久しぶりの完全オフ。CiRCLEという名の戦場から逃れ、わたしは友人を待っていた。
天気は快晴。日の光がポカポカと暖かく、絶好のお出かけ日和だ。「良い天気だぁ」と呟き目を細める。このままのんびりと日光浴をして過ごすのも良いけれど、今日は久しぶりに友希那ちゃんとデートなのである。そうのほほんとしていられない。
スマホを鏡代わりに、前髪を整える。にっこりと笑みを浮かべ、「よし」と変なところはないか確認。たぶん大丈夫。
「雛菊?」
「ほわっ!?」
突然の背後からの呼びかけに、素っ頓狂な声をあげてしまう。慌てて振り返ると、申し訳なさそうな顔をした友希那ちゃんがそこにいた。
「……驚かせたかしら」
「ううん、大丈夫大丈夫!」
友希那ちゃんにそんな顔をさせてはいけないと、ぶんぶんと勢いよく手と首を横に振る。すると友希那ちゃんは口元を押さえ「ふふ」と笑い声を溢す。
「大丈夫なようね」
「うん」
にへ、とわたしが笑みを浮かべると、友希那ちゃんも微笑んでくれる。
彼女の名前は湊友希那。実力派人気ガールズバンドRoseliaのボーカル担当。一つ学年が上の先輩だけど、親しくしてもらっているので友希那ちゃんと呼んでいる。音楽に対するひたむきな姿勢と、その類稀な容姿から友希那ちゃんのファンはとても多い。
友希那ちゃんと出会ったのは、わたしがこっちに来てすぐのことだった。電車から降り、ビルが高いなぁと上を見ながら歩いていると迷ってしまい、その時に助けてくれたのが友希那ちゃんだったのだ。
それ以降、CiRCLEでアルバイトをしていた縁もあり、仲良くしてもらっている。迷子だった時は連絡先も聞けなかったので、CiRCLEで友希那ちゃんと再会した時には世の中の狭さを感じたものだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「友希那ちゃん、手……繋いでもいい?」
「ええ、構わないわ」
許可を得たので、友希那ちゃんの手をそっと握る。友希那ちゃんの手は小さくて柔らかくて心地いい。
友希那ちゃんは、なんだかお姉ちゃんみたいだなといつも思う。優しくて、何かと気遣ってくれる。わたしは一人っ子だけど、お姉ちゃんがいたらこんな感じなんだろうか。
斜め下の友希那ちゃんの表情をチラリと窺うと、視線がぶつかる。
「どうかしたの、雛菊」
ふわりと、柔らかく友希那ちゃんが微笑みを浮かべた。なんだか嬉しくなって、わたしもにへへと締まりのない笑みを浮かべる。
「なんでもない」
「そう、ならいいのだけど」
友希那ちゃんの手の温もりを感じながら、無言で目的地まで歩く。友希那ちゃんはあまり口数が多いわけではないので、最初こそ何か喋らなければと慌てていたけれど、今ではこの静寂が心地いい。お互いに気を使うわけではなく、自然体でいられる。
途中でふらっとカフェに寄ったり、移動販売のクレープを食べりと、道中を満喫しながら目的地へと向かう。
そうして辿り着いたのが、わたしたちの行きつけである猫カフェ。
「着いたわね」
「うん」
お店の扉を前に、友希那ちゃんとわたしはごくりと生唾を飲み込む。これから襲いかかってくるであろう脅威に対抗するためだ。
「行こう、友希那ちゃん」
「ええ、行くわよ雛菊」
握る手に力を込めると、友希那ちゃんがそれに応えてくれた。共に、生きて帰ろう。
2人でコクリと頷き、力を合わせて扉を開く。そして、どこかお家のような内装の店内には、たくさんの猫さん達。
わたしたちが来たことに驚いたのか、つぶらな瞳がわたしたちを見つめる。
店内はフリースペースなので部屋の隅っこにあるソファに2人で座ると、数匹の猫さんがわたし達の膝の上に飛び乗ってきた。そして潤んだ瞳で「遊んでー」と訴えかけてくる。
ぷるぷると震える手で頭を撫でると、気持ちよさそうに猫さんが目を細める。
「はぅあ!?」
きゃわいすぎでは……しんどい……
隣の友希那ちゃんの様子を伺うと、「にゃー」とすでにねこじゃらしを手に持ち猫さんと対話している。
なんだか可愛らしくて、猫さんの手を握って友希那ちゃんのほっぺたをつんつんとつつく。
「にゃー、友希那ちゃん、ぼくも構ってにゃー」
「……仕方がないわね」
優しく微笑み、友希那ちゃんがわたしの頭に手を乗せる。そして、緩やかな手つきでわたしの頭を撫でる。
「これでいいかしら?」
「……うん」
わたしを構って欲しかったわけではないけど、これはこれで嬉しいので素直に頷いておく。折角なのでもっと甘えてしまおう。
「ねぇ友希那ちゃん、もっとくっついていい?」
「? 別に構わないわ」
許可を得たので、さらに距離を縮めて友希那ちゃんべったりとくっつく。そして友希那ちゃんの手を取り、にへへと笑う。
「友希那ちゃん好きー」
「今日は甘えたがりなのね」
「うん」
「……仕方ないわね」
「うん、仕方ない」
「……締まりのない顔ね」
「えー? だってお姉ちゃんとくっつけて嬉しいんだもん」
「……?」
「?」
「今、お姉ちゃんと言わなかった?」
「!?」
やって……しまった。空いた右手で顔を押さえる。お姉ちゃんみたいに思ってるからって、本当に口に出してしまうとは……っ!
「雛菊、もう一度言ってもらえるかしら」
「……いじわる」
「ふふ、悪かったわ」
恥ずかしい。顔から火が出るほど恥ずかしい。なんかあれだ、先生をお母さんって呼んだ時みたいな感じ。
「でも、いつでもお姉ちゃんって呼んでくれて良いのよ。私も、雛菊のことは妹のように思っているもの」
「……ありがと」
羞恥心は薄れないが、友希那ちゃんの言葉は素直に嬉しかった。私と同じように思っていてくれたのだ。
「じゃあ……また、デートしてくれる? ……お姉ちゃん」
「ええ、もちろんよ」
少し恥ずかしい思いをしたけれど、こうしてまた一歩、友希那ちゃんとの距離を縮めることができたのだった。
× × ×
「ってことがあって」
「流石の私も姉にはなれねぇ」
わたしの話を聞いた有咲が、苦笑いを浮かべる。まあ、同い年だし。
「いいよ、有咲はわたしの嫁だから」
「嫁かぁ……嫁!? ちょま!?」
「はいはいちょままちょまま〜」
落ち着いて落ち着いて〜、と有咲の頭を撫でる。なんだか先日の友希那ちゃんとのやりとりを思い出して恥ずかしくなってきた。
「……お前、今友希那先輩のこと考えてね?」
「んん〜?? いや別にぃ〜??」
「目が回遊魚みたいになってんぞ」
「あはは、有咲には敵わないなぁ……」
有咲はわたしのこととなるとかなり洞察力が鋭くなる。本人よりも先に体調不良に感づいてしまうくらいだ。
「そりゃあまぁ? 私はナギのお嫁さん? らしいし?」
「有咲……結婚しよう」
「そ、卒業してからな。流石に今結婚すると色々やべぇし。歯止め効かなくなるし」
「確かに、結婚式とかのこと考えるとまだ先だね〜」
結構お金かかるらしいから、社会人になってちゃんとお金稼げるようになってからだね。
「し、幸せにすっから」
「今も有咲とこうしていられて幸せだよ」
「っ! お前ほんと……私も、幸せだっつーの!」
こうして、今日も穏やかな1日を過ごすのだった。
あれっ? 友希那じゃ〜ん☆ おーい、友希……え?
× × ×
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