御蔵雛菊はノンケである。   作:ぷろとユーザー

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おたえ、わたし……ノンケだよ。

 馬鹿は風邪をひかないらしい。そういう意味で言えば、どうやらわたしは馬鹿でないようである。

 自身の脳みその能力が、遥か昔から伝わることわざに担保されたところでぽつりと呟く。

 

「さびしい……ぴえん」

 

 おでこに熱冷ましをぺたりと貼り付け、けほんっ、軽く咳き込む。

 わたくし御蔵雛菊、風邪をひきました。40℃近くの発熱に耐えきれず、倒れてしまったらしい。

 風邪をひくと、なんだか途方もなく寂しく感じられる。心許なくてあたりを見渡すと、ワンルームの狭い狭い部屋なのに、とてつもなく広く感じられて思わず身震いをしてしまう。

 

「わたし、このまま独りで死ぬんだぁ……」

 

 ああ、なんかよくわかんないけど涙出てきた。ぐすり、と鼻をすすりながらお布団の中で丸まったところで幻聴が聞こえてきた。

 

「……ナギ、死んじゃう?」

 

 いないはずのおたえの声が聞こえる。やっぱりわたしの頭はぽんこつなのでは? 馬鹿でも風邪はひくのだ。そう、風邪をひいたってぶっ倒れるまで己が風邪であることに気づかないから馬鹿なのである。

 

「よいしょ」

 

 ……あれ、なんか誰かお布団に入ってきたんだけど。

 

「ナギの身体、すごく熱い」

 

 ぺたりと、おたえとわたしの頰がくっつく。

 

「おたえ!?」

「うん、おたえ」

 

 元気?と隣でなんてことないように話す彼女は花園たえ。わたしと同じく花咲川に通う同い年の女の子。有咲も所属するPoppin Partyのリードギターをつとめている。

 

「おたえ、いつの間に……」

「有咲に合鍵借りた。入るよって言ったらナギ返事してたよ?」

「……ほんと?」

 

 記憶にない……なんだか頭がぼんやりしているし、言われてみればそんなこともあったような?

 

「有咲は?」

「生徒会のお仕事。遅くなるって」

「なるほど……それで、来てくれたんだ」

「うん。つらい?」

「少しだけ」

「そっか」

 

 おたえが身体を起こして、わたしの頭に手を伸ばす。そしてその手で、わたしの頭を優しく撫でてくれる。とても柔らかな表情で微笑まれて、なんだか恥ずかしいけど……ほっとする。

 

「さびしかった?」

「……おたえが来てくれたから」

「そっか。それならそばにいるよ」

 

 おたえは頭の中が少しお花畑だけど、顔立ちが抜群に整っている。そんな風にされると、少しドキッとしてしまう。

 

「そうだ。私お粥作ったんだよ」

「え゛?」

 

 おたえが料理……? あのおたえが?

 いやでもおたえって意外と器用だし……まだあそこがCiRCLEじゃないときはアルバイトしてたらしいし……

 

「もってくるね」

「え、あ、はい」

 

 軽快な動きで布団から出ていくおたえを見守りながら、ゆっくりと身体を起こす。いや……うん、きっと大丈夫でしょ。

 大丈夫大丈夫と、自分に言い聞かせながらおたえを待つ。

 

「お待たせ」

「……」

 

 ごくりと唾を飲み込む。くんかくんかと鼻をきかせ匂いを嗅ぐ。ふむ、匂いはなかなかいい感じだ。

 これはもしかして大丈夫なのでは、と胸を撫で下ろしたところで「じゃーん」おたえが土鍋の蓋を威勢良く開ける。

 

「え」

 

 青い。

 ところで、空が青いのは光の反射が関係しているらしい。青はよく拡散されるから空は青いのだとか。ならきっとこのお粥もきっと光の反射か何かで青く見えているだけで、実際は白いのでは?

 

「白いよね?」

「ううん。青くしてみた」

「そう」

 

 ……青くしようと思って青くなったのであれば大丈夫、なのかも、しれないよね。うん。

 いやでも、う〜ん……とわたしが悩んでいる間に、おたえが木のスプーンでお粥をすくい、「あーん」と差し出してくる。

 

「…………」

 

 一瞬、躊躇う。

 これは食べて大丈夫なんだろうかと。

 けれど見て欲しい。おたえのこの笑顔を。一縷の曇りもない屈託のない笑顔を。

 

「あ〜んっ」

 

 ぱくりと、青いお粥を口に含む。こんにちはブルーハワイ。

 

「んぇ!? お、おいしい!」

 

 ふ、普通に美味しい……!

 こんなクソみたいな見た目からは想像のできない優しい味だ……!

 

「いえい」

「すごいねおたえ!」

「うん。じゃあもう一口、あ〜ん」

「あ〜んっ」

 

 美味しいとわかったので、素直に口を開け、お粥を口に含む。

 美味しい。むしろなんで青いのか不安になってきたレベルである。なんでこんなに美味しいのにこの色なのか。

 

「じゃあナギ、次は私」

「え?」

「はい、あ〜ん」

 

 食べさせろと言うことだろうか、おたえがスプーンを渡してくる。

 おたえは目を閉じ、口を開けて待っている。

 

「いやでも、このスプーンわたし使っちゃったし」

 

 汚いし、おたえに風邪がうつるかもしれない。

 

「ううん、そのままがいい」

「そうなの?」

 

 おたえも学校休みたいのかな……

 まあよくわかないけど、おたえが口を開けたままずっと待っているので、彼女が望んだ通りにお粥を掬い、食べさせる。

 

「あ、美味しい」

 

 自分で作ったはずなのに、おたえが驚きに目を見開く。

 

「ね。おたえいいお嫁さんになれるよ」

「貰ってくれる?」

「おたえに良い人が出来なかったら、貰っちゃおうかな」

「ほんと?」

「うん」

「ナギ、好き」

「わたしもおたえ好き〜」

 

 にへへ、と2人で微笑む。

 

「なんだか元気出てきたかも」

 

 むんっ、と腕を折り力こぶをつくってみせる。するとおたえが「おー」と手を叩く。

 そのまま2人で食べ合いっこしながらお粥を食べ切り、おたえとしばらくお喋りをしていると、強烈な眠気に襲われる。お腹が膨れたのと、精神的に安心したからかもしれない。

 

「んぅ」

 

 ごしごしと目をかく。

 

「ナギ、眠たい?」

「……少し」

「じゃあ子守唄歌うね」

 

 そういうと、おたえがわたしをベッドに寝かしつけ、頭を撫でてくれる。そして、軽やかな歌声で子守唄を歌ってくれる。

 優しい声。

 あっという間にわたしは眠りに落ちてしまった。

 

× × ×

 

「ってことがあって」

「はいはい、わかったから大人しく寝てろー」

 

 わたしのすぐ隣で寝転がりながらスマートフォンを弄っている有咲が、適当に返事をする。

 わたしが使っているベッドはシングルベッドなので、やはり2人で並んで横になるとやや狭い。

 

「今日ずっと休んでたから眠たくない」

「子供みたいなこと言ってんじゃねぇよ。ちゃんと寝ないとまた熱出るだろ」

「だって……有咲とお泊まりなのに」

「遊びに来たんじゃねーから。わざわざナギの看病に来てやったんだかんな」

「うん……」

 

 おたえが帰った後、入れ替わるようにして有咲がわたしの家に来てくれた。優しい友人をもってわたしは幸せだ。

 というわけで看病しに来てくれた有咲だけど、今はわたしのルームウェアに身を包んでいる。有咲はわたしよりもやや小柄なので、少しダボついているだろうか。

 

「もっと有咲とお喋りしたい」

「……だめだって。電気切るぞー」

「有咲ぁ」

「ほら、もう寝るぞ」

 

 有咲がスマートフォンをテーブルに置いて仰向けになり、言外にもう寝ることを伝えてくる。

 まだ寝たくないのに……

 

「じゃあ手繋いで」

 

 ん、と顔の横に手を伸ばす。すると有咲がふぅと軽く息を吐き、手を重ねてくれた。お互いの指を絡めて、暗闇で見つめ合う。

 

「……今日はやけに甘えたがりなんだな」

「独りで家にいるとね、本当はすごく寂しい」

 

 わたしの故郷は小さな島で、唯一の里には300人程度しか住んでいなかった。いつもそばに誰かがいてくれて、そのあたたかさを感じていた。でも本土は広くて、知らない人がたくさんいて、部屋に戻るとひとりぼっちで。

 本当は、寂しい。だからわたしはいつも外で誰かと一緒にいるようにしているのかもしれない。

 

「ありがと、有咲」

「弱音、もっと吐けばいいだろ。ナギのことなら、負担だなんて思わねーよ。むしろさ、私はナギのこともっと支えたいっつーか……」

「……じゃあ、もっとお泊まりしよ」

「ん」

「夜ご飯もね、一緒に食べたい」

「おう」

「いっぱい電話して良い?」

「いつでも」

「ずっと、一緒にいてくれる?」

 

 握られた手に、力がこもる。そして、優しいけど熱のこもった声でこう言った。言ってくれた。

 

「言われなくても、ずっと一緒だっつーの」




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