無意識のうちに、部屋の隅に陣取っているなんてことはないだろうか。わたしはある。
はしっこは落ち着く。
なぜだろうかと思って調べた結果、防衛本能だのなんだのと理由が出てきたが、わたしの場合は何かに触れていると落ち着く、が答えであるような気がする。
何かに触れていると、自分の存在を明確に認識できるらしい。
言われてみれば、膝の上に物を置いていると落ち着くし、隅っこで壁にもたれかかってるとほっとする。
そんなわけでわたしたちは、こうして壁とソファの隙間でぼけっと座り込んでいるのだ。
「いやぁ、これはいい隙間ですねー」
「麻弥さんもそう思いますか?」
座り込んでいるのだ。そう、2人で。
隙間に挟まっているわたしと、もう1人は大和麻弥ちゃん。アイドルユニット、パスパレのドラム担当。実は元スタジオドラマーという天才女子高生である。
ここはCiRCLEの控え室。今日はパスパレがスタジオを借りて練習する予定なんだけど、麻弥ちゃんだけ早く着いてしまったのだ。暇つぶしにわたしと話をしていて、その流れで2人で隙間に挟まったわけだ。
どんな流れ、とか野暮なことは聞かないでね。
「自分一人だとイマイチだったんですけど、ナギさんと一緒だとベストフィットですね」
「ですね」
えへー、と麻弥ちゃんの肩にもたれかかる。すると、麻弥ちゃんもふへへ、と笑みを浮かべる。
この狭さと麻弥さんの温かさに柔らかさ……落ち着く。
「こんなところ彩さんに見つかったら怒られちゃうかもしれませんね」
「彩ちゃんが?」
怒る……なぜ?
「あ、ファンとの距離が近すぎるとか!?」
「あはは……そんな感じです」
「確かに……こんなところ
殺される。麻弥ちゃんのファンは、麻弥ちゃんのそういうことに無頓着なところが好きなのだ。麻弥ちゃん自身は色恋が縁遠いと思っていても、私だけは麻弥ちゃんの魅力わかってるからね、的な。後方彼氏面的なあれである。
……ぶっ殺される。お姉様方にぶっ殺される。
「そ、そそそそそそろそろ、お仕事もど、戻ろっかなぁ!?」
ぶるる、と身震いがしたので足にグッと力を込め、立ちあがろうとする。すると、それを防ぐかのように麻弥ちゃんがぎゅっと抱きついてくるではないか。
「ま、麻弥ちゃん!?」
殺される!! 間違いなくお姉様方が怒る!!
「も、もう少しこうしていませんか……?」
「ひゃん!?」
抱きついているから、麻弥ちゃんの吐息が耳にかかる。ぞわぞわ、と背筋に電流が走り力が入らなくなり、ぺたんと元の位置に戻ってしまう。
「麻弥ちゃん……?」
声をかけると、はっと麻弥ちゃんがわたしから離れる。
顔が真っ赤だ。年上にこんなこと言うのは失礼かもしれないけど、可愛い。
「ーーあ、す、すみません!! その、ナギさんとは学校も違いますし、たまには自分もその、こうしていたいといいますか……ふ、ふへへ……自分、何言ってるんですかね」
「……うん」
まあ、そんなこと言われたら、ねえ。やぶさかではないというか? むしろウェルカム。
「もうちょっと、いようか、なー? えへへ」
「は、はい……もうちょっと、ふへへ」
えへへふへへと2人で笑い合う。
「すみっこも好きだけど、麻弥ちゃんも好きだから落ち着く」
「自分はドキドキしてます……」
「じゃあ、はい」
「へ?」
わたしは両手を広げる。麻弥ちゃんには意図が伝わっていないらしく、きゃとんと首を傾げている。
「心音聞くと落ち着くらしいですよ」
「し、心音ですかぁ!?」
「うん。はい、ぎゅー」
慌てふためく麻弥ちゃんを抱きしめ、その頭をわたしの胸に引き寄せる。最初は悶えていたようだけど、しばらくすると麻弥ちゃんが大人しくなる。
ついでに頭も撫でて、効果倍増だ。
「あー……これ、スゴイです。自分、ダメになっちゃうかもしれません……ふへへ」
どこか甘ったるい、蕩けた声で麻弥ちゃんが言う。癒しになっているのならよかった。
「いいよ、麻弥ちゃん」
耳元でわたしが囁くと、「ふぅあ……」と麻弥ちゃんが吐息を漏らす。いつもお仕事大変だろうから、こんな時くらいのんびりしてほしい。
「あのぉ、も、もう一回……好きって言ってもらってもいいですか?」
「? 好きだよ、麻弥ちゃん」
「ーーーーっ!!」
びくり、と麻弥ちゃんの体が震えたかと思えば、ぐったりと力が抜ける。おお、どうやらまったりしていただけているようだ。
こうして、麻弥ちゃんとわたしは他の人たちがくるまで、お互いを感じながら過ごしたのだった。
もちろんまりなさんにめっちゃ怒られたし、控え室に来た彩ちゃんや千聖さんにもめちゃくちゃ怒られた。
× × ×
「ってことがあってね」
にこやかに話すわたしとは対照的に、有咲は機嫌が悪そうな表情を浮かべてわたしの話を聞いている。わたしが話終わるとチッ、と舌打ちまでする。
まあお下品ですこと、おほほ。
わたしが心の中でサイレントお嬢様を演じていると、有咲ががたりと立ち上がり、わたしの首根っこを掴む。
お、ケンカか?
「ごめんなさいでした」
「ちょっと来い」
「ひぃん」
ずるずると、わたしは引きずられていく。そしてどーん、と壁に押し付けられる。有咲の目から光が失われている……
「そこ座れ」
「はい」
座る。そこは壁と掃除ロッカーの隙間だった。
「足開け」
「はい」
指示通りに足を開く。逆らえば何をさせるか分からない怖さがある。わたしは尻に敷かれているのだ。
躊躇いなく開いた足の間に有咲が腰を下ろし、わたしに身体をもたれかからせた。
「ぎゅーしろ」
「ぎゅー」
有咲の腰に手を回す。細くて、柔らかい。そのまま有咲の肩に頭を乗せ、密着する。そのまましばらく有咲を堪能していると、通りがかったクラスメイトたちから「バカップルー」と弄られる。
有咲が何も言わないので、「羨ましいでしょ」とふんぞり返っていると「んー!!」ぐりぐりと有咲が後頭部を押し付けてくる。自分を構えということだろうか。
クラスメイトに「彼女が拗ねてるから」と言って手を振る。
「嫉妬したんだ?」
「……私ばっかり、ナギのこと好きみたいじゃん」
そんなことないのに、と言葉にしても仕方がないので行動で示そう。
「どうしたら、有咲に信じてもらえる?」
「私はナギのものだって、印つけて」
そう言うと、有咲がトレードマークのツインテールを解き、髪を下ろす。
「……首でいいの?」
「髪で隠すから、いい」
「そっか。じゃあ声、我慢してね」
「……ん」
わたしは有咲の髪を軽く持ち上げ、羞恥からか赤くなった首筋に口づけをする。
ちゅ、と濡れた音が鳴る。しばらくキスを続けて、唇を首から離す。
うん。まあつまり、キスマークをつけて欲しいと言っていたのだ。
「……ぁんっ」
「これでいい?」
「へへ……こんなことするの、私だけだもんな」
降ろした髪で、有咲が赤くなった首筋を隠す。
「有咲だけだよ」
なんか最近、有咲との触れ合いがどんどん濃密になっているような気がする。タガが外れているなと思う反面、幸福感もある。なんだろうこれ。
「私も、ナギにしかこんなことさせねーから」
「……うん。大好きだよ有咲」
「お、おう……」
わたしにとって有咲は特別な友達だ。それは間違いない。
なんだろう、この気持ち。
浮かび上がった疑念を、まあこんなに幸せなんだからいいかと振り捨てる。
有咲のぬくもりが感じられるんなら、それでいいよね。
お前ほんとにノンケか?
最近有咲パートの方が内容多くなっていることが悩みです。
そして感想募集!!オラに元気を分けてくれ。