言い訳させていただけるのであれば、リアルの環境が激変して書いている時間がなかったからなのです。
なので、今後もどれだけちゃんと投稿できるか分かりませんが、可能な限り続けて生きたいと思います。
こんな作者ですがどうぞよろしくお願いします。
「あの、秋希さん……?」
「どうかしたか?」
校内をずんずんと勢い良く歩きながら、嵩月さんに話しかけている秋希さんに声をかける。
周囲の生徒たちから向けられる奇異の視線などまるで気にすることなく廊下を踏破していく様は、非常に様になっている。
だけど、巻き込まれている側としては堪ったものではない。
あまりにも進む速度が速いので手を引かれている嵩月さんが目を回しかけているので、ちょっと速度を落として欲しかったりしたのだ。
……まぁ、個人的には目を回している嵩月さんは非常に可愛いので別に声を掛けなくても良いかと思ったりもしたけれど……流石に、可哀想だ。
一応、私だって嵩月さんだって並の人間より体力も技術もあるだろうけど、秋希さんに比べたらどうしたって悲しいものになってしまう。
……そんな個人的嗜好だとか体力以上に、
「部室に夏目くんを残してきたままですけど、良いんですか?」
私も一応科學部の一員で、
私自身が関わったわけではないが、夏目智春、嵩月奏の両名が中心にいた事件の顛末を考えると、ここで彼らと何らかの繋がりを持っていた方が良い。
それなら、四名家の跡取りである嵩月さんより、一
だから、ここでこうして秋希さんに引っ張られているより部室にいたい、というのが
……まぁ、一個人の黒崎朱浬としては、こうして先輩に引っ張られておろおろしている可愛い後輩を愛でる方が楽しいのは事実なのだけれど……
「別に構わんだろ。
部室には塔貴也がいるし、和斉のやつもいる。
部活見学という目的は十二分に達成されてるからな……それに、姿は見せていないがそろそろ操緒の奴が出てくるだろうから何も心配はいらないさ」
……操緒さん?
部長と八條さんの名前が上がるのは分かるが……“操緒”とは一体誰の事?
名前は女性のものみたいだけど。
「あうう……操緒さんは、とも……じゃない、夏目くんに憑いてる、
……あの、秋希さん、そろそろ、手を放して、下さい……」
「ああ、成程。
ありがとうね、嵩月さん」
「あの、だから、奏でいいって……あうう」
目を回しながらも説明してくれる嵩月さんに感謝。
けど、その要求は一先ず却下ね。
貴方たちがちゃんと洛高に入学してくれたら考え直しましょうか。
「おっと」
嵩月さんの言葉通りに秋希さんは手を放してくれたのだけれど、それと同時に嵩月さん本人が廊下に崩れ落ちてしまった。
そんな彼女の背中に咄嗟に手を回して体を支えて上げる秋希さん。
なんだか、背景に百合の花が見えるのは私の気のせいかしら?
……まぁ確かに、そんじょそこらの美男美女のカップルがやるよりも余程絵になるわね。
ただ、塔貴也さんには見せられない一枚絵であることは確かだ。
そんなことをしたら、また、あの人の秋希さんの彼氏としての尊厳を傷つけてしまうことになる。
「……夏目や嵩月との関係について不安を覚えているのなら気にすることはない」
「……え?」
嵩月さんの背中をさすりながら秋希さんがポツリと漏らした言葉に呆けた声を上げてしまう。
「どうせ、お前の事だから色々考えているんだろうが、あまり考えて人間関係を構築しようとするな」
「な、なんのことですか?」
まずい。
バレてたみたい。
「お前がこっちの世界にまだ不慣れなのは知っているが、考え過ぎるなってことさ。
悪魔にしろ、
「はぁ……」
「まぁ、その内分かってくる。
私だってそう考えるようになったのはここ最近になってからだしな」
そこまで言って秋希さんは、嵩月さんを支えながらゆっくりと歩き始めた。
先程までの猛進ではなく、隣の少女を気にした歩み。
「……そんなこと言われたって」
私にはまだ分からないことだらけだ。
秋希さんのことも、塔貴也さんのことも、夏目くんや高月さんのこと、そして、何より、瑶や封印されているはずの“あの子”のことさえも、今の私には分からない。
秋希さんの言葉に対して、一言ポツリと漏らし、私も二人の後を追った。
今はまだ、進むことしか出来ない私に出来ることと言えば、崩れそうになっている嵩月さんを秋希さんとは逆の方向から支えてあげることぐらいだ。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
……以上が、今年度になってから悪魔たちが起こした事件とその概要だ」
八條さんが、読み上げていた資料を机の上にバサリと放り投げる。
「ちょっと、見せてください」
「ああ、良いぜ」
その放り出された資料を自身の手元に引き寄せ、目を通す。
≪……なるほど≫
紙に書かれていたのは、八条さんが口頭で説明していた通り、今年度の4月から5月第1週分までの凡そ一ヶ月分の事件の詳細が記されていた。
まず、一枚目には、今年度に起きた悪魔関係の事件が種類ごとに分類された簡単な表。
表の一番下には事件の総数と、それらの事件に加害者側として関わった悪魔たちの総数が記されている。
事件の総数は90を少し超えた程度で、悪魔たちの人数は30人程度だ。
単純計算で関わった悪魔一人あたりが三つの事件を引き起こしていることになる。
もちろん、集団で起こした事件もあるし、一人の悪魔が何度も事件を引き起こしているケースもある。
さらには、事件が起きている日と事件が起きていない日も。
それでも、一月あたり90件、一日で3件は起きていることになる現状はいくらなんでもおかしい。
話には聞いていたけれど、実際に数字として目の前に突き付けられると思うところがあるのは事実だ。
「……ん?」
資料を読み込んでいくうちにいくつかの情報が僕の目を惹いた。
「どうかしたのかい、夏目くん?」
「いえ……」
僕が漏らした疑惑の吐息を耳聡く聞きつけたのか、塔貴也さんが僕の方に声を掛けてくる。
それに否定的な答えを返しつつ、
「八條さん……少し質問良いですか?」
言葉を繋げる。
「何か気付いたのか?」
「いえ、気付いたと言うほどのことではないのですが……少し、気になることがありまして」
『気になること?』
「ああ」
操緒の言葉に軽く頷き、言葉を続ける。
「この、風斎美里亜が仲裁役として関わっている件についてなんですけど……」
「……やっぱりそこか」
僕の言葉に特に驚きも見せずに返事を返す八條さんと、顔に張り付けた笑みを深める塔貴也さん。
そりゃあ、そんな反応しますよね。
僕だって立場が逆だったら同じような反応をするに決まってる。
「いえ、他にも傾向の変化とか事件の組織化とか色々突っ込みたい部分は有るんですけど……」
嵩月組の一員として気になるのは寧ろこっちの方だったりするのだが、真日和たちのその後を知っている分そんなことを言っているわけにもいかない。
「……個人的にはそっちの意見を聞かせてもらいたいが……それで、何が気になるんだ?」
やや大げさに溜息を吐いてみせた八條さんに申し訳なく思いながらも口を開く。
「……真日和秀が加害者で、被害者が沙原ひかりってどういうことですか?」
僕の記憶が確かなら、ひかり先輩が第二生徒会に入ったのは、第一生徒会に襲われていたところを真日和や六夏会長に救われたからだったはずだ。
それなのに、真日和がひかり先輩を襲う?
まるで意味が分からない。
しかも、数ある報告書の中でも人間が加害者で悪魔が被害者という非常に稀有な事例でもある。
真日和とかの部分を取り除いて考えたとしても、この事件は他の事件と比べてみても一際異彩を放っていた。
これで加害者と被害者が逆なら――納得はいかないが――まだなんとか理解はできる。
能力の暴走なり、交流のある他の悪魔から何か言われたりなど、いくつか理由は想像できるからだ。
だが、現実はそんな簡単にはいってくれない。
「報告書に書いてあるとおりだ。
事件発生は昼の休憩時間、発生場所は1年7組の教室内。
発生状況としては、昼食を取っていた沙原ひかりと風斎美里亜の間に真日和秀が乱入し、沙原ひかりと口論になった末、真日和秀が手を出した。
沙原ひかりはやり返すことなく逃走、その後風斎美里亜が真日和秀と何か言い合った後に教室を出て行った姿が目撃されている。
……正直に言って、事件というよりもただの痴話喧嘩だと思うんだが……」
『うん、私も悪魔が二人関わってなければ単にややこしい三角関係だと思うんだけど』
僕だって、苦笑いしながら言ってくる二人とその件については同意見だ。
以前の世界での二人を知っている分、今回の事件が信じられないだけなのかもしれないのだ。
「単に、君たちが関わってきた結果流れが変わっただけじゃないの?」
「それは、まぁ……」
塔貴也さんにそう言われると本当にそうなっているような気がしてならない。
実際、会合の時に会った美里亜さんは真日和とそれなりに仲が良かったようだし……
まぁ、その後の二人がどんな過程を経て現在の状態になったのか知らないから、これが以前の世界でもあったことなのか、この世界限定のことなのか判断はつかないのだけれど。
「そのあたり、奏とか冬琉さんに聞いてもらえれば判断つくんですけど……」
奏ならそれなりに仲もいいから聞けると思うんだけど。
その一方であまり対人関係が得意ではない奏にそれを任せて大丈夫なのかという不安もあったりする。
一応、彼氏として信頼はしているけれど、それはそれ。
苦手なことはこっちでもフォローしていきたいのだ。
「ま、何か大きな変化が起きたらお前らに連絡してやるよ」
『あのー、何か起きてからじゃまずいからこうして話してるんじゃ』
「それは操緒くんの言うとおりだと思うけれど、これ以上どうすれば良いんだい?
精々第二生徒会により大きな注意を促すか、真日和、風斎の両名を注意して見ていく程度しかできないと思うんだけど?」
八條さんでも、塔貴也さんでも言っていることは至極尤もで反論の仕様が無いほどの正論だ。
でも、放っておく訳にいかないのも事実。
「せめて契約しているかどうかだけでも分かりませんかね?」
2年前にはすでに出会っていた二人なのだから、契約ぐらいいっていてもおかしくはないと思う。
というか、契約前ならまだ非在化への対処法はいくらでもあるのでそこまで重要視しなくても良い。
だが、契約しているのであれば、下手に美里亜さんに魔力を使わせるわけにもいかないのである。
「
ここ数年見てないからまだ契約してはいないと思うが……」
腕を組んだまま色々思い出そうと首を傾げている八條さん。
「それでもどこかの誰かのように姿を見せていないだけかもしれないし、何とも言えない」
「『むぅ……』」
そう言われると僕は何も言い返せない。
四名家の娘という点も、一般の男子と恋仲になっているという点も。
どちらも、
というか、実際に隠していた身としては隠さない理由の方が分からなかったりする。
操緒と二人して唸り声を上げる。
「……じゃあ、それでお願いします。
契約しているのかしていないかが分かったらまた考えますので」
取り合えず、今はそうするしかないだろう。
出来れば今回のオープンキャンパス中にある程度方法と解決策だけでも決めておきたかったのだが……仕方ないか。
『なら、取り合えず後で奏ちゃんとか冬琉さん、秋季さんに頼むしかないね』
「そうだな。
じゃあ、次はお前が気になったっていう傾向の変化とか事件の組織化について聞こうじゃないか」
先ほどまでの態度を一転させ、声を弾ませながら話す八條さん。
余程退屈だったらしい。
視線を塔貴也さんに移せば、明らかに先ほど以上に目を輝かせている。
結果が殆ど見えていることを話すよりもこちらの方が面白いだろうから、この変化は仕方ないこととはいえ、若干落ち込む。
「……分かりました。
そのあたり話していけば少しは解決策とか浮かぶかもしれませしね」
十中八九真日和たちの件と校内が荒れている件は無関係だろうけれど、一度別のことを考えた方が頭も回るだろう。
「じゃあ、早速話してくれるか?」
「分かりましたよ。
じゃあ、まずは……」
促されるままに口を開き、先程資料を見て気づいたことを口に出す。
いや、出そうとしたときに、
ガンッ
と大きな衝突音を立てて入り口の扉が開いた。
慌てて扉の方へ視線を移すと、
「はぁ、はぁ、八條さん!!
秋季さんと、嵩月さんが!!」
そこには、左腕をショートさせ、頭部から血を流し、右足から煙を上げ、今にも床に崩れ落ちそうな満身創痍の朱浬さんの姿があった。
「なんだ、どうした!?」
すっかり話を聞こうとしていた体勢から一転、早足気味で朱浬さんに近づいていく。
八條さんが手を差し伸べ、朱浬さんの体を支えたところで、
「二人が第一生徒会と悪魔の交戦に巻き込まれて負傷しました!!」
そんな言葉が部室内に響き渡った。
去年の大晦日以来なので……9ヶ月と少しですか。
今も読んでくださっている方がいるか分かりませんが、どうぞよろしくお願いします。
というか、自分の下手さぶりに愕然としております。
さすがに半年以上書いていないと凄い鈍ること……