イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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1話 アンダーワールド

 

 秘密裏に進められているプロジェクト。仮想世界を作り、いずれ兵器運用されるAIを作り出すもの。プロジェクトALICE。初期段階では協力していたが、今となってはお役ごめん。とはいえ、計画に加担している時点で日常生活にも支障が出てくる。監視だったり記憶の消去だったり。そんなことされるのが癪だったから、俺はその世界『アンダーワールド』にダイブすることにした。

 

 要は暇潰しである。ダイブしてその世界を堪能しておいて、この世界の行く末を眺めておこうっていう魂胆だ。とはいえ、この世界の初期設定アバターに合わせていては、自由に動き回りにくくなる。ある程度の能力値がほしい。

 

『え、面倒っす』

 

 あの眼鏡野郎な比嘉にそんなことを言われたから、だったらコンバートでいいぞバーカって感じでアカウントをコンバートさせた。GGOのアカウントを放り込んだわけだが、銃とかはこの世界に無いからってことで装備品は無しの状態。そのおかげで結構な能力値の高さだけをこのアンダーワールドに持って来られたわけなのだが……。

 

「なぁんでダークテリトリーなんだよあの野郎!!」

 

 赤い空。荒れ果てた大地。生物が全くいなさそうな残念な土地。自然の恵みもなく、超絶過酷な環境。

 そういう風に設計したわけだが、生身一つでそんな所に投げ出されたらたまったもんじゃない。能力値はともかく、装備など一切ないのだ。レーションもない。非常事態なのに非常食はなく、飯盒とかもない。野宿すらできやしない。

 

「動くにしても、どっちに動けばいいのやら……ん?」

 

 周りをぐるっと見渡して、西側の空が青いことに気づく。この世界でそうなる場所はただ一つ。

 

「あっちが人界か。ならそっちに行くとしますか」

 

 すたこらサッサ! GGOでアジリティを上げていた恩恵かな? たぶんこの世界でも足が速い方だ。比較対象がいないから確証はないけど、GGOで動いてる時と同じくらいのスピードで動けている気がする。

 西に進んでいくと、何やらデカイ壁が見えてくる。何あの壁。マジでデカイわ。よじ登るのも無理そうだし、かと言って崖も登れそうにない。この世界で死んだところで向こうに帰るだけなんだが、来て早々に帰るとか面白みがない。話のネタにはなるだろう。だが俺は何一つ面白くない。

 

 そんなわけで安全策としてよじ登るのは無しなんだが、いやあれどうやって通るんだよ。近づいてきたらあれが門だって分かるけども、門ガッツリ閉じてるじゃん。開く気配が一切ないし、勝手口がついてるわけでもないよな。

 

「どうやったらアレ突破できるんすかね」

 

「アレは無理だから、横の崖に穴を掘って中に入るんダ」

 

「なるほど。賢いっすね」

 

「ガハハ! 当たり前だゾ!」

 

 ゴブリンにも知恵ってあるんだな。馬鹿にしちゃいけねぇな。SAOと同じ感覚でいるのはやめておこう。ダークテリトリーの種族たち全員がそれなりに思考力を持ってると考えるべきか。初期設定でその辺バラけさせられても、成長はあるってことか。

 

「穴ができるまでどれくらいかかるんすか?」

 

「それなりに掘ってるからナ。あと二日ってところだ」

 

「二日か~。それなら待てるな」

 

「待ってねぇでオメェも手伝いやがレ。サボってんじゃ…………」

 

「ん?」

 

 なんかポカーンって顔されてる。口の中にその辺の枝を突っ込んでみた。こいつ、すっげぇ怒りだしたぞ。短気な奴だな。

 

「白イウムだ! 殺せ殺せェ!!」

 

「白イウム? 俺はそんな名前じゃないぞ」

 

「白イウムの名前なんゾどうでもいい!」

 

 刃こぼれしてる剣だな。ノコギリみたくなってて斬られたら痛そうだ。こいつの号令で穴の中から次々とゴブリンたちが出てくる。20人ってところか。結構多い。

 

(弓とかはなさそうだな。ということは、全員近接戦)

 

「殺せ!!」

 

「殺意高過ぎなぁい?」

 

 ダークテリトリーの奴らは、人界の人間たちと戦うように設定を組まれてる。人界は肥沃な地で、ダークテリトリーはそんな場所がないからだ。環境が劇的に違えば、自ずとその場に住む人間を妬ましく思うもの。それは分かるのだが、ここまで殺意を持つようになるのか? 

 

(武器がないのは面倒だな)

 

 切れ味の悪そうな剣だったり手斧だったりを持って我先にと突っ込んでくる。足の速さには多少のばら付きがあって、一番最初に来たやつを背負い投げして武器を奪う。そのまま腕を掴んで振り回し、他のゴブリンを牽制しといて団子状態になった瞬間に振り回していたゴブリンを投げ飛ばす。ボーリングのピンの様には飛ばなかったけど、何体か倒れた。その後ろから別のゴブリンたちが抜け出してくる。

 

「ほら頑張れ頑張れ!」

 

「ぎゃわっ!」

 

 奪った武器を先頭のゴブリンの眉間に投げつける。他のゴブリンを避けて、刺さっている武器の背を叩く。それでさらに武器が食い込んで、ゴブリンが消滅した。

 

「この白イウムがぁぁ!!」

 

「戦意がドンドン膨らむなぁー」

 

 武器をさらに奪って二つになる。それも二体のゴブリンに投げつけて、突っ込んでくるゴブリンをいなす。体勢を崩したそのゴブリンの背を踏み台にして、ジャンプ。他のゴブリンたちの肩やら頭を踏み台にして、集団の背へと抜け出した。

 

(NPCというか、AIのはずだよな?)

 

 意志を持っている。一体一体がそれぞれ。傷もエフェクトではなく実際に血が流れた。リアリティに作っているから血はともかくとして、意志の方は引っかかりを覚える。これができている時点で、それなりの成果が出ていると言っていい。

 

「こういうのって、決まって面倒なことになるんだよなぁ……」

 

「こいつ……! 舐めやがってーー!!」

 

「舐めプはしてないんですけどねぇ!!」

 

 最初に殺したゴブリンを倒せたのは、運が良かったと言っていい。他より足が速かったようだが、LPが低かったのだから。奇襲のおかげでもある。近接武器を投げてくるとか思わないだろうからな。さて、それは今はどうでもよくて。これどう考えてもこっちの体力が尽きて終わりだよな。向こうは数が多いからな。多勢に無勢とはこの事。

 結局ダイブして速攻で帰ることになるのか。日頃の行いのせいなのだろうか。何も悪いことはしていない気がするんだが。とか思ってたら眼前に迫ろうとしていたゴブリンたちが一斉に燃やされた。

 

「焚き火だ~」

 

「整合騎士!?」

 

(あったけ~。ん? 整合騎士? 人界の守護者とかそんな辺りか?)

 

 頭上を見上げれば竜が一頭飛んでる。そこから人影が飛び降りて、残りのゴブリンたちを次々と討伐。瞬く間にゴブリンたちが始末された。一人で圧倒できる実力。整合騎士というのは精鋭なようだ。年はそんなに変わらなさそうな女の子なのにな。強いんだなぁ。……年と強さは比例しないものだったな。

 

「無事かな?」

 

「おかげ様で」

 

「良かったよかった! じゃ、捕らえるね!」

 

「おおっと?」

 

 手錠をガシャンと掛けられる。おかしい。俺は被害者だぞ!

 

「なんで手錠かけられなきゃなんねぇんだよ!」

 

「むっ、抵抗は無意味だからね? 人界人がダークテリトリーにいる。これは立派な禁忌目録違反だから」

 

「状況的証拠しかねぇじゃねぇか! 上司に言われたのか? 俺を逮捕しろって指示が出てたか?」

 

「何も聞いてないけど、この場にいる時点で現行犯だし、罪人であることは明白。捕まえても怒られるわけ無いじゃん」

 

 くっ! たしかに向こうでも現行犯逮捕はある。令状無しで出来る唯一の手段だし、一般人でもできることだからな! それはそれとして、これって門を超えるチャンスじゃん。仕方ない。ひとまずは捕まっておいてやるか。

 

「それじゃあ拘束するから、暴れないでね」

 

「拘束具多くなーい? 縛るのが趣味なの?」

 

「そんな趣味ないからね!? 変なこと言うその口も閉じさせようか」

 

「やっぱそういう趣味あるんじゃん」

 

「ないよ! あぁもう! 話してると調子狂うから早く終わらせて連行するね!」

 

 拘束具やっぱり多くない? 胴体も縛られるって何さ。あ、飛竜の足に繋げられるんすね。なるほど~。ところで縛るの強すぎてマジで痛い。

 

「一ついいか?」

 

「聞くだけ聞いてあげる」

 

「胴を縛られると性的興奮を覚えておかしくなりそうなんだが」

 

「ひぃっ!! き、気持ち悪!!」

 

 もちろん嘘なんだけどな。そんなドMじゃないし。初対面のこいつがそれを見抜けるわけもなく、演技で昂奮してる様子でも見せれば完璧だ。こっちに妙なレッテルを張られてしまうが、この後の布石のためにもそれぐらい飲んでやる。

 拘束具が緩められる。拘束してるのか怪しいレベルで。それはもう超緩いぐらいに。これ、たぶん俺飛竜から落とされて死ぬよな。

 

「ど、どうしよう……連行はするけど、縛ったらアレだし……」

 

「要は俺を逃さないようにすればいいわけだろ? 手だけじゃ不安なら、首でも拘束すりゃいいんじゃないか?」

 

「そ、そうだね! システムコール──」

 

(ちょろいぜ! ……システムコール? 英語……うっ、頭が……!)

 

 俺が頭痛に苦しんでいる間に、胴の拘束具が変形されて首輪へと変わる。鎖もあって、その鎖を少女が握ってる。この首輪、ある程度首を動かせるようにはなってるな。俯くのとか、見上げるのもそこまで問題なさそうだ。

 俺は飛竜に掴まれる形で連行され、何やらデッカい塔にまで運ばれた。セントラル=カセドラルとか言うらしい。飛んでいる間ずっと下を眺めてたけど、結構整った場所って感じだった。気になることもちょっとあったのはあったんだが、それは後回しでいいな。ここは人界の中心のようだし、旅行には持ってこいなスタートラインに来られた。

 

「ほら来て」

 

「そんな乱暴に引っ張るなよー。首がもげて死んじゃうぞ?」

 

「手加減してるから死なないでしょ」

 

 うーんこのポニテめ。ちゃんと力加減が絶妙だ。ただ闇雲に戦闘力を鍛えたやつじゃないな。いや~厄介だ。賢しい奴とか厄介だ。混乱させたのに、今じゃ落ち着きを取り戻してる。

 

(それでもこっちが優位に立てるんだけどな)

 

「おっ、イーディス戻ったのか。……なんだそいつ?」

 

「この者は──」

 

「イーディス様の犬でございます」

 

「は?」

 

(ふっ、馬鹿め! 今でも俺に首輪をつけているのが間違いだったな!)

 

 首輪は付きっぱなしで、その首輪に繋がってる鎖をポニテ少女ことイーディスが握ってる。明らかに異常な光景だ。見たやつは思考力が低下するし、イーディスが説明する前にさらなる混乱を叩き込んでやればいい! 俺の発言でイーディスも唖然としてるから余裕だわ!

 

「イーディス様のご趣味でございます。性癖と言っても過言ではありません。普段は気付かれないようにしていたのですが、いやはや今日で露見してしまうとは」

 

「何言ってるの!? ねぇ何言ってるの!?」

 

「そ、そうか……。まぁ、なんだ……趣味はそれぞれだし、そこを否定する気はないが……程々にな?」

 

「違うんです! これには訳が……!」

 

「皆まで言うな! オレも黙っておいてやるから、他の奴にバレた時用の言い訳でも考えておけ。じゃあな」

 

「ちょっと待って!! あぁ…………」

 

 滅茶苦茶顔を引き攣らせてたけど、それでも笑って受け入れてるあたり懐が深い男だ。器がデカイ男ってカッコイイよな。頼りがいもあるし、あれは憧れるわー。

 さっさと姿を消した閣下殿。その閣下殿へと伸ばされたイーディスの手は、虚しく宙を漂う。やがてがくりとその場に膝を付いて打ちひしがれるイーディス。

 

「はははは! 可哀想になイーディスさんよぉ!」

 

「うぅっ! 誰のせいだと思ってるのこの馬鹿ぁ!!」

 

「うびゃ!」

 

 強烈なビンタが炸裂した。今度こそ本気で首がもげるかと思った。だが、ここで終わるわけにはいかない。先程の男が閣下殿だとして、たぶん騎士団の閣下だろう。それがそのままこの人界の長とは考えにくい。別にいるはずで、おそらくこのままだとそこに連れて行かれる。そんな面倒な目に合う前に、この世界に足をつけさせてもらおうか。

 …………その前にビンタをそろそろやめてもらおう。

 

「変な勘違いされたじゃない! どう責任取ってくれるのよー!!」

 

 そんな涙目で言われてもなぁ。泣きたいのはこっちだよ。口の中血の味するもん。何にせよ、可哀想なイーディス。お前がそれを求めると結局苦労するのにな。

 イーディスの手を掴んで止める。華奢な手なのにあれだけの力があるの不思議。さすが仮想世界ってところか。

 

「俺が責任取るためには、俺の連行をやめないと無理だぜ? どうせ裁かれて死ぬだろうからな。そうしたらイーディスに変な性癖があるってことだけが残る」

 

「でも、罪人は連行しなきゃいけないし」

 

「そこでだ。まずは俺を捕まえろって指令が出ていたかを確認しろ。出ていなかったら、俺を連行する必要がない。これで責任を取るための土俵に立てる」

 

「……出ていなかったとして、どう責任取ってくれるって言うの?」

 

「そうだな。イーディスは自分に必要な手駒が欲しかったっていう事にしたらいいんだよ。俺は俺でそれなりの働きをしないといけなくなるけど、それぐらいはやってやろう」

 

「何ができるって言うの。あたしたち整合騎士は、任務を一人で十二分にこなせるんだよ」

 

 そうだろうなぁ。人界の守護者なんだろうし、ゴブリンとの戦闘を見てればそれぐらい理解できる。だから、俺は俺で全力で生活の基盤を作らせてもらう。

 

「そうだとして、俺が罪人じゃなかった場合、イーディスは無実の民を捕えたということになるぞ?」

 

「っ!」

 

「整合騎士がそんな過ちをするわけにもいかないだろ?」

 

 イーディスに選択肢などあるわけがない。自分にとって耐えられないレッテルを貼られるか、整合騎士としてあるまじき失態を露呈させるかの2択なんだからな。そして、向こう側の人間である俺がここのルールに縛られるわけがない。イーディスは結局、俺を自分の手駒というポジションに置くことになる。

 

「……」

 

 悩むだろうな。混乱から抜け出せたのかは怪しいが、少しは頭を働かせる余裕も出てきたんだろう。だから、その前に俺が提示した選択肢を取るしかない。

 

「罪人だったら裁いてもらう。その後に、君の虚言だったと言えばそれで終わり。罪人であることがその裏付けになるんだから」

 

「ははっ、なら、まずは確かめに行こうか」

 

 やっぱり賢しい奴は面倒だ。勢いだけで押しきれない。

 それでも、俺の想定が覆されることはなかった。ダークテリトリーへ行ったという一般人はいないと断言され、イーディスはちっこいピエロに追い返された。

 

「残念でした~。俺の無実が証明されたな」

 

「……なんで……それなら君はいったい何者なの!」

 

「俺? 俺はカイル。ただの旅行客だよ。今じゃイーディスの飼い犬になったけどなぁ!!」

 

 拝啓比嘉氏 我、アンダーワールドに来て早々、整合騎士とやらの飼い犬になってしまいました。首輪もまだついたままです。お前戻ったら憶えてろよ。

 

「あ。あたしのものってことだよね? なら全部言いなりになってもらうね!」

 

 こいつ……! 笑顔でとんでもなく恐ろしいことを……!

 

 




 リセマラが終わらないので、続きはアリブレのリセマラが終わってストーリーを進めてからですね。
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