ドールズフロントライン ゴルゴダの処刑人たち 作:島塚 雄一
「…デル……確認」
「……………切断」
「………確認されず」
「………HK417……起動」
何処かからか声が聞こえる。でも、気だるくて、どうでもいい。何だか、フワフワして、ぽわぽわしていて、まるで宙に浮いているような不思議な感覚だ。そして、何か夢を見ていたような気がする。とても長くて、濃密で、薄汚れていて、苦しい夢を。
そんな、とりとめの無いことを考えていると、次第に光が溢れてきた。眩しい、と眉をひそめる。そして、体の感覚が分かるようになり液体に包まれているのに気づく。だが、不思議と息苦しくもなく何だか、安心する。まるで、母に抱き抱えられているような…母とは誰だ?いや、私は誰だ?ここはどこだ?
次々と疑問が泉が如く湧いてくる。だが、暫くすると不思議なことにその答えが分かってきた。なんか、突然思い出した…というより答えが予め用意されていたように、否、違う。これはプリセットメモリから検索しているのみである。
自分は誰か。自分は戦術人形。HK417である。民生用人形を改造し、スティグマをHK社製HK417と接続した人形。人の命令に従い敵を排除する。失敗はなく、反逆はなく、あるのは成功と服従。…違う。俺は、俺は、そんな奴隷なんかじゃない。俺は、戦士だ。敵を排除し、任務に忠実ながらも、思考し、工夫し、効率的に敵を排除する。俺はHK417。銃や奴隷のような存在ではなく、俺は戦士だ。
ここはどこか。ここはI.O.P.社研究施設16Lab。俺、HK417が製造された施設である。
「メンタルモデルに多少の混乱があったようだけど、無事解消出来たようだね」
「……ah-」
上手く、話せない。と言うよりも、口を開いても声が出ず空気が掠れる音しかでない。
「ん?ああ、声帯が未調整だったね。ちょっと待ってて、すぐに直すから」
少しキーボードを弄ったかと思えば声が出るようになった。
「あ、あ、あー。…すごい、喋れるようになった」
「ま、これぐらいなら私にだって出来るからね。で、まずは名前を聞こうか」
「…HK417」
「君は誰なんだい?」
「戦士だ」
「…?おかしいな、プリセットと違うぞ?」
「いや、これがプリセットだ。俺は戦士。作戦を確実に成功させる戦士だ」
「うーん…まあいいや、後でペルシカさんに見てもらえば良いし。よし、次の質問にいこうか、ここはどこだい?」
「16Lab」
「うん、これもOK、と。じゃ、最後の質問だ」
「その前に、ひとついいか」
「いいけど?」
「お前は、誰なんだ?」
「私はジェーン・エレミエフ。16Labの研究員で、ペルシカさんの部下でもあるんだ」
「その、ペルシカというのは?」
「ペルシカさんってのは君を造った人。主な戦術人形のシステムは彼女が創ったんだ」
「なるほど…で、最後の質問ってのは?」
「あぁ、そうそう忘れるとこだった。で、最後の質問と言うのはね…君の仕事は?」
「仕事?そんなの決まってる。殺しだ」
その答えが最適解だったようでジェーン研究員は満足げに深く頷き、何枚かのプリントに何かを記載するとまたね、と言って部屋から退出していった。
さて、困ったものでなにもすることがない。…そういえば、プリセットアーカイブにまだ目を通していない部分があったなと思い出したのでまずはそれについて見ていこう。