「……えへへ、ナギちゃん」
「ふふ、かのちゃん先輩」
彼女の照れたような笑いを見て、思わず私も微笑んでしまう。
腕を組み、しなだれかかるように彼女が身体を寄せてくる。ふわふわの髪が頬をくすぐる。彼女の全てが癒しだ。
彼女の名前は松原花音、ハロハピのドラム担当。ゆるふわでアイドル的な見た目から、パスパレの幻のシックスマンなのではないと疑っている。マンじゃなくてウーマン?
そして、今日はそんなかのちゃん先輩とおデートなのである。
今は公園のベンチで少し休憩中。
うららかな日差しを浴びて、元気よく遊ぶ子供たちを2人で眺める。
「ふふ、かのちゃん先輩は子供何人欲しい?」
「ふぇ!?」
「わたしは2人、かな。1人だと可哀想だからね」
双子の女の子がいい。育児大変かもしれないけど、手を取り合って頑張ろう。わたしたちは、一蓮托生だからね。
「ナ、ナギちゃん……?」
「庭付きの白いお家で出迎えてくれる子供たちとかのちゃん先輩……いい……」
いい……エプロン姿とか絶対似合う……ごはんにする?お風呂にする?それとも……なんて言われた日にゃあもう尊死する自信あるね。
「ねえ、ナギちゃん?」
「ハッ!?」
かのちゃん先輩にぐらぐらと揺さぶられ、我に帰る。
危ない……そろそろ墓場に入るところだった……先立ってごめんね……
「大丈夫大丈夫。ちょっとかのちゃんと結婚してただけだから」
「ふぇぇ!? け、結婚!?」
ぼんっ!とかのちゃん先輩が頬を赤らめる。
うーん……一家に一台かのちゃん先輩が必要だよなぁ!などと真剣に考えながら、再度公園で遊ぶ子供たちに目を向けると、ふと故郷の子供たちを思い出した。
「おチビたち、元気かなぁ」
「ナギちゃん?」
「ああいや、島のおチビたちは元気かなぁって思って」
島は狭いので、みんなが顔見知り。その中でも数少ない子供は、もはや兄弟のようなものだった。
「わたしが島を出ていくときも大泣きだったなぁ」
「わかるなぁ……ナギちゃん人気者だもんね」
えへへ、とかのちゃん先輩が微笑む。つられてわたしも「そうかなぁ」と笑みを浮かべる。
かのちゃん先輩は不思議なぽわぽわオーラがある。一緒にいるとこちらまでほっこりしてしまうので、多分万病に効くと思う。学会で発表するレベル。そのためにわたし東大に行くべきなのかもしれない。
「人気者なんかじゃないですよ。おチビたちのお世話係だっただけです」
「そ、そんなことないよ! ナギちゃんみんなからすごく好かれてて、だからその、今日はナギちゃんを独り占めできてすごく嬉しいよ?」
ふんす!とかのちゃん先輩が、珍しく鼻息荒く話す。
「わたしも、かのちゃん先輩とデートできて嬉しいです」
「ふぇぇ!? デート!?」
「わたしは、そのつもりでしたけど」
「……わ、私もその、そう思って……だからね? 昨日は緊張して眠れなかったんだぁ」
かのちゃん先輩が恥ずかしそうに微笑む。可愛い。本当に歳上なのか?
「かのちゃん先輩は可愛いなぁ」
「ふぇぇ!?」
よしよしと頭を撫でる。かのちゃん先輩のふわふわな髪は、撫でているわたしさえも癒してくれる。
こんな時間が永遠に続けばいい、そう思うけれど、わたしたちはそろそろ今置かれているこの状況を受け入れなければいけないのかもしれない。
「ところでかのちゃん先輩」
「なぁに?」
「ここどこですか?」
ほどほどな広さの公園。よくありそうな滑り台に、ありふれた砂場。なんだか懐かしささえ感じるこの公園を、だけどわたしたちは知らなかった。
「……えへへ」
「うふふ」
2人で微笑む。うふふ、あはは。かわいいね、かのちゃん先輩。
「迷子ですよね」
「……ご、ごめんなさい!」
あわあわと、涙目でかのちゃん先輩が頭を下げる。
そう、私たちは迷子なのだ。
今日はかのちゃん先輩がネットで見つけた、少し離れたところにあるクラゲカフェなるものに行こうと2人で出かけ、天気もいいのだから歩いていこうという話になり、折角なら普段歩かない道を行こうとその場のノリで道を決めていたら、今に至る。
……まあ、自業自得か!ガハハ!
「わたしもすみません、なんか適当に道を決めてしまって……」
かのちゃん先輩もわたしも、地図を見ても道がわからない系女子なのだ。むしろなぜあれでわかるのか甚だ疑問である。
とは言え、今日はかのちゃん先輩とのデートだからと浮かれてしまった。こういう時にしっかりとエスコートせねば……
「かくなる上は、切腹いたす」
「ふぇ!? ナ、ナギちゃん!?」
マジ申し訳ないっしょ。てか命をもって償うしかなくね?と心の中のギャルが囁く。一度でいいから、ギャルになってみたい人生だった……
「だ、だ、だめー!」
バッと、かのちゃん先輩がわたしに抱きつく。「うひょ」と思わず気持ちの悪い声が漏れる。
なんだこの柔らかい体は……同じ性別なのに、こうも違うのか……それにこの甘い匂いはなんだろう。頭が痺れるような、甘く蕩ける香りだ。もっと欲しいと、わたしは無意識にかのちゃん先輩を抱きしめ返す。
「んっ」
少し力が強かったのか、かのちゃん先輩が吐息を漏らす。その吐息がわたしの耳をくすぐり、昂る。
ASMRか?
かのちゃん先輩、大人の女でしたわ。
「せ、切腹なんてだめだよ……」
「ごめんなさい」
冗談だったけど、かのちゃん先輩を驚かせてしまった。
「切腹なんてしませよ。だって、かのちゃん先輩とデートできなくなるじゃないですか」
「……うん!」
惜しむように体を離し、2人で微笑む。
椅子に置かれているかのちゃん先輩の手にわたしの手を重ね、空を見上げる。
いい天気だ。
「せっかくだし、ゆっくりしましょうか。こんな日もいいよね」
「そ、そうだね!」
迷子になったおかげで、のんびりする時間ができた。
そのまま2人でのんびりしていると、ぽかぽかと暖かい陽気が気持ちよく、瞼が重くなる。
うつらうつらと、船を漕ぎ始めたわたしにかのちゃん先輩が言う。
「ナギちゃん、眠たいの?」
「んー……ちょっと……」
「私のお膝、使う?」
「うん……」
意識が朦朧としてきたわたしは、かのちゃん先輩の言葉に甘えて身体を仰向けに倒す。
おお……柔らかい……
「おやすみ……かのちゃん……」
そっと瞼を下ろす。
暖かい日差しに、かのちゃん先輩の香り。最高の癒しだ。
「おやすみなさい、ナギちゃん」
襲いかかる眠気に身を任せ、意識を手放す。
その時、なにかが頬に触れた気がしたけど……確認することはできなかった。
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「ってことがあってね」
「……」
いつものように、わたしの部屋でこの前の話をする。
話を聞いた有咲はぶっすー、と頬を膨らませている。かのちゃん先輩に嫉妬しているのだ。いやうん、最近わたしも有咲が嫉妬してるのが可愛くて話してるところある。
ひどい?
だって可愛いんだもん。
好きな子にはイジワルしたくなるっていうからね。
「ふふ、有咲可愛い」
「……ん」
ぎゅっと有咲を後ろから抱きしめる。有咲の体温が心地いい。
「好きだよ、有咲」
耳元で囁くと、有咲の鼓動が一気に早くなる。
「わ、私も好き……」
有咲がわたしの手を解き、体をこちらに向ける。すると顔をわたしの首元に埋めて、啄むように首にキスをしてくる。
キスは部位ごとに意味があるらしい。髪は思慕、頬は親愛、まぶたは憧憬……首は欲求。
「くすぐったいよ有咲」
「ナギ……」
とろん、とろけた表情で有咲がわたしを見上げる。
「ナギ……キスしたい……」
「……ほんとにいいの?」
「ん」
有咲が目を閉じ、唇を差し出す。
わたしは有咲の手を取り、指を絡ませる。そして、ゆっくりと唇を重ねた。ちろりと下唇を舐めると、それに応えるように有咲口が少し開く。舌を触れ合わせ、離れる。
とろけるほどに、あまい。
激しく動いたわけでもないのに、お互いに息が荒くなる。見つめ合って、もう一度顔を近づけ……
「……有咲ぁ!?!?!?!?」
と、いうところで目が覚めた。勢いよく布団を蹴飛ばし、体を起こす。バクバクと心臓が脈打つ音が聞こえる。
「へ!? あれ!?」
あたりを見渡す。
わたしの部屋だ。
どうやらあの後、帰ってからまたすぐに眠りに落ちたらしい。
「ええ!?」
混乱する。
なぜわたしはあんな夢を……? いや、確かに最近有咲との触れ合いが
いや、でも……
「……わたし、ノンケだよな?」
混乱するわたし。あまりの刺激に、脳が処理しきれない。
わたしの耳には、激しく脈打つ心臓の音が、うるさく響くのだった。
おまたせ、待った?(2年ぶり5度目)
わたしは元気だけど、みんなは元気? まだオタクやってる?
最近はなかなか昔みたいなオタ活できないけど、久しぶりに登校してみたよ。My Goが人気みたいで、古のバンドリおじさんは嬉しいです。