一応本体情報のところで何とかごまかせてますけど結構危ないかも。
これは、本当に私にVitaを買えという神のお告げなのか……!?
「ほらほらほら、どうしたどうした!?」
「くっ!!」
絶え間なく空から降り注ぐ敵の攻撃を、私と瑶はひたすら避け続ける。
夜空を優雅に舞う敵の
こいつを相手取り始めて既に10分以上が経過しているため、周囲の地面は既に泥濘だらけとなっており、動きにくいったらない。
今のところ大丈夫だけれど、このまま逃げ回るだけなら体力も減って、転び、相手の放つ泥弾の餌食になってしまうだろう。
水分が少なく土塊に近い様な密度の濃い泥弾もあれば、水分ばかりで密度のやたら薄い泥弾もあり、バラバラだ。
前者は当たったら言うまでもなくマズイ。
多分一撃で死ぬ。
後者は水分の方が多いから直撃してもすぐにどうこうなることはないだろうが、こちらは避けるたびに周囲に大量の水をばら撒き、泥濘を飛躍的に増加させていく。
しかも、攻撃方法が投射や放出などではなく落下であるため、殺傷力の高い密度の濃い泥弾ほど勢い良く降ってくる。
……不幸中の幸いとでも言えるのが、私たち目掛けて降ってきているのが泥だということかしらね。
土弾や岩弾であれば、落下の際に割れて破片が飛んでくる可能性が高いが、泥弾であれば落下すると飛沫となってくれるため、余程密度の濃い弾出ない限りあまり注意しなくて良い。
……まぁ、どちらにせよ面倒な相手であることに変わりはない。
普通の
魔神と
「やれる、瑶!?」
泥弾が雨霰と降る中、大声で瑶に呼び掛ける。
敵に聴こえる可能性があるので取るべき手段ではないのだろうが、泥弾の落下音のせいで大声で話しかけないと声が届かないのだ。
「……30秒くらいは欲しいね」
『無茶言ってくれる』
「けど、やるしかないわね」
私たちの力では残念ながら空を舞うあの
だけど、循環の環を断つ事なら出来る。
その間に、瑶があの
「行くわよ!!」
「了解」
敵の攻撃の合間を縫って、私は魔神や
何度か泥濘に足を取られそうになるが、必死にバランスを取って走り抜ける。
「――冬櫻、抜刀」
「お?」
愛刀を抜き放ち、魔神の足元にいた男に斬りかかるがあっさり避けられる。
まぁ、そうだろう。
あんなに一直線に来ているのだから避けられて当然だ。
「はは、オレを殺るか。
けど、残念だな、“オレ”は“俺”じゃない」
「でしょうね」
元よりこちらはそのつもりだ。
ここでこいつを仕留めたところで戦局に大きな変化は起きないことぐらい想定済み。
巻き込まない様にしているためか、ここは泥が降っていないので、密着していれば頭上は心配しないで済む。
だけど、これだけ近付けば、
「――
魔神の魔槍を一瞬で敵の魔神に叩き込むことができる。
「ちぃ、それが狙いかよ――
「遅い!!」
相手も私の狙いに気付いたのか、急いで
≪殺った≫
と思ったが、
「っつ!?」
背後に悪寒を感じ、咄嗟に前方に向かって前転をし、その場から離れる。
それでも金色の魔神の腕は勢いを落とすことなく魔槍を振り抜き、見事に目標を破壊した。
のだけれど、
「惜しかったな」
「………………」
私のさっきまでいた場所には破壊したはずの魔神の腕。
≪あの一瞬で……≫
このスピードには驚愕せざるを得ないが、
≪目的は果たしたわね≫
取り合えず瑶の援護は出来た。
仕留められなかったとしても、30秒ぐらいは稼げてるわよね?
「さて、と……」
次は折角潰した環を復活させない様に、
≪攻めないと≫
相手に余計な行動をさせない様に、攻めて攻めて攻めまくる!!
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「はっ、はっ」
逃げた敵と思わしき影を追い、僕たちは海辺の雑木林を駆け抜ける。
ペルセフォネを林の外に着陸させ、そこから走って向かっているのだ。
既にペルセフォネは姿を消し、僕と奏と操緒、3人で敵が逃げたであろう方向へと足早に進んでいく。
海から吹きつける潮風に紛れて微かに漂ってくるのは、異臭。
今迄に嗅いだこともないくらいに濃厚な獣と血と魔力、そして死の香り。
それが分かった瞬間怯み、逃げ帰りそうになる自分の足を必死に押し留め、藪を掻き分け進んでいく。
だが、進む程に香りは濃くなり、より濃厚な死の気配が足元から頭部目掛けて這い上って来る。
頭の中で警報が鳴る。
イクナ、ソコカラサキハ、ジゴクダ
本能というより経験。
この1年半で秋希さんや冬琉さんたちから叩き込まれた幾通りもの死の気配。
嵩月組の一員として介入してきた悪魔同士の争い。
それらの少ないながらも濃密な経験が僕に教えてくれる。
そこから先は自分には早い、行っても無駄に死ぬだけだ
と。
それでも足を止めることなく僕は突き進む。
本来であればGD程のてだれが数人がかりで挑む相手だ。
僕程度では力不足になってしまうなど、百も承知。
だが、僕には奏が、操緒が、ペルセフォネが力を貸してくれる。
それなら、
≪負けるはずがないじゃないか!!≫
心を震わせ、雑木林を駆け抜ける。
そして、ようやく林から抜け出ると、そこには、
「……準備万端、か……」
「ですね」
『うはー、スゴイスゴイ!!』
目の前に並び立つ11体の
それぞれが既に
雷が爆ぜ、水が噴き上がり、空気が渦を巻く。
血の海から大小様々な異形の怪物が湧き出せば、それらを狩り尽くさんとばかりに砂が吹き荒れる。
草木が意志を持ったかのように撓り、地面から腐敗が広がっていき、どこからともなく腐敗を引き裂きマグマが噴き出す。
かと思えば、すぐに冷えたマグマから石の巨人が立ちあがり、それらを覆う様に影が纏わりつく。
敵の全力なのだろう。
事前にアニアから聞いていた通り、多数の雌型悪魔と契約した
いや、この能力の
今となっては分からないことだが、何故この機体が敵の手に渡ったのか。
それもただの
魔力が残っている限り幾らでも創り出すことができる。
劣化要素の無い分身の術みたいなものだ。
単体としては弱い能力だが、数多の雌型悪魔と契約した
何故なら、一つの機体で数体の
だが、一つの機体に一体の
それに、
後は
まさにこの
……正直言って、非常に腹の立つ機体だが、それを今更アニアに文句を言ったところで仕方ない。
「来たな、邪魔虫共」
僕たちの姿を確認すると、中央にいる青年が笑いながら口を開いた。
学生連盟の本部で見せられた写真通りの姿。
見かけからは想像もできないほど流暢な日本語で話す姿には、違和感を抱かずにはいられない。
そして、今ここで話しかけて来たということは、逃げるつもりはない、と言うことだろう。
てっきり、あの現場から逃げたのは、そのまま逃走するためかと思っていたのだが……どうやら違うらしい。
いや、まだコピーで創り出した魔神達を囮にして自分が逃げる可能性もあるな。
「……あんたが“あれ”をやったのか?」
奏や操緒たちといる普段の自分から、嵩月組の一員としての自分に切り替える。
声は低く、顔は面の様な無表情へ。
決してこちらの心意を悟られない様にしつつ、徐々に殺気を洩らしていく。
「“あれ”……?」
僕の問い掛けに対し、目の前の
まるで、本当に僕が何を言っているのか分からないかの様だ。
「惚けるなよ。
あんたが幹部の連中を殺したんだろ……?」
自分でもゾッとする様な冷たい声。
何となく自分が
そんな僕の冷たい詰問を受けても、
「いや~、知らんけど……」
男は惚けるばかり。
まぁ、惚けるだけならまだ良い。
幹部殺しをやっていようがやってなかろうが、どちらにせよこいつは捕えることになっているのだから。
ただ、
「けど、そうか!!
あいつら死んだのか!!」
僕の齎した情報を初めて聞いたかのように振舞い、無邪気に喜んでいる姿を見ると違和感を感じずにはいられない。
≪……僕らは何かとんでもない間違えを犯しているんじゃないか……?≫
この世界で初めてまともにやり合うことになった強敵と対峙しているだけで感じる緊張感。
それに新たに加わった焦燥感。
二つのマイナス方向の思考は重なり、絡み合い、僕の中から集中力を奪っていく。
「ハ、ハハハハ……ってことは、お前たちさえ消えてくれれば本当に俺たちは自由になれるんだな!!」
高らかに笑っていた目の前の男は唐突に笑いを止め、玩具を前にした子どもの様に無邪気な顔で僕たちの方を睨んできた。
視線に乗って向けられたのは、明確な殺意。
そして、男の殺意に同調したのか周囲に控えていた魔神と
「っ、来ます!!」
奏は懐剣を構え、
『トモ!!』
操緒は虚空へと消える。
「ああ、行くよ!!
――来い、黑鐵!!」
そして僕は、影の中から魔神を呼び出す。
僕の呼びかけに応え、影は漆黒の虚無の色へと変化し、夜の浜辺に広がっていく。
影から浮かび上がってきたのは、右手に銀色に輝く巨大な剣を持ち、左手には闇を纏わせた魔神の姿。
他の魔神は全身が一つの色で大体統一されているが、白銀のパーツを流用しているため、所々に白い装飾があるのには少々違和感がある。
今迄の戦闘で使った様な部分召還ではなく、魔神の機体全てをこの世界へと浮かび上がらせる。
「……へぇ、幻の黑鐵がこんなところで見れるとはね。
だけど関係ない……ぶち殺す!!」
一瞬相手は僕の呼んだ機体名に怯んだけれど、すぐさま魔神たちに指示を出し、
本来だったら、まず勝てない相手だけど……何だか、負ける気がしないね!!
「行くよ、奏、操緒!!」
「ええ」
僕の呼びかけに奏ははっきりと返事を返し、操緒は黑鐵の機械音を響かせることで答えてくれる。
さぁ、
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「……後は、あいつだけ」
物陰に身を潜めながら時が来るのを待つ。
眼下では私たちの娘たちが理不尽な父親に酷使されているというのに、何も感じない。
ただ、早く現状が変わる事だけを望んで待ち続ける。
私は能力が役に立つという理由から殆ど拘束されていなかった。
だから、こうして動けるわけだけど……今となっては、それが良い事だったのかどうか分からない。
「………………」
月が浮かび始めた夜空に向かって右腕を翳す。
けれど、手は影とならずに月の光を直接私の顔へと導いてくる。
もう痛みもないし、熱もない。
動かすことは出来るし、物を触ったりすることは出来るけれど、感触は消えた。
もって後4、5回程度の能力行使にしか身体は耐えてくれないだろう。
けれど、それで構わない。
必要なのは、移動と刺殺、それだけ。
悠長に戦闘をこなせるほどの時間はない。
だから、最後までもって私の身体。
それさえできれば、私はもう消えても良い。
私自身の為にも、彼女たちの為にも、あいつは、あの男だけは殺してやらないと気が済まない。
それが、今の私に残された唯一の救いなのだから。
だけど……せめて、一度で良いからもう一度、会って話したかったな……
「兄様……」