憑依in月姫no短編   作:HOTDOG

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5. 鮮花ルートif 後編(中)

昼下がりを過ぎた辺り。

鮮花に連れられて入ったカフェは満席とは言わないまでも賑わっており、周囲のカップルの雑談が店内に流れる音楽とともに耳に入る。

静かに流れるジャズのメロディと人が奏でる雑音が合わさったそれは、意外と心地よい感じがして悪くない。

 

――自身の目の前で、注文した特大のカップル用パフェを前に、なぜか挙動不審な鮮花の存在を除外すればだが。

 

店内の雰囲気は悪くないのに、対面に座る彼女が百面相を繰り返していてはこちらだって落ち着かない。

 

 

「……さっきからソワソワしてどうした? というか、パフェ食べないのか?」

「っ、食べますよ、今食べようとしていたところです。ですけど……」

 

 

顔を俯かせたまま、チラチラと周囲の様子を伺う鮮花。

右に視線をやれば仲良いカップルがあーんと交互に食べ比べ。

左に視線をやればこれまた仲良いカップルが、カップルシートで体を密着させながら幸せそうに会話中。

ちなみに鮮花の後ろでは、キスしそうなくらい顔を近づけながら話しているカップルもおりまする。この店やばない?

 

鮮花は頬をほんのり赤く染めながら、大変気まずいそうな容貌をしている。

どうやら周囲の雰囲気に気圧された様子。

このカフェに行くのを躊躇っていたこちらを強気の笑顔で無理やり引っ張ってきた鮮花の姿は、今やどこにも見当たらない。

 

 

(え、なにこの子。今頃になって恥ずかしくなってるのん?)

 

 

いるよねー。ノリノリで先導しといて、いざとなるとヘタレる人。

鮮花自身、男女経験は素人だ。

おそらく想定以上の甘い空間に、勢いを削がれてしまったのだろう。

別の言葉で言うならば「テンション高かったけどやっと冷静になりましたね」とも言う。

 

鮮花は頭が良いが、それ以上に行動力があり過ぎるので客観的にみると一周回って阿呆な子に見えないこともない。

本人に言ったら怒られるので言わないが。

 

仕方ないので、溜息とともに状況打開の一手を放つ。

カップル用パフェに備えてあった1つだけのスプーンを取り、果物と生クリーム、フレークを合わせて掬う。

 

 

「……ほら、口あけて」

「え?」

 

 

鮮花にとっては予想外の行動だったのか、バッと顔を上げた。

スプーンを顔の高さまで上げてから、鮮花の薄い唇にそっと当てる。

 

 

「お互いにいつまでも固まってたら、店の人に疑われるだろ。1回だけでいいから、カップルっぽいことすれば……ほら」

 

 

言いながら恥ずかしくなり、目線を逸らしながら鮮花に口を開けるよう催促する。

自発的にカップルっぽいことをすると、これ仮デートと言いつつ単なる浮気なのでは?と現状に疑問が湧いてしまう。

 

しかし、これはあくまでカップルの振りなので問題ない。

今日のことは二人に秘密にしてあるし、出掛ける際も違和感なかったと思うのでバレない筈ヨシ!(現場猫)

 

 

「……あーん」

 

 

少し躊躇った後、意を決したように鮮花が口を小さく開ける。

攻める癖に守りは弱いのか、恥ずかしさを隠すように口を開けたと同時に目を瞑る。

 

 

(……ちょっとエロいな)

 

 

普段はS気味の後輩が、頬を染めて瞼を閉じ、小さく口を開いたその姿。

口を閉じたらキス待ち顔だよな……と邪な感情が浮かびあがり、必死に頭を振って掻き消した。最低だ、俺って……。

 

 

「こ、こほん……ほい」

「んっ」

 

 

咳ばらいを一つ。

さっさと終わらしてしまおうと、無心で鮮花の舌先にスプーンをのせる。

ゆっくりと舌で具を絡めとる鮮花。

雰囲気がまるで儀式のようだが、一先ず下手な妄想が捗る前に終わらせたことに安堵した。

 

 

「1回だけだが、取り敢えずこれで偽造カップルとは疑われないだろ」

「……いいえ、ミスがありました。これでは駄目です」

 

 

はい?

終わったと思った矢先、鮮花の深刻そうな言動に再び緊張が走る。

 

 

「ミスって、今の“あーん”でか?」

「はい……そ、その、味がわかりませんでしたので……もう1回必要だと思います」

 

 

そう言って再度、目を閉じ口を開ける鮮花。

……何言っているんですかねぇ、この子。

それとやめてくれ鮮花、その顔は俺に効く(2敗)。

 

抗議しようにも鮮花が覚悟を決めたような面持ちのため、水を差すのも憚られた。

 

 

「……ほい」

「……んっ……もう1回」

「……ほい」

「……はむっ……もう1回」

「……ほい」

「……あんっ……もう1回」

「……ほい」

「……んんっ……うん、確かに評判になるくらい美味しいで――んぐっ!」

「あ、悪い」

 

 

半ば流れ作業として次の一口も運んでいたため、お喋り中の鮮花の口元にクリームをベタリと付けてしまう。

怒鳴りはしないものの目線で大いに不服を伝える鮮花。

でも鮮花が悪いんだよ。

もう1回とかとんだほら吹きである。キス待ち顔の鮮花に何度もスプーンを運ぶ男の心労も考えてみてほしい。

 

 

「もう……七夜さんってば、勿体ないことしますね」

 

言って、鮮花はペロリと舌で唇を舐めとる。

ついで一指し指で口回りを撫でてクリームを取り、指先を口に含んだ。

チュッと音とともに、喉が鳴る。端的に言ってえちえちだと思います(白目)

 

これは……合意と見てよろしいですね? ロボトルぅーファイトぉー!(意味深)――と再びおバカな思考が頭を過ぎる。

鮮花のちょっとした仕草も色っぽさを感じてしまうあたり、今の自分の頭の中は相当ピンクに染まってる。

 

 

「……クールダウンだ。妄想しちゃ駄目だろ、これは」

「何一人で唸ってるんですか……では、七夜さんも口開けて下さい」

「はい?」

 

 

言って、目の前に差し出されたのはさっきまで自分の手元にあったスプーンであった。

鮮花の憎たらしいお色気に悩まされているうちに、いつの間にか鮮花の手に渡っていた模様。

そしてスプーンに具がのっているあたり、今度はこちらが“あーん”する順番らしい。

 

 

「……する必要あるか? さっき1回やっただろ」

「七夜さんが私に、ですよね。私からはしていませんし……」

 

 

短く言葉を紡ぎながら、こちらを恨めしそうに睨む。

 

 

「わ、私だけやられるのはフェアじゃありません。七夜さんに先手を取られたのも悔しいですから……お返しですっ」

 

 

こんなところまで張り合うのかよと、若干その反骨心に尊敬するのも束の間、ぐいっと勢いよく口の中にスプーンを押し込まれる。

味わうよりも、間接キスとかこの子は気にしないだろうかとの考えが頭を巡る。

なお自分は十分恥ずかしいです。

鮮花に言ったら負けた感じがするので、口が裂けても言わないが。

 

スプーンが抜かれ、数秒の咀嚼。

駄目だ。味が分からん。

 

 

「……どうです?」

「……よく分からん」

 

 

口の中ではしつこくない上品な甘さが広がっている。

だが味覚は甘いと感じていても、いつもと違う場所、違う相手、奇天烈な食べ方では脳みそが正しく働かない。

さきほどの鮮花と全く同じ反応となったのだが、当の鮮花はなぜか肩を落として落胆のポーズ。

 

 

「ふーん、じゃあ勿体ないので、あとは私が貰っちゃいます」

「……え?」

 

 

ここで女性特有の謎理論。

鮮花はパフェごと手元に持っていき、お嬢様っぽい仕草で小さく一口、パフェを頬張る。

 

 

「…………んっ」

 

 

気のせいか、口に含んでいる時間が長い。

そんな鮮花を見ているのが気恥ずかしく、頬杖をついて顔を背けた。

 

 

「ふふっ」

「……なに笑ってるんだよ、全く」

 

 

鮮花の口から微かに漏れた笑い声に、彼女の方を振り向かないまま溜息を吐いた。

横目でそっと鮮花を見る。

スプーンを咥えながら、勝ち誇ったように口元を綻ばせる鮮花が目に映った。

 

 

 

 

憑依in月姫no短編

5. 鮮花ルートif 後編(中)

 

 

 

 

「さて、最後の勝負は何にしましょう」

「まぁ、歩きながら適当に決めればいいだろ。無理に今日、決着つけなくてもいいしな……いや、別に疲れてるとかじゃないから」

「はいはい――って七夜さん、もっとちゃんと腕組んでくださいよ。さっきのお店の人に見られたら偽カップルだと思われちゃうじゃないですか」

 

 

カップルの賑わうカフェで寛いだ後、ゆっくりと街中を散策する。

夕方に向かう街並みは、まだ夏真っ盛りのため暑く、異様に明るい。

 

鮮花の言葉に適当に相槌うちながら、鮮花を日陰に押して歩を進める。

鮮花のテンションが低いとこちらまで変な調子になるが、テンション高い鮮花の相手をするのも非常に疲れるなぁと、半日を振り返って思ってしまう。

 

ただ同時に、贅沢な悩みをするようになったと自分自身に苦笑する。

この何かと物騒な世界。

“こんなこと”を悩めるようになったのが、何となしに嬉しかった。

 

 

「……もっと素直に楽しんでいいんですよ、七夜さんは」

 

 

ふと、鮮花の脈絡のない一言に驚き、足を止める。

いや、脈絡はある。

あるが、鮮花に喋ったつもりはなかった。

 

こちらの固まった表情が可笑しかったのか、鮮花は笑う。

 

 

「忙しいのはわかりますけど、私たちは魔術師でも一般人でもない、その間なんですから。オンオフ切り替えないと人生楽しめませんよ」

 

 

それと七夜さんの思考回路なんて手に取るようにわかりますからっ、と笑顔で小憎らしいことを鮮花は言う。

自分は顔に出やすいのか、琥珀や弓塚にはよく心の内を悟られる。

が、鮮花にも勘づかれるようになるとは……長い付き合いになったのを喜ぶべきか、単純と言われているようで悔しむべきか。

 

 

「その通りだが、そんな器用にできたら苦労しないっての」

「ふふ、七夜さん、手先は器用ですけど頭は不器用ですからね」

「……頭が不器用とか初めて言われたぞ。いや、否定できないが」

 

 

頭が不器用とは、とどのつまり客観的に見て立ち回りが下手ということなのだろう。

魔術の世界は一般の境界からみると物騒で、身の回りの防衛に心配事が尽きない。

自分の知る限りの“原作”が終わった後も、不器用な自分が人生を楽しめるかは微妙なところだ。

 

魔術師ではなく、魔術使いである自分と鮮花。

立ち位置が同じなのに彼女の生き方が輝いて見えるのは、鮮花の心の在り方が強いのだと、数年の付き合いで実感してきた。

自分にはできないその在り方が少し羨ましく、魅力的だと思う。

 

まぁ、そんなことを当人に言ったら、年上として負けた感じがするので言わないが。

 

 

「そう言えば、大学はどうされるんです?」

「うちの話?」

「はい、七夜さんやさつきさん、本来なら今年は受験でしょう?」

 

 

魔術使いでしかない自分たちは、魔術の世界に入らない限りは世間一般で生きていく。

大学か。

鮮花みたいに魔術と学業の両方を頑張れていれば、そんなに悩むこともなかっただろう。

 

 

「自分の話だけど、二年前に正式に遠野家の養子になったのは、鮮花に話したっけ?」

「聞いてますよ。それで、七夜さんは“七夜アキハ”といった偽名を無くして“遠野アキ”という名前と戸籍を貰ったんですよね」

「偽名……まぁ、そうだな」

 

 

面倒な話なのにちゃんと覚えている鮮花の記憶力に関心しながら、古い記憶を思い返す。

七夜アキハと名乗っていた時期は長かったが、実際、あの時期の自分は“遠野シキ”の代わりでしかなかった。

 

蒼崎青子に連れられて海外に出奔した志貴。

空いてしまった遠野家長男という椅子に代打として座ったのが、自分というイレギュラーだ。

遠野シキとして学校に通い、屋敷で暮らす。

七夜アキハなんて言うのは、自称していただけのこの世に存在しない名前であった。

 

 

「一応、遠野アキは今年で地元の高校を卒業することになっている……らしい」

「らしいって、自分のことなのに曖昧ですね」

「そこら辺は秋葉と琥珀が対応してくれたし、こっちもついこの間までは……ほら、忙しかっただろ、人類滅亡しかけて」

「あぁ……三度目のタタリでしたよね。私と七夜さんは事件を起こした親玉とは戦いませんでしたし、そもそも出会ってもいませんが……確かに大変でした」

 

 

先日というには、やけに記憶が遠く感じる。

それは表と裏の世界を器用に歩く鮮花も同じようで、実感は伴いつつもまるで泡沫の夢を見ていたような、そんな曖昧な表情をこちらに向ける。

 

 

「でも七夜さんの呼びかけで、皆さん協力してくれたんでしょう?」

「いや、俺は琥珀と弓塚に相談しただけ。もちろん、知り合い全員に協力を申請するつもりだったが……」

 

 

原作では三咲町にタタリは3度現れる。

1度目、タタリ本人にして死徒二十七祖第十三位『ワラキアの夜』。

2度目、タタリの残骸であり真夏の雪原を心象風景にもつ『夢魔・白レン』。

そして3度目はシオン・エルトナム・アトラシアのIFであり成れの果てとも言われる『オシリスの砂』。

 

前2回のタタリはともかく、最後のオシリスの砂に関しては「全人類が賢者の石へと変わった世界を確立させ、その世界を大魔術で現実のものとする」なんて訳わからないことを実行しようとするボスである。シオンさんさぁ……。

 

間違えれば人類滅亡であり、“ズレ”のあるこの世界では原作通りに志貴が無事倒せるとも限らない。

以前参加した第五次聖杯戦争以上に、介入する際の準備を整えなければと思っていた。

 

 

「琥珀から燈子さんや秋葉に、弓塚からキャスターやシエルさんに話が広がって……あとは鮮花も知ってるだろ」

「はい、危機感はありましたが同時に安心感もある完璧な布陣で望めました。想定外の事象が起こっても三重、四重にそれをカバーできる作戦でしたから、美咲町への被害も一切ありませんでしたし」

 

 

聖杯戦争で自分がガバっていたのが笑えるくらい、タタリ――『オシリスの砂』は完璧に処理できました。

能力の違いというか、頭良い人に頼る事が大事ってはっきり分かんだね。

 

 

「話を戻すが……相談だけで大きなことはできなかったが、それでも、事件当日までは志貴に七夜の体術を教えて貰ったりして鍛えていたから、他の些細なことは後回しだったって訳」

 

 

つまり戸籍とか大学といったことに気を回す余裕はなかったのだ。

人類滅亡が見えている以上、小心者の自分の気は休まらない。

七夜の里については心の整理や先人たちを供養してやりたいとの想いもあり手を付けられたが、自分の将来なんてものは全てが終わってからでないと考えられない。

 

 

「それでも……そうだな、この間、七夜の里に墓参りに行ってきてさ。

 秋葉の仕事を本格的に手伝いながら……同時に、体術や魔術だけじゃなく一般的な勉強の方もしっかり頑張らないといけないとは思ったかな」

 

 

本格的にどうするかはまだ秋葉と相談中だけど、と情けなく呟く。

遠野家の内側の仕事をするにしても、幼い頃から当主たる教育を受けてきた秋葉を補佐するレベルはかなり遠い。

一般の企業に勤めるよりも遠野の中で働いてほしいと秋葉は言ってくれたが、だからこそ、お荷物にならないよう立派な人間にならなければならない。

 

 

「ん? そう考えると、鮮花とデートしてる場合ではないような……むしろ立派な人間から真逆の行為のような……」

「き、気のせいですよ! そうだ、さつきさんはどうなんです?」

「あ、あぁ……そうだな、弓塚は――」

 

 

真実に触れそうになる前に、鮮花の慌てたような声で思考が途切れる。

彼女二人……鮮花とデート……立派な人間……うっ、頭が。

 

 

「……弓塚は2年間学校に通ってなくて出席日数が足りなかったから、まだ1年生なんだよなぁ」

「それは何と言いますか、お気の毒ですね……」

「遠野家の方で改竄することもできたが、あまり褒められた行為じゃないしな。弓塚自身、秋葉に余分な迷惑は掛けたくないって言ってたから」

 

 

猟奇殺人事件については弓塚の他にも十人近い犠牲者が出ており情報も錯綜したまま。

弓塚さつきのみが目立った事件ではないため、遠野家の力で情報の改竄可能な案件だった。

ただ、やはり手間と時間が掛かるし、いつか生活のどこかに歪が出てくる可能性も捨てきれない。

 

 

「弓塚については、猟奇殺人事件の犯人に2年間拉致されて、逃げ出したところを遠野財閥のものが偶然保護したという筋書きになっている。

 犯人は不明のまま、弓塚も心因性の記憶障害でしばらくは遠野財閥の医療機関で経過観察中……大体そんな感じで、世間に戻る予定だな」

「へぇー、で、そんな記憶障害中のさつきさんに、手を出して妊娠させた遠野家の次男がいると」

「……うん、そこだけどうしようか本気で迷ってる。秋葉にも匙投げられたし」

 

 

ジト目で睨んでくる鮮花。

責めるような視線の圧に耐え切れず、ソッポを向いた。

弓塚の親御さんへの言い訳をここしばらく考えているが、どう言い繕ったところで遠野家次男がクズであることは変わらなそうである。泣きそう。

 

 

「ま、まぁ弓塚も今すぐ世間に戻るわけじゃないしな。そのうち何か妙案が浮かぶだろ……多分」

「七夜さんの欠点ですけど、現実逃避や問題の先送りが癖になってる気がします。……そんなに悩むのなら、さつきさんのご両親の記憶も改竄してしまえばどうですか?」

「いや、それは駄目だろ。確かに昔から家族ぐるみの付き合いで弓塚とも付き合っていた、なんてすれば言い訳は簡単かもしれないが――」

 

 

少し言い淀みながらも口を紡いだ鮮花の案に、首を振った。

 

魔術による記憶の改竄は確かに可能だ。相手が一般人なら猶更。

そしてそれ自体は、こちらも悩んだ際に思い浮かんだ解決案でもあるのだが。

 

 

「弓塚の親御さんが自分たちの子供――弓塚さつきを育ててきたのは、掛け替えのない思い出だし、彼らの宝物だ。それをこっちの都合で、これまで過ごしてきた時間を“偽の記憶”にしていい筈はないし、しちゃいけない」

 

 

自分もこの世界で、琥珀や弓塚と苦しくも大切な時間を過ごしてきた。

隣にいる鮮花とだって、無くしたくない大事な思い出……想いや記憶はたくさんある。

そんな大切な記憶を、第三者の都合で勝手に改変されてしまったらどうだろうか。

権力や魔術があれば、都合よく改竄できる事実もある。

が、侵してはいけない一線があるということも、絶対に忘れてはいけないのだ。

 

 

「……知ってます、七夜さんならそう言うと思っていました。一応確認で言ってみただけですよ。……まぁ、変なところで融通が利かない人とも思いますが」

 

 

楽しさ半分、呆れ半分といった口調で鮮花は言う。

確かに、悩みを言いながら我儘を言っている風で、相変わらず上手に立ち回れない自分が少し嫌になる。

 

ばつの悪そうな顔を見せたせいか、鮮花の口が迷ったように半分開く。

 

 

「…でも、私は七夜さんのそういうところも――好きで……に、人間らしくていいかなぁって思ったり」

「……」

「……」

 

 

え、なんだって? とは言いません。

七夜一族の身体って五感のスペックがとても高いので、えぇ。

黒桐家は兄も妹も肝が据わっているというか、大胆ですね。

 

でも、いきなりフルスロットルでアプローチして即座に黙るとか止めましょう、鮮花さん。

相手がヘタレだと、このように空気が固まります(白目)

 

 

「あ、あ――! 勝負アレにしましょうよ、七夜さん!」

 

 

時間にして5秒。

沈黙から逃げるためか、鮮花は遥か前方に指をさす。

指さす方向の先には……ゲームセンター?

 

 

「クレーンゲーム、あれで決着をつけましょう!」

 

 

言って、即座に腕をほどいて駆け出す鮮花。

……人のことをヘタレと言うけど、あの少女も案外同類なのではと怪しんだ。

 

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