの樋口琢磨。
陸上部期待のエース、大原杏。
他にも、同じクラスの男子連中や、数人の女子。
本来の学生の交友関係としては少ない方だとは思うが、悪魔や演操者(ハンドラー)の交友関係としては多い方だ。
なんせ、彼らは周囲と自身の間に壁を作ることが多いのだから。
それこそが私たちが付け入る隙であるのだけれど……まぁ、今はその事は良いの。
問題は、先日から私の友人の一人が彼らと良く話すようになったということ。
いえ、その事だけならさして問題ではないわね。
別に彼女が誰と仲良くなろうとも私にそれを阻む権利なんてないんだし。
……まぁ、同じ相手を狙う様な事があればそうなるかもしれないが、それもそうそうないはずだし……コホン
とにかく、問題は、彼らとよく話すようになった友人がそのころを境に部活を辞め、何か別の事を始めたのだということ。
私たち部活の友人がどれだけ聞いても、彼女は頑として口を開くことはなかった。
その為、はっきりとした理由が分からないけれど、私は何となく彼女を夏目たちが引きこんだんじゃないかと思っている。
勿論、本当だという根拠がある訳じゃない。
だけど、彼女と夏目たちがよく話すようになった時期が重なるのだから、疑うなという方が無理だ。
これで、夏目たちが一般人なら何の問題もないが、あいつらがこちらに関わっているのは分かっている。
……よくも、私の友だちに手を掛けてくれたわね!!
正直言って、腸が煮えくりかえる気持だったし、出来ることなら彼らを直接問い詰め、私の手で間違いを正し、波乃を引っ張り出してあげたかった。
実際、彼らの教室の前まで押し掛けたこともある。
だけど、いつもタイミング悪く実行できない。
自身の知らない所で友人が1人、表から脱落したのだ。
こんなに悔しいことはなかった。
お兄様に相談しても、確証がない以上校内では動けないとの事。
それに、お兄様は洛高の受験で忙しい身。
あまり頼ることはできない。
悔しく、また、自分の無力が許せず、暫く、まともに眠れず、部活や勉強に身が入らなかった。
そんな私とは逆に、同じクラスの嵩月奏はいつもの様に、いや、ひょっとしたらいつも以上に活き活きとした生活を送っている。
……ユルセナイ、ユルセルワケガナイ
私から大切な従姉妹を奪った存在が、今度は私から友人を奪っていく。
フフフ、ソッチがそノ気なら……
いいわ、私も徹底的にあなた達を排除してあげる。
私、佐伯玲子の全てを使ってあなた達を壊してア・ゲ・ル。