憑依in月姫no短編   作:HOTDOG

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11. 冬木。弓塚さつきと 後編(上)

腕時計に視線を落とす。

今夜の宿泊先も決まり、衛宮と会う予定も無くなった。

今日と言う日はまだ前半が終わった程度。

残りの時間をどう過ごすか、柳洞寺の縁側でゆっくりじっくり思案する。

 

……せっかく弓塚と二人きりだし、久しぶりにデートに誘うのも良いかもしれない。

身重の体だと、今後しばらくそういったお出掛けも控えることになるだろうし。

 

 

「――よし、新都に行くか、弓塚」

「え、何か用事あったっけ?」

「いや、別に用はないけどさ……ほら、あれだよ」

 

 

こちらの提案に首を傾げる弓塚。

時間があるし新都ならば目新しい店も多くある。

デートスポットとしては良いと思ったのだが、中々、弓塚は察しない。

 

……まぁ、デートしよう、とストレートに誘わない自分が悪いんだが。

何となく、弓塚相手ではそういう言葉が気恥ずかしい。

 

言い淀んでいるこちらと鈍い弓塚。

それを端から見たキャスターが、手を口元に、込み上げる笑いを抑えながら弓塚の肩に手を添えた。

 

 

「デートのお誘いでしょう、サツキ。貴女、妙なところで鈍いんだから」

「え……えぇ! デート!? 鮮花ちゃんじゃなくてわたしと!?」

「――ぐふっ」

 

 

まるで思い浮かばなかったとばかりに弓塚は大げさに驚く。

素で言ったであろう“鮮花”というワードに、鳩尾を殴られたような精神的ダメージが。

藤乃さんとの作戦であったとは言え、秘密裏に鮮花とデートしたことが中々根に持たれているようである。辛いし反省。

 

 

「そんなに驚くことないだろ……大体、二人で冬木に来てるのもちょっとしたデートのつもりだったんだが……」

「あはは……キャスターさんに久しぶりに会うのが楽しみで、今まで気付かなかったかも」

 

 

少しばかし拗ねた目を弓塚に向けたところ、彼女は頬を赤らめて苦笑い。

あのさぁ……鮮花の一件でちょっと気まずいなと思いながらも、勇気を出して冬木同行の声を掛けた自分に悪いと思わないの?(自業自得)

 

と、ふいに弓塚への視線を遮る影。

キャスターの手がこちらの眼前に伸び、ピンと額を弾かれる。結構痛い。

 

 

「ほら、マスターも女々しい目つきでサツキを見ない。大方、デートと分かりにくい言い方しかしなかったのでしょう。サツキに甘えて、曖昧な態度を取るマスターが俄然悪いのよ」

「いてて、わ、分かってるって。……ん、キャスター、これ何?」

「買い出しのリスト。帰りに商店街寄ってちょうだい。六時には夕飯の準備を始めるから、それまでに帰ってくるのよ」

 

 

用意周到というか、相変わらずマスター使いが荒いというか。

キャスターから手渡されたリストに目を落とし、中身を追っていく。

はい、ちょうど男一人で何とか持ち切れる量ですね。弓塚への心遣いが抜群である。

 

というか新都でのデートに加えて商店街での買い出し時間を含めると、午後の自由時間も案外少なく思えてくる。

六時前というリミット付きであれば猶更。

そうと決まれば、さっさと行動あるのみだ。

 

 

「よし、弓塚。今から買い出し――」

「――マスター、私は同じこと言わせる馬鹿は大嫌いなのだけど?」

「は。はい……」

 

 

弓塚に言い掛けた矢先、キャスターの冷徹な視線に射抜かれる。

覇気でも込められているのかと錯覚するほど、怖くて震える。

恥ずかしがっている場合ではないと反省して、弓塚に向けて言い直した。

 

 

「……その、何だ……今から新都でデートしないか、弓塚? 買い出しもあるから半日もないが……」

「えへへ、キャスターさんの後押しでちゃんと言葉にしてくれたから70点かな? 次は最初から私にも分かりやすく誘ってね!」

 

 

言って、こちらの腕をぎゅっと抱く弓塚。

 

 

「それじゃキャスターさん、いってきます! また夜にたくさんお話ししましょうね!」

「えぇ、無理しないようにね。マスターもエスコート、しっかりなさいよ」

 

 

腕を引っ張り進む弓塚に慌てて足並みを揃えながら、柳洞寺を後にする。

デート1つで凄く嬉しそうに顔を綻ばせる弓塚に、気恥ずかしさを感じて顔が少し赤くなる。

手を振るキャスター。

彼女は弓塚を見て愛おしそうに、そしてこちらを見て可笑しそうに笑っていた。

 

 

 

憑依in月姫no短編

11. 冬木。弓塚さつきと 後編(上)

 

 

 

「わわ、やっぱり夏休みだから学生の子もたくさんいるね」

「友人と……というよりは何というか、意外にもカップルが多いような」

 

 

市内の交通機関を使い、新都内をふらりと歩く。

とある若者向けの商店が揃ったデパートに入ってみれば、多くの買い物客――とりわけ、学生のカップルが目立って見えた。

 

学生服には、士郎や間桐さんの通う穂群原学園も見て取れる。

聖杯戦争が五度も開かれた物騒な土地だが、変わらず極平坦な日常を送れていることにほんの少しだけ嬉しさを感じた。

原作組以外は見ず知らずの人ばかりだし、この人たちの為に奔走したわけではない。

たが結果として多くの人が不幸に陥るのを防げたのだから、この光景を見て自己満足に浸る事くらいはいいだろう。

 

隣りの弓塚に視線を向ける。

彼女も周囲の喧騒を、どこか遠い瞳で見つめていた。

自分以上に過激な戦いに身を投じた弓塚だ。

猶更、この平和な風景に馳せる想いがあるのだろう。

 

 

「……いいなぁ、制服デート」

「そこかよっ!」

 

 

予想していたのと違う呟きに、思わず突っ込む。

 

 

「なに、学生カップルに慈愛の視線を投げてたんじゃないの? てっきり冬木を守れた達成感で感動していたと思っていたんだが」

「うー、それもあるけど……学生服でデートって女の子の憧れじゃん?」

 

 

どうやら慈愛よりも嫉妬の気持ちが強かったらしい。

学生たちを見ていた恨みがましい目線のまま、上目遣いでこちらを睨む。

 

 

「私もしたかったなぁ、学生服デート。……アキ君がもっと早く告白してくれていればなぁ……」

「え、こっちのせいなの、それ?」

「だ、だって女の子から告白なんてできないし……」

 

 

もじもじと恥ずかしそうに俯きながら、あり得たかもしれない過去の出来事に未練を漏らす弓塚。

彼女の期待に沿えなかったことに思わず謝りそうになるが、ちょっと待てよと開きかけた口を閉じる。

 

 

(……はて。学校に通っていた時に、弓塚に告白するようなイベントはあっただろうか?)

 

 

猟奇事件、聖杯戦争と濃い時間を過ごした上で、自分は彼女への想いを自覚して告白をした。

弓塚への告白を通じて、自分が本当の意味で“七夜アキハ”になったことは今でも鮮明に覚えている。

 

前の世界の自分でもなく、七夜と浅上の血を継ぐ子供でもない。

この世界で形成された七夜アキハと言う人格に真に成り代わることで、初めて自分は彼女――いや、彼女たちと想いを通じ合うことができたのだと思っている。

 

反面、あれだけ苦楽を共にしてようやく意識できたとも言えよう。

命の危険が無い平凡な学生生活では、弓塚や琥珀との間に情以上の感情が芽生えることはまず無かったのではなかろうか。

 

 

「悪いが弓塚……猟奇事件や聖杯戦争、もっと言えば弓塚が吸血鬼にならなければ、多分、友達のまま卒業していたと思うぞ」

「えぇ!! それ酷くない、アキ君!?」

 

 

予想外とばかりに、弓塚は目を開く。

いやいや、大きなイベントがなければ順当な結果だと思うんですが……長く学生生活から離れているせいか、彼女の中で学生時代の思い出が美化されている可能性が割高である。

 

当時の思い入れが互いに違うのであれば、IFの話なんて余計噛み合わない筈。

弓塚を宥めながら、楽しくもあり不毛でもあるIF話を切り上げた。

 

 

「過去の話は置いておいて……その、制服デートなら出来るだろ。まだお互いに学生だし」

「うーん、でもわたしってば復学してないじゃん? それで制服デートって、本物じゃなくてコスプレっぽいと思うの」

「無駄に拘るなぁ……」

 

 

美咲町に戻って日を置いた後、押し入れから学生服を取り出せばいいやと思っていたのだが。

どうやら学生として学校に通っていることが、彼女にとってプライスレスらしかった。

 

ということは、弓塚の要望を叶えるには復学、しいては彼女自身を表社会に戻さなければならないわけで。

……いつまでも遠野家で匿ってないで、早く世間一般に返さねば(使命感)

 

 

「まぁ、橙子さんが作ってくれた仮の体で遠出もできたし、もう人間として問題なく暮らせるんだよな」

「っ、うん」

「え、何、その間は?」

 

 

日常社会復帰への道筋を思い浮かべながら弓塚へと掛けた問いかけに、ほんの一瞬、戸惑いのような間隔が入り込む。

思わず足を止めて、弓塚の表情を真剣に伺う。

いつか、彼女は過去に強まる吸血衝動を隠していた前科がある。

それは見当違いの遠慮であり、その時は友人だからこそ彼女をきつく叱った。

 

今も何か一人で抱えているのか。

若干怒気を含んだ視線に感づいたのか、弓塚は慌てながら、安心させるように苦笑いしながら口を開いた。

 

 

「えっと、そんな深刻な問題じゃないよ? ただ学生に戻ってもお腹が大きくなったら学生服着れなくなっちゃうし、来年にはアキ君はもう卒業でしょ」

「あ、あぁ、そういうこと……」

 

 

すみません。自分起因の困り事でした。

制服デートの要望なんて叶えるのは簡単かと思いきや、よくよく考えれば期限が近い。

弓塚を復学させるには親御さんの元へ彼女を返さないといけないし、復学してもお腹の影響ですぐ休学となってしまう。

加えて七夜アキハもとい遠野アキは、順当に来年で高校を卒業する予定となっている。

 

……復学させても彼女の学校生活は非常にやり辛いものとなる。

責任の一端どころか9割以上はこちらにあるので、もう責任という名のもと、遠野家就職ルートで良いんじゃなかろうか。頑張って一生面倒見ますので。

 

彼女の社会復帰について頭を悩ませている中、まだ弓塚の話は終わっていなかったのだろう。

それに、と弓塚が口を尖らせた。

その面持ちをみて気付く。

あ、これはこちらが無駄に怒られるパターンであると。

 

 

「わたしがお家に戻っている間に、アキ君が鮮花ちゃんに篭絡されないか……ものすっごく心配だし」

「あのな、その話は何度か聞いたが……そう心配するなよ。間違っても、鮮花に手を出すことはないから」

「それは信用してるけど、どちらかと言うとアキ君は手を出される側だからね?」

 

 

性格は信用している反面、環境が信用できないと不満を口にする弓塚。

どうやら弓塚の中ではこちらは羊なイメージで、鮮花が狼である模様。

これはあれか。

性格は信用されているが力が信用されていないということだろうか?

 

頬を膨らませた彼女から若干顔を背けながら、掛けるべき言葉に頭を悩ます。

 

 

「出される側って……鮮花に押し倒されるほど、弱くも情けなくもないぞ」

「うん、アキ君も退魔の人だから、鮮花ちゃんに力負けするとは思ってないよ」

「だろ? だったら――」

「でも、寝込みとか襲われたら?」

「……」

「……」

 

 

彼女の不安を払拭すべく力を誇示した手前、投げかけられた変化球。

寝込み。

流石に、そんな状況では力比べも出来やしない。

想定して想像して、ちょっとばかしの冷汗をかいた。

 

 

「……いやぁ、いくら何でも、鮮花もそこまではしないんじゃないか?」

「あぁー! 絶対考えてなかったでしょ、アキ君! そういうのを隙があるとか、考えが甘いって言うんだよ!?」

 

 

だぁー、墓穴を掘った!

弓塚に返事するまでのタイムラグや返答内容が甘かったせいで、対鮮花への意識の低さが露呈する。

彼女の不満が収まらない限り、このままでは小一時間、鮮花の話が続けられるパターンである(19回目)。

 

おかしい。

周囲の学生カップルを見ていただけの筈が、なぜお説教コースになってしまったのか。

 

頬の膨らみがハムスターばりになってきた弓塚に、彼女の気を変えるものはないかと周囲を探る。

何せ今はデート中。

鮮花の話のせいで弓塚の頭から離れているかもしれないが、デートっぽい気分に戻れば追及も一旦は矛を収めるだろう。

不満の元はこちらにあるので殊勝に聞くが、弓塚とはどうせいつも一緒にいるのだ。

せっかくのデート中ではなく、遠野の屋敷に帰ってからゆっくり怒られたいものである。

 

周囲に巡らせた視線の遠くに、ちょっとした人だかりが見えた。

他の商店に比べれば学生カップルもいないため、会話を断ち切るにはちょうど良い。

 

彼女の手を引っ張り、足早に目的の方へと歩き出す。

 

 

「ほら弓塚。向こうでなんかイベントやっているし覗いてみよう、な?」

「ちょ、ちょっとアキ君! まだ話は終わってな――」

 

 

少し抵抗されるが、こちらの強引さに諦めて渋々と引かれるままに彼女も足を進めた。

話題転換ヨシ!

指摘された某臨時メイドの寝込み対策は、追々考えていこうと心に留める。

まぁ、弓塚が過剰に心配しているだけで実際に起こるとは思えないから、特に急ぎでもないのだけれど。

猪突猛進に見える鮮花だが、越えちゃイケない一線は分かっている筈である。……だよね?

 

 

人だかりが出来ていた目的地へ、自分と弓塚も合流する。

人混みという程ではなく、見ればちょっと覗いては興味がないのか去っていく人も多い。

 

人だかりの正体は、同系列の専門店を集めた物販イベントであった。

ご当地名物とか、北海道グルメフェアとかでブースが集まり普段は販売していない商品が並ぶイベントだ。

 

ただ、問題は今日のソレはグルメとかお土産といった軽いものではなく――

 

 

「――ブライダルリングフェア……だと?」

 

 

結婚指輪。

様々なブランド。笑顔一杯のセールスのお姉さん。幸せの絶頂にいそうなカップル多数。

 

はい、失礼。

まだ学生の自分たちが来る場所ではありませんでした。

そう思い、急いで回れ右をする……が、繋いだ左手、その先の彼女の足が動かない。

 

 

「……ア、アキ君、指輪見たかったんだね……た、確かにわたしも少し興味あるかも」

「――そ、そうだな。関係ない話じゃないし、せっかくだからその、一緒に見ていかないか?」

 

 

弓塚の反応に対して、速攻で頭を回転させてパーフェクトな言葉を返す。

結婚指輪を見る予定なぞ微塵もなかったが、先ほど彼女の機嫌を損ねた手前、今は全力でリカバリーに神経を研ぎ澄ますべきである。

 

……二人で指輪を見るのは物凄く恥ずかしいので、できれば一人で下見してから行きたかったのが本音だが(心の準備)。

 

目を輝かしていたせいか、弓塚がさっそく店員に捕まりセールストークを受けていた。

弓塚も興味津々に聞くものだから、店員も実に喋りやすそうである。早くもサンプル品の指輪が弓塚の薬指に嵌められていた。

 

 

「アキ君! 見てこれ、すっごい綺麗!」

「あぁ、ダイヤも大きいがデザインもいいな。……えっと、似合ってると思うぞ」

「えへへ、ありがと! あ、もうちょっと色々見てもいいかな?」

 

 

指輪を見つめながらはにかむ弓塚に、苦笑しながら頷いた。

時間を気にする必要はないし、興味が落ち着くまで見て回っても問題ない。

デート中にも遠慮の消えない彼女に、顔に出ないよう注意しながら心の中で静かに愛おしさを感じて想う。

 

問題があるとすれば、この空間に弓塚といるのが恥ずかしくて心臓が長くは持たないことか。

好きだし、責任を取るためにもいずれは彼女と籍を一緒にするだろう。

しかし元はただの学友だったせいか、彼女と結婚するという事実を想像するだけで顔が赤くなるのは、どうにかならないものだろうか。

 

 

「アキ君! これどうかな、見たことないレベルだよ、凄いよ!?」

 

 

また別の店員に捕まっている弓塚の声に思考を中断して、はしゃいでいる彼女の元へと足を進めた。

まぁ、テンション上がって機嫌が直ったことは良いことだ。驚きすぎて語彙が小学生並みになっているのは別の意味で恥ずかしいが。

 

そして小市民感丸出しで宝石に見とれている弓塚さん。

その指輪は確かにものすっごく美しい代物だがすぐ返しましょう。七桁の値札が見えているので。

 

顔に血が上ったり引いたりで心臓が非常に辛い。

頬を染めながら嬉しそうに指輪を試着する弓塚には悪いが、結婚の準備はもう少し大人になってから考えようと心に誓った。

 

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