御蔵雛菊はノンケである。   作:ぷろとユーザー

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ねえ六花、わたしノンケなんだよ。

 温かいお湯に肩まで浸ると、自然と「ふぃ〜」と空気が抜けていく。顔が緩み、ふにゃふにゃと気が抜けていく。

 広い銭湯にはわたし以外利用者がおらず、貸し切り状態。なので番頭をしている友人に声をかける。

 

「ねぇ六花ー」

 

 そう呼びかけると、この銭湯旭湯で住み込みアルバイトをしている朝日六花がひょこりと、入り口の戸から顔を出した。

 違う学校に通う1つ年下の女の子。この春から岐阜から東京に越してきたらしい。日頃から旭湯に通っているわたしは、彼女が越してきてすぐに知り合い、共通の趣味で仲良くなったのだ。

 この銭湯は、六花の叔母さんが経営しているらしい。

 

「ど、どうしたんですか御蔵先輩?」

 

 メガネを少し曇らせながら、六花が聞く。

 

「六花も一緒に入ろー」

「えぇ!? それはだちかんやろ!?」

「ん?」

「あっ、えっとだちきませんだちきません!」

 

 何を言っているのかよくわからないけど、ブンブンと手を振る六花を見てきっと断られているんだろうと察する。

 

「残念」

「や、やってあの御蔵先輩ですよ!?」

「なるほどなるほど。あれね」

 

 うんうん、わかるわかる。いぐざくとりー。はは、それな。

 

「花咲川のアイドルですよ!?」

「アイドルぅ?」

 

 アイドルといえば丸山彩先輩なんだけど?

 

「まあ仲良くしよう、六花」

 

 おいでおいでと手招きをするけど、六花は「でも……」となかなか首を縦に振らない。

 ぶーぶー、とわかりやすく頬を膨らませていると、戸の奥から「まあまあ、雛菊ちゃんも来てるんだし」と六花の叔母さんの声が聞こえてきた。

 そしてしばらくすると、顔をほんのりと赤くした六花がおずおずと浴場へと入ってきた。

 

「し、失礼します……」

「いらっしゃい六花ー」

 

 お湯から上がり、六花に抱きつくと「うひゃぁ!?」と素っ頓狂な声をあげる。火照った体に、六花の体温が心地いい。

 

「あわ、あわわわ」

「ほらほら、背中洗ってあげよう」

 

 さあさあさあ。

 わたしの誘導に六花は一切抵抗せず、六花は椅子に腰を下ろす。

 

「はーいじゃあごしごししましょうねー」

「はうぅ!」

 

 はうぅ!とかひゃん!とかあわわ!と、謎の泣き声しか発しなくなってしまった六花の身体をささっと手際良く洗い、ざっぱーん!とお湯に投げ飛ばす。

 

「あばばばば」

 

 目を白黒させている六花の顔を拭い、後ろから抱きつく。

 

「み、御蔵先輩っ!?」

「いいお湯だねぇ」

 

 銭湯も気持ちがいいけれど、それに加えて可愛い女の子を抱きしめているこの状況。至福だ。

 

「なんかさー。肌と肌が触れ合うのって落ち着くよねー」

「そ、そうですか……?」

「えー? 六花は落ち着かない?」

「お、落ち着けませんよっ! 御蔵先輩はスタイルがいいから……その、色々落ち着きません!」

 

 恥ずかしさのあまりか、口元までお湯に浸かりブクブクと泡を吐く六花の頭をよしよしと撫でる。

 

「ねえ六花、最初の時みたいにナギちゃんって呼んでよー」

「そそそ、そんなっ! 恐れ多いですよ!」

「恐れ多いって……」

「やってやって! 御蔵先輩は羽丘でも有名なんですよ!?」

「なぜ……」

 

 特に特別なことなんてしてないのに……たぶん。

 

「そんな御蔵先輩をナギちゃんやなんて……うぅ、潰されてまう」

「潰され……?」

「餅にされちゃうんです……」

 

 餅つき……うっ、何故かRASのチュチュの姿が浮かぶ……っ!

 

「餅ねぇ」

「はい……ほんで食べられるんです」

「六花餅……ふむ……ぱくり」

「ひゃあ!?」

 

 六花餅を想像していたら、思わず六花の耳たぶに噛み付いていた。

 

「はむはむ」

「や、ちょっ、せっ……んんっ、先輩っ!」

「かみかみ」

「ひゃんっ!? ら、らめです! これ以上は……んんっ」

「じゃあナギちゃんって呼んで?」

「そ、それはーーぁんっ」

 

 どうにも強情なので、しばらく六花の耳たぶを弄んでいると、「んんーーーーっ!?」六花の体が大きく跳ねてぐったりと脱力してしまった。

 

「あ、あれ? 六花?」

 

 腕の中に収まった六花に声をかけると、ぽんやりとどこか惚けた表情で六花が微笑む。

 

「……もう、のぼせてまうやろ……ナギちゃんのおたんちん」

「え、今ナギちゃんってーー」

「でも、そんなナギちゃんがうちはーーす、」

「す?」

「すーーブクブクブクブク」

「ぎゃー! 六花ー!」

 

 微笑みながらお湯の中へと沈んでいく六花を抱え、わたしは脱衣所へと急いだのだった。

 

× × ×

 

「ってことがあってね」

 

 有咲の手をにぎにぎしながら、先日の旭湯での出来事を話す。

 触れ合った手から伝わる有咲の体温が心地いい。やっぱり肌が触れ合うと落ち着く。

 

「のぼせちゃったんだってさ」

「……へぇ」

「ねぇ。有咲はわたしと触れ合ってると落ち着く?」

「落ち着かねぇ」

「えー? わたし有咲の手好きなんだけどなぁ」

 

 なんだかこう……伝わってくるものがあるというか。ちゃんとわたしのこと好きって思ってくれてる気がする。

 

「……手だけかよ」

「有咲の全部が好きー」

 

 にへへー、と微笑むと有咲が「だぁー、もうっ! なんだよお前!」と荒ぶる。

 

「可愛すぎんだろ!」

「えー? そう? てへ」

「うぜぇ」

「ひどい……」

 

 もっと可愛がって欲しい。でも有咲がデレデレでもそれはそれで少し怖いかもしれない。少しツンツンしている方が有咲らしい。

 

「今日、銭湯」

「え?」

「今日! 帰り銭湯行くから! お前と私で! 蔵練ねーし!」

「じゃあ今日はうちでお泊まり?」

「泊まる!」

「やったー! 香澄たちも呼ぶ?」

「呼ばねー!」

「え!?」

「2人きりがいいって言ってんの!」

 

 顔を真っ赤にしてそう叫ぶ有咲。

 2人きりがいいなんて……愛やつ愛やつ。

 

「よしよし有咲はかわいいねー」

「可愛くねーっ!」

 

 有咲の叫びが、校舎に響き渡った。




評価・感想をいただきありがとうございます。
このように不定期更新ですが頑張ります。
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