心地の良い朝。ほんの少し肌寒いが、陽の光はぽかぽかと心地よい。
わたしはつったかたー、と通学路を歩く。島からこっちに来て早一年、通学路のこの光景も随分と見慣れたものだ。最初こそ島とは全く違う光景に慄きながら歩いたものだけど。
そんなことを考えながら、少し世界が広がった気がして胸を張って歩いていると、同じく花咲川に向かっている生徒たちに「おはよう御蔵さん」と声をかけられる。
知り合いというわけでもないけれど、花咲川のみんなはよく声をかけてくれる。島を出るときは島民のみんなに都会は怖いところだと脅されたけどなんてことはない、都会の人たちも良い人ばかりだ。
あったけぇあったけぇ、とみんなに挨拶しつつ、目を細めながら歩いていると、
「ナギ〜!!」
後ろからわたしを呼ぶ声に振り返る。すると、まるで猫のような髪型の少女が両手を広げて駆け寄ってきた。
「香澄」
わたしも両手を広げ、友人を快く受け止める。
勢いよくわたしの胸に飛び込んできた香澄と共に、その場でくるくるりと優雅に回り、勢いがなくなったところで改めて香澄をギュッと抱きしめる。
「おはようナギ!」
「おはよう。香澄は今日も元気だね」
「うんっ!」
にっかりと、一緒にいるとこちらまで笑顔になりそうな笑みを浮かべる彼女は戸山香澄。Poppin'Partyのギター&ボーカルを務める、バンドの元気印。同級生で、わたしもいつも元気をもらっている。
「一緒に行こっ!」
「うん」
わたしが頷くと、香澄は横に並び指を絡めてきたので、わたしもぎゅっと香澄の手を握り返す。お互いの体温を確認しあってから、歩き出す。
「えへへ〜、ナギの手好き〜」
「わたしも、香澄の手好きだなぁ。頑張り屋さんの手だね」
細く滑らかな手だけど、左手の指先だけタコができて硬くなっている。ギターの練習を頑張っている証拠だ。ギターを始めて一年足らずで満員のライブハウスで演奏できるほどになったのだから、その努力も相当なものだろう。
尊敬の念を込めたわたしの言葉に、香澄が照れたようにはにかむ。
「え〜そう?」
「うん。いつもキラキラしてる、香澄は」
「〜っ! ありがと〜! ナギ大好き〜!」
「わたしも香澄のこと大好き」
「うん、えへへ〜」
わたしの隣で可愛らしく微笑む香澄。つられてわたしまで笑顔になってしまう。
戸山香澄という女の子には、不思議な力がある。どんな人でも巻き込んで、その気にさせてしまう。そんな素敵な魅力。
島からこっちに来て、緊張していたわたしに一番に声をかけてくれたのも香澄だった。わたしが今楽しく生活できているのも、香澄のおかげだ。
「ありがと、香澄」
「えぇ!? いきなりどうしたのナギ?」
突拍子もない感謝の言葉に、香澄は驚きをあらわにする。一つ一つのリアクションが大きくて可愛らしい。
「入学して、一番最初に声かけてくれたでしょ? 沙綾と2人で」
「あのときはねー? すっごい美人さんがいるねってさーやと話してたんだ。そしたらね、おんなじクラスでびっくりしちゃった! それでつい話しかけちゃって」
「ううん、すごく嬉しかった。あのときはね、本当に不安だったから」
知らない人、知らない街、知らない世界。未知で溢れた世界は、恐ろしかった。
「だから、ありがとう香澄」
「ううん、私こそありがとうナギ。ナギがいなかったら、私こんなにキラキラドキドキしてなかった!」
「そうかな?」
「そうだよー!」
にへへー、と2人で微笑む。自然と、より濃密に指が絡み合う。
「あ、そういえばポピパ、今度CiRCLEでライブするんだよね」
「うん、そうなんだー! ナギも見に来てくれる? トリオキ、しとくよ」
ふふん、と香澄が誇らしげな顔を浮かべる。ちゃんと意味をわかって使っているんだろうか……まあ、可愛いからよしとしよう。
「おー、なんかかっこいいね」
「でしょー?」
「でもわたし、その日はバイトなんだ」
「そうなんだぁ……」
「うん、だから関係者席だね」
「おぉ、カンケーシャセキ……なんかかっこいい!」
「でしょ?」
ふふん、今度はわたしがドヤリンコと胸を張る。すると香澄が「おぉー!」と目をキラキラと輝かせる。当日はワイが育てたんや、と後方彼氏面をしておこう。
「楽しみにしてるね」
「うんっ、頑張る!」
「ライブ中の香澄かっこいいから惚れちゃうかも」
「え〜照れる〜」
「香澄の歌を聞いてるとね、わたしもキラキラドキドキする」
「ほんとっ!? 嬉しい! あっ、そういえばこの前おたえとさーやがねーー」
こうして、いろいろな話をしながらわたしたちは仲睦まじく学校へと向かうのだった。
× × ×
「それでね、この前あっちゃんがね〜」
「明日香ちゃん、久しぶりに会いたいなー」
「じゃあ今度ーー」
「香澄ぃ〜! ナギぃ〜!」
背後からわたしたちを呼ぶ声と、ずどどどどどー!と凄まじい足音が聞こえる。香澄と2人、後ろを振り向くと凄まじい形相で有咲がこちらに向かって走っていた。
「有咲〜!」
「有咲だ、おはーー」
「おぅっまえらぁ! なに手ぇ繋ぎながら歩いてんだぁ!?」
物凄い剣幕で、有咲が叫ぶ。
「有咲、あんなに早く走れたんだね〜!」
「香澄ぃ、今はそんなことどうでもいいんだよぉ!」
「確かに。有咲足めっちゃ早いね」
「だからそういうことじゃねぇー!」
ふしゃー!と肩を怒らせる有咲。何かよくわからないけど、お怒りのようだ。
「別に手を繋ぐくらい普通でしょ?」
「普通じゃねぇー! しかもそ、そんなにくっついて!」
「有咲ともこんなんでしょ?」
「そうだけど……うぅ、でも違うだろ! 察せよ馬鹿!」
「?」
首を傾げるわたしに反して、香澄は「はっ!」と何か閃いたような表情を浮かべる。
「寂しいの有咲〜?」
「なっ!? ばっ、ち、ちげー!!」
「そうなの有咲? ごめんね寂しい思いさせて」
「だからちげー!!」
よしよしと、有咲の頭を撫でてあげるとぷくりと拗ねたように頬を膨らませる。
「じゃあ有咲真ん中〜」
「は?」
「仕方ないなー有咲は。寂しがり屋さんなんだから」
「はぁ!?」
香澄の手を離し、今度は有咲の手を握る。香澄も同じように有咲の手を握った。真ん中には両手の塞がった有咲。
「これで寂しくないでしょ?」
「有咲愛されてる〜」
「べ、べつに嬉しくねー!」
なんて言っているけど、有咲はわかりやすくにやけている。有咲はきっと寂しいと死んでしまうと思う。
「両手に花だね」
「花だなんて照れる〜」
「あぁーもうっ! お前ら悪すぎんだろー!!」
「これで私とナギが手を繋げば完璧ーーあれ、歩けないや」
「あはは、歩けないねー」
「お前らいい加減にしろー!!」
ひまですねーじしゅくするのは。
感想待ってまーす。