「素晴らしい。流石は我が魔王、これは完全に想定外だ」
高町なのはがジゲンドライバーとナノハマギアウォッチで仮面ウィッチナノハに変身でする。ここまでは私の描いたシナリオ通りだ。
しかし本来であれば、彼女がこの後召喚するのはジカンギレードを模した武器であるはずだった。それがどうした、今の彼女が手にしているのは魔法の杖ではないか。
先端には中央に赤い宝玉が付いた半月状の金の装飾。
宝玉の反対側には蒼いプロテクターを纏う白い羽のようなアタッチメントが突きだしてしており、そこから2つの排気ダクトが左右に等間隔で配置されている。
白いシャフトとの継ぎ目はピンクで、上から蒼いプロテクターと金の装飾で固定。石突もピンクのパーツの上から蒼い外装で補強されている。
それをは見まごうはずもない、劇場版使用のレイジングハートであった。違いと言えば、シャフトの中央部にウォッチ格納用のパーツが追加されたこと位だろう。
私はユーノから奪ったレイジングハートをナノハマギアウォッチの力の核として利用した。言うなれば、高町なのはの潜在能力を引き出す為だけの道具にレイジングハートを貶めたのだ。しかし私の眼前では、〈魔法についての知識は? 〉「全然、まったくありませんっ! 」〈では全て教えます、私の指示通りに〉と原作通りのやり取りを我が魔王と繰り広げている。
ウォッチの糧となれば、レイジングハートの自我は消える。少なくとも私を転生させた神はそう言っていた。だからこそ、私は我が魔王に戦うために必要な知識を直接植えつけたのだ。それなのに、いざ変身したとたんにコレだ。我が魔王の覚醒に共鳴してレイジングハートの自我も呼び覚まされた。
これは、少しでも原作に沿った形で進行しようとする世界の修正力によるものなのか。はたまた、私のような異分子ではレイジングハートと高町なのはの絆は侵せないということなのか。いや、おそらく後者であろう。原作ファンとしてはぜひともそうであってほしいものだ。
おや、フェレットの様子が…… 。
「あれは、レイジングハート…… ? でも、どうしてなのはが」
一拍置いてユーノはハッと顔をあげると、私を睨み付けた。やはり気付くか。
「あなたがレイジングハートを持ち去ったんですね、どうしてそんなことを? 」
笑みを崩さぬまま、あえて不遜に答える。
「そういえば、アレは元々君のものだったね。でも君では満足に使いこなせない、違うかい? 」
だからと言って人の物を盗って良い理由にはならないと、至極当然な反論をするユーノを視界にも入れず、芝居がかった動作で両手を広げ、虚空を仰ぐ。
「私は知っていたのさ、アレがいずれ我が魔王のものとなる未来を。事実、君も彼女に託そうとしていたはずだ」
そうだろう? とユーノに向き直る。
「だから、ちょっと手を加えさせてもらったのさ。より我が魔王の力を引き出せるようにね」
さて、どんな風に謗られるのかと身構えた私など意に介さず、ユーノは何かに気付いたかのように駆け出した。どうやら事態が動いたようだ。
◆◇◆◇
なのはは、ベルトに付いたウォッチの声にしたがい、怪物への接近を試みる。ウォッチさんによるとジュエルシードを封印するには、接近して封印魔法を発動するか、大威力魔法を使う必要があるらしい。
ウォッチさんはわたしが”良い魔力“を持ってるって言ってくれた。封印もサポートしてくれる。だから、まずは近かずかなくちゃ。なのはは飛行魔法を発動し飛び立った。ところが、自分を守るように戦ってくれていた鎧の少年の斬撃が怪物を3等分にすると、そのまま3体に分裂して、町の方へと脱兎の如く逃げ出してしまったのだ。
速い、このままでは追い付けない。なのはの頬を汗が一筋つたう。あんなのが、人のいるところに出て行ったら…… 。
「ねぇ、ウォッチさん。大威力魔法っていうの私にもできる!? 」
〈あなたがそれを望むなら〉
なのはは、見晴らしの良いビルの屋上に降り立つ。
〈あなたの思い描く”強力な一撃“をイメージしてください〉
ドクンッとなのはは胸の奥で何かが脈打つのが分かった。
〈そうです、胸の奥の熱い塊を両腕に集めて〉
なのはが杖を構え握りしめると、〈mode change cannon mode〉の音声とともに杖の先端が鳥の嘴のような射出口へ変化し、手元に引き金が付いたグリップが出現する。
〈直射砲形態で発射します、私を杖に装填してください〉
声のとおりに杖にウォッチを装填すると、射出口とシャフトの付け根からピンク色の羽が出現し、なのはの視界には火器管制装置のような光景が写しだされる。
〈ロックオンの瞬間にトリガーを〉
いまだ!! なのはが引き金を引くと、〈フィニッシュタイム・ナノハスレスレシューティング〉と鳴り響く。凄まじい勢いでピンクの光の奔流が射出され、3つに別れた怪物を1匹残らず撃ち抜いた。
威力が絶大なだけにに、その反動も大きくなのは後方へと吹き飛ばされてしまう。しかし、衝撃はいつまでたってもおそって来ない。なのはが恐る恐る目を開けると、空中に緑色の魔方陣が展開されいた。そこから伸びた緑の鎖が自分を絡めとり、屋上スラブに打ち付けられるのを防いでくれていたのだ。
「大丈夫ですか? 」
ゆっくりと屋上に下ろされたなのはのそばにフェレットが駆けてくる。
「ありがとう、ええっと…… 」
なのはがお礼を言おうとして、何かに迷っているのを感ずいたのだろう。
「自己紹介がまだでしたね。ボクはユーノ、ユーノ・スクライアです。先ほどは助けてくれてありがとうございました」
なのはの表情がパッと華やいだ。
「あっ、わたしなのはって言います。高町なのは。わたしのこそ、ありがとねユーノくん。わたしのことは名前で呼んでね」
◆◇◆◇
ユーノは朱に染まる頬をなのはから隠すように、クルっと反転した。彼の視線の先には菱形の結晶体が3つ浮かんでいる。
「青い宝石……? 」
ユーノの目には、なのはがどこか心のここにあらずのように見えた。
「これがジュエルシード。なのは、レイジングハートで触れてみて」
「レイジングハート? 」
「なのはが持ってる杖の名前だよ」
疑問符を浮かべるなのはに、ユーノは認識の齟齬の元凶である怪しい男へ心の中で毒ずく。そんなユーノの胸中などお構い無いしに、例の男がやはり唐突に現れた。
「ン我が魔王、交流を深めるのも結構だが、ジュエルシードの回収を急いだほうがいい。でないと…… 」
ユーノはどういう意味だと問い質そうとして、出来なかった。いつの間にか、体が青白い光の輪で拘束されていたのだ。ユーノだけではない。なのはも、両手両足が光の輪でその場に縫い付けられている。男はちゃっかり消えていた。
「バインド…… !? まさか、あの男が」
あまりにも怪しいのでユーノの疑いももっともだが、今回ばかりは彼の予想は間違っている。二人を拘束したのは、なのはの窮地を救ってくれた、銀色の鎧を纏った少年であったのだ。
「どうして君が」
少年はユーノの目を真っ直ぐ見据えて答える。
「悪いがコイツは俺が貰う。ジュエルシードは諦めてくれ」
少年がジュエルシードに手を伸ばすのを、眺めることしか出来ない自分自身にユーノは唇を噛みしめた。
◆◇◆◇
なのはの視界にノイズが走る。彼女にとっては既に一度経験した出来事だ。
やはり、ユーノも鎧姿の少年もピクリとも動かない。そんな、異常な空間の中。どこからか現れた怪しい男だけが、さも当たり前とでも言うように、ジュエルシードを掴もうとしていた少年の手からそれを掠め取った。
男が指をパチンと鳴らすと、世界が再び動き出す。何が起こったのかわからず、困惑する少年を男がジュエルシードを玩びながら煽るような口調で言う。
「そう都合良く物事がすすむとでも思ったのかい? もし、君が自分を主人公か何かだと思っているのなら、早いとこその勘違いを正すことをオススメするよ。何故ならこの世界の“主役”は我が魔王なのだからね」
男を見た少年の表情がみるみる怒りでゆがんでいく。
「ウォズだと!? ジュエルシードを返せ!! 」
少年の口振りから察するに、男の名前はウォズと言うらしい。もしかしたら二人は知り合いなのかもしれない。なのはにとってはまったくもって不本意だが、自分を我が魔王と言って一方的に慕ってくるこの男。彼なら、少年についての情報を何か持っているのではないかという考えが頭をよぎった。
「あっ、あのウォズ…… さん? 」
なのはが呼びかけると、男は不敵に笑う。どうやら名前を間違えずにすんだようだと胸を撫で下ろす。たとえ不審者が相手でも礼を欠く行為はしたくないなのはであった。ウォズはなのはにジュエルシードを預けると、背中で彼女を少年から隠すように一歩前にでる。
「彼の名前は明光院ゲイツ、古い知人だよ」
少年の「貴様、いったい何を言っている俺は…… 」という言葉を遮って、ウォズのストールが風を巻き起こしながら、凄まじい勢いで、彼と少年を包み込んでいく。
「ゲイツ君、悪いが君の意見は求めてないんだ。では、ごきげんよう我が魔王」
ストールが二人を覆い隠す直前、ウォズは目礼すると、なのはにそう言い残して消え去った。
なのはは置いてきぼりにされたようで、暫し呆然とする。
「なのは、疲れただろうからジュエルシードを回収して今日はもう帰ろう」
ユーノに促されて、なのはは釈然としない気持ちを抱えて家路につくのだった。彼女が玄関の前で待ち構える兄姉の姿に、顔を青くするのはまた別のお話。
◆◇◆◇
「かくして、なのはは魔法の力に目覚めた。彼女の歩む覇道はまだ始まったばかり。しかし、新たなる魔法少女との出会いはすぐに訪れた」
ユーノ「今日は疲れただろ? もう寝ようぜ」