立ち止まっり、しっかりとポーズをとって変身するのも良いが、走りながら変身するのもやはり良い。なんというか、こう燃えるのだ。危機が迫る臨場感や、変身者の気迫が伝わってくる。
「素晴らしいよ、我が魔王」
高層ビルが建ち並ぶ海鳴市の繁華街。そこを一望できる海鳴大学付属病院のヘリポートから、私は変身エフェクトを纏いながら疾走する、我が魔王の姿を楽しんでいた。
原作において我が魔王とフェイト・テスタロッサは、眼下にそびえる摩天楼を舞台に激しい空中戦を繰り広げる。所狭しと動き回る2人だ、あまり近付き過ぎてはかえって見失ってしまう。この場所は少し遠いが、今回の決戦を観戦する上では絶好の場所だった。
我が魔王は強い、原作の同時期よりもずっとだ。地力は未だフェイトに分があるが、我が魔王は仮面ウィッチに変身したことで基礎スペックを大幅に上げている。今の2人がぶつかれば、どちらに勝利の天秤が傾くのか……
これは最高の
しかし、そんな興奮に水を差す存在が現れる。
「ウォズ、今日こそ貴様を倒す」
周囲のビルを超人パルクールを駆使して登ってきたゲイツ君だ。介入するのなら、私ではなく我が魔王達の方だと思っていたのがだが……
「ゲイツ君、邪魔をしないでくれるかな。私は今、我が魔王の勇姿をこの目に焼き付けるので忙しいんだ」
返答はない。彼ただ、私に剣の切っ先を向けるのみである。
やれやれだな。私はため息をつくと、デバイスを録画モードにして上空に放ち、仕方なくゲイツ君の相手をすることにした。
多少じゃれてやってもいいが、今日はライブで我が魔王の活躍を見たい。だから、彼には気の毒だが一瞬で終わらせてもらおう。
時を止めて、ストールを巻き付けるだけの簡単な作業。彼との戦いはいそれで決着が着く…… 筈だった。
私のストールが、いづこより飛来した淡い黄色の光を放つ魔力弾に阻まれたのだ。
魔力の発生源を探るが、ジャミングがかかっていて上手く特定出来ない。
私の時止めは、自身を中心地とした球体の空間内に効果を及ぼす。今回は半径10メートルの規模で発動したので、相手はそれよりも遠くに位置どっていることだけは確かだ。
効果時間が切れ、再び時が流れ出すと、ゲイツ君は地面を滑りながら急速接近。流れるように私の後ろに回り込み、上段から斬りつけてくる。
彼の頭上へと瞬間移動した私は、踵を高く伸ばし降り下ろす寸前で、またも魔力弾による狙撃に邪魔をされた。
一旦、距離をとる。先程の魔力弾は一発目とは異なる方向から射出されていた。ジャミングだけでなく、場所を変えて攻撃することで私を撹乱しようというのだろう。
「増援とは、面倒な」
あのタイミングは完璧だった。頭上ががら空きだったゲイツ君に、私が上から仕掛けると分かっていなければ無理な1撃だ。彼の協力者はかなりの使い手であろう。こちらの最善手を的確に読んで潰してくる。
私はデバイスを手元に戻し、涙を飲んで録画を中断。ホログラム板を出現させ、そこから2つのコマをタップした。
「やっぱり、思った通りだ。貴様の弱点を1つ見つけたぜ。貴様が時間を止められるのは、
ゲイツ君のしたり顔が妙に腹立たしい。ヒントを与えたつもりはなかったのだが……
「たったそれだけで、もう勝ったつもりかい? 」
彼の足元に移動し、
かなりの高さだが、バリアジャケットがあるので死にはしないだろう。
暫く沈んでろという私の期待を裏切るように、彼はバインドで助けられると、直ぐ下に展開されたサークル状の魔法防壁を足場に復帰してくる。追撃を試みるも牽制の射撃に妨害されてしまった。
❮
私のデバイスから音声が鳴る。見つけた! 先の1発が決め手になったのだろう。ゲイツ君の協力者を発見した。
WASはSTSで我が魔王が使用した魔法で、魔力で生成した使用者と視覚がリンクしている無数の端末を飛ばして一定の範囲内を視認探査することができる。これが、先程の転生特典で適用した魔法の内の1つ。暗くて容貌までは分からないが、位置は確かに掴んだ。
この特典で得た能力は、漫画として記された原作の中から任意のシーンをタップするすることで、そこに描かれている技をホログラム状に投影された原作キャラクターが発動するというものだ。私の実力に関わらず原作準拠の力を行使できる一方、原作を良く知る者には私の手の内を読まれてしまう危険がある。
そこで、同時にもう1つ能力を行使して、STSの登場キャラクターであるクアットロを呼び出していた。彼女はステルス機能を有するマント「シルバーケープ」を持っている。その力こちらの行動を覆い隠していたのだ。
「しまった!! 逃げろリ-- 」
今さら焦ったところでもう遅い。さて、どんな相手か拝ませてもらおうか。
私は彼が言い終えぬ間に、対象の座標へと瞬間移動。掌で喉を押し潰すように頸を締め、ビルの外壁に叩き付けて拘束する。
そして、ゲイツ君の協力者が何者であったのか確認した私は、予想だにしない人物に我が目を疑った。
「バカな! リニスだと…… それが何故こんなところで……!? 」
視線の先で呻いているのは、ミディアムにカットされた薄茶毛の髪を持つ女性であった。彼女の名はリニス。原作の時系列では、既に消滅したはずのプレシアの使い魔にして、フェイトの魔法の師でもある。
本来であれば、この場にいる筈のない存在。彼女が生きているだけでも十分にイレギュラーだというのに、よもやゲイツ君と行動を共にしていようとは……
視界の端に眩い光が映り、追って衝撃が伝わってくる。次元震か…… どうやら、我が魔王達の戦いは終わったようだ。後は彼女を人質にして、ゲイツ君にこの不可解な状況について口を割らせるだけ。
そう思った矢先だった。不足の事態とは重なるもの。世界の揺らぎを感知する、見ればジュエルシード周辺に紫色の魔方陣が敷かれていた。
ジュエルシードの莫大な魔力を、何らかの魔法に充てようとしているのか。それが分かった時、言い知れぬ悪寒が背中に走る。
次の瞬間、我が魔王の足元に次元の裂け目が出現した。あれはマズい!!
「いけない! 我が魔王!! 」
一刻の猶予もない。私はなりふり構わず我が魔王の元へと跳んだ。
◆◇◆◇
「んっ…… あれ? ここはいったい…… 」
ざらついた何かが頬を掠める感覚で、高町なのはは目を覚ました。変身は既に解除されているようで、口の中でジャリっとした嫌な音がする。辺りを見渡せば、そこは一面の荒野で、砂埃だけが風に巻き上げられていた。
確かわたしは、フェイトちゃんと戦っていて…… 次第に記憶が甦ってくる。二人のデバイスがジュエルシードに触れた時、激しい爆発が起こり、その後は地面が崩れ、私はそれに巻き込まれて…… そこまで考えて、なのははあることに思い至る。
「ーー っ、そうだ! ユーノ君は!? 」
何処かへと落ちていくあの一瞬。確かに、わたしを呼ぶユーノ君の声が聞こえた。もしかしたら彼もこの場所に居るかもしれない。
「ユーノ君! お願い、いたら返事をして-!! 」
彼の名前を叫びながら、宛もなくさまようなのはの前に現れたのは、少し意外な人物であった。
「探しものはコレかな? 我が魔王」
ウォズが、気絶したユーノの尻尾を掴んでプラプラと揺らしている。なのはは、ウォズからユーノをふんだくり抱き寄せると、彼を軽く睨んだ。
「ユーノ君にヒドイ事しないでください。それと、これはあなたの仕業ですか? 」
ウォズは肩を竦めて答える。
「期待に応えられなくて残念だが、今回ばかりは私にも想定外の事態でね…… まぁ、ともあれ君が無事で嬉しいよ我が魔王」
彼の言葉の真偽は不明だが、自分の身を案じてくれていた事だけは嘘ではない。なのはにはそう感じられた。だから、なのははその感覚に賭けてみる。
「ウォズさんも、わたし達と一緒に来ませんか? 元の場所へ帰るためにも、今は1人でも味方が多い方が良いはずです」
「不本意だけど、ボクもなのはの意見に賛成だ。無闇にいがみ合う余裕なんてボクたちには無い」
いつの間に目が覚めたのであろうか。なのはの腕の中からモゾモゾと顔を出したユーノも、なのはに同調した。
「君達は勘違いしているようだが、私はいつだって我が魔王の味方さ。そう、どんな時もね」
ウォズが意味ありげな笑みを返したことで、帰還のために3人で協力する体制が整った。
分からない事だらけの現状。先ずはこの場所が一体どこであるのか調べようと、なのはが提案する。すると、ウォズが苦みを帯びた口調で言った。手にはデバイスを起動させている。
「
なのはは愕然とした。この場が海鳴市だと言うのらば、家族は、おじさんは、アリサちゃんやすずかちゃん、なのはの大切な人達は、いったいどうなってしまったのだろうか!?
狼狽するなのはを、ユーノが宥める。
「なのは、落ち着いて。一先ず、翠屋がある場所に行ってみよう。何か分かるかもしれない」
ウォズの案内で翠屋に相当する位置へと、向かう道中。なのはは1言も発することはなかった。祈るように両手を組んだなのはの胸中は、ただ皆に無事でいて欲しい。その願いだけが占めていた。
「着いたよ我が魔王。だが、これは…… 」
ウォズがいつになく勤厳な面持ちをしている。なのはも初めて見る顔だ。普段の人を食ったような表情は鳴りを潜め、ただただ思索に耽っている。その視線を辿っていくと、そこには巨大なオブジェが鎮座していた。
「これは、わたし…… ? 」
なのはの瞳に映るのは、今よりも
「はじめましてだね。幼き日の私」
背後からかけられた声に振り返ると、そこに居たのは仮面ウィッチと良く似た存在。
純白のスーツに黄金のベルト、至るところに金の装飾が施されており、所々蒼がアクセントとして入っている。肩当ては翼の様な豪奢な美装を纏い、時計のバックルを襷掛けにして、背後には巨大な秒針を有していた。顔面は仮面ウィッチナノハと造形はほぼ同じだが、細かく王というモールドが幾つも彫られており、赤く燃え盛る複眼にはライダーの文字。
「あっ、あのっ! あなたはいったい!? 」
変身した自分そっくりの見た目、彼女の発した「幼き日の私」という言葉、堪らずなのは目の前の存在に
「私は高町なのは、今はオーマナノハって呼ばれてる。あなたにとっては将来の自分ってことになるのかな」
オーマナノハはユーノを一瞥し、ウォズへと視線を定めて続ける。
「ただ、あなたは私とは
驚きのあまり、二の句が継げなくなっているなのはに代わり、ユーノが質問する。
「ここは未来の海鳴市で間違いないんですね? 」
オーマナノハは「そうだよ」と頷く。
にわかには信じられないが、彼女の話が事実であるのなら、自分達は時間を越えてしまった事になる。いったい何故、タイムスリップなどしてしまったのか。そして、未来の海鳴市に何が起きたというのか。なのはは尽きることの無い疑問の渦に囚われていた。
なのはの考えてを読み取ったのだろうか、オーマナノハが口を開く。
「わるいけど、未来の出来事については話せない。ただ、あなた達がここにいるのは、私が呼んだから」
なのはが「どうして? 」と尋ねるよりも速く、ウォズがオーマナノハに平伏して発問した。
「お答え頂きたい。貴女は仮面ウィッチではなく
オーマナノハが肯定すると、ウォズは続けざまに問いかける。
「何ゆえ、何ゆえ! 貴女は魔法少女ではなく仮面ライダーとなる道を選んだのですか!? 」
少しの沈黙の後、ウォズの頬をそっと撫で、オーマナノハはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「仕方がなかったんだよ…… 世界を救うにはこうするしかなかったの」
一瞬だけ、オーマナノハが普通の少女の姿に重なる。仮面の裏でオーマナノハが泣いているのが、なのはには不思議と分かった。
そこで、なのはの中に新たな疑問が生まれる。どうして彼女は世界を救ったのに、あんなにも寂しそうなのだろうか? 彼女がウォズへと向ける感情の正体は何なのか?
だが、その理由を問うことをオーマナノハは許さない。
「私があなた達をここに連れてきたのは、幼き日の私がジュエルシード事件の元凶に太刀打ち出来そうにないから。
オーマナノハに「違う? 」と糾されると、なのはには返す言葉もない。自身の力不足は、なのはが一番痛感していたからだ。
「あなたには、元の時代へ帰る前に別の世界へ渡ってもらう。そこで力を着けなさい。どんな悪意も跳ね返せるように、大切な
そう言った彼女から、なのは二つのデバイスを手渡された。デバイスの名前はブランクマギアウォッチ。ナノハマギアウォッチと同じ造りをしているが、そこには何も描かれていない、今はまだ空っぽの
オーマナノハが「さぁ、行きなさい」と手を翳すと、銀色に揺らめく幕のようなものが出現し、なのは達に迫ってくる。
それを通り抜ける寸前、彼女がウォズを抱きしめているのを、なのはは目撃した。
「さよなら、■■■■」
なのはには最後まで聞き取れなかったが、オーマナノハの言葉にウォズは大きく目を見開いている。その姿になのはは言い様の無いモヤモヤを感じ、何故か嫌な気分になった。
◆◇◆◇
「ここが、別の世界なの? 」
銀色の揺めきを抜けたなのはを待っていたのは、緑豊かな公園であった。柔らかな風が吹き、麗らかな陽射しが降り注いでいる。なのはもよく知っている長閑な休日の昼下がり風景。とても異世界とは思えない。
しかし、そんな穏やかな空間を切り裂く爆発音と、女の子の悲鳴がなのはの耳に届いた。なのははユーノと顔を見合わせると声のする方へと駆け出す。
ウォズはその場に置いてきた。顎に手を添えて何事かを考え込んでいる。なのはの声にさえ届かないようでは、ハッキリ言って闘いには連れていけない……
なのはの目に飛び込んできたのは、傷だらけで倒れ伏す中学生位の二人の少女。一人は茶髪でもう一人は赤色の髪をしていた。
辺りには小さい子どもが何人もいる。中にはかなり特徴的なパステルカラーの服装で豪奢に着飾っている子もいるが、あの二人はこの子達を守っていたのだろう。
なのはは彼女達をこんな目に逢わせた存在を睨み付ける。宙に浮いた巨大なてるてる坊主、金の首輪をし、そこから5本の腕と触手を生やしている。
ソレは両手に光を溜め、今にも少女達に攻撃を放ちそうだ。
「行くよレイジングハート、変身!! 」
❮magic on time カメンウィッチ❯
変身する際、なのはの背後に出現する魔方陣に刻まれた「マギア」の文字が、てるてる坊主に攻撃。はね飛ばしてから、なのはの仮面に張り付いた。
「大丈夫ですか!? 」
なのはの声に赤い髪の少女が顔を上げる。
「ありがとうございます。あなたもプリキュアなんですか?」
…… プリキュアってなんでしょう? ……
◆◇◆◇
「かくして、我が魔王は未来の自分・オーマナノハと出会い、プリキュアの世界へと足を踏み入れた。ブランクマギアウォッチはあと2つ。この世界で我が魔王が手にする力とは…… ここから先は私にとっても未知の展開だ。『魔法少女リリカルなのは 蒼い光はキラキラな思い出の証なの』今日もめちゃHUG元気で、フレフレ我が魔王! …… 私は何を言っているんだ? 」
ウォズ「ハリー君、私のことは工藤と呼んでくれたまえ」
ハリー「せやかて、工藤」