休日。
わたしは久しぶりの自由を満喫していた。シフトの入っていない休日なんていつぶりだろうかと、購入したコーヒーをカフェのテラスで嗜みながら頬杖をつく。
先日の風邪はお医者さんに診てもらったところ、「働きすぎですねぇ笑」とお小言を頂いたので無理矢理お休みを作ったのだ。
ビバ休日。全てがキラめいて見える。
なんでか、まりなさんも「ね、ねぇナギちゃん、来月はどれくらい一緒に……じゃなくて、どれくらいシフト入れそうかな?」なんて、わたしにシフトを入れて欲したがるし。
まあ、なんだか?あ、わたしって役に立ってるだみたいな?優越感というか?承認欲求的なものが?満たされてないわけでもないけどね?みたいな的な?
「ふぅ」
コーヒーを一口飲んで、頬杖をついて空を眺める。
この思考、明らかに社畜なんだぁ……。多分今のわたし、目から光とか消えてる。
……鳥になって、自由に空を駆けたい。そしたら島に帰っておばぁちゃんに卵焼き作ってもらうんだぁ。
「こ、こんにちは。雛菊さん」
「ぇあ?」
ぼけっと空を見ていたので、慌てて焦点を合わせる。
「あっちゃん」
トレイを持ち、わたしの前に立っていたのは戸山明日香。同級生である香澄の妹さんだ。通う学校は違うけど、仲良くしてもらっている。
「あの、あ、相席良いですか?」
「喜んで」
そう言いながらにこりと微笑むと、あっちゃんがぱぁっと明るい表情を浮かべて向かいの椅子に腰を下ろす。
「お久しぶりです、雛菊さん」
「うん。久しぶり、あっちゃん」
「ぅ……あの、あっちゃんは、ちょっと」
初めて会った時からそうだけど、彼女はあっちゃんと呼ばれると恥ずかしがってしまうのだ。
「可愛いけど、あっちゃん」
「かわっ!? は、恥ずかしいのでやめてください!」
「じゃあ……明日香」
精一杯格好つけ、少し声を低くしてあっちゃんの名前を呼ぶ。
「っ〜!?」
「どうしたの明日香?」
「ちょ、雛菊さん……っ」
「照れてるの? 可愛いね明日香」
そっと、あっちゃんの手を握る。すると、あっちゃんの顔が茹でダコのように真っ赤になる。
……これくらいにしておこう。
「あはは、ごめんねあっちゃん」
「か、からかわないでください!」
もお!とあっちゃんが頬を膨らませる。大人びている割に表情が豊かで、こういうところは香澄の妹だなと思う。
「あと、あっちゃんに戻ってるんですけど」
「やっぱりあっちゃんがいいな。特別な感じしない?」
「と、特別ですかぁ?」
どうやら満更でもない表情を浮かべるあっちゃん。わたしはうんうんと頷き、あっちゃん呼びを認めてもらえるように促す。
するとあっちゃんは横髪をくるくると弄びながら「まあ?」と、少しうわずった声で切り出す。
「と、特別なら、良いですけど……」
「ありがと、あっちゃん。大好きだよ」
「〜っ!!」
あっちゃんはこういう素直な表現に弱いのか、すぐに顔を真っ赤にしてしまうので面白い。少しいたずら心をくすぐられる。
「なんだか、こんな話してると……恨まれちゃいそうですね」
「恨まれる? なんで? 誰に?」
敵?
「いや、だって……雛菊さんが相手ですから」
「なるほど」
わかってますけど?とうんうん頷いてみせる。
いや、うん……よくわかんないけど。わはは。
わたしと話してると怒られるってなんなの?あんな奴と話すなんてって怒られるってこと?なにそれ泣ける。
「……相変わらずですね」
「えへ」
そんなに褒めないでよ、と頭を掻くと、あっちゃんが呆れた表情でわたしを見つめる。
冷たい視線に身震いし、つい温かいコーヒーを口に含み息を吐く。
「ところで、あの……なにか悩み事でもあるんですか?」
「え?」
「さっき物憂げな表情で、外を眺めてたので……」
「……そう?」
「はい。なんというか、すごく絵になってました」
「…………」
……ぼけっと空を眺めてただけなんだけど。
「なんだか近づき辛かったんですけど……でも」
「心配して声かけてくれたんだ?」
「えっ!? いやっ、別に……そんなのじゃないですけど。でもその……どうしたのかなって思っただけです!」
「あはは、そうなんだ。ありがとうあっちゃん。あっちゃんは優しいね」
「……あの、誰にでもってわけじゃないですから」
「?」
きょとんとわたしが首を傾げると、あっちゃんがぐぬぬと口をへの字に曲げる。
「だから、その、私にとっても雛菊さんが特別ってことです!」
ずいっと身を乗り出して、あっちゃんが高らかに叫ぶ。あっちゃんにしては珍しく、まっすぐな言葉だ。本人もわかっているのか、顔が真っ赤になってしまっている。
「うん、ありがとうあっちゃん。嬉しいよ」
「ぅ……はい」
「??」
あれ、お礼言ったのになぜかしゅんとしてしまった……なにか間違えたのかな。
うーん……
「あ、そうだあっちゃん。勉強はどう? 順調?」
「まあ、部活もやってないので……」
なんとあっちゃんは高校一年生にも関わらず、大学受験をすでに見据えているのだ。
「お姉さんが教えてあげよっか?」
「雛菊さんが、ですか?」
「やればできる子って有咲によく言われるよ」
お前ってほんと……やりゃできんのに、残念だよなぁ……ってよく言われる。やればできる子なんです。
「……心臓が持ちそうにないので、遠慮しときます」
「そんなに厳しくないよ」
「だからです」
「……あ〜。なるほどね」
ふんふん。アグリーアグリー。
「…………」
「ごめん、そんな目で見ないで」
鈍い鈍いと有咲に言われるけど、年下にまで言われてしまうのは相当なのかもしれない。
いやでもわかんないじゃん。なんでわたしといると心臓が持たないわけ?
むーん、と顎に手を添え悩んでいると、なぜかあっちゃんがもじもじと忙しない様子。何か言いたいことがあるのだろうかと、彼女の言葉を待つ。
「あの、また一緒にお茶してくれますか?」
「? もちろん」
「……じゃあ、その、相談。相談したいのでメッセージも送っていいですか?」
「うん、待ってるよ」
「〜っ! はい!」
そのまましばらくあっちゃんと和やかに話しながら、ゆったりとした時間を過ごす。そろそろ良い時間なので、2人でお店を出る準備をする。
……ちょっと格好つけるか。
「じゃ、今日はお姉さんが奢ってあげる」
「えっ!? そんな……」
「今度デートするとき、代わりにあっちゃんがご馳走してくれる?」
「……はい!」
こうして、わたしの穏やかな1日はゆるやかに過ぎていくのだった。
× × ×
「てことがあってね」
「何カッコつけてんだよ」
緩やかな1日の終わりに、今日は有咲のお家でお泊まり。一緒にお風呂に入って、今は髪を乾かしてもらっている。
有紗の細い指が髪を撫でるたびに、少しくすぐったく感じる。
「お姉さんだからね」
「まあ、明日香さんの気持ちもわからねーでもないけど」
「そうなの?」
「オメーは鈍いからわかんねーだろーけどっ」
ぐりぐりぐり、と有咲がわたしの頭に拳を押し付ける。
「あはは、いたーい」
「ったく、あんまりよそ見すんなよな」
はぁ、と有咲が軽いため息を吐き、拳を頭から離す。解放されたわたしは、そのまま後ろにある有咲の胸に頭を埋める。
「妬いてる?」
「……別に妬いてねー」
ここからは見えないけど、頬を膨らませている有咲の顔が鮮明に浮かぶ。
「有咲ぁ〜っ」
「んだよ急に」
「わたしも有咲のこと大好きだよ」
「別に、好きとか言ってねーし」
「でも好きでしょ?」
「……あーもう、好きだよ。わりーかよ」
「悪くない」
そう言いながら、有咲の手を握る。
「んだよ」
「なんでもない」
有咲の手の暖かさを感じながら、今日は良い1日だったと思うのだった。
お待たせ、待った?
感想もらえると嬉しいよ。