幸い、私の周りは無事な人ばかりで、私自身も普段通り過ごせております。
コロナのみならず、昨今の地震で被災された方々の無事を祈っております。
投稿、遅くなりすみません。
感想は全て拝読しております。それぞれにお返事できていないこと、ご容赦下さい。
こんな私でも待って頂いている方がおられること、非常に励みにしています。
亀のごとくゆっくりとですが、続けていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
「『なんで?』なんて、野暮なこと聞くなよ。可愛い弟の様子を心配して、忙しい合間を縫って会いに来てやってるんだ。
寧ろ、感謝の言葉とかあってしかるべきじゃないのか?」
目の前にいる
「……感謝することとか何もないんだけど……」
出来れば会いたくはなかったけれど、会うことになったら、言いたいことは山ほどあった筈だ。世界のこと、
知られていたら、糾弾されるものだと思っていた。知らないのであれば、関わってくるのは前回と同じような時期だと思っていた。だけど、今目の前にいる
「無い訳ないだろう。家のこと、仕送りのこと、諸々あるだろ。特に、操緒ちゃんのこととかな」
出して欲しくない名前。だけど、出てこない訳の無い少女の名前。僕の後ろで今更姿を隠すことなく浮かんでいる色素の薄い髪。宙に浮かぶ
「……そうだね。僕も色々聞きたいことはあったんだ。直兄の後ろに浮かんでた
覚悟は決まった。僕の言葉に一瞬だがにやけた顔を崩し、品定めするかの様な視線が僕を射抜く。これまでの僕だったら蛇に睨まれた蛙の様に、それだけで身が竦みまともな受け答えが出来なくなっていたことだろう。だけど、僕もこの三年間何もせずに過ごしてきた訳じゃない。その程度の視線に怯むなど、あり得ない。
今、一巡目の嵩月は
勿論、直貴が知らないなんてことはありえないだろう。だけど、少なくとも僕ら――兄弟の間ではその事について話したことはないのだ。互いに互いの情報が不明瞭なままの兄弟喧嘩。それでも、諸々の情報量から、僕の方が有利……とまではいかなくても、同じ土俵には立てる筈だ。
「はっ、言うようになったな。誰に入れ知恵された。嵩月か橘高か、それとも雪原か」
嘲る様な笑みを再び顔に張り付け、値踏みを続ける直貴。
「別に誰でも良いだろ。弟の人間関係に直兄がそこまで興味があったなんて、僕にとってはそっちの方が驚きだよ。何?今まで自分の後ろを歩いてた人間に抜かされそうになるのがそんなに怖いの」
釣られてこちらもスイッチが入る。躊躇を捨て、目の前のことを見定めろ。必要なのは
「……言うようになったじゃないか。お前に抜かされるなんて微塵も思ったことなかったが、態々自分から切り出したんだ。今更、分からないとは言わせないぞ」
売り言葉に買い言葉。直貴自身も僕のことを正面から見据え、自身の障害になり得る存在だと認識したようだ。怖い。けれど、面白い。今の僕がどれだけ“一巡目”の智春とやり合えるのか。意図せず、顔に笑みが浮かぶ。
そんな僕を不敵な笑みを浮かべつつも、目の奥は全く笑っていない直貴。
「分からないって何を?」
「惚けるつもりか?」
「別にそんなつもりはないよ。ただ、直兄が何を言いたいのかはっきり言ってないのに分かる訳ないじゃないか」
のらりくらりと直貴の言葉を受け流す。勿論、直貴が何を言いたいのかなんて分かっている。
「はっきり言ったらどうさ。操緒を幽霊にして僕に縛り付けたのは自分なんだ、ってさ」
直接的な単語を使うつもりはない。けれど、操緒のことについては触れても良いはずだ。態々自分から
『特に、操緒ちゃんのこととかな』
と口に出したのだ。互いの立場は分からなくても共通認識として知っていることはある。ただし、その認識の詳細を直貴は僕がどこまで知っているのかは分からない。一方で僕も知っているけれど漏らすわけにはいかない情報でもある。
「良かっただろ?
可愛い異性の幼馴染みが四六時中、それこそおはようからおやすみまで思春期男子の傍にいてくれるんだ。他人から見れば垂涎の的だ」
直貴の売り言葉に顔が熱くなる。副葬処女の運命を知りながらよくもまぁぬけぬけと言えたものだ。それも、自身が助けようとした少女の異世界の姿だというのに。
おそらくこれまでの僕であれば、この言葉の意味も分からず、ただ怒りに任せ直貴に殴りかかっていたかもしれない。
僕のことはいい。操緒の苦労も知らず何を勝手なことを、と思っていたはずだ。
だけど、
「そうだね。直兄もそんな綺麗な人が常に一緒にいてくれるんだもんね。
今言ったのは実体験ってこと?環緒さんに悪いと思わないの?」
今の僕はこいつの事情も知っている。こいつが何故この世界にいるのか。この世界で何をしようとしているのか、分からないなりに分かっている。それにいくら成長して賢しく、威厳を保てるようになったといっても、結局は自分自身のことだ。何を言えばどう反応するのかなんて、分かり切っている。
今更姿を消していてもしょうがないと思ったのか、直貴の後ろに巫女装束を纏ったやや大人びた嵩月の姿が現れる。その姿に顔が綻びそうになるのを抑え、視線は動かさない。
「こんなことで関係が破綻するほど、俺たちの仲は悪い訳じゃない。
寧ろ、あいつのことだ。そんなことになれば話のネタが増えて喜ぶことだろうよ」
「そこは水無神姉妹の共通点なのかな」
姉妹の共通点というか、同一人物なのだから当然なのだけれど。
しかし、中々本題に入ろうとしないのはこちらを予想以上に警戒しているのか。それとも、こちらの反応を見て対応を考えているのか。
いずれにしても、面倒なことに変わりはない。かといってこちらから事情を話すのも癪だ。そもそも、なぜ直貴がこんな所にいるのかが分からない。流されてしまったが、言葉通りに態々僕らのことを心配してやってきたとはとてもじゃないが思えない。まだ「洛高のOBとしてオープンキャンパスが気になったからやって来た」とでも言われた方が疑問は少ない。僕らがオープンキャンパスに参加しているのは母親にでも聞いたのかもしれないが、それで帰省しているのはいくら何でも不自然すぎる。
「………」
「どうしたの」
皮肉の一つでも返ってくるものだと思っていたら、人の悪い笑みを消し、神妙な顔つきでこちらを見つめてくる直貴がいる。今更かもしれないが、何かおかしなことでも言ったか不安になる。これまでの会話を思い返してみても、特段ボロを出すような発言はしていないと思うけど……
「単刀直入に聞こう。お前は、俺たちのことを知っている“夏目智春”か。それとも、僕たちのことを知っている“夏目智春”か」
神妙な顔はそのままに、目の前の男からは今迄の高圧的な空気が消え、どこか探るような慣れ親しんだ空気が感じられる。つい、慣れ親しんだその顔に、嫌という程聞きなれないのに知っているその声に絆される。
さっきまでの疑い、探るような目つきから、情に訴え人の判断を緩ませようとする人誑しの目つきへと変わる。その態度こそ、本来の“
それでも、その態度自体がブラフの可能性があるなら、気は抜けない。確かに、雰囲気は僕の知っている直貴ではない。だけど、言葉遣いや姿勢に態度、その他諸々が僕の知っている直貴そのままだ。
そして、分かっているからこそ今の目の前の男の態度に腹が立つ。演じると決めたのであれば最後まで演じきれ。ブラフだとしても、
『トモ、良いんじゃないの?』
こっそりと僕の耳を打つ操緒の言葉を受け流し、目の前の男を見据える。
「……何を言いたいのか分からないけど、僕は智春だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
あくまで憮然とした態度は見せず、何も知らない中学生で通す。
この態度が通用するかは分からないが、こんな安易な誘いに乗ってやるもんか。
確かに、ここで互いに情報共有できれば格段に物事は前に進むだろう。既に直貴自身の知っているであろう未来はない。ニアがどれだけの内容を一巡目の世界で話してきたのかは知らないが、少なくとも以前の二巡目の様な詳細まで今の世界では分からない。けれど、どういう未来を目指しているのか共有するだけでも、互いの手段、行動、全てを理解して行う意味は大きい。協力の是非ではない。物事を運ぶ手順が微修正されていくことが何よりも大事なのだ。
「……そうか。その答えが聞ければ十分だ」
しかし、僕のこの態度を見た直貴の態度は予想していたものとは違っていた。てっきり予想が外れて普段通りの嫌味を返してくるか、素知らぬ体で詰問を続けるかと思っていただけに、
「何で急に笑ってるんだよ」
笑みを浮かべている目の前の男が純粋に不気味だった。
「確認しなきゃいけないことは無事済んだからな。笑みの一つも浮かぶさ」
「はぁ?」
まるで意味が分からない。この場で直貴の発言の意図が分かっているのは本人だけだろう。僕も、操緒も、直貴の後ろに浮かんでいる嵩月も揃って顔に疑問を浮かべている。ただ、向こうの嵩月がどことなく嬉しそうな顔をしているのが不思議だった。
「智春」
「なんだよ」
疑問を浮かべた顔はそのままに呼びかけに答える。向こうの用事は済んだのかもしれないが、まだ帰るつもりはなさそうだ。それが非常に苛立たしい。これから僕は色々事後処理を考えないといけないのに。
それに何より奏の様子を一刻も早く確認したい。重症には陥ってないことは分かっているけれど、時間を置けば置くほど不安は募っていく。
「さっき学校内でお前が起こした騒動だが、揉み消してやると言ったらどうする?」
「え?」
「なんだ急に間抜けな顔浮かべて。あれだけの振動や騒音が起こってたんだ。関係者の目星が付くかどうかは分からないが、俺じゃなくても騒動の有無ぐらい分かるだろ」
「それはそうだけど。さっきまでの騒動に何で僕が関わってると思うのさ」
嫌な汗が後頭部から噴き出てくるのが分かる。直貴のいうことは至極尤もだが、僕が関わっているかどうかなんて、少なくともあの現場にいなければ分からないはず。将来的に各所に知られることになるのは仕方ないと思ってるけど、よりによってこのタイミングで、しかもこの男に知られるのは望ましくない。どう転んでも悪い方向に転がり落ちていく予感しかしない。
先程までの“智春”としての態度はすっかり消え、再度不敵な笑みを顔に張り付けて話し始める直貴。
「理由はいくつかあるが、一つはオープンキャンパスに参加している筈の中学生であるお前がこんな在学生でも来ないような場所案内の学生も同行せずに単独でいること」
朗々と語りながらも決して僕から視線は外さないのが余計鬱陶しい。
「一つは事態の処理に当たっているのが第三生徒会であること」
関係者だから既に情報を掴んでいるとでも言いたいのか。いくら何でも早すぎるだろうが。そして、
「最後はそもそもさっきの騒動自体、俺が嗾けたからだ」
「……なんだって?」
最後の理由は到底僕には、許せるものではなかった。
何とか一年以内に投稿できました。
遅くなりましたが、継読されている方々には頭が下がるばかりです。
次は、もっと、早く、書けたらいいな……