憑依in月姫no短編   作:HOTDOG

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6. 鮮花ルートif 後編(下)

クレーンゲーム機が所狭しと並ぶ店内の通路を、鮮花が足早に進んでいく。

後を追いかけながらどこまで奥に進むのかと思った矢先、鮮花の足がピタリと止まった。

 

 

「あ……これ」

「そ、そんなに逃げるなっての。で、どうやって勝負するんだよ?」

「に、逃げてません! 七夜さんが遅いだけですよ!」

 

 

追いついた途端に、顔を真っ赤にした鮮花に怒られた。

少し前までは上機嫌だった筈が、今はツーンと顔を逸らして不機嫌全開のお嬢様。

見ていて飽きない奴である。

 

辺り一帯のガラスケース内に飾られたクレーンゲームの景品を見渡す鮮花。

その中に気になるものがあったのか、唸りながら一つのクレーンゲーム機に近づいていく。

 

 

「このぬいぐるみ……ふふ、なんか七夜さんに似てません?」

「……どこが? というか、これってペンギン……だよな?」

 

 

鮮花が覗き込んだケースの先には、ゆるキャラのような手抜きにデザインされたペンギンっぽいぬいぐるみ。

ペンギンの癖にマフラーや靴下を着込んでいるのは、それが受けると思ったからか。

 

……はて、一体どのような思考回路でこのペンギン風ぬいぐるみと自分が鮮花の中で重なったのかと首を傾げる。

締まりのない顔つきなのか、ペンギンと言う鳥っぽいけど飛べない微妙な種族を中途半端な自分と掛けているのか。

ぬいぐるみを睨みながら頭を悩ませているこちらに、鮮花が肩を寄せながら問い掛けてきた。

 

 

「七夜さん、クレーンゲームの腕前は?」

「……まぁ、人並みかな」

「なるほど、得意ですか。ちなみに私はやったことありませんから、普通に勝負してはフェアじゃありませんね」

 

 

こちらの回答をスルーして一人で話を進める鮮花。

だから心を読むんじゃありません。いや、嘘ついて悪かったけど。

 

可愛く首を傾げた鮮花は、よしっと一声。

 

 

「今回の勝負、私は観戦させてもらいます。クレーンゲームは簡単には取れないと聞きますし……そうですね、5回」

 

 

そう言った彼女はこちらの目の前に手のひらを広げ、繰り返す。

 

 

「5回であのペンギンのぬいぐるいを取れたら七夜さんの勝ち、でどうでしょう?」

「あれか……かなり大きいな」

 

 

鮮花の宣言を聞き、ターゲットとなる景品に目線を移す。

鮮花が指さした獲物はかなりでかい。

抱きぬいぐるみ、とでも言うくらいの大きさだ。

そこらのお店で買っても五千円ほどの値がつくそのサイズに身体が震える。

 

 

「えっと……すみません、七夜さん。5回は非常識でしたか?」

 

 

クレーンゲームの相場がわからないだろう鮮花が、少し不安そうに訊ねてくる。

勝気が強い鮮花だが、彼女が望んでいるのはフェアな勝負の上での勝利だ。

鮮花としては、5回という回数がクレーンゲームに対して適切な数字かはわからなかったのだろう。

 

 

「素人なら、そうかもな」

「え?」

「いいぞ、鮮花。この勝負乗った」

 

 

不意に訪れた活躍の舞台にちょっとイキる。

5回。この手の獲物に対しては素人では取れる可能性がかなり低いゲーム数であるが、経験豊富な自分から見ればちょうどよい。

いや、むしろ手緩いといってもいいだろう。

 

 

「鮮花。5回チャンスをくれるのはいいが――別に、3回で取ってしまっても構わんだろう?」

「え、じゃあ3回で取れたら勝ちにしますか?」

「……ごめん、5回で取るのも結構レベル高いから、これ。5回チャンス下さい」

 

 

ヘタレた。

決めセリフを素で返されるのは恥ずかしい。

まぁ、鮮花からすればクレーンゲームの程度がわからないので仕方がないが。

気を取り直して、景品のぬいぐるみに集中する。

 

 

「あ、そういえば七夜さん、お金ありませんでしたよね。出しますよ」

「いや、多少はあるから大丈夫だって」

 

 

こちらの嘘を律義に覚えていた鮮花を、慌てて手で静止する。

ゲーム代まで彼女に払ってもらうのは、客観的に見なくても格好悪すぎるし。

 

 

「さてと……」

 

 

1ゲーム目を開始。

最初は愚直に対象を狙ってクレーンを操作する。

首に巻かれたマフラーに引っ掛ける形でぬいぐるみを持ち上げて――案の定、ぬいぐるみの重さに負けて、クレーンからぬいぐるみは外れてしまった。

 

 

「あぁっ、ちゃんと掛かったと思ったのに!」

「まぁこのサイズの景品が置いてある台ならこんなもんだろ。まだ十分にお金が入ってないから、アームも少し緩いしな」

「お金とアームが関係あるんですか?」

「クレーンゲームの中には確率機と呼ばれてるのもあるんだよ。そういう台だと、一定以上お金が入らないと碌にアームが締まらない仕様になってる感じ」

 

 

隣で熱中する鮮花に説明しながら、次の分のコインを投入する。

2ゲーム目は対象の真上からクレーンを下ろさず、少し軸を後ろにして狙っていく。

隣から「そこじゃ駄目ですよ!」なんて不満そうな声が聞こえるが集中しているので無視。

軸を外して下ろしたクレーンはぬいぐるみを掴むが持ち上げられず、ぬいぐるみをうつ伏せに倒すだけで終わってしまう。

 

非常に悔しそうに唸る鮮花。

えっと、今勝負してるんですよね? 取ったらこっちの勝ちだからね?

……まぁ、ゲームにのめり込んでるし既に忘れてるんだろうなぁ。

端から見れば、おそらく仲良くゲームで遊んでいるカップルでしかない。勝負どこいった。

 

 

「そうイラつくなって。次で取れるから」

「え、でも今のところ全然だめじゃないですか」

 

 

自信を持っていうこちらを不思議そうに見る鮮花。

学問や魔術は優秀なものだが、こういった世間的な遊びの知識は文字通りお嬢様な鮮花のギャップに苦笑する。

鮮花に言葉を返しながら、3回目を開始した。

 

 

「最初の1回目はアームの強さの確認。2回目は今のアームの力でも引っ掛けられるポジション作り。このポジション作りが上手くいかないと何回か回数を取られるんだが……」

 

 

今回は1回で上手く言ったしな、と言いながらぬいぐるみの首後ろのマフラーにアームを掛ける。

首横よりも首後ろのほうが、マフラーとぬいぐるみとの間のスペースが若干大きい。

アームの奥まで引っ掛けられたそのポイントは、予想通りに弱いアームでもぬいぐるみを持ち上げ、見事にゴールまで運んでくれた。

七夜ァ、Win!と心の中で叫ぶ。貞操は何とか守られた。

 

 

「す、凄いです! 七夜さんが頼もしく見えました……むぅ、悔しいです」

 

 

隣では失礼なことを言っている鮮花の姿が。

いつも悔しがってるな、この子。

口の悪い後輩に苦笑しながら、景品口に出てきたぬいぐるみを確保する。持ってみるとやっぱりでかい。

それを、膨れっ面をしている鮮花に手渡した。

 

 

「……え?」

「ほら、景品のぬいぐるみ。欲しかったんじゃないのか?……いや、そういえば欲しいとは一言も言っていなかったような」

 

 

言ってから気付く。

彼女は欲しいとは一度も言っておらず、単に自分に似ているからといった話から景品になったのがこの巨大なペンギンのぬいぐるみだ。

これを鮮花に渡すのは、自分自身を渡しているようでかなり気恥ずかしい。

 

思わず出した手を引っ込める――よりも早く、鮮花がぬいぐるみをガッと掴んで受け取った。

 

 

「も、貰います!……でも、七夜さんのお金で取ったものでしたから、そのまま持って帰ると思っていました。その、強請るような形になってしまってすみません」

「気にするなって。今度返すとは言え、今日は奢ってもらったわけだし……」

 

 

鮮花は嬉しくも申し訳なさそうにするが、本当に気にしないでほしい。

むしろ持って帰って貰わないと非常に困る。

琥珀と弓塚には志貴と遊びにいっていると嘘をついて出掛けているのだ。

クレーンゲームで遊ぶのは矛盾はしないが、ファンシーなぬいぐるみを持ち帰っては怪しまれる可能性も出てきてしまう。

 

しかしこれを素直に鮮花に言うと、ぬいぐるみを返される場合もあるだろう。

たまに意地悪なことするんだよなぁ、この子……。

そんなわけで、鮮花が貰ってくれそうな言い訳をつけて渡しておく。

 

 

「それにほら、偽カップルと疑われると不味いんだろ。なら、少しは彼氏っぽいところを見せた方がいいんじゃないか?」

「……はい。ありがとうございます、七夜さん」

 

 

頷き、俯く鮮花。

いきなり静かになった鮮花を心配に思うも、ぬいぐるみをこちらに返す素振りは無いため安堵する。

捨て置くのも勿体ないし、鮮花が持って帰ってくれるのなら万歳である。

自分が持ち帰らなければ彼女二人に怪しまれる心配もない。証拠隠滅ヨシ!(現場猫)

 

 

 

 

 

 

「では七夜さん、今日はありがとうございました」

「駅まででいいのか? 何なら寮の近くまで送っていくが……」

「それは嬉しいですけど、結構距離もありますから」

 

 

勝負やデートで賑わっていた時間も終わり、待ち合わせ場所と同じ駅前に戻ったところで二人揃って歩みを止めた。

 

鮮花や藤乃は女学院の寮で生活している。

お嬢様学校と言われる通り規則も多く、門限も一般の学生寮と比べたらかなり早い。

まだ夕刻前だが、鮮花にとって遊びはそろそろ終いの時間だ。

 

 

「師匠のお使いとかで七夜さんと出掛けたことはありましたが、遊びで出掛けたのは初めてですよね。……今日はどうでした?」

「かなり疲れ――痛っ」

「ど・う・で・し・た・か?」

 

 

上機嫌に問い掛けてくる鮮花に率直な感想を述べようとしたところ、ひざ下に蹴りが飛んできた。

くるっとこちらの前に回り込み、作った凄みのある笑顔でリテイクを要求される。

 

 

「……まぁ、楽しかったぞ。琥珀や弓塚はここまでアクティブじゃないから、結構新鮮だったし」

「むぅ、楽しめたのはいいですが、デートの感想で他の女性の名前を出すのはマナー違反ですよ。減点です」

 

 

頬を膨らませて不満を見せる鮮花は可愛いが、言っていることは無茶苦茶である。

マナーの話を出したら、そもそも彼女いてデートモドキをしている自分はマナー違反どころではないだろうに。

……いや、今日はデートじゃないんだけどね?

 

 

「……私は、名残惜しいと思うくらい楽しめました。不思議ですよね、七夜さんとは師匠の工房や遠野のお屋敷で割と会っているのに、一緒に街中を歩くだけでこんな気分になれるだなんて」

「そうか……」

 

 

鮮花のストレートな言葉に照れくささを感じる。

なにか言葉を返そうと思うが、上手い言葉が出てこない。

 

さきほどは捻くれた返事をしてしまったが、今日1日を楽しめたのは本当だ。

自分は悩みが尽きない性格だが、そんな自分でも目の前の時間を夢中で過ごせたのは鮮花と一緒にいたからだろう。

ちょっとしたことでヒートアップして、かと思えば機嫌がスッと急降下する彼女。

“原作”を気にしながら生きることの多い自分にとっては、感情をぶつけてくる鮮花との時間は濃く、確かに楽しいものだっだ。

 

 

「……と、そうだ、鮮花。帰る前にこれ、貰ってくれ」

「これは……あっ、七夜さんが工房で作っていた礼装ですね。出来上がったんですか?」

「礼装なんて大したものじゃないって。製作期間だって短いし」

 

 

ポケットから包みを取り出し、開封する。

鮮花に見せたのは淡い銀色に光る指輪――を鎖で通したリングネックレス。

飾り気が少なく、アクセサリーとしては女学生のお目に適うかは微妙なところだ。

 

鮮花への個人的なプレゼント、というわけではない。

これは単なるお礼の品。

 

 

「この間、燈子さんや藤乃さんと一緒に妊娠祝いを送ってくれただろ。貰ったものに比べたら大分劣るけど、これはそのお返しだ」

「ふふ、私たちからのプレゼント、気に入ってくれました?」

「……ベビーベッドは嬉しかったけどさ、ちょっと魔改造すぎて引いた。いや、凄いものなんだが」

 

 

こちらの手にあるネックレスを見つめながら、鮮花が送った品を思い出して軽く微笑む。

送られてきたのは魔術で改良されたベビーベッド2つ。

ベッドに付属して3年保証で自律稼働する小人が複数いました。魔術すげぇ。

製作については、橙子さんだけでなく鮮花や藤乃さんも大いに手伝ってくれたらしい。

立派な出来栄えを見るに、力を込めて作ってくれたものだと感じ取れた。

 

 

「でも、七夜さんが作っていたのってピンキーリングじゃなかったんですか? 所長には……確か要らないと言われて、その後、私と藤乃に小指のサイズを訊いてきましたよね?」

「あー、そうだな。最初はピンキーリングにする予定だったが……」

 

 

今回、彼女らにお礼として作ったのは『羽翼』の祈りを込めた魔術リング。

「羽翼」とは補佐・補助を意味する。

使用者の願いや祈りをほんの少し後押しする、そんな簡易礼装がこのアクセサリーだ。

 

――とは言っても、効力はほとんど無いようなもの。

橙子さん曰く、自分のレベルではルーン魔術や占星術を参考にしても大したものは作れない。大層な材料も揃っていないので猶更だ。

世間の占い師が作るソレと変わらないのと言われ、橙子さんには必要ないと断られてしまったけれど。

それでも魔術を習ってきた手前、鮮花と藤乃さんには彼女らと同じように市販でない手作りの品を渡したかった。

 

 

「右手小指にはお守りの意味もあるし、それを渡そうと思っていたが……彼氏でもない人から指輪を貰っても複雑だと思ってな」

 

 

いくら魔術的な装飾品とはいえ、女性に指輪を送るのは恥ずかしいし、送られた方も困るだろう。

 

 

「ネックレスの方が身に着けやすいだろ? この間、藤乃さんに偶然会ったから先に渡したんだが……見た感じ、喜んでくれてたし」

 

 

羽翼のおまじないを込めた刻印と、お守りを意味する小指サイズのリング。

ネックレスとして鮮花と藤乃さんに渡したそれは、自信作と言っても良いくらい精巧に作れたと思っている。

手先が器用な分、こういう仕事は案外向いているのかもしれない。魔術的な効力も少しはあったら良いなと願う。

 

鮮花に差し出したそれを――しかし、鮮花はなぜか受け取らない。

 

 

「……鮮花?」

 

 

目の前の彼女は、眉を吊り上げ非常に険しい顔をしていた。

何か怒っている、それとも悩んでいるのだろうか。

ネックレスとこちらの顔に交互に厳つい視線を投げながら、次第に深く考え込むように顔が段々と俯いていく。

 

不審に思い、再度名前を呼ぶ。

 

 

「鮮花……その、もしかしてアクセサリーは嫌だったか?」

「え――いえ! そんなことはありません。その……ありがとうございます。私、大事にしますから」

 

 

言って、目を閉じてスゥハァと深呼吸する鮮花。

呼吸を整えた彼女は、透き通った青い瞳で一直線にこちらを見つめてくる。

 

――顔を真っ赤にした鮮花がそこにいた。

 

 

「お、おい、熱でもあるんじゃないか?」

「ち、違いますから! 気にしないでください。……で、ネックレスですけど」

 

 

指をさしたので、今度こそとネックレスを彼女に渡す。

……が、鮮花が受け取る様子はない。

 

 

「え、受け取らないの?」

「えっと……ほら、私、今両手が塞がっているじゃないですか」

 

 

そう言ってアピールするように、先ほどあげたぬいぐるみを抱える鮮花。

 

 

「ならほら、ぬいぐるみ持つぞ」

「い、いいですよ、七夜さんに渡したら……な、なんか落としちゃいそうですし、渡せません! だから、そのですね……」

 

 

失礼な言葉を投げつつ、鮮花は一歩、こちらと距離を詰める。

 

 

「ネックレス、七夜さんが私に着けてください」

「えぇ……」

 

 

デートの最後で小恥ずかしいことを頼まれ、少したじろぐ。

別にプレゼントした今すぐに着けなくてもいいと思うが、鮮花的には貰った直後に着けてみたいものらしい。

 

……まぁ、送った側としても、早く身に着けたいと思ってくれるのは嬉しく思う。

藤乃さんに渡した時はそのまま持って帰って身に着けた姿を見ていないため、鮮花が藤乃さん以上にこのプレゼントを喜んでいると思えば悪くない。少し恥ずかしいだけである。

 

 

「仕方ないな……じゃあ、ほら、後ろ向いて」

「嫌です。七夜さんに背を向けるとか、何されるかわからないじゃないですか」

「……」

 

 

何言ってるんですかね、この少女。

どこの侍だよって話である。

 

アクセサリーを着けて貰うのはいいけど後ろに立っちゃダメって、鮮花のこちらに対する位置づけが全くわからん。

不服ながらも渋々、正面からネックレスを鮮花に着ける。

少し背を落とし、鮮花の首後ろに両手を回す。

端から見れば抱きかかえてるように見える姿勢に、自然とこちらの顔まで赤くなる。

 

鮮花の綺麗な瞳、整った鼻筋、淡く紅い唇がわずか5cmの距離にある。

その緊張から意識を逸らすように、彼女の首後ろでネックレスの端を手早く繋げる。

 

カチっと、慣れない態勢だったが数秒で着けることに成功した。

 

 

「よし、ついた――――」

「んっ――」

 

 

 

気を緩めた矢先の出来事。

鮮花が不意に動いたと思った瞬間、彼女と自分の距離が0になる。

 

頬ではなく、唇にも当たらない、その中間。

そこにキスをした鮮花は、野生の小動物かのごとくバッと素早くUターン。

 

 

「つ、次のデートも楽しみにしてますから! で、ではおやすみなさい、七夜さん!」

 

 

お二人にによろしく、なんて矢継ぎ早に別れの言葉を口にして、鮮花はこちらを一瞥もせずに改札口へと掛けていった。

ちらりと見えた顔色は茹タコのようで、人間、あそこまで顔が真っ赤になるものだなと感心――もとい現実から目を逸らす。

 

唇の感触が残っている部分を、そっと触る。

何というか、今日一日は終始振り回されっぱなしだったと思い出して、自然と笑みがこぼれてしまった。

 

全く、行動力は称賛するが、彼女は基本的には常識人だ。

そんなに恥ずかしかったらするなよと、鮮花が走って行ってしまった方を見つめながら文句を言うように呟いた。

 

今日の失敗として、次のデートも約束してしまったこと。

次回もノープランと言うわけにはいかないだろう。

 

 

「……さて、次は一体どうするかな」

 

 

勝負ばかりも身体が持たないし、どうすればあのじゃじゃ馬なお嬢様の手綱を握れるのかと、浅い溜息を吐いて岐路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あはっ、私としてはせっかくの夏ですし海水浴がおすすめかと。まぁ偶然、猛毒をもったクラゲさんがいて、偶然、アキさんが刺されるかもしれませんが。えぇ偶然」

「うーん、わたしはドッチボールとか楽しいと思うよ、アキ君。わたしは本体に戻って遊ぶから、間違って力を入れ過ぎちゃうかもしれないけどね。あ、なんなら、今から帰ったあとに2人でドッチボールする?」

 

 

両隣りで囁かれた可愛くも低い声に、ビクリと身体が震えて止まる。

視界の端に大きなリボンを結った赤髪の少女と、サイドテールを揺らす茶髪の少女がゆらりと映った。

 

いつから見られていたのか。

偶々会ったばかりならいいなぁと、言い訳がまとまらない頭で願う。

取りあえず、死徒の弓塚と2人でドッチボールとかそれもうスポーツでもなんでもないからと突っ込みたい。

 

が、残念ながら、彼女二人と目を合わせる勇気は今はない。

両端から目を逸らすように顔を上げる。

暮れていく空を見ながら一人、締め付けられた肺の息を絞り出すように、思い浮かんだセリフを呟いた。

 

 

「……あーあ、出会っちまったか」

 

 

現行犯逮捕です。

謝罪会見の日程は後日ご連絡致します。

 

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