まずは謝罪を。
期待して頂いていた方がおられるか分かりませんが、遅くなり申し訳ございません。
改めて見直してみると、約4年の歳月が経過していたことに驚きを隠せませんが、不幸にも私は元気です。
今後も細々と続けていければと思っていますので、宜しくお願いします。
また、お待ち頂いていた間の感想など、全て拝読しておりますが、返事が出来なかったことこの場をお借りしてお詫び申し上げます。
ご指摘頂いた部分なども、随時修正しておりますのでご容赦ください。
校舎からの喧騒が町の喧騒と重なり消えていく。生徒の声は木々の騒めきに吸い込まれ、悲鳴や鳴き声は車の騒音が掻き消していく。淡い夏の香りを含んだ空気は、空高く澄み渡っており、夏とは思えない清涼を感じさせる。
だというのに、
「はぁーー」
僕の心にはどんよりと厚い黒雲が広がっていた。
校内の隅。洛校と世間を隔てる壁に寄りかかりながら僕は蹲っていた。可能な限り人に出会いそうにない場所を選んだ結果である。
なんであんなことしちゃったかなー
頭を占めるのは先程までの破壊行動に対する後悔の念。場を離れて冷静になった今だからこそ思うことはあるわけなのです、はい。
脳裏に映るのは、校舎に満ちる第一生徒会や悪魔の面々に放った蹂躙の一撃とその結果。別にそのことを後悔している訳ではないのだけれど、やはり画として浮かんでしまうのだ。
『今更何後悔してんの。別にあれぐらいの報い、受けて当然だと思うよ?』
溜息を吐く僕の姿を見かねたのか、それとも単に鬱陶しくなったからか知らないが、操緒が呆れた様子で僕に話しかけてきた。
「いや、そこじゃなくてさ」
別にあれぐらいのことでは気を落とすつもりはない。死なないように手加減はしたし、負傷者や死体を見るのもこの2年で慣れたものだ。以前の世界からの顔見知りを傷付ける事も覚悟していたことだ。奏を傷付けたのだから許すつもりがないのは、今も同じ。
現に、胸の奥では今も彼らにこれ以上の仕打ちを与えたいと思っている自分が燻っている。彼らを傷付けたことを後悔しているなどあるわけがない。
『じゃあ何に落ち込んでんの』
不思議そうに首を傾げる操緒。分かって聞いているのか、本当に分からないのか。前者だとは思うけれど……まぁ、良いか。
「いや、単純に今後のことがすごく面倒になったと思ってさ」
純粋に、今後のことだけを考えると凄くやってしまった感がある。自身の感情としてはあのことは当然であり、悔やむことなど何一つありはしないのだが、理性の部分はそうも言ってくれない。
洛校のオープンキャンパスで見学に来ていた中学生が在校生30人近くを負傷させました。
誰がどう見ても大問題である。校内の暴力事件というだけでも問題なのに、それをオープンキャンパスに来ていた外部の人間が引き起こしたというだから尚のことだろう。しかも、武装――能力など含め――した30人だ。いくら洛校がその類の事件に慣れているとはいえ、外部の人間を巻き込んだ問題がそう簡単に片付くとは思えない。
更に言えば、今の僕の立場はかなり曖昧なところにある。
ある程度公になっている部分だけでも、嵩月家の関係者であり
先立っての
そんなところに今回の件である。何も起きない訳がないではないか。それに、
「来年ちゃんと洛校に入れるかな……?」
仮に問題が片付いたとしても、事件を大きくした原因である僕自身が洛校に入学することが認められるとは思えない。第一と第二の両生徒会はほぼ間違いなく反対するだろうし、これだけのことをしでかしたのだから第三生徒会にしたって賛成してくれるとは考えにくい。いくらなんでも採用・不採用に生徒会が関わってくるとは考えたくないが、一般生徒ではない以上その考えは通用しないだろう。
そうなってくると、肝心の高校1年という時間を僕は何もできないで過ごしてしまうことになるかもしれない。勿論、別の高校に行ったとしても活動をすることは不可能ではないし、いくらでも対処の仕様はあるのかもしれないが、少なくとも自分が以前の世界で過ごした1年というアドバンテージは消失する。
そうなるのは流石に困る。というか、困るどころの話ではない。
『さぁ?』
「『さぁ?』って、お前な……」
他人事にも程があるだろ。と、続けようとした時だった。
「――どこに行ったかと思えば。こんなところで何をしてるんだ、智春?」
聞き覚えのある、しかしまるで考えていなかった男の声。
『……嘘…』
驚き、顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、僕と瓜二つと言っても過言ではない男の顔。ただ、背丈は年齢分だけ差があるのか、僕よりも目線が少し高い位置にある。
「……なんであんたが…ここに……!?」
夏目直貴
表向きは僕の実兄であり、数々の論文や特許を取得している天才児。その裏では世界を救う為、暗躍する最強の
もう一つの裏の顔。本来であればこの世界の僕が知っている筈のない情報。この世界の僕を飛行機事故から蘇生させた雄型悪魔。
“操緒”を助けるために“嵩月”を選んだ少年。
一巡目の“夏目智春”
そんな、いくつもの顔を持つ青年は予想外の出来事に愕然としている僕らの姿を見て、意地の悪い笑みを浮かべるのだった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「夏目直貴がここに…?」
「ええ」
佐伯くんの妹を抱えた和斉が私の言葉に不思議そうに首を傾げる。周囲からの疑惑の視線もなんのその。周りの人間が自身に向ける感情など気にも留めず目的地に向かって邁進する姿は頼もしい限りだ。
「態々このタイミングで……まさか、さっきまでの騒動もあいつの指金か?」
「流石に私じゃそこまで知らないわよ。ただ、会長充てに
現場から保健室に向かう道中。オープンキャンパス中ということもあり、学外の人間で賑わい、喧噪が廊下中に広がっている。彼らの目には普段とは違う空間への期待や不安、お祭りムードの校内各所へと向けられる好奇心、引率の教員の様子を窺う疑惑、そして先程まで校内に響いていた轟音への恐れがあった。
校舎外や体育館の催しに誘導されていた中学生たちだが、今はもう封鎖された現場以外は開放されている為、校内は事件前の喧噪を取り戻し始めていた。
そんな中、180㎝越えの男子生徒がオープンキャンパスに参加している女子学生を抱えながら人混みを掻き分け歩いているのだ。目立たないわけがない。
「話?」
そんな周囲の好奇の視線を気に留めることなく、私たちは話を進める。
「ええ、又聞きになるけど……」
会長曰く、狂会からの話にあった要点は3つ。
1つ目は、留学中の重要人物―夏目直貴―が一時帰国し、洛校にOBとして訪問する予定であること。
2つ目は、その人物が表立って歓待されることは望んでいないということ。
そして最後、訪問の目的について尋ねるのは一切許可しないということ。
要は、忙しい合間を縫ってまで狂会の重要人物が来る用事が洛校にあるけれど詮索は一切するなということだ。しかも、それを狂会が内々とはいえ認めているという事実。
現在の洛校にも当然ながら狂会に影響を及ぼす重要人物は在籍する。私や秋希ちゃんも
だが、相手が夏目直貴となれば話は別だ。
洛校のOBであり、狂会本局に対して洛校が与えられる影響を拡大した男。狂会にも技術提供などの点から非常に大きな影響力を有しており、方針を決めるに当たっても一言担当者が聞きに来る程だという。つまり、我々後輩が幾ら口を出そうとも、どうしようもない相手だということである。
「しかし、何でこんなタイミングで来るのかね?」
私の言葉に頷きながらも、不機嫌そうに首を傾げる和斉。この忙しい日に来る面倒な先輩について思うところがあるようだ。理由は思いついているだろうに、敢えて私の口から言わせたいのが可愛らしく見えるのは、惚れた弱みだろうか。別に気にすることでもないので、その誘導に従って話を進めましょう。
「いくつか理由は考えられるけど・・・・・・大方、弟のことでしょ」
以前、興味本位で夏目くんに兄弟関係について聞いてみたことがある。あくまで軽い雑談のつもりだったのだが、彼は非常に厳しい表情で固まってしまった。てっきり、憧憬や劣等感など正負、どちらかに染まった感情を見せてくれると思っていただけに、理想や羨望と後悔や無念といった相反する感情がごちゃ混ぜになったその表情は忘れ難い。
とはいえ、そんな表情を浮かべたのも一瞬。すぐにいつもの優柔不断な幸の薄そうな表情に戻り、
『・・・そうですね、憧れではありますけど、ああは成りたくないとも思います。お互い、不干渉でいられるならそれが一番良いのかも・・・・・・』
そんなことを言っていたのだ。一般的な兄弟に対する感情としては不適切かもしれないけど、そんな関係もあると思ってその場は特に気にしなかった。
だけど、弟から兄はマイナスでも、兄から弟がマイナスとは限らない。
正負の話ではない。関係を保とうとする意志がプラスかマイナスかという話だ。夏目くんは言うまでもなくマイナスだろう。少なくとも積極的に兄との関係を保とうとはしていなかった。
だから、私はてっきり兄の方も弟と同様なのだと思っていたが・・・・・・科学狂会からの報告書を見る分にはどうやら違うようだ。報告書によると、夏目直貴は忙しい合間を縫って何度も日本に帰国しているらしい。
故郷への帰省と考えれば特別おかしな頻度ではない。だが、“あの”夏目直貴が、稀代のマッドサイエンティストが、普通の学生と同じような頻度で帰省するのは、明らかにおかしい。資料を一読しただけではその答えはまるで分らなかったが、弟のことを思い返してみれば、朧気ながらも理由は思いつく。
嵩月、
「前から思ってたけど、俺たち以上に大変だよな」
誰のこととは言わないが、私の考えを聞いた和斉がポツリと漏らす。
「ええ、そうね」
その言葉に当たり前のように同意する。誰の事とは当然言わないが。
秋希ちゃんを、私たち姉妹を助けてくれた恩もあるから、可能な限り助けるつもりはあるけれど……
「今は一先ず、やることをやってから考えましょう」
私たちの出来ることは多いようで少ない。今はオープンキャンパスをこれ以上騒動が起きない内に終わらせることを最優先で考えなければ。これでも生徒会役員なのだ。
「そうだな。それにこいつから手が離れないと仕事にも掛かれん」
それに、そろそろ和斉の腕の中に鎮座しているお嬢さんをどうにかしないと動くに動けないのも事実だ。というか、事情が事情なだけに仕方ないと思うが、素直に羨ましい。
付き合い始めて凡そ半年。何度かデートもしたし、ABCで言ったらAは済んだものの、BやCまでは中々……というのが現状だ。まだ互いに学生の身だし、仕方ないと思わなくもない。
……勿論、求められれば応えるつもりはあるけれど、もう少し、もう少しだけ心の準備が欲しかったりする。和斉の……雄型悪魔の事情も分かるから、この件に関しては互いに無理強いしないことだけは、付き合い始めた段階で二人で話し合って決めているけれど……やっぱり思うところはある訳で……こんな、男勝りの私の事を可愛いと言ってくれる彼氏なのだ。女性らしい望みを叶えてくれることに対して、期待せずにはいられないのが正直なところ。つまり、何が言いたいかというと……
≪触れ合いが足りない!!(道場の鍛錬などの触れ合いは除く)≫
ということである。
そんな中で、仕方ないとはいえ彼氏の腕に抱かれる、お姫様抱っこされる別の女。意識するなというのが無理な話で……
「ところで、冬琉。今週末空いてるか?」
「ふぇっ!?」
色々思いながら歩いていると、急に正面に和斉の顔が現れた。咄嗟のことで、普段上げないような声が出てしまう。
「なんだ、考え事でもしてたか?」
そんな私の反応を見て、楽しそうに語りかけてくる彼氏。恥ずかしいことこの上ない。
「なんでも無いわよ!!」
「はは、悪かったって」
つい語気を荒げてしまうも、それもただの照れ隠しだと分かっているのか和斉の調子は変わらない。それが悔しくもあり、嬉しくもあるのは惚れた弱みという奴だろうか。
ああ、顔が火照り真っ赤になっているのが自分でも分かるが、隠さないで良いのは以前では考えられなかったほど良い気分だ。
「……それで、今週末だったかしら。確かに、昼間は何も無かったと思うけど……」
照れ隠しに話を進めるも、唐突なお誘いに心が昂るのを隠せそうにない。
彼氏の腕の中に納まっている少女のことなど忘れ、私と和斉は保健室へ向かう足を速めるのだった。
話の内容を思い出すために自分の文章を読み返し、アスラクライン自体も読み返すと、不思議と意欲が湧いてくるのは何ででしょう。
原作に入っていないところで打ち切ってしまうのは、自分でも不本意なので頑張っていこうと思います。
どうぞ、宜しくお願い致します。
追伸:二年前に結婚しました。