正座を、していた。
決して強制されているわけではなく、わたしは自らの意思で正座をしているのであって、目の前の彼女が怖いからとかではない。
だってほら、目の前にいる女性はこんなにもにっこりと微笑んでいる。絵に描いたような笑みだ。
「ねえ、ナギ?」
「ひぃっ!? はひっ!」
断じて、わたしは、ビビってない。ちょっと舌を噛んだだけだ。
にっこり笑顔で微笑むのは今井リサさん。友希那ちゃんと同じく、Roseliaに所属する1人である。いつも優しくて、みんなのお姉さん的存在。だからこそ、怒らせてはいけない。
「アタシ、この前見ちゃったんだよねー」
「な、なにを……?」
「…………」
「…………ふへ」
生まれる静寂。
わたし、また何かやっちゃいました?
たは〜、と頰を掻きながら引き攣った笑みを浮かべる私と、うんうん、頷きながらお人形さんのように綺麗な笑みを浮かべるリサさん。
そしてゆっくりと、リサさんが言葉を発する。
「友希那と、ナギが、2人で、手を繋いで、歩いてる、ところ」
だよ、と首を傾げるリサさん。
なんかリサさんの目、瞳孔が開いていて怖い。いつもの優しく朗らかなリサさんはどこに行ってしまったんだろうか。
「ひぃん」
「別に怒ってるわけじゃないよ? ただ、2人で何してたのかなーって思ったんだよね」
「あの」
「仲良く、手を繋いで」
「はわわ」
「2人で」
「あ……あぁ……」
「なにを、してたのかなー??????」
身体中から冷や汗が噴き出す。
熱が奪われ、息が荒くなる。
はわ……こ、こわいよぉ……有咲、おばあちゃん……っ!
2人の笑顔が脳裏に浮かび、消えていく。そう、2人は今そばにいないのだ。わたしがなんとかしなければ。
けれど、リサさんはわたしと同じく友希那ちゃん好き好き勢なので、そう容易く「デートしてましたえへっ」なんて言えない。
しかしこのまま黙秘するわけにもいかないのだ。なぜなら沈黙は肯定なのだから。異論があるのであれば、声を上げなければならない。
「リ、リリ、リサさん!」
「んー?」
「すみませんでした」
土下座である。
日本人なら、謝るときはこれだ。
決して恐怖を感じているとか、そういうわけではない。誠意を示しているだけなので。震えてる? いや、そんなことないけど?
「…………」
「許してください」
もう認めるしかないのだ。だって見られているのだから。それならもう誤魔化す方が悪印象である。ここは素直に許しを乞おう。
「はあ……ナギ、顔あげなよ。もう怒ってないから」
その言葉にはっと顔を上げると、呆れたような表情でリサさんが笑っていた。これは、許される流れ?
「ほ、ほんと?」
「でも、今度はアタシを連れていって欲しいなー」
「へ?」
リサさんが拗ねたように唇を尖らせる。
あれ? もしかして、怒ってたのは友希那ちゃんがわてしとデートしていたからじゃなくて、わたしが友希那ちゃんとデートしてたからなの?
……なにそれ、かわいい。
「リサさん、わたしとお出かけしたかったんですか?」
「いやー、最初は友希那がーって思ってたんだけど……途中からナギとおでかけずるいなーって」
恥ずかしいけど、とリサさんが赤く染まった頰を掻く。
「ヤキモチなんだけどさ、あはは、アタシもよくわかんなくて。どっちに妬いてるのかなー?」
思わず口元を押さえる。生き残った喜びもさることながら、リサさんのかわいらしさに口元がにやけてしまうのだ。「かわいいですね、リサさん」と思わず口にしてしまうほど……あれ?
「かわっ!?」
「あ、いや、違くて……いや、違わないんですけど……」
ちなうんですちなうんです、と慌てて手を振ると、リサさんが「ふふっ」笑い声をこぼす。
「かわいいなんて言われたの、久しぶりかも」
「え? リサさんはかわいいですけど」
「〜っ!!」
きゅるん、とリサさんの目が潤み、頰が朱に染まる。まるで恋する乙女のような表情だ。
うん。かわいいでしょ、普通に。まあ、確かに顔立ちは美人さんよりかも知れないけど……こんなヤキモチ妬いてほっぺた膨らませるんだよ?かわいいじゃん。しゅきなんだが?
「あ、あははー! お世辞上手いじゃん〜」
「お世辞……?」
本音なんだけど……
「ア、アタシ、か、勘違いしちゃうかもな〜」
「本当のことですよ?」
「あは、あはは〜……」
「?」
「あはは……えっと……」
あれ……冗談だと思われてる?本当にリサさんはかわいいのに。
わたしはこの想いを伝えるべく、真剣な表情をつくる。そしてリサさんの手をそっと握り、彼女の瞳を見つめる。
目が合うと、リサさんがびくりと身体を震わせる。
「リサさんはかわいいです」
その言葉に、リサさんが目を見開き、口をわなわなと震わせる。そしてぽつりと「……ありがと」と声をこぼす。
別段礼を言われるようなことではないけど、お礼に対して頷いて応じておく。
「ア、アタシ……その、勘違いしても良いのかなー、なんて」
「え? だから、リサさんはーー」
「じゃなくてさ、その、ナギに、好きでいてもらえてるって」
「? はい、好きですよ?」
「あ〜……あはは〜、うん、ナギらしいかもね」
「?」
首を傾げると、リサさんがいつもの柔らかな笑顔を浮かべる。
「ううん、ありがとナギ。今度はアタシとデートしてよねー」
「はい、どこ行きますか?」
「ナギが好きなとこ!」
こうして、わたしはリサさんとデートの約束をしたのであった。
殺されるのではないかと思っていたけど、こうして仲直りができて良かったと思うのだった。
× × ×
「ってことがあってね。リサさんかわいいよね」
「ふぅん?」
休日。いつものわたしの部屋。有咲と2人でベッドに腰をかけ、手を繋ぎながら話していた。
話を聞き終えた有咲がぶすっと不貞腐れて頰を膨らませている。握っている手に、ぎゅっと力が込められる。
「ヤキモチ?」
「悪い?」
「んー? かわいい」
「リサ先輩にも同じこと言ったんだろ」
「……大好きだよ有咲。愛してる」
有咲の、柔らかな髪を手に取り、口づけをする。
「有咲だけ、特別」
「〜っ!! ちょまっ……」
「次は、どこにちゅーしようか」
強引に有咲を押し倒し、胸元に顔を埋める。そしてそのまま少し頭を動かし、首に唇で触れ、唇で首をなぞる。
「んぁっ!?」
びくりと身体を震わせる有咲の耳元に口を寄せ、囁く。
「有咲、かわいい」
「ちょまっ! だ、だめ……っ!」
「こんなことするの、有咲だけだよ……?」
「わわわ、わかった! わかったから! 許すから!」
「あ、ほんと?」
ちょっと強引に迫ったら許してもらえたので、有咲からぱっと離れる。ちょろい。
「なっ!? んな〜っ!!」
恥ずかしいのか、有咲は掛け布団を手に取り、そのまま布団の中に引きこもってしまった。かくいうわたしも、おふざけのつもりだったはずなのに妙に鼓動が早い。なんだか体も熱くて……息が荒い。
というか、なんだか世界が歪んでいるような?
「……あれ?」
力が抜け、ぼふりとベッドに倒れ込む。
「ナギ? おいナギ!?」
「有咲が、2人いる……」
良い世界だ……ふへへ。
有咲の声がどこか遠くから聞こえるように感じる。眠たいわけでもないのに、まぶたが重い。ああ、有咲が心配しちゃうなぁなんて思いながら、わたしの意識はそこで途切れた。
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