憑依in月姫no短編   作:HOTDOG

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最終話直後のお話です。


1. 帰りの汽車にて

「七夜の里の片付けも、ようやく終わったなぁ」

「はい、長い間お疲れさまでした、アキさん」

 

 

帰りの汽車の中で呟き、重ねるようにして琥珀が労りの言葉を掛けてくれる。

 

遠野家に引き取られた時は自由がなく、美咲町の連続猟奇殺人事件が終わるまではどうやって物語を収束させるかを考えて生きてきた。

 

志貴が無事にミハイル・ロア・バルダムヨォンを倒して猟奇殺人が収束したと同時に、自分は弓塚の吸血鬼問題を抱えてしまったため、問題解決のために空の境界の登場人物である橙子さんの助力を借りに観布子市へ。

 

運よく、元の世界の原作知識を交換条件に燈子さんの力を借りながら、依頼(無茶ぶり)もあって冬木の聖杯戦争に参入。

 

原作との差異もあり上手くいかず途中で聖杯戦争から逃げ出そうとも考えたが、琥珀と弓塚、他にも多くの人の助けがあって何とか望む形で聖杯戦争を終えることができた。

 

とまぁ、20歳にも満たない身体ながら人生の一大イベントが幾つもあったため、七夜の里の事まではとても手が回らなかった。

 

事態が落ち着いて、本当にようやく一族の遺骨を墓に収めることができたのだ。

 

 

「弓塚も遠いところまで悪かったな。来てくれてありがとう」

「うぅん、わたしもアキ君の両親やお婆ちゃんのお墓参りができてよかったよ」

 

 

向かいの座席でふにゃっとくたびれている弓塚にお礼を言う。

 

弓塚の肉体は、今は燈子さん手製の人形となっている。

人形での活動にだいぶ慣れた弓塚だが、長距離の移動はやはり普段と違うらしい。

 

普通の肉体とは違う苦労を強いられながら、それでも弓塚は笑顔で一緒に来てくれた。

 

 

「さっちゃん、今日は豪華なおやつ持ってきたから食べてゆっくりしよう?」

「わわ、もう早く言ってよー、琥珀ちゃん! たくさん歩いたし、わたし結構お腹空いてたんだよねー」

 

 

疲労困憊の弓塚をみて、琥珀は手荷物から可愛いかつ大きなパッケージのお菓子の缶を取り出した。

英語でブランド名が書いてあり、なんかデパ地下で売っている感じである。高そう。

 

琥珀にしては珍しく量のあるお菓子を持ってきたなと戸惑っている自分とは反面、弓塚は目を輝かせてお菓子に食いついた。

というか、そんなにお腹空いてるん? 昼間もかなり食べたよね、君たち。

 

 

「……まぁ、天高く馬肥ゆる季節だしな」

「それは秋ですよ、アキさん」

「琥珀ちゃんが育てたひまわり、満開で綺麗だったしね。まだ秋は先だよねー」

 

 

ねー、なんて二人で笑いながら、お菓子を頬張る女子二人。

 

いや、分かってて言っているんですけどね。

ただ、食べすぎとか太るぞとかは女性には言いにくいので、ちょっと遠回しに言ってみただけである。

 

特に美味しそうに食べる弓塚を見て、まぁケチなことを言っても仕方ないと自分もお菓子に手を伸ばす。

 

 

「お、うまい」

「ですねよ、これ翡翠ちゃんのおすすめなんですよ。近頃は色々なお店いったり食べ歩きもしていて、翡翠ちゃんってば驚くぐらいお菓子やお料理に詳しくなったんです! やっぱり志貴さんと付き合い始めた影響ですかね~」

「それには俺も驚きだが、同時に秋葉が最近疲れている原因が分かった気がするぞ」

 

 

恋する妹の成長にニヤニヤと浮かれている琥珀だが、こちらは遠野財閥の舵取りをしている妹、秋葉の心労具合に冷や汗しかない。

 

 

「七夜の里も片付いたし、いつまでも秋葉に甘えてちゃ悪いな…」

 

 

一人呟く。

翡翠は仕事をサボるような子ではないし、そもそも秋葉の仕事量が多すぎるのだ。

 

遠野家は闇を抱えている。

外部に委託できることはかなり制限されており、事実、自分は幼少期の頃に秋葉の父である槙久に雑務を任されていたし、今も遠野の屋敷に出入りするのは一族のものばかり。

 

自分の将来も含め、秋葉とちゃんと相談するべきなのだろう。

 

 

「今夜にでも秋葉の時間が空いてたら話してみるか――っと琥珀、紅茶ある?」

 

 

まぁ、今はふらり旅行の帰り道。

とりあえずは目の前のティータイムを楽しむとして琥珀に紅茶を所望した。というか、せっかくの美味しい洋菓子なのだから紅茶必須でしょ、常考。

 

だが琥珀から返ってきたのはちょっと困ったような表情で、

 

 

「アキさん、すみません。今日は紅茶用意してないんですよ」

「……珍しいな、琥珀が忘れるなんて」

 

 

恥ずかしそうに言う彼女に、自分も虚をつかれたかのように自然と言葉が出てしまった。

 

琥珀は片付けこそ苦手だが、他家事全般のレベルは非常に高い。

料理やこのような遠出の準備にしても、燈子さんが気に入るレベルと言えばその凄さがわかるだろう。

 

と、呆けているこちらに対して弓塚がなぜか得意げな顔をする。

 

 

「全くもう、妊婦にカフェインは良くないんだよ。知らなかったの、アキ君?」

「えっとアキさん。別に飲んでも大丈夫なんですけど、少し気になっちゃって……そのまま忘れちゃったんです」

 

 

すみません、次からアキさんの分はちゃんと用意しときますね。と琥珀は言うが、声があまり聞こえない。

 

それよりも、ふふん、とおそらく最近読んだ本の内容を披露する弓塚の顔ばかりが目に映る。

 

 

(……妊婦?)

 

 

汽車が揺れる。

ガタガタと心地よい振動に体をゆだねながら、弓塚の言葉を頭の中で熟思する。

 

妊婦。それは妊娠している女性を指す。

 

カフェイン。それは精神刺激薬ともいわれ、妊婦や搾乳中の身にはあまり良くないと確かに聞いたことがある。

 

どや顔のさっちん。妊婦に悪いとかは俺も知っているのでそのどや顔は間違っている。でも可愛いから許してしまいそうになるのが悔しい。まぁ今日はこちらの用事にも関わらず頑張ってついてきてくれたのでどや顔無罪で仕方ない。

 

 

『二人同時に責任を取らなきゃ不味いんですよ、アキさんっ』

『わ、わたし達のお腹の赤ちゃん、アキ君がお父さんなんだからね!』

 

 

思考の海に沈む中、脳裏に響いた二色の声。

夏の日差しに輝く向日葵畑の光景と、当時の感情・心情が唐突に湧き上がる。

 

 

 

 

――――あぁ、こんな話をされたのだったな……。

 

 

「……紅茶がないなら緑茶でいいか」

「ちょっと待ってアキ君!今の表情なに!こう、孤高の剣士が遠い記憶を思い出したような!というか、さっきの話忘れてたでしょ!?」

「すみませんアキさん。緑茶もないので伊藤園のミネラル麦茶で我慢してくださいね。それはそうと、あんな大事な話を忘れていたのは私もオコなんですけど」

「忘れるというか、びっくりして記憶飛んでたぞ!」

 

 

この年でボケるとは自分でも驚きである。

死闘で意識が飛んだことは幾度があったが、言葉だけで記憶が欠けたことは二度の人生通して初めてであろう。

 

ステイステイ。爆弾発言を思い出してかなり狼狽してしまったが、とりあえず一旦落ち着こう。

 

 

「というか、君たちに1つ聞いていい?いや、聞きたいことはたくさんあるんだが…。

 ――確か、大丈夫って言った日しか(禁則事項)してないよな? 子供ができる筈なくない?」

「あはは、もしかしたら大丈夫じゃなかったのかも…(目逸らし)」

「私もさっちゃんも、ちょっと間違えちゃったかもしれませんね。仕方ありませんね(顔逸らし)」

 

 

とりあえず一番の疑問を二人にぶつけると、弓塚が怒った感じの勢いから一転、申し訳なさそうに頬をかいた。

一応反省しているようである。もちろん一番ダメなのは雰囲気で何回も突っ走ってしまった自分自身だが。

 

隣の琥珀もばつ悪そうな声色であったが、なぜか顔がそっぽ向いてるため表情が全く見えない模様。理性蒸発していた自分と弓塚はともかく、もしかしたらこの子だけ確信犯じゃないですかねェ……。

 

 

あまり聞いてはいけないことだったのか、三人の間になんとも気まずい空気が流れる。

 

子供ができたことは喜ぶべきことなのだろうし、弓塚が仮の肉体であるにも関わらず妊娠したのは橙子さんぱねぇと感嘆してしまう。

反面、自分の無計画さに二人を巻き込んでしまい情けなくなる。

 

 

「……これはあれだ、環境が悪いな」

「ですよねぇ。私たちって親がいませんから(禁則事項)しても止める人がいませんし、身近にいる秋葉様や翡翠ちゃんもそこらへんは……な、なんといいますか、自由にしていますから」

「シオンやレンちゃんも結構(禁則事項)してるから気にならなかったけど……まぁ、普通なら赤ちゃんできるよね……」

 

 

三人それぞれ、言い訳をして場の空気を和ませる。

そう、これは自分たちが原因ではなく周囲の環境が悪いのだと。

 

言い訳がましいが、遠野家は毎晩といってもいいほどにそこら辺が盛んである。何が盛んであるかは察して頂きたい。

 

 

「ま、まぁ忘れていたのは悪かった。嫌とかじゃなくて、ほんとに衝撃的でな」

 

 

気まずい雰囲気を無くすためにも、とりあえず謝罪の言葉を口にした。

定職ついていない18歳で、二人から同時に妊娠発言。これには何度か死線を潜った自分も意識を飛ばして仕方がないと、自分を心の中で慰める。

 

問題解決した直後に問題を増やしてしまったのも、意識が飛んだ原因の1つである。ただし今回は100%自身が蒔いた種ですねすみません。

 

 

「ちなみに、この話を知っている人は? できれば準備が出来てから周りの皆に話したいんだが……」

 

 

準備とは心と体裁の話。

18歳のプー太郎が彼女二人を妊娠させるのは流石に恥ずかしいし。

 

秋葉の仕事を手伝えるよう本格的に勉強して、並行して簡単な雑務を任せて貰い――要はなんでもよいので仕事が欲しいのである。

 

ただ、そこは付き合いの長い琥珀と弓塚。

こちらの心情は分かっているとばかりに、グッと親指を立てて笑顔を返す。

 

 

「大丈夫だよ、アキ君! そう言うと思って、わたしはシオンとキャスターさんにしか話してないからっ」

「私も秋葉様と翡翠ちゃんにしか話してません。あと、橙子さんにはお手紙で一番に伝えさせてもらいました」

「あ、あとシエルさんにも話したかも!この間また様子見に来てくれたから、お話ついでに報告しちゃった」

「そういえば、桜さんにもメールでお伝えしました。今は海外ですけど、生まれたら衛宮さんと一緒に見に来てくれるって言ってましたよ」

 

 

はい、これはダメですね。どう考えても話が全方向に広がっています。

 

っていうか、何も律義に月姫・空の境界・Fateの全員に報告しなくていいんじゃないの?

そりゃ秋葉はうちの当主だし、橙子さんには一番世話になってるし、キャスターには聖杯戦争を一緒に戦ってもらったが……。

 

このままでは遠野アキはプーで妊娠させたクズと認識されてしまうのではなかろうか(自業自得)

 

 

「弓塚の両親に会いに行くハードルも物凄くあがったし……いっそ、七夜の里を作り直して引きこもりたい……」

「大丈夫ですよアキさん。猟奇事件や聖杯戦争に比べたら、ぜんぜん平和な問題です。また三人で協力して頑張りましょう」

「1年後には5人になるけどね。えへへ、楽しみだね、琥珀ちゃん、アキ君!」

 

 

柔らかく微笑みながらこちらの手を握る琥珀に、さらに手を重ねて心の底から嬉しそうに笑う弓塚。

 

橙子さんにからかわれるなぁとか、鮮花には煩く言われて、せっかく仲良くなった藤乃にはちょっと引かれた目で見られるだろうなぁとか。

 

キャスターやシオンさんはああ見えて口が軽いからすぐに周りに広まって、俺も志貴と士郎と同じように思われるだろうなぁとか。

 

子供を連れて弓塚への両親へどうやって報告しにいけばいいとか、思うところは色々あるけど。

 

 

(まぁ、幸せってこんな気持ちなんだろうな)

 

 

未来の問題が山積みにも関わらず、重ねられた手のひらだけでなく、心の中も陽だまりの中にいるように優しく、温かい。

二人につられるようにして、仕方ないかと照れ隠しに呟きながら、遠野アキも頬を緩めた。

 

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