闇と炎の相剋者   作:黒鋼

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実家に帰ったら犬はすぐ寄って来てくれるのに、猫は自分を見るとすぐに逃げ出すという……なんか悲しい。


30回 呼び出し

 

「さて、準備は良いかい?

 素人くん」

 

「いや、あの……そもそも同意してないんですけど……」

 

現在の僕の目の前にはやたらとフリルの付いたサテンシャツを着た人物が立っていた。

手にはやや太めの指揮棒(タクト)――以前の世界通りなら、確か、銃になってた筈――を持ち、やたら自信満々に僕の方を見ている。

GDの一人だから自信を持つ理由は分かるけれど、少なくとも素人と見ている相手に取る態度ではないと思うんだけど……

 

「おや、さっきはあんな態度を取っていたというのに、今更そんな言葉が通じるとでも?」

 

「あれは、事件に対しては協力するという旨を伝えていただけで、今回の様な事に同意したわけではありません!!」

 

ああ、相変らずムカつく人だ。

誰だよ、こんな人に機巧魔神(アスラ・マキーナ)――しかも、GD所属の機体――を与えたのは!?

今更ながら目の前の人物に対して僕が憤りを感じていると、

 

「まぁ、どのみち、君がここを出られるのは君が負けた時のみさ!!

 ――開演だ、蒼鉛(ビスマス)!」

 

向かいの男子生徒がこちらの都合などまるで気にせず、勝手に自身の機巧魔神(アスラ・マキーナ)を影から呼び出していた。

男子生徒の背後から浮かび上がってきたのは以前の世界でも見たことのある暗蒼色の魔神。

無骨な甲冑に身を包み、手には突撃槍(ランス)……というかドリルを持っている。

機巧魔神(アスラ・マキーナ)自体の能力なのかどうかは知らないが、ドリルの能力は魔力拡散。

ただし、ドリルが回転していなければその能力も発動しないため、演操者(ハンドラー)の実力がもろに露呈する機体だ。

ただ、元演操者(エクス・ハンドラー)の魔力無効化能力と違って非常に限定的な力となる分、狙う場所さえ考えておけば然程脅威でもないだろう。

というか、今更だけれども別にこっちは黑鐵を呼ばなくても勝てる気がするんだけど……

 

「……はぁ、そちらが負ける時のことは考えていないんですね」

 

若干呆れながらも、

 

スゥッ

 

春楝と春楝・闇を鞘から抜き放ち、構える。

翡翠や玻璃珠(カルセドニー)の様な機体が相手になるのであれば、まず取れない手段だが、目の前の相手なら可能だろう。

そもそも、こんな馬鹿げたことで操緒の魂がすり減ることになるなど、するわけにはいかない!!

……というか、闘うことを認めているあたり、僕も秋希さんや冬琉さんたちに毒されたもんだな……

そう思い、黑鐵を呼ばずに刀を抜いたのだが……

 

「なんだそれは!!

 そんなもので蒼鉛(ビスマス)に勝てるとでも思ってるのか……ふざけるなよ!?」

 

目の前の相手には伝わらなかったようで、勝手に憤慨し始めた。

失敬な、ふざけてるつもりなんて全くない。

僕は至って真面目だ。

けれど、それを言ったところで副葬処女(ベリアル・ドール)のことをあまり考えていないこいつ――里見恭武に分かる訳もないし、言うつもりもない。

代わりに、

 

機巧魔神(アスラ・マキーナ)に勝つだなんて……そんな大層なこと思ってませんよ。

 ええ、“機巧魔神(アスラ・マキーナ)”にはね」

 

ちょっとだけ皮肉を込めて、含み笑いをしながら返事を返してやる。

 

『うわ~……トモ、絶対性格悪くなったよ……』

 

そんな僕を見て操緒が気味悪そうに言ってくるけど……分かってるって。

一応皮肉を言ってる部分は自覚があるんだから。

が、そんな僕らのやり取りが尚のこと気に食わなかったのか、

 

「ふ、ざ、け、る、なぁぁーーーーーっ!!!」

 

逆上した里見が暗蒼色の魔神を操り、僕らに突進させてきた。

 

それにしても、なんて丁度いいタイミング。

 

僕も以前の世界でのこいつのやり方は気に食わなかったんだ。

この世界の里見と、あいつは別人だということは知っているけれど、殆ど同じ思考回路の持主だということは先程までの会話で分かる。

なら、あんな越権行為を当然の様にやる人間のはず。

それなら、少しぐらい痛い目を見てもらった方が良いだろう。

彼のためにも、僕自身の鬱憤晴らしのためにも。

 

さぁて、と、

 

「ちょっとお灸を据えてやらないとね」

 

自分の無力さを知ってもらおうか!!

 

 

 

♦ ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 

時間を遡ること2、3時間程。

僕と操緒は、とある雌型悪魔と共に雪原さんと冬琉さんに呼ばれ、学生連盟の本部へと足を運んでいた。

とある雌型悪魔と言っても、奏やアニアではなく、

 

「……ふぅ、冬琉さんや雪原さんも一々私たちに手間を掛けさせないで欲しいですわ。

 折角、今日は1日中付きっきりでお兄様の看病ができると思ってましたのに……」

 

鳳島家のお嬢様。

先日酷い目に遭わされた身としては、連れ立って歩くことにそれなりの警戒心を覚えていたりする。

もっとも、当の氷羽子さん自身は、折角の兄との逢瀬?を邪魔されたとあってやや不機嫌そうだ。

 

『あはは、でも仕方ないって。

 今回の件は学生連盟(あっち)が主道なんだから』

 

「それは、私も分かっていますけど……理解と納得は別ですもの」

 

まぁ、氷羽子さんなら公私の区別はしっかりとつけれる人だからとくに心配はしていない。

むしろ心配なのは、

 

「大丈夫ですか、冬琉さん……?」

 

こっちの案内役のGDの方。

見るからに体調が悪そうだ。

顔色は真っ青だし、眼の下には歌舞伎で使われている様な見事な隈。

髪はボサボサ、制服もしわだらけ。

2、3日前に一度会った時はまだここまで酷くなかったんだけど……ここ数日の間に何かあったのかもしれない。

氷羽子さんを操緒に任せ、僕は冬琉さんの話を聞くことにする。

 

「え、ええ、勿論大丈夫よ。

 どこか変な所でもあったかしら……?」

 

けれど、余程隠しておきたいのか、どもりながらもはぐらかされる。

どう見たって大丈夫じゃないのだが……

 

「……いえ、最近道場ではあまり見かけないので」

 

「ああ、ごめんなさいね。

 こっちの仕事が忙しくてあまり時間が取れないの」

 

「……それならいいんですが」

 

こちらも一応合わせた受け答えをして、取り合えず体調についてはこれ以上聞かないことにする。

こう見えて冬琉さんはかなり頑固な人だから、今追及したところで本当の理由を教えてもらえるとも思えない。

……後で心配そうに冬琉さんのことを見ている秋希さんか、同じGDの雪原さん辺りに聞いてみよう。

時間があったら八條さんの病院に行って八條さんにも話を聞いてみたい。

 

と、冬琉さんの体調にやや不安を覚えながらも足を進める。

以前使った部屋の前を通り過ぎ、そのまま歩いてすぐの部屋に入る。

入った部屋の中は会議室の様になっており、部屋の中央に長机が置かれ、その周囲に椅子が設置されている。

そして部屋の奥にはホワイトボードがある。

 

……うん、どう見ても会議室だ。

 

まぁ、今回学生連盟に僕らがやってきた理由を考えてみれば、こういった部屋に通されるのは当然のことなのだろうけれど。

嵩月組の一人として、この世界に来てから色々な所に顔を出してきたが、それでも生来のものかやはり気後れしてしまう。

チラリ、といつの間にか僕の隣に足を進めていた氷羽子さんに視線をやると、

 

「ふふ」

 

特に気後れした様子は見られず、むしろ余裕が感じられる程の冷たい笑みをその美貌に浮かばせていた。

氷羽子さんが鳳島家の一員として公的な場所で出る時は、大抵この表情である。

最初の頃は普段とのギャップに驚いていたけれど、今はごく当たり前のモノだと思って受け止めている。

つまり、それだけ氷羽子さんとそう言った場面でよく顔を合わせているということなのだが……気にしないようにしよう。

考え出したら余計落ち込むことになるのだから。

 

「やあ、夏目くんに氷羽子。

 忙しい所、態々呼び出してすまないね」

 

僕が若干、いやそれなりにこの世界に来てからの自分の行動を嘆いていると、元々部屋にいた人物が話しかけてきた。

普段通りのヅカっぷりは健在だが、やや表情に疲れが見える雪原さんだ。

 

「ほんまに、すいまへんな~

 けんど、そちらの二家にもご協力いただいとりますから情報はお知らせせなあかん、思いまして」

 

久しぶりに顔を見た眉毛が特徴の千代原さん。

冬琉さんや雪原さんに比べて顔の翳りは少ない。

とは言っても、少ないだけで普通の人よりある事に変わりはない。

 

「いえ、こちらも少々行き詰っていたところでしたので」

 

これは本当。

近隣の殆どの場所は調べつくしたし、関東圏もそろそろ終わりそうだ。

 

「そうですわね。

 何か新しい情報があるのなら、鳳島家(こちら)としても是非とも聞いておきたいですわ」

 

早くこの事件を解決したいのは、学生連盟も、悪魔の家も同じこと。

ただ、今迄この二つ(三つ?)の組織が協力してきたことなど殆どないので、慎重にならざるを得なかった。

それ故、単独で案件を進める以上に時間が掛かってしまうことになったのだ。

性質上仕方ないのかもしれないが、考えさせられることである。

 

「そうだね、こちらとしてもこの件は速く片付けてしまいたいから、早速本題に入るとしようか。

 好きなところに座ってくれ」

 

雪原さんに促され、僕と氷羽子さん、それに操緒はGDの皆さんと向かい合うようにして座る。

入口から見て、右側が僕たち、左側が冬琉さんや雪原さんだ。

千代原さんは億のホワイトボードの前に立っているから、そちらの仕事をしてくれるのだろう。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

僕らが席に着いたのを確認した冬琉さんが口火を切って、話が始まった。

「まずは、これを見て欲しい」

 

そう言って雪原さんが提示してきたのは、この街周辺の詳細な地図と2枚の写真。

地図には赤のマーカーと青のマーカーで色が付けられており、その殆どが赤、青、二つの色が重なっている。

写真の方は、1枚目には一人の男性、2枚目は一人の女性がそれぞれ写っている。

男性の方は肌の色が黒く、黒人だと一見して分かる。

歳は僕らとそう違わないであろう、10代後半といったところか。

あまり黒人の若者に出会ったことがないので一見しただけでは詳しい年齢など分からない。

女性の方はやや浅黒い肌をしているものの、黒人と言うほど濃い肌の色をしている訳ではなく、日焼けしたアジア系の人間だろう。

歳は15、6ぐらい。

どちらの写真も、証明写真の様なもので、日常を写した一枚から抜き取ったものではないことは確かだ。

 

「……これは?」

 

写真を指先で突きながら目の前の二人に説明を要求すると、間髪入れず答えが返ってきた。

 

「その二人が、今回の事件の主犯格。

 尖晶(スピネル)演操者(ハンドラー)副葬処女(ベリアル・ドール)だ」

 

「この二人が…!?」

 

操緒と氷羽子さん、それに僕を合わせた3人が揃って目の前の写真を食い入るように見つめる。

今迄数える程しか直接顔を合わせていないからはっきりと分かるわけではないが……

 

副葬処女(ベリアル・ドール)は姿を見ていないので何とも言えませんが……少なくとも演操者(ハンドラー)は違うのではないですか…?

 これほど日本人と違う姿形であるのであれば、幾ら夜の暗がりといえ分かるはずですが」

 

コク

 

僕も氷羽子さんの言う通りだと思う。

氷羽子さんに同意するように首を縦に振る。

だが、

 

「いえ、この人物で合っているのよ」

 

冬琉さんはその僕らの言葉をやんわりと否定した。

 

「え?」

 

「以前あなた達が交戦した相手は、この人物がたくさん持っている顔の一つにすぎないの」

 

『……どういうこと?』

 

「つまりね……」

 

意味が良く分からない僕たちに向かって冬琉さんは説明を続けようとしたが、

 

「……成程、使い魔(ドウター)の能力、ですか」

 

先に氷羽子さんが答えを口にしてしまった。

が、それで冬琉さんは不機嫌になるようなこともなく、

 

「ええ、そうよ。

 攫われた雌型悪魔のうちで、これに該当している使い魔(ドウター)の能力は、“幻覚”」

 

ああ、そう言うことか。

確かにそれなら主人の顔を変化させることや、自分たちの姿を隠すことなど容易だろう。

以前、簡単に逃げられたように見えたのはその使い魔(ドウター)の能力、か……

 

僕らがそれぞれ冬琉さんの言葉に納得していると、

 

「分かってもらえたかい?」

 

雪原さんが確認の問いを掛けてきた。

 

「ええ、納得しました。

 それで、この写真を僕らに見せてどうしろと?」

 

ただ、これだけなら僕らを呼び付けてまで話すことではないと思う。

道場で会った時にでも言ってくれれば良い話である。

 

「それはこの地図と関係があるのよ」

 

続いて冬琉さんが示してきたのは、例のマーカーで印がされた地図。

 

「赤のマーカーで記されたのは実際に事件が起きた所で、青のマーカーで記されたのはとある事象が起きた場所なのよ」

 

「……とある事象?」

 

「ええ」

 

何か、加賀篝が引き起こした事件とよく似てるんだけど……もしかして、何か繋がりがあったりするのか?

そんな僕の疑問を余所に、冬琉さんは話を続けていく。

 

「青でマークがしてある所は、この写真の演操者(ハンドラー)が目撃されたところなの」

 

「うわ~、そりゃまたなんと……分かりやすい事で……」

 

そんな直接的な理由で良いのかよ、と思わなくもないが……

 

『まぁ、この街って外国系の神父さんとか多いから別に外人さんでも珍しくないしね』

 

操緒に言われて思い出す。

そういや、洛高とかがあるせいかあんまり外人に抵抗ってないなということに改めて気付いた。

 

「ええ。

 それで、実際にその人物が目撃されたところと事件が起きたところを重ねたのがこの地図なんだけど……」

 

「殆ど重なってますね」

 

大凡8割といったところか。

確かに、これだけ重なっているのであれば信憑性もある。

 

「で、改めて聞きます。

 学生連盟は、嵩月、鳳島両家に何を求めておられるんですか……?」

 

さて、ここからが割と今後の方針として重要なところだ。

事情は分かった。

が、未だに学生連盟がさせたいことが良く分からないのも事実。

僕たちが闘わなければならない敵は分かり、その行動パターンも大凡掴めたと言っていい。

ここまで分かっているのであれば学生連盟だけで行動した方が良いことぐらい僕にも分かるのに、雪原さんたちはそれをせず僕らに情報を回してきた。

その上で、僕たちにさせたい事とは一体何なのだろうか?

「なに、そう難しいことじゃない。

 嵩月、鳳島両家には、学生連盟(われわれ)があちらの本拠地を襲撃している際に、華島を始めとしたあちらの組織に協力している悪魔の家々を押さえておいて欲しいのさ」

 

「……それだけ、ですか?」

 

怪しい。

もし本当にそれだけなのだとしたら、僕は雪原さんの気を疑う。

 

「勿論違うよ。

 でも、両家の代表として我々と話合いに来ている二人なのであれば先にそちらの要件を済ませておいた方が良いと思ってね」

 

「そうですか」

 

成程、学生連盟の一員としての彼らの本題はあくまで僕ら個人に対してのものであり、両家と学生連盟を結ぶ立場を利用して呼び出したというところか。

 

「……どうします、氷羽子さん?」

 

普通に隣に座っている氷羽子さんに話しかける。

こんな近距離で小声で話しても、冬琉さん相手では全く意味がないし、逆に下手な不信感を与えてしまいかねない。

 

「そうですわね……」

 

氷羽子さんもそれは分かっているのだろう。

特に躊躇する様な事はなく普段通りの声量で声を放ってきた。

 

「……取り合えず、家の代表としての役ぐらいは果たしましょうか。

 それ以降の話し合いに応じるか否かは、内容次第、ということで」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

雪原さんたちの狙いが何なのかは知らないが、最低でも嵩月家から与えられた役目は果たさないといけない。

それは、氷羽子さんも同様。

 

「ということですので、具体的に押さえておくべき日時と、場所。

 それから、相手の家々を教えてもらえますか?」

 

敵対している家のことであれば既にこちらも知っていることではあるが、今回は学生連盟の戦力が主体となる以上、学生連盟側に合わせるのが良いだろう。

 

「じゃあ、これを」

 

僕の言葉を聞いた冬琉さんが2枚の紙をこちらに差し出す。

どちらも同じ内容が書いてあったため、一枚は氷羽子さんに。

 

「ふむ、相手の家々と場所については把握しましたわ。

 後は日時ですが……」

 

「それを今から決めようと思うが、その前にもう一つの要件の方を済ませておきたい」

 

今から?

3人揃って不審気に顔を歪めながらも、

 

「良いでしょう、聞こうじゃありませんか」

 

氷羽子さんが冷たい笑みを更に深めながら雪原さんの提案に乗る。

その事については僕も操緒も反対はしないが、ここで下手な対応をすると仲が拗れてしまう可能性があるので、出来る限り慎重にいきたい。

 

「助かるよ」

 

雪原さんも雪原さんで、相変らず表情の分からない笑みを浮かべながら話を進めてくる。

 

「さっきも言ったと思うけど、両家には悪魔の家々を抑えてもらいたいと思っている。

 それは、紛れもない事実だし、現状ではそうするのが最善だと考えた結果だ」

 

「はぁ」

 

「けれど、相手の組織に対して攻撃を仕掛ける際に悪魔の家々から戦力が一人もいないのは問題だろうし、華島家たちを抑える際に学生連盟(われわれ)が参加していないのもマズイだろう?」

 

「それは、まぁ、そうですわね」

 

主に今後の両家と学生連盟の関係や、パワーバランス等を考えると、学生連盟に襲撃作戦の全てを任せることになってしまうのはいただけない。

日本の悪魔の家々のトップである四名家が学生連盟の指示の許動いているとなっては、悪魔の家々が学生連盟よりも下に見られてしまうことになるからだ。

あくまでも協力体制にある、と周囲に示さなければならない以上、相手の本拠地を攻める際に学生連盟の面々だけで行ってしまうのは今後の関係に支障をきたす可能性が十二分にある。

それ故、本来であれば戦力上十分であろうとも、悪魔側の人間としては学生連盟だけで事を運ばせる訳にはいかない。

 

「だけど、こちらとしても華島程の相手を対処してもらう以上、大人数に参加されても不安が残る。

 ……幾らあちらの家が内部分裂に近い状態にあるとはいえ、弱体化している要素は現状では見られていないしね。

 勿論、こちらからもGDを数名派遣する予定でいるが、何分相手の残存兵力が明確でない以上下手に戦力を割く訳にもいかない」

 

となると、こちらもそれに見合った戦力を出さないといけない。

GDは学生連盟が誇る強力な機巧魔神(アスラ・マキーナ)を使役する演操者(ハンドラー)だ。

それを数名。

下級悪魔数名では到底見合う様な戦力ではない。

 

「……具体的には、どういったメンバーを派遣していただけるのですか?」

 

やや億劫そうに氷羽子さんが雪原さんに問いかける。

そりゃそうだ。

派遣される人員の性格や、機体の能力などを考えてこちらも編成を組まなければならない。

非常に面倒な作業であるし、それを恐らく数日中にまとめなければならないため、時間も限られてくる。

そうなると、早めに知っておくに越したことはない。

 

「そうだね……冬琉、はる奈、誰が行ける?」

 

「そうね……」

 

「ちょっと、お待ちを」

 

冬琉さんは手元の資料をめくり始め、千代原さんは一旦奥に引っ込んで誰かと話しているようだった。

そうして、戻ってきた千代原さんから告げられた人員は二人、多くて三人との事。

行けそうな人員の名前も挙げてもらったが、残念ながら僕の知っている人はいなかった。

それでも、後で八伎さんたちと相談しなければならないので、一応手元の紙にメモはしておく。

冬琉さんからも似たような人員の名前が挙げられ、人数も同様。

 

「となると、こっちからは……」

 

GDが2、3人ならこちらも上級悪魔を10人程度は派遣しないと吊り合わないだろう。

大体、嵩月家から5人、鳳島家から5人で良いとは思うが……その辺りは後で氷羽子さんと相談しないといけない。

そう思い、その旨を伝えようと口を開こうとすると、

 

「いや、こちらとしては、夏目くん、君と奏が協力してくれればそれで構わない」

 

雪原さんがそう言って来た。

 

「え……?」

 

僕?

予想外の言葉に唖然となる僕と操緒。

いきなりすぎて全くもって意味が分からなかったけれど、

 

「成程……そう言うことですか」

 

氷羽子さんの方はむしろ納得しているようだった。

ただ、そこには先程までの余裕の表情はなく、代わりに顔に浮かんでいたのは、

 

「雪原さん、これは学生連盟の総意と捉えてよろしいのですか……?」

 

憤怒。

と言っても、一見しただけで分かるような顔ではない。

目は細まり、冷たい笑みを浮かべていた口元は閉ざされる。

ただの無表情ではない。

冷静に現状を分析して必死に自分を抑えようとしているのに抑えられず、結局表情を固めるしかなくなったのだ。

 

「いや、今のところは僕と冬琉、二人の意見と取ってもらいたいね」

 

「冬琉さん、貴女もですか……」

 

そんな怒れる氷姫の様子に気付いているだろうに、まるで表情を変えることなく、雪原さんは普段通りに対応をする。

一方の氷羽子さんは、視線を雪原さんから冬琉さんへと移す。

 

「ええ、私も夏目くんたちに協力してもらえるのならそれで十分よ」

 

が、冬琉さんも普段通り――若干疲れ気味――に返事を返す。

そして、

 

「あなた方は……!!」

 

あくまで普段通りの二人の対応に憤る氷羽子さん。

て、ちょっと待って!?

目の前に当人がいるのにその当人たちが全く話の流れについて行けてないんですが!!

 

『ねぇ、話の腰を折るようで悪いんだけど、どうしてトモとか奏ちゃんがそこまで重要視されてるの?』

 

憤る氷羽子さんの様子が疑問だったのか、操緒が心底不思議そうに訊ねる。

ああ、ちょうど良かった。

僕もそれはずっと疑問だったんだ。

 

「そうですね、僕もそれは是非とも教えてもらいたいです」

 

操緒の疑問に便乗する形で僕も口を開く。

すると、

 

「夏目さん……奏もそうですが、あなた達にはもう少し自分たちの重要性について自覚していただきたいですわね」

 

怒りながらも呆れるという世にも珍しい表情した氷羽子さんが、目の前のGD二人に強い視線を向けたまま説明してくれた。

 

「あなた達は、現在最も存在が危険視されてる二人なのです。

 奏は嵩月家の一人娘ですから然して問題ではありませんが、夏目さん、貴方は違います」

 

「え……?」

 

直接名指しされて戸惑う僕。

雪原さんたちの方に視線を向けてみると、彼女たちは黙ったまま氷羽子さんの言葉に耳を傾けていた。

 

「私たちは奏と貴方が付き合っているということを知っていますから問題ありませんが、周囲の組織から見た場合、演操者(ハンドラー)自身の能力もさることながら、所持している機巧魔神(アスラ・マキーナ)の能力も強力なのに、正体不明ときています。

 一度、華島の家相手にお使いになったそうですけど、その所為で今はあちこちで貴方の対処に必死になっているのですわ」

 

『へぇ~、そんなことになってたんだ』

 

「………………」

 

知らぬ間に自身が周囲に及ぼしていた影響を知らされ、操緒と二人揃って呆気にとられる。

そもそも僕個人としては、嵩月組の所属だとずっと思っていたので、その周囲の反応は今更な気がしてならない。

 

「そんな中で、

 

ジロリ、と二人に向ける視線を強める氷羽子さん。

 

 二人は、GDの作戦に夏目さんと奏を要求しました。

 嵩月の一人娘が参加するというのは問題ですが、今は構いません。

 問題なのは、夏目さん、貴方が参加するということです」

 

はぁ、と一旦深く息を吐き再び喋り始める氷羽子さん。

 

「ここで学生連盟の重要な作戦に演操者(ハンドラー))である貴方を呼ぶということは、貴方を学生連盟の一員として捉えられる可能性があります。

 勿論、実情は違うとしても、周囲からはその様に見られることになる。

 つまりは、嵩月家の一大戦力である貴方たちを引きいれることによって嵩月家の弱体化、及び周囲の悪魔の家々に対して睨みを効かせることができるのです」

 

「別に僕たちはそこまで大層なことは考えてはいないよ」

 

氷羽子さんの説明に納得している僕らに対して、訂正するかのように雪原さんが喋り始める。

 

「何が違うというのですか……?」

 

この期に及んで何を言うのか、と怒り心頭の氷羽子さんを余所に、

 

「僕たちは、確認しておきたいだけなのさ。

 夏目くんが使役している機巧魔神(アスラ・マキーナ)についてね」

 

雪原さんは言葉を続ける。

 

「確かに、結果としては、氷羽子、君の言う通りなのかもしれない。

 だが、僕らとしても管轄内に学生の演操者(ハンドラー)がいる以上その機体名や能力を把握しておかなければならない。

 それは、万が一にも夏目くんが問題を起こした時に我々が対処しなければならないからだ」

 

これだけ聞くと、確かにそうかもしれないと思うのだが、

 

「戯言を」

 

氷羽子さんはその正論を即座に切って捨てる。

 

「それならば、態々こんな事件の時に呼び出す必要などないではありませんか。

 学生連盟として一学生であるところの夏目智春を呼び出せば良いはず」

 

「まぁ、そうかもしれないけどね、現状それは難しい。

 ……それに、そんなに心配なのならば作戦の内容の重要なところは殆ど、鳳島、嵩月両家からの協力人員で締めるよう指示しておこうじゃないか。

 それならば、夏目くんが我々に協力しようが、結果として事件を解決したのは両家のメンバーであり、僕たちはあくまで協力したという姿勢になる」

 

結局、氷羽子さんの正論を認める形で雪原さんは話を進めていく。

いつの間にやら僕たちがかなり重要な要因になっていることは驚いたし、考えさせられるところではあるけれど、最悪後で僕の所属をはっきりさせる旨を協力してもらっている家々に宣言すれば良いだけの話でもある。

……その辺りは社長たちと相談しないといけないけど……

 

僕が納得してしまったのを見た氷羽子さんは、

 

「……なら、嵩月から奏と夏目さんが出る以上、鳳島からは私ともう一人幹部クラスを付けることにしますわ」

 

諦め口調でそう言ってくれた。

ううう、何かすいません。

 

「まぁ、それが妥当かな。

 じゃあ、実際の日時だけれど……」

 

雪原さんたちもそれで納得してくれ、さぁ詳しい内容を決めようとした時だった。

 

「瑶、ここかい!?」

 

バァンッ!!

 

勢い良く扉が開かれ、一人のGDが入ってきた。

そう、里見恭武だ。

 

 

 

♦ ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 

入ってくるなり里見は、何故自分が作戦の中核にいないのかと雪原さんに詰め掛かり、強い口調で詰問していた。

それに頭を抱えつつ対応している冬琉さんや雪原さんを見ていると、

 

「うん?誰だい、君たちは?」

 

僕たちに気付いたのか、やたらと上から目線で僕らに問いかけてきた。

氷羽子さんは相手にするのも馬鹿らしいとでも思っているのか、鼻で笑って相手にせず、操緒も無視。

僕も相手にしたくなかったので苦笑いでスルーしていると、勝手に雪原さんが今度の作戦についての役を説明してしまい、

 

「ってことは、君を倒せば僕がその役に着けるんだね!?」

 

訳の分からない解釈をした里見が暴走、結果として、

 

「……はぁ」

 

今回の冒頭部分に戻るわけである。

ホントに勘弁して欲しいんだけど……

「いけ、蒼鉛(ビスマス)!!

 その生意気なやつを抉り殺せ!!」

 

里見の掛け声に合わせて暗青色の魔神が動き出す。

手に持ったドリル(という名の槍)を勢いよく回転させながら、こちらに向かって走ってくる。

その速度は腐ってもGDということもあり、中々侮れないものがある。

けど、

 

『見事なまでに直線的だね……』

 

「ああ」

 

僕らが避けないとでも思っているのか、一直線に僕らの方に向かってくるのみ。

ドリルも後ろに引いて構えてはいるものの、演操者(ハンドラー)である里見が興奮状態にあるせいか、勢いはあっても狙いが定まっていない。

 

「はぁ、ホントになんでこんな人の相手なんてしなきゃいけないのやら……」

 

呆れ、愚痴りながらも回避動作に移る。

機巧魔神(アスラ・マキーナ)自体の体躯が人の数倍はあるので、割と大きめに回避するため、右斜め前方に向けて走り込む。

 

「待て、逃げるつもりか!!」

 

当然、相手も逃がすまいと機体を操り、方向を変え、こちらに向けて走ってくるが、

 

「よ、っと」

 

右手に握った春楝を振るい、

 

「なっ!!」

 

先日吸収しておいた悪魔の能力を蒼鉛(ビスマス)に向けて放つ。

因みに、一番最近溜めておいたのは華島の構成員の能力だったため、現在相手に向かって迸っているのは雷撃だ。

まぁ、下端構成員の能力だったようだから威力は期待していない。

 

「ふんっ!!」

 

驚きながらも、里見は走らせていた蒼鉛(ビスマス)を“停止”させ、後ろに引いていたドリルを回転させながら勢いよく突き出し雷撃を無効化する。

 

「ははは、残念だったね!!

 僕の蒼鉛(ビスマス)の槍の回転は、どんな強大な魔力をも消滅させる。

 人間である君が魔力を使った攻撃をしてきたのには驚いたけど、そんな程度じゃ僕の機体は倒せない!!」

 

開始した場所から一歩も動かず高笑いしながら長々と喋ってくれる里見。

勿論、蒼鉛(ビスマス)はドリルを突き出した体勢のまま立ち止っている。

その間に、僕は蒼鉛(ビスマス)の後ろに回り込み、正面に蒼鉛(ビスマス)、背中側に里見を置く形で相手取る。

 

「……はぁ、言った筈ですよ?

 僕は機巧魔神(アスラ・マキーナ)に勝つつもりなんてない、って」

 

本当に、どうしてこの人がGDなんてやっているのか疑問でならない。

確かに蒼鉛(ビスマス)の持つ(ドリル)の能力は機巧魔神(アスラ・マキーナ)相手であれば非常に強力だ。

機巧魔神(アスラ・マキーナ)に付いている護法装甲を無効化して直接攻撃できるのだから。

が、それも相手が魔力を主に使ってくる場合のみだ。

僕みたいな人間相手にはこの機体は非常に脆弱にならざるを得ない。

勿論、雪原さんとか、冬琉さんみたく、一流の人間が使えばまた違ったことになるのだろうが、残念ながら里見では宝の持ち腐れも良いところだろう。

 

「はは、だったらどうするんだい!?

 君が蒼鉛(ビスマス)に対して攻撃手段が無い以上、僕が負けるはずはない!!」

 

僕の言葉を聞いても、里見は自分が勝つことを疑っていないのか余裕の表情だ。

 

『ねぇ、なんでこの人こんなに自信たっぷりなの……?』

 

操緒もかなり呆れ顔。

 

「僕が知るわけないって……」

 

小声でやり取りを交わしながら目の前の暗青色の巨人を見上げる。

こんなに僕が近くにいるのに、全く右手のドリルを向けようとしない。

……いくらなんでも酷過ぎる。

なんで以前の世界ではこいつをあんなに恐れていたのだろうか?

 

「さぁ、終わらせようじゃないか、蒼鉛(ビスマス)!!」

 

それでも、里見が指示を出すことによって息を吹き返したのか、振り向きながらドリルを振り上げようとしている。

 

「ええ、終わらせましょうか」

 

正直言って、これ以上付き合っているのが馬鹿らしく思えてきた。

相対していた蒼鉛(ビスマス)を無視する形で自身の背中側に向き直り、

 

「はっ!!」

 

春楝を振るう。

若干残っていた雷撃が、前方にいる里見に向けて放たれる。

 

「へ?」

 

まさか自分に攻撃が飛んでくるとは思ってもみなかったのか呆気に取られる里見。

蒼鉛(ビスマス)は相変らず動いているため、雷撃を飛ばすと同時に僕も里見に向かって走り出す。

 

「ウ、グアアアァァーーーーーッ!!」

 

里見が呆けているうちに雷撃が里見に着弾、里見が悲鳴を上げる。

声だけ聞くと大袈裟に聞こえるかもしれないが、低威力の雷撃の更に弱まったものであるため、直撃したとしても軽い火傷が残る程度。

数日もすればその火傷も治るだろう。

だが、直撃したことによって相手の意識は薄まる。

その間に、里見に向かって全力で駆けより、

 

「せーのっ!!」

 

ゴンッ!!

 

「ガッ!?」

 

春楝・闇を持った左手で走ってきた勢いそのままに里見の顔面を殴りつける。

雷撃に続けて衝撃を受けた里見はそのまま後ろに弾き飛ばされ、

 

ドサッ!!

 

背中から地面に倒れ込む。

 

「おっと、そうだそうだ」

 

ガッ

 

倒れ込んでもまだどうなるか分からないので、念のため里見の持っている指揮棒(タクト)を蹴り飛ばしておく。

そうして、春楝・闇の方を鞘に収め、倒れ伏している里見に向けて春楝を突き付け、

 

「僕の勝ち、ですね」

 

宣言する。

 

「………………」

 

「?」

 

返事が無いので不思議に思い、どうしたものかと悩んでいると、

 

『トモ、気絶してるみたいだよ……?』

 

操緒からそう言われる。

言われて、後ろを振り返ってみると蒼鉛(ビスマス)が里見の影の中に沈んでいく所だった。

 

「……そう、みたいだな」

 

里見に突き付けていた春楝も鞘に収め、開いた扉からサッサと外に出て、待っていてくれた氷羽子さんと合流し、学生連盟本部を後にする。

途中で変な邪魔が入ったけれど、取り合えず今日の所の目的は達成できたし、よしとしますか。

……帰ったら社長たちとの調整もやらなきゃいけないから、若干気が重いのだけれども……

 

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