「そい!そい!そい!そい!」
「はい!はい!はい!はい!」
臨戦態勢の令王那ちゃんとわたしは、両手にサイリウム、額にハチマキ、法被にリストバンドに推しタオルとフル装備で合いの手を叫ぶ。
最前列に位置取り、2人で声を送る。
この声は届いているだろうかと、ステージの上で踊る天使に視線を送る。鮮やかなライトに照らされて、パスパレのみんながステージ上でパフォーマンスを披露している。その真ん中で歌うのが、マイラブリーエンジェル丸山彩ちゃん。その動きに合わせて、ゆるふわな髪が羽根のように軽やかに舞う。
するときゅるーんっ、と彩ちゃんがわたしに向けてウインク。絶対にわたしだ。わたしに向けてやった。間違いない。絶対そうに違いない。
「ぎゃー!!!! 彩ちゃん可愛いよーっ!!」
思わず叫んでしまう。
これがシャウトだ。心から出た言葉だ。魂の叫びだ。
恥も外聞も何もかも捨て、心のありように素直になれる場所。
「わかりますナギさん! 彩ちゃんとっても可愛いです!」
「だよね?だよね!?」
隣の令王那ちゃんと手を取り合い、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
そのまま令王那ちゃんとわたしは手を握りながら、至福の時間を楽しんだのだった。
× × ×
戦場から引き上げ、お風呂に入ってから2人でのんびりと過ごしていた。
「あ゛〜のどいたい」
「ナギさん、はしゃいでましたからね」
さっきまでのわたしを思い出したのか、令王那ちゃんがクスリと微笑む。
ライブが終わって、令王那ちゃんとわたしは前日から宿泊していたホテルに戻ってきた。時期柄か、ほかに部屋が空いていないらしくシングルルーム。一応ダブルベッドなので、ベッドに2人で寝転がって、今日の余韻に浸る。
「それにしても、こうして一緒にパスパレのライブに行ける人と出会えるなんて思わなかったなぁ」
彼女の名前は鳰原令王那。わたしよりも背が高いが、中学2年生らしい。ライブ中はパステルカラーのウィッグをかぶっていたけど、今はそのウィッグを外し、しとやかな黒髪がたなびいている。
令王那ちゃんとはSNSで出会ったのだ。
なんかめちゃくちゃパスパレのことを推しているアカウントを見つけて、そこから令王那ちゃんの演奏動画を見つけたことで女の子であることを知った。そして、SNSで交遊交流を続け、一緒にライブに行く中にまでなったのだ。
「私も思いませんでした」
「でも令王那ちゃんと出会えてよかった。一緒にはしゃげて楽しい」
「……はいっ、私もナギさんと一緒で楽しいです」
恥ずかしそうに言う令王那ちゃんが可愛らしくて、つい抱きしめてしまう。
「な、ナギさん!?」
「令王那ちゃん可愛いよ〜」
「きゃ〜っ」
きゃっきゃっうふふ、令王那ちゃんとベッドの上でイチャイチャする。ほっぺをすりすり、脇をこちょこちょ。しばらくそのままじゃれあい、息が切れ始めたところでどちらからともなく手を離す。
乱れたお髪をお互いに整え、息を落ち着かせる。そして一つのベッドで横になりながら、向かい合う。
「令王那ちゃんって、体力あるよね」
「そうですか?」
きょとん、とかわいらしく首を傾げる。
「ライブ終わった後もすごく元気だし」
「確かに体育のマラソンとかは得意なので、……そうなのかもしれません」
「いいなー」
わたしなんて、パスパレのライブの次の日はスタミナ切れで死にそうなのに。そんな時は、有咲が膝枕してくれるから悪くないんだけど。
これが若さか……
「でもナギさんも物販の時、とても俊敏な動きじゃないですか」
「彩ちゃんグッズを入手し損ねるわけにはいかないからね」
誰よりも早く、誰よりも先に、彩ちゃんグッズを手に入れる必要があるのだ。
「ナギさんは、本当にパスパレが好きなんですね」
「うん。好き」
令王那ちゃんの言葉に、素直に答える。
「どんなところが好きなんですか?」
「やっぱり、頑張り屋なところ。彩ちゃんはパスパレに加入する前からアイドルとして頑張ってたけど、中々陽の目を浴びなくて……。それでも頑張って頑張って……挫けても、躓いても、諦めないで頑張ってるから」
こっちに引っ越してくる前も、研究生時代の彩ちゃんを応援しに来たこともあった。ダンスも歌も、他のメンバーと比べて上手くはなかったけど、それでも笑顔でファンに夢を届けていた。
「彩ちゃんのその姿に、すっごく勇気がもらえるから。だから応援したくなるの」
わたしの言葉に、令王那ちゃんが笑みを浮かべる。
「ナギさん、ぞっこんなんですね」
「うん……でも、やっぱり一緒に応援する人がそばにいてくれて嬉しい。1人だと色々と不安で……ありがとう令王那ちゃん」
「そんな……私もです。学校ではこの趣味のこと話せてなくて……。この気持ちを共有してくれる人がいてくれて、本当に嬉しいんです。ナギさん、ありがとうございます。ナギさん達が見つけてくれなかったら、私……」
柔らかな表情を浮かべながら、令王那ちゃんがわたしの手を握る。わたしも彼女の手を握り返し、それに応える。
「見つけてたよ、絶対。そして、こうして一緒にライブに来てた」
「……はい」
「また2人で来ようね」
「はいっ!」
そのまま2人で瞼を下ろし、眠りにつく。
なんだか少し、令王那ちゃんとの友情も深まった気がした。
× × ×
「ってことがあってね」
「旅行、私だってしたことねーのに……」
瞳から光を失い、表情から感情が抜け落ちた有咲が呟く。
ヤキモチを焼いているらしい。かわいい。
「でも、こんなに一緒にいるのは有咲だけだよ」
例の如く、今日も甘やかしてもらっている。疲労困憊なわたしを気遣って、膝枕だ。ほどよく弾力があり心地いい。
お昼休み、中庭でシートを引きおばあちゃんが作ったお弁当を2人で食べて、のんびり日光浴。しかも有咲の膝枕。至福だ。
「旅行はなんか違うだろ。その、新婚旅行とかあるし? なんか特別感があるっつーか?」
「じゃあ今度2人で行こう」
アルバイト戦士のわたしだ、旅行の1回や2回ちょちょいのちょいのおちゃのこさいさいのさいなのだ。
「有咲はどこに行きたい?」
「……温泉とか」
「温泉?」
「その、温泉とか入ってさ、2人で横になったり、こうして膝枕してやったり……ゆっくりした時間で、こうして触れ合ってるのも悪くねーっつーか」
「いいね」
想像しただけで癒されるよ……
「有咲といちゃいちゃし放題だ」
「……べ、別にそんなの旅行中じゃなくたって……し放題だし」
「でも有咲いつも恥ずかしがるじゃん」
「それはおまっ!? 人前だと恥ずかしいに決まってんだろ!」
「じゃあ、人目がないところだといいんだ?」
わたしの言葉に、有咲の顔がぼんっと赤く湯立つ。
「人目のないところって……な、何する気だよ……別に、ナギとなら嫌じゃねーけど……」
ごにょごにょ、と小さな声で有咲が何かを呟く。
「そんなに赤くなって、何想像してるの? 有咲のえっち」
「んなぁ!? おま、はぁ!?」
「あは、有咲かわいー」
「あーもぉ!! いいから旅行! 絶対だかんな! 契約!」
「うん、契約」
有咲と指切りをしてから、わたしは眠気に身を任せて瞼を閉じる。お日様がぽかぽかと温かくて、すぐに意識が朧げになる。意識が途切れる間際、なにか柔らかいものが唇に当たった気がするけど、気のせいだろう。
「無防備なんだよ、ばーか」
みなさま〜(一別以来)
3ヶ月ぶりですことですわよ〜
行ったことないので、ライブとか行ってみたいですね。
最近は秋なんかすっぽかして夏から冬に途端に変わってしまいますね。冷え込みがひどくなっているので、体調にお気をつけください。ところで感想いただけると嬉しいです。