初めに謝っておきます。ユーノくんが好きな方々、誠に申し訳ございませんでした。
「この動画によれば、普通の小学生・高町なのは。彼女には魔王にして次元の覇者・オーマナノハになる未来が待っていた。友人とプールで遊んでいた彼女は、更衣室荒らしの思念が形になった水の怪異を見事討伐したことで、新たに1つジュエルシードを手に入れる。次に高町なのはを待ち受けるのは、もう1人の魔法少女。キーワードは雷光」
◆◇◆◇
連休を利用し、高町なのはは家族や友人と温泉宿に訪れていた。皆よりも一足早く入浴を切り上げた彼女は、ウォッチさん改め「レイジングハート」と共に高台から星を眺めている。
「この辺りにもジュエルシードの反応はなさそう? 」
〈そうですね、今のところは〉
封印済みのジュエルシードは全部で5つ。残り16個ものジュエルシードが海鳴市周辺に依然として散らばっている。
今のところ、大きな被害が出たという情報は入ってきていない。しかし、前回のプールでおきた戦闘ではアリサやすずかを巻き込んでしまった。
幸いにも2人に怪我はなかったが、そのことが身近な誰かが危険な目に遭う可能性をなのはは否応なく意識してしまう。
だからだろう、何もしていないこの時間が少しもどかしく感じられたのだ。
「ねぇ、レイジングハート。わたし、焦ってるのかな? 」
〈そう見えますね、休める時はしっかりと休息をとるべきです〉
やっぱり、レイジングハートは頼りになる。1人では思考の迷路に入ってしまう事柄も、この相棒に相談すれば、不思議と心の中で整理がつくのだ。
「ありがとう、レイジングハート。そうだよね、まだまだいっぱい捜さないとだもんね…… 今は休んで、ユーノ君を助けるためにもまた頑張ろう」
そっと夜風に髪がそよぐ。火照った体には少し冷たいそれが心地良かった。満点の星の下、なのはは胸に抱いたレジングハートをギュッと強く握る。1人だけど独りじゃない。その感覚が掌のウォッチから全身に広がりなのはを満たしていく。
大丈夫、これがあればわたしは頑張れる。決意を新たにしたなのはに水を差すように、例の不審者・ウォズがやはり唐突に何の前触れもなく無遠慮に現れた。
「再びお目にかかれて光栄だよ、我が魔王」
せっかくの憩いの時間を邪魔されたのは癪だが、ちょうど彼に聞きたいこともある。
「ウォズさん、でしたよね……? どうしてここに? 」
ウォズは珍しく肩をすくめて答えた。
「我が魔王がジュエルシードを封印したというから、そのお祝いさ。本当はその場に祝いたかったのだが、君のお兄さんに捕まってしまってね。なんでも更衣室荒らしが出たとかで、警戒を強化していたらしいのだが、まさか性犯罪者と疑われるとは…… 私ってそんなに怪しいかい? 」
「怪しいです」となのは即答した。なのはの中では不思議とこの男には遠慮をしなくても良いという意識が芽生えつつあった。
「やれやれ、それはそうと何か私に聞きたいことがあるんじゃないのかい」
見透かされているようで、不愉快ではあるが事実は事実。なのはは気を取り直して質問することにした。
「ゲイツ君って子はウォズさんのお友達なんですか? どうしてジュエルシードを狙ったりなんて」
ウォズは心底可笑しそうに笑っている。
「私とゲイツ君が友達? まさか、彼とは違い私は君の協力者だ」
彼がタブレット型のデバイスを取り出すと、そこには初めて魔法を使った時のなのはの様子が映し出されていた。
「この動画によれば、君はこの先、次元の覇者として君臨するために、魔導を極める。しかし、タイムジャッカーという者たちが、それを阻もうと暗躍している。ゲイツくんもその1人さ」
なのはとしては、次元の覇者になる気など毛頭ないが、見過ごせない出来事ではある。
「みんなで歴史を変えようとしているの? 」
ウォズは片膝をつき、なのはの手をとって、ジッと見つめてくる。
「そう、正しい歴史を守ろうとしているのは私だけなんだ。君が無事、魔王への道を辿れるように私が尽力する」
◆◇◆◇
息を切らせながらユーノ・スクライアは林道を駆ける。露天風呂から飛び出して来たため、全身から水を滴らせていたが、そんなことに構ってはいられない。
単独行動を取っていたなのはの近くに、突如現れた奇妙な魔力反応を感知した。その持ち主をユーノは知っている、なのはを「我が魔王」と呼び付きまとうウォズという危険人物だ。
油断していた、なのはを1人にするべきではなかった。あの男が彼女に執着していることは分かっていたはずなのに……
ユーノにとってウォズは、とてもではないが信の置ける人物ではなかった。彼の人を煽るような言動を好きにはなれなかったし、なにより自分からレイジングハートを盗み、結果としてなのはを危険に晒した事が許せなかったのだ。
彼のおかげで、ゲイツなる少年からジュエルシードを取り返せたのは確かに事実だ。だがそれも、ユーノには善意による行為だとは到底思えない。
なのはの魔導師としての潜在能力は抜きん出たものがある。ユーノにはウォズがそれを何か善からぬ事に利用するため、彼女に近づいたのだと思えてならなかった。
林を抜けたユーノはなのはの後ろ姿を発見した。少し安心して「なのは」と呼びかけようとして、声を詰まらせる。彼の目に飛び込んできた光景は、なのはの手をとって跪き、彼女に何事かを耳打ちするウォズの姿だった。
ユーノにはまるでウォズがなのはに愛を囁いているかのように見えた。完全に事案である。「これ以上ウォズをなのはに近付けてはいけない」その一心でユーノはウォズに飛びかかった。
「なのはから離れろ、彼女に何かしたらタダじゃおかないぞ」
なのはの無事を確認して、ユーノはウォズを睨みつける。だが、不思議なことにウォズは反論するでもなく、ユーノをまじまじと観察してくる。そして--
笑った
「見たところ風呂上がりのようだね、ユーノ・スクライア。我が魔王以外を祝うのは本意ではないが、今回は特例だ。私の広い心に感謝したまえ。おめでとう、君は遂に《淫獣》の称号を手にいれた」
あまりにもあんまりな物言いに、ユーノは反射的に「ふざけるないでくれ」と抗議の声をあげて…… あげてしまい後悔した。
ウォズは確かにロクでもない人間だが、徒に人を誹謗中傷するような男ではない。彼が敢えてソレを行う時は、裏に何か悪辣な意図が隠されているはずである。
そのことを察したユーノは苦虫を噛み潰した表情で口を噤む。だが、時既に遅し。彼が反論したその時点で、ユーノの敗北は決まってしまっていたのだ。
「ジュエルシードを集めるためにも、高町なのはとは良好な関係を築きたい。君はそう思っている。私と我が魔王の逢引を邪魔した罰だ。その望みを絶たせてもらおう」
「逢引」の単語になのはが猛烈に嫌な顔をしたが、それすら目に入らないほど、ユーノは謎の悪寒に襲われていた。
「ユーノ・スクライアァ! なぜ君が、高町桃子に抱きしめられた時顔を赤くしていたのか」
嫌な予感がする。
「なぜ君がプールで水着を奪われたアリサ君とすずか君相手に、見てはいけないと慌てふためいていたのか」
《淫獣》の文言が頭をよぎり、予感が確信に変わる。全身が嫌な汗をかいている。
「なぜ君が温泉の脱衣所で女性陣の裸体をチラチラと盗み見ていたのか」
「それ以上、言うな! 」
男としての尊厳的なサムシングの危機に思わず叫んでしまうユーノ。だが、ウォズは止まらない。
「その答えはただ一つ」
「やめろー!! 」
ユーノの慟哭が虚しく響く。
「ユーノ・スクライアァ! 君が人語をはなすフェレットではなく、フェレットに擬態した正真正銘人間の少年だからだ! 」
フハハハハハハと高笑いするウォズとは対照的に、冷や汗をかきながら、ユーノは恐る恐るなのはを見る。
「ユーノくんが…… 人間の男の子……? 嘘だよね…… わたしをだまそうと…… 」
なのははウォズの言葉を信じまいとしていたが、「そういえば」と呟いたきり、黙り込んでしまう。彼女の頭の中では、ユーノと出会ってからの出来事が走馬灯のように駆け廻っていた。その中でユーノに感じていた小さな違和感が、ウォズの言葉によって輪郭を帯びていく。
今までの彼女とユーノの距離感は、魔法少女と相棒兼マスコットのソレであった。だからこそ何の抵抗もなく、抱きしめたり、同じ部屋で生活したり、露天風呂に一緒に浸かったり出来たのだ。
その相手が普通の男の子だと判明しようものならどうなるか…… なのはの羞恥心は限界を突破。ボフンと湯気を出し、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「なのは…… こんな真実知らせたくはなかった。君には愛玩動物としてだけ見ていて欲しかった」
ユーノの計画では、正体を明かすのは別れの時か、事態が急転し、本来の姿のユーノを見てもなのはが気にする余裕の無い時であるはずだった。それなのに……
ユーノが固唾をのんで見守る中、なのははゆっくりと顔をあげる。彼女の表情を見た瞬間、ユーノは声にならない悲鳴をあげた。
口元は笑っているのに、ユーノへと固定された彼女の瞳は、ひたすら暗く昏く冷たい光を放っている。ただ見られているだけなのに、まるで鋭利な刃物を喉元に突きつけられているかのようだ。あまりの恐ろしさにユーノの本能が「逃げ出ろ」と訴えかけてくる。しかし、体は蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動かない。
「ユーノくん、ちょとお話しよっか」
何でもないはずの台詞が、今のユーノには死刑宣告にも等しく聞こえた。
「なっなのは、まずは落ち着いーー 」
「ユーノくん? わたしは冷静だよ、とっても…… とってもね」
取りつく島もないとはこのことか。万事休すかと思われたその時、ユーノにある秘策が舞い降りた。
「確かにボクが悪かったよ。でっでもさ、脱衣所のこととか知ってるってことは、ウォズもその場を覗いていたってことじゃないかな? 」
そう、彼は逃れられぬ終焉ならば、せめて誰かを巻き込むことで被害の分散をはかる作戦にでたのだ。
「ウォズさん? 」
なのはの死神が鎌首をもたげたような笑みがウォズの方へと向く。
彼女から浴びせられるプレッシャーから解放されたことで、ユーノの肺は酸素を求め激しく収縮すした。
成功だ。ユーノはグッと拳を握りしめる。これでなんとか首の皮一枚つながった。
「おっと、藪蛇だったね。今宵はここまでにしておこう。ではまた」
そう、ユーノは忘れていた。ウォズにはインチキストールがあり、ユーノと違い何時でも逃げられるということを。
ユーノは目の前が真っ暗になった。
この後何が起きたのか、ユーノは生涯語ることはなかった。ただ、彼が残した手記にはこう綴られている。「あの日、ボクは知ってしまったんだ本当の恐怖というものを」と。
◆◇◆◇
ユーノが魔王の片鱗を垣間見ているのと時を同じくして、海鳴市の高層マンションの屋上で少女が風に髪をなびかせていた。
少女の長い金色の髪は黒いリボンで二つに束ねられ、赤い瞳はどこか儚げに揺れている。漆黒のワンピースに身を包んだ彼女は1人、街の明かりを見下ろしていた。
「第97管理外世界、現地名称・地球。母さんの捜し物、ジュエルシードはここにある」
誰に言うでもない。ただ己の為すべきことを確認するためだけの少女の独白。夜の街に零れたそれを、ただ1つ彼女の
<Yes,sir>
本来はもっと話が進む予定だったのですが、エグゼイドのOPを聞きながら書いたら、このような展開になってしまいました。反省はしています。後悔はしていません。