御蔵雛菊はノンケである。   作:ぷろとユーザー

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白鷺先輩、わたしノンケでーーはい!

「あら雛菊、奇遇ね」

「ひぇ」

 

 奇遇って、ここ2年生のフロアなんですけど……

 

「ーーん?」

「お疲れ様です白鷺先輩……」

 

 両膝に手をつき、頭を垂れる。彼女の圧倒的なまでの威光を前に、身体が勝手に動いていた。

 彼女の名前は白鷺千聖。ラブリーマイエンジェル彩ちゃんと同じくパスパレのメンバーである。しかし彼女は純粋なアイドルというわけではなく、幼少からテレビや舞台に立ち活躍する女優さんなのである。

 

「もう、千聖で良いって何度言えば分かるのかしら?」

「おおおお、恐れ多いですそんな……先輩ですし」

「日菜ちゃんのことは名前で呼んでいるじゃない」

「日菜ちゃんは、ほら。日菜ちゃんなので……」

「その言葉に納得してしまう私がいるわ……」

 

 ふぅ、と白鷺先輩が額に手を添える。苦労させられてるんだなぁ。

 

「とにかく、そう畏る必要はないのよ?」

「いやぁ……」

 

 白鷺先輩は……ねぇ?

 ちっこいけど、白鷺先輩にはなぜか圧力というか、恐れを抱いてしまう。ちっこいけど。

 べつに嫌いではないし、むしろ好きなんだけどなんていうか、身の危険を感じるというか……ちっこいけど。

 

「今何か失礼なことを考えていない?」

「そんなまさか、あはは! 小さくて可愛いなぁって思っただけですようわはは!」

「は?」

「あれ?」

 

 わたし、何かやっちゃいました?

 

「誰が小さすぎて小学生にしか見えないですって?」

「小学生は言い過ぎです。中学生くらいですよ、うわははは」

「そうね、中学生くらいよね」

「ですです。わはは」

「雛菊」

「はい」

 

 正座した。

 廊下で正座である。なんてプレイだこれ。けどうん、ひんやりとした床が心地良い。素質あるのかわたし?

 

「でもあれですよ!? 白鷺先輩は美人さんだけどなんか小さくて可愛いいしこう寝る時とかに抱きしめながら寝たいなとかなんかそんな感じでつまりなにが言いたいのかというと白鷺先輩はめちゃくちゃ可愛いってことです!」

「そ、そう……」

 

 マシンガンのように放たれたわたしの言葉に、白鷺先輩はその白い頬を朱に染める。これはあと一押しなのでは?

 

「……あ、あとシンプルに羨ましいです。わたし背が高いので小さくて可愛い白鷺先輩みたいになりたかったです」

「……自慢かしら?」

「ちちちちないますちないます!」

 

 ほんとほんと!

 ぶんぶんと、首が曲がるのではないかと自分で心配になる程首と手を振る。

 

「はぁ……まあいいわ。今日は雛菊とお昼を食べようと思って誘いに来たのよ」

「なるほど」

「その、……予定は空いてるかしら?」

 

 下から覗き込むようにして白鷺先輩が言う。その瞳は、少し不安に揺れているように見えた。いつもの凛とした姿からは想像のできない、可愛らしいその仕草に胸が締め付けられる。

 これがギャップ萌えってやつだろうか。

 言われてみれば、白鷺先輩はお弁当が入っているであろう小さな鞄を持っていたり

 

「もちろん、喜んで」

「……そう、じゃあ行くわよ」

「あれ? でもさっき奇遇ねって……?」

「よ、余計なこと考えなくていいのよ?」

「はい!」

 

 と、いうわけで白鷺先輩とわたしは2人で中庭にやってきた。長椅子に座り、気付く。

 

「あの、わたし食べるもの持ってないんですけど」

「……いいのよ」

「いや良くないですよ」

 

 え、お昼ご飯食べるなってこと?

 目の前で白鷺先輩が食べているのを指を咥えながら見ておけばいいの? なにそれなんてプレイ? 白鷺先輩サディズムが過ぎませんか?

 

「買ってきますね、待ってて下さい」

「ま、待って!」

 

 立ち上がろうとしたわたしの腕を、白鷺先輩が掴む。

 

「だから……その、買いに行かなくてもいいのよ」

「なぜ……」

 

 わたしを苦しめて楽しいの?

 

「わ、私が持っているから……」

「え? それって白鷺先輩のですよね」

「……雛菊の分もあるわ」

「はい?」

「だから、その……お弁当、雛菊の分も作ったのよ。その、別に料理が上手なわけでもないから、良ければ……だけど」

「っ!」

 

 恥ずかしそうに、上目遣いで白鷺先輩がお弁当をわたしに差し出す。耳まで真っ赤にして、小刻みに震えている。

 な、なんだこの可愛い生き物は……!

 

「あ、ありがとうございます……」

「……よかった」

 

 ふわりと、可憐な花のように白鷺先輩が微笑む。

 

「…………」

「雛菊、食べないの?」

「食べます! いただきます!」

 

 白鷺先輩の言葉に我に帰る。思わず白鷺先輩に見惚れてしまっていた。

 手を合わせ、お弁当の蓋を開く。お弁当の中には、その小さな手で握られた小ぶりなおにぎりと、色とりどりのおかずが詰められていた。

 

「わぁ……すごいです! おいしそう!」

「ほ、本当?」

「本当です! いただきます!」

 

 お弁当の定番である卵焼きを箸で掴み、口に入れる。

 

「!! おいひぃ!」

 

 冷めているのにふんわりとしている卵焼きはほんのりと甘く、わたしの好みにピッタリだった。他のおかずももちろん美味で、あんまりにも美味しかったので、あっという間にペロリと完食してしまった。

 

「すっごく美味しかったです白鷺先輩! ごちそうさまです!」

「うふふ、お粗末様でした」

 

 すごく美味しかった……

 

「あのあの、白鷺先輩すごいです! 美味しすぎてびっくりしました!」

 

 この感動をどうにか伝えたようと、手振り身振りで表現をする。白鷺先輩はそんなわたしを見て、目を細めている。

 

「ふふ、大袈裟よ雛菊。あ、ほら、口元についてるわよ」

 

 口元にご飯がついていたのか、白鷺先輩がわたしの頬に手を伸ばし、そしてそのごはんを自分の口へと持っていく。

 

「あ……ありがとうございます……」

「ふふ、可愛いのね雛菊」

 

 先ほどまでとは違う大人の色香を漂わせた微笑みに、胸がドクンと飛び跳ねる。ギャップぅー!

 お礼と言うわけではないけど、わたしも白鷺先輩にお返しをしなければいけないだろう。

 

「また、誘ってもいいかしら?」

「はい、千聖先輩(・・・・)となら、喜んで」

「ーーっ! ふふ、ありがとう」

 

 わたしの先輩は、可愛らしい小さな身体に大人の魅力を詰め込んだ、魔性の女性だった。

 

 × × ×

 

「ってことがあって、千聖先輩ヤバい」

 

 魔性だよ魔性、と訴えると有咲はつまらなそうに頬杖をつき、「……ちっ!」と舌打ち。えっ、怖い……

 

「舌打ちは良くないよ有咲」

「うっせー」

「…………」

「お、落ち込んでんじゃねー!」

「有咲に嫌われちゃったもん……」

 

 えぐえぐと泣き真似をすると、有咲は分かりやすくオロオロと狼狽始めた。

 

「ごめんね有咲」

「なっ!? ばっ、いや! 嫌いなわけねぇだろ!? 大好きだっつーの!!」

「ほんと?」

「本当だってば! 好きに決まってんだろ!」

「ハンッ、ちょろ」

「ちょままー! お前ふざけんなよ!?」

「はいはいちょまかわちょまかわ」

「あぁもうっ! ナギの馬鹿ー!!」

 

 今日も有咲はちょまかわでした。

 




3日連続ぅ!
雛菊さんの絵を描いてみましたー! 目次から見られます!
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