剣心は静かに黒死牟へと歩み寄って行く、まるで散歩でもしているかの様に。
(何だ?この男雰囲気が変わった、それに今迄こいつには無かった圧倒的な何かを感じる)
一歩また一歩とゆっくりこちらに近付いて来る剣心を見て黒死牟は痺れを切らし攻撃をする。
「いつまで……………ゆるりとしているつもりか?月の呼吸、拾肆ノ型、兇変・天満繊月」
六本の刀を振り抜き幾重にも重なる斬撃が剣心へと迫る、この斬撃はもはや並の剣士ならば躱す事も叶わずに細切れにされてしまうだろう。だが剣心は何もする様子も無く歩き続ける。
(何故何もしない?戦意喪失したのか?)
斬撃が当たると黒死牟は確信したが、斬撃は剣心の間合いに入ると同時にその場で消えてしまう。
(?奴は何をした?)
「お前は今…………………何をした?…………………月の呼吸、拾ノ型、穿面斬・蘿月」
鋸状の斬撃を放つがまたしても先程と同じく間合いに入ると消えてしまう。
(何だ?何だ?奴は何を)
黒死牟は動揺していた剣心が何かをして斬撃を消しているのはわかるだが、その理由が見つからない動揺は益々広まって行く更に剣心の姿が弟と重なる。
「うあああああああああああああ、月の呼吸、拾陸ノ型、月虹・片割れ月」
「無駄だ」
斬撃の柱が迫るが超神速を遥かに超える剣技で柱を全て消えて見える迄斬り刻む。
黒死牟には剣心は何もして無い様にしか見えなかった。さながら剣界と呼ぶに相応しい剣技。
剣心と黒死牟は互いの間合いに完全に入る。
「調子に乗るな!………………………月の呼吸」
「遅い」
腕六本で刀を振り下ろし、方や腕一本で刀を斬り上げる普通ならば腕六本が有利だが剣心が押し勝つ。
そのまま二人は至近距離での斬撃の応酬となる、腕六本でそれぞれの角度から刀を振るうが剣心は容易く全ての斬撃を刀で防ぐ堪らず距離を取ろうとするが剣心は蹴りを入れて黒死牟を後退させる。
(馬鹿なありえぬここまで手も足も出ないのか?痣が出ると身体能力は向上する、その上がり方は人それぞれだ余り変わらない者もいるだが)
「まだだ!…………………私はまだ!」
「龍の呼吸、拾弐ノ型、九頭龍閃」
九つ同時斬撃によりまず腕六本が吹き飛ぶその瞬間に再生しようとするが。
(再生しない!?)
黒死牟の腕は再生機能を失っていたそして最後の斬撃が頸に入る。
「兄上我らはそう大した者では無い、この瞬間にも我らを超える才を持った子供が産声を上げています」
「きっとこれから産まれて来る子供達が我らよりも高い場所へと登り詰めて行くだろう」
頸がコトンと床に落ちた。剣心は黒死牟の方に視線を向ける。
(再生しない身体がこれが赫刀、縁壱の力、これで終わりなのか、私は一体何の為に生きてきた?何故鬼になった?)
と黒死牟は人だった頃、縁壱と共に暮らしていた日々が脳裏に過る。
「兄上の夢はこの世で一番強い侍になる事ですか?私も兄上の様になりたい私は兄上の次に強い侍になります」
(侍…………………そうだ思い出した、私は私は縁壱お前になりたかったんだ)
黒死牟の身体は灰になって消えて行った。
「無一郎!」
剣心は灰になったのを確認し直ぐ様無一郎の元へと駆け寄るが、無一郎は既に。
「無一郎ありがとう、お前のおかけで勝てた」
無一郎の瞳をそっと閉じ剣心は髪を優しく撫でる。
「あれ?此処は何処だろ?」
無一郎は目を覚ますとイチョウの葉が飛び交う広間にいた。目の前に兄の有一郎がいた。
「戻れ!こっちに来るな戻れ!」
「兄さん」
「お前は何であんな馬鹿な事をした?殆ど無駄死にじゃないか!」
「無駄死に何かじゃないよ、だってあそこで俺が行かなかったら皆死んでた」
「そんな役目をお前がするなよ逃げるべきだったんだ」
「俺は自分がした事には悔いは無いよ、兄さんが鬼に殺されてずっと一人だったでも皆が俺を一人にしないでくれたんだ。そんな優しい仲間を死なせたくなかったんだ!」
「無一郎……でもそれでも俺は無一郎には死んでほしくなかったよ」
「兄さん」
「剣心さん本当は俺が無一郎さんの役をしなくちゃいけなかったのに」
玄弥は涙を流しながら俯いている。
「玄弥お前はいや俺達は無一郎から託されたんだ想いを、無一郎だけじゃない真菰やこれまで死んでいった剣士達の想いも今俺達に繋がっている今俺達がやるべき事は一つだ」
「剣心さん」
剣心はふと顔を俯いて一言小さく呟く。
「勝ったよ、真菰」
その時、誰かが剣心の頭を優しく撫でこう告げた。
「頑張ったね剣心」
かつて自身に向けてきた優しく声がした、剣心は顔を上げるがそこには誰もいなかった。
(そうか、見守ってくれてたのか)
真菰は一人桜並木を走り木の下にいる二人人影の元へと。
「お父さん!お母さん!私ね好きな男の子が出来たんだよ!」
満面の笑みを浮かべながら真菰は両親に抱きついた。
剣心は暫く溢れる涙を止める事が出来なかった。
剣心は巴達が殺された時以来泣くことが出来なくてなりましたが今回、真菰を想いそして無一郎を想い漸く涙を流す事が出来ました。
次回。
無惨戦へ。