鬼畜魔術師と甘党少女   作:藤堂桐戸

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多分、長く続かないかもです。仕事との状況を考えてコツコツと書いていこうかなと思ってます

あと読み上げ機能なんて追加されたんですね。全然知らなかった……


鬼畜魔術師と狂戦士

ある秘境の場所、深く濃い霧が立ち込める森林で一人の男と少女が居た。だがその見た目、風貌から普通ではない事が見て取れる

 

白髪に赤い目の男の片手には一本のナイフがあり、男はそれをなんの躊躇いもなく足元のモノへと突き刺す。モノから赤い液体が飛び散り、グチャリ、クチュクチュと音を立てながら何かを探しているかのようにナイフで切り裂きながら手を突っ込んでいる。

 

片や少女の方は表情を一切変えずに平然とその光景を眺めていた。液体が飛散ろうとモノが飛散ろうと微動だにしなかった。彼女は決して人形などでは無く、れっきとした少女だ。金色の長い髪は後頭部に綺麗に纏められ、冬場ではないにも関わらずマフラーとコートを身に着けている。一見ただの学生にも見える風貌だが、彼女の目に輝きはなく、目の奥は薄暗い。

 

「……まだですか?アランさん」

 

「もうちょっと待て。…よし、取れたぞ」

 

「相変わらず悪趣味ですね。魔術師の心臓をえぐり取るなんて」

 

「魔術師の心臓程媒体として良質なものは無いからな。ほら、今回のは良いものだぞ?」

 

「ならさっさと済ませてください。いい加減秘境巡りは飽きました」

 

「分かってるよ。帰ったらお菓子やるから少し待て」

 

「今すぐ帰りましょう。帰ったらお茶もお願いします。確か日本から取り寄せた抹茶とどら焼きもありましたよね?」

 

「はあ、変わらないな。お前も」

 

アランはえぐり取った心臓を布袋へ入れて腰へと袋を結びつけその場を離れていく。離れ際に一個の球体を投げつけ、地面に当たった瞬間球体から粉塵が舞い上がった。アランは少し離れた場所で何かを書き始め、慣れた手付きで書き終わると描いた物が淡く光り始める。男は粉塵に向かってパチンと指を鳴らすと瞬く間に森林に火の手が上がり始めた

 

「事後処理完了だな」

 

「久しぶりの我が家ですね。貴方の愚行に付き合うのも楽ではないです」

 

「余計なお世話だ。我らを元の住まう場所へ導け、我らは汝の場で住まう者」

 

アランがそう口にすると光の輝きが一層強くなり、一面光で満たされた後見えてきた物は煉瓦造りの家だった。彼らが住んでいる場所は見た目はただの一軒家だが、魔術によって防衛技術を施されており、普通の家とは構造が少し変わっている。おまけにこの家は秘境の奥地にに建てられており、彼らは基本転移魔術で大まかな移動をし、来客は一切無いのでドアが無い特殊な家である

 

 

「ふう、疲れましたね」

 

「ほら、今回の駄賃だ。茶は少し待て」

 

「私は子供じゃないです。ですが、有り難くいただきます」

 

ソファに腰掛けていた少女にアランが持ってきた皿いっぱいのどら焼きを見て少女は目を輝かせてどら焼きを一つ頬張る。さっきまでとは違い暗い雰囲気が少々薄まり、キラキラとしたようにも思える。アランは少女にもお茶を置き、荷物をそばに置いて椅子に腰掛ける

 

「お前の甘い物好きにも限度があるぞ。というより、甘い物しか食べてないよな?」

 

「糖分は私のエネルギー源です。甘い物が無いなら私は生きていけません」

 

アランの言う通り、彼女は主に甘味しか摂取していない。というのも彼女の力の源は糖分であり、糖分から魔力へ変換させ自らの力を変える。だからこそアランも甘味を与え続けているだが如何せん量が多い。収入が無く、他人からの略奪を主に生きている彼らにとって甘味は貴重である。調味料である砂糖等は簡単に手に入るが二人とも菓子作りはしない為、アランは菓子を奪うか、奪った金銭で菓子を大量購入し、彼女の満足させつつ共存していた

 

 

「しかし供給は俺だよりと。前に一人で買いに行かせた時、お前迷子になったよな?」

 

「うっ……そ、そんなこと無いです。しっかりと買ってきましたよ」

 

「どうだか。契約が切れた時にすぐさま別れたが、道中倒れていて結局戻ってきたじゃないか。なんやかんやもう九年経つぞ?」

 

「あ、あれは寝ていただけです!決して!倒れていた訳でないです!」

 

「ふぅ〜ん?まあ別に良いがな。個人的には戦力も欲しいし。……ん?」

 

「はむ……荷物みたいですね」

 

部屋の隅の一角が突如光り始め、二人はすぐさま光の根源へと目を向ける。一時光り続けたその場所から、正方形の木箱が出てきてその一角を埋める。光が木箱から消えたのを確認したアランはすぐさま箱を開ける

 

「これは……飾りか何かか?それと、紙?」

 

「というより、冠に似てますかね。見たことない形状ですが」

 

「なぜそんなものが……っ!!」

 

飾りを手にしていたアランの右手の甲に突然赤く紋様が浮かび上がってくる。これにはアランも少女も見覚えがあり、二人が出会うきっかけにもなった事だが、正直これには二人とも驚愕せざる負えなかった

 

「どうしてだ、早すぎる。まだ九年しか経っていないんだぞ!?」

 

「でもそれは間違いなく令呪です。と言う事は……」

 

「ああ、また始まるみたいだな。聖杯戦争が」

 

聖杯戦争

 

あまり公にはされてはいない事であり、一部の魔術師達にしかその存在を知るものはいない

その名の通りありとあらゆる願いを叶えると言われる万能の願望機、聖杯をルールを決めて奪い合う戦いのことを言う。聖杯戦争には召喚者として魔術師がサーヴァントと呼ばれる過去の英霊を呼び出し、魔術師を主として共に戦い抜いた一組だけが聖杯に願いを叶えてもらえるというものだ

 

かく言うアランも聖杯戦争には参加した事がある。今から九年前、魔術についての古い文献を漁っていたアランに落ちてきた文献から聖杯戦争について知る事となった。そして巻き込まれる形で参加したアランと今共にいる少女がサーヴァントとして召喚され、結果としてアランらは聖杯戦争を生き残り、勝者となった。

 

あれから九年、二人とも平穏とはかけ離れた行動をしつつもこうして何事も無くのびのびと生きていたのだ

 

「となると、これは聖遺物か?」

 

「確かめみては?英霊(サーヴァント)の召喚方法は覚えていますよね」

 

「そりゃ覚えてはいるが……俺が知りたいのはこれを誰か送りつけたかだよ」

 

「送り主不明ですか。これは参加しろという事では?」

 

「だが選ばれる魔術師(マスター)は聖杯に望みがあり、魔術に素養がある者だ。俺は魔術師だが、もう聖杯に望みはないぞ?何故令呪がこの身に宿る??」

 

「グチグチうるさいですね。さっさと参加しに行ってみてはどうですか」

 

「ん?お前は来ないのか?」

 

「当たり前です。聖杯によって受肉してしまった私は英霊(サーヴァント)の力を持ち合わせていても英霊(サーヴァント)程の耐久力は無いですから。意味のない戦いに参加する必要は無いです」

 

アランと少女が聖杯戦争で生き残り、聖杯に願いを告げる際、アランは自分にある聖杯の使用権を放棄した。それを聞いた少女はこの世界で生きながらえる為にも生身の身体を望んだ。英霊(サーヴァント)は聖杯戦争の間使い魔として現世に召喚されるが戦争が終わると消えていってしまう。戦争中は魔術師(マスター)からの魔力で現世に留めるだけの魔力を供給し続ければならないが、戦争が終わると例え今まで通り魔力を供給し続けても消えていってしまうのだ

 

「はあ……ん?どうやらお前も来る価値はあると思うぞ?」

 

「何故ですか?貴方も私も聖杯に望む物はありません。私は今の生活でも十分ですから」

 

あまりにも戦争参加に否定的な少女にアランは木箱にあった紙を見せる。それを見た少女は驚愕し、すぐさま紙をアランから奪い取った

 

「開催国は極東日本、場所は駒王町。遺物の差し出し人は口無し、ただ何も告げずただ何も聞かずに此度の聖杯戦争に馳せ参じよ。我は救済を望む者、悪が統べるこの地で我ら人間に、聖杯に救済を……その紙に書かれていた事だな」

 

「どういう事でしょうか?悪が統べる地で人間と聖杯に救済を……何者かに聖杯が奪われようとしている?」

 

「さぁな。だが俺は興味が湧いた。今回の聖杯戦争は今までとは違った戦いになるだろうからな。お前はどうする?」

 

「……参加します。これは行かなくてはならないです。悪が統べる地、とても興味があります」

 

「とか言うが、どうせ和菓子目的だろ?ここだと大量に和菓子は手に入りにくいからな」

 

「違います。決して和三盆糖が食べたいとかこの際色々な和菓子をお腹いっぱい食べたいとかそんな邪な考えで行くわけじゃないです」

 

「おいそれが本音だろ、少しは隠す努力をしろ」

 

「むっ…余計なお世話です」

 

アランは家にあったポーチを腰に身に着け、少女は少し照れながらも残っていたどら焼きを袋へ入れ淡々と準備を始めた。勿論送られた聖遺物も箱から取り出し、アランが身につけていたポーチへ近付けるとスッと吸い込まれてしまった。そして二人とも準備が終わるとアランが予め書いておいた魔術陣に入り、出発しようとしていた

 

「しばらく帰れないな。今回は荒れるぞ?」

 

「覚悟なら既に決めています。早くしてください」

 

「まったく……また頼むぞ。えっちゃん」

 

「はい、お任せを。魔術師(マスター)さん」

 

二人がそう話した瞬間、魔術陣が強く輝き始め、その力を行使する。光と共にすぐさま一軒家から二人の姿は消え去った。そして何処からか掠れた声である言葉が告げられる

 

魔術師(マスター)アラン・ホワイトと英霊(サーヴァント)クラス狂戦士(バーサーカー)ヒロインXオルタ  第六次聖杯戦争への参加を承認。尚特例としてもう一体の英霊(サーヴァント)召喚を承認。召喚後の管理は魔術師(マスター)に委託。此度の戦争にて、彼ら悪に絶望を、そして我ら人間と聖杯に救済を……」

 

 


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