カフェ・ミルミルにようこそ!   作:アメざいくヤクザ

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ここはつりのめいしょ

 

 ロミノア地方行の船はそこそこ賑わいをみせている。甲板にいる一人の少年は潮風を感じながら鼻歌交じりで荷物を取り出した。

 ポケフォンよりも大きなタブレットを眺め、そこに映る中継の感想を呟く。

 

「ジムリーダーかぁ。会えたらサインとかもらえっかな」

 

 中継されている試合は白髪の青年と紫髪の青年。どうやらフェアリータイプ使いとゴーストタイプ使いのバトルのようだ。

 

『テンヤさんのブリムオン! 必殺のマジカルシャインが決まったァ!』

 

 フェアリー使いが勝利し、にこやかに手を振る姿を確認したところで動画を切ると船のアナウンスが響き渡った。

『間もなく、ロミノア地方、ヴァロワシティに到着いたします。お忘れ物ないよう──』

 そのアナウンスを聞いて少年は浮足立ったように船内へと駆け込んでいく。

 船は長旅を終え、人々が次々に降りていく。少年もその人の波に流れて、閑散とした港町を眺めた。

「よぉし……!」

 

 

 ロミノア地方に降り立つ少年の冒険が、今始ま──

 

 

 

 

「ここどこ?」

 

 始まらなかった。

 

 

 

 少年は港に降り立って一時間もしないうちに迷っていた。

「ええと、えーと……あれぇ? おかしいな。ヴァロワシティから出ちゃったのか?」

 地図とにらめっこしながら首を傾げる。少年の足元で連れのチコリータが呆れた顔をしていた。

「モチコ〜、どっち行けばいいと思う?」

「ちこ……」

 わかるわけない、という悲哀の声が聞こえてきそうなチコリータに「ごめんって……」と少年は謝る。

 気づけば釣り場のような場所に出てしまった。とは言っても海釣りをしている人は見当たらない。

 するとチコリータがなにかに気づいたように前足で少年をつつく。

 チコリータの示した方を見ると少女らしい人影が、海に釣り竿を向けて座り込んでいた。

「あっ! 人がいた! すいませーん、ちょっといいですかー?」

 道を訪ねようと近寄った少年は無警戒で少女に駆け寄ると──

 

「どっしゃあああああ!!」

 

 奇声をあげた少女は勢いよく釣り竿を引き上げ、かかったポケモンが高く跳ねるのを確認すると露骨に舌打ちして叫んだ。

 

「テッポウオはもういいっつーの!」

 

 襲いかかろうとしたテッポウオを素手で受け止め、そのまま海へリリースした。

 ポケモンすら使わない強引な少女に唖然とした少年は再び釣り糸を垂らそうとした少女にまた声をかけた。

「あ、あの! ちょっと道を聞きたいんですが……」

「あぁん?」

 振り返った少女は非常に険しい表情をしていた。顔立ちそのものは可愛らしいのだが、表情と滲み出るオーラがとんでもない圧を生む。

「今忙しいんだけど」

「えーと、トルティーシティに行きたいんだけど迷っちゃって……」

「あんた、ヴァロワシティから来た? トルティーシティは逆方向だけど……」

 ふと、少女の竿が反応し、即座に少女は釣り竿を強く握る。

「来い来い来い来い来い来い……」

 少年も思わずその必死な姿を見てごくりと生唾を飲み込み、引き上げたその瞬間、水中から飛び出してきたそれを見て驚愕した。

「カマスジョー!?」

「よっしゃ来たー!」

 少女は先程まで荒んでいた目を輝かせてボールを手にするが、頭を抑えてふらついてしまい、カマスジョーはそれを見逃さないとばかりに突っ込んでくる。

「危ない! モチコ、はっぱカッター!」

 突っ込んできたカマスジョーははっぱカッターをもろに食らって、勢いを落とす。少年は少女に「ボールボール!」と急かすように言った。

「あ、ああっ! 捕獲捕獲!」

 慌てて空のボールを出した少女はきれいなフォームでカマスジョーにボールを投げると、しばしの揺れの後にカチッと捕獲音がして子供のようにはしゃいでみせた。

「やった〜やったやった〜! 昨日からずっと粘ってようやくゲット〜」

 浮かれたようにぴょんぴょん飛び跳ねる少女を見て、少年は自分も嬉しそうに笑う。

「よかった。さっきふらふらしてたけど大丈夫?」

「ああ、あれね。寝不足と甘いもの不足だから大丈夫」

 いわく、カマスジョーを捕獲しに昨日の昼からずっと釣りをしていたらしい。それは寝不足になって当然である。

 

「私はカンロ。トルティーシティでカフェをやってるの。お礼にトルティーシティまで案内してあげる!」

 

「本当ですか!? 俺はジタっていいます」

 

 

 カンロとジタは、上機嫌でその場を後にし、カンロの案内でトルティーシティへと向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 トルティーシティにはヴァロワシティから出ているバスで移動することになった。その際、改めて二人はお互いの話をする。

「ふ〜ん。人探しのためにわざわざこの地方にねー」

「はい。探偵さんに調査してもらった結果、トルティーシティで目撃したって」

 荷物をゴソゴソと漁って引っ張り出したのは少しボケ気味の写真。成人男性だろうか、とカンロは首を傾げた。

「小さいときに、母親が兄貴を連れて蒸発しちゃって……。兄貴にもう一度会いたくてなんとか手がかりを掴んだんです!」

「若いのに大変だねぇ」

「16です!」

「お、じゃあ私より2つ下か」

 そんな他愛もないやり取りをしていると、あっという間にトルティーシティへとたどり着き、先程のヴァロワシティとは違うオシャレな町並みを見てジタは感嘆の息を漏らした。

 しかし、当然ながら人が多く、キョロキョロとするだけでどうしたらいいかわからないという様子だ。

「せっかくだし、うちの店に寄っていきなよ。さっきのお礼に奢ってあげる」

「いいんですか! 俺、お腹ペコペコで……」

 

「ちょうど活きのいいのもいるしね」

 

「はい! ……はい?」

 

 手にしたのは先程のカマスジョーが入ったボール。にやりとカンロが笑いながら楽しげに呟き出す。

 

「塩焼きにしよっかな〜。刺し身でもいいけど火通したいし……。あ、ムニエルにしてみるのも有りかな」

 

 恐ろしい計画にジタは思わず真っ青になり、足元のチコリータもガクブルと葉を震わせる。

「食べっ……食べる気ですか!?」

「えっ、うん」

「そんなあっさり!?」

「カマスジョーって美味しいらしいのよ」

 自分の住んでいた文化圏では想像できない衝撃発言にジタは思わず白目を剥きそうになる。しかし、ここは別地方。これが常識なのかもしれない、と思い直してみたが……やっぱりジタには受け入れられなかった。

「お、俺は結構、です……」

「魚苦手だった?」

「……そんなところです」

「そっかー。じゃあパスタでも出すね」

 

 この後のことが急に不安になったジタであった。

 

 

 

 

 

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