イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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14話 整合騎士Ⅰ

 

 セントラル=カセドラルは100階にも及ぶ超高層建築物だ。長い年月をかけて出来上がった代物らしいのだがそれはいま関係のない話。

 カセドラルの内部は階層ごとに用途が異なるようになっている。地下は牢屋。比較的低い階層に武器庫だったり、騎士見習いたちの居住区だったり。30階が飛竜の発着所。整合騎士の居住区は上の方に用意されているし、イーディスが大好きな大浴場も上にある。

 他にもいろいろとあるわけだが、中層あたりには修練場がある。その目的で作られたわけじゃないらしいのだが、特に装飾品や置物がなくて丁度いいということで、自然とそうなったようだ。

 

「早く構えよ」

 

 俺は今その場所にいて、目の前には完全武装して兜まで被っている整合騎士が剣を構えている。兜で多少は声がくぐもっているけど、透き通っていて芯のある声だ。聞き取りやすい。

 ぽりぽりと頬を掻きながら横で控えているイーディス(主人)を見る。ぶすっと頬を膨らませていて明らかに機嫌が悪い。でも止める気はないようで、『打ち負かせ』と目で指示を飛ばしてきた。その横にいる騎士長は腕を組みながらニヤニヤと楽しんでる。こちらも止めてはくれないようだ。

 

「どうした。怖気づくような性格でもあるまい」

 

「どうしてこうなったのやら……」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あの遺跡での戦いに決着が着いたあと、霧舞の背に乗ってカセドラルへと帰宅した。途中の休憩でイーディスと揃って仮眠を取ったりもしたけど、人界であれば身の危険もない。寝不足や心労のツケが回り、込み上げてきた眠気には逆らえなかった。

 

「おっ、戻ったか。収穫はあったのか?」

 

 カセドラルに着いたら、手を回してくれていた騎士長へ報告をしに行った。組織に属している以上、『報連相』は大事なことだ。イーディスはさっさと風呂に入りたがっていたけど、報告を後回しにはしなかった。その代わりだいぶはしょって一方的に終わらせてた。

 

「断片的過ぎていまいちわからねぇんだが?」

 

「カイルあとはよろしく!」

 

「りょーかい」

 

「躾けられたな……」

 

 そんなわけじゃないから妙な頷きはやめてほしい。今回の出来事とか、帰ってくるまでろくに風呂に入れなかったことを考えれば、イーディスが押し付けてくるのも受け入れられるだけだ。

 それに、今回は俺のわがままを聞いてもらって巻き込んだんだから、ここしばらくはイーディスのわがままを聞くのが筋だと思ってる。

 

「断片的だったが、なかなかデカイ山に当たったのは理解できた。補足説明頼むぜ」

 

「もちろんですよ」

 

 順序だてて騎士長に報告していく。今回行った遺跡がどういう場所だったのか。そこで何が起きたのか。敵のことも、彼女のことも。

 

「……なるほどな。これまた妙なもんに会ったな」

 

「騎士長の経験で似たことは?」

 

「ないな。元々オレ達整合騎士は人界の外に出ねぇ。例外は敵を補足した場合のみだ」

 

「なるほど」

 

「にしても、うーむ……」

 

 顎に手を当てて熟考を始めた。引っかかる部分があるのはわかる。俺だっていろいろと引っかかってる。

 

「もし今後その手の敵が出てくると厄介だな……。話を聞く限りイーディスの神器が相手と相性が良かったから勝てたわけだからな」

 

「ごもっともで」

 

 闇である敵に対して、闇の剣を神器としているイーディス。立ち向かうのに最適な存在だったわけだ。仮に今後あいつみたいな霊と戦う場合、有効打をその時に持ってないと厳しい。そもそも霊と戦うってなんだ。除霊師でも呼べ。

 

「でもま、霊って考えたらそこまで危惧する必要はないかと」

 

「ほう? それまたどうしてだ」

 

「霊ってのは未練があるから生まれる存在と言われています。場所に囚われるか、誰かを想っているか、もしくは誰かを恨んでいるか。だいたいその辺りです。で、場所に囚われてるやつなら、その場所に行かなければ遭遇しません。今回のがこれに当てはまりますね」

 

 自分が築いた《楽園》への執着。それが生み出した一種の悪夢。数百年の時を経てそれが終わったわけだ。

 

「次に誰かを想っている場合。これはたいてい心配しすぎてって状態です。幼い子を残して早くに亡くなってしまった親とかだと分かりやすい例でしょうか」

 

「ああ、うん。そうだな」

 

 絶対わかりやすくはなかったよなその反応! そういや整合騎士ってのは天界から召喚された騎士っていうふうに記憶をイジられてるだったな! 自分を産んだ親のことも覚えてないわな!

 

「まぁ……その場合なら見守ってるだけですから。危害は加えられませんし、その相手への思い残しがなくなれば消えるとされています。で、最後の誰かを恨んでる場合。それほど強く誰かを憎む状態になるのは、このご時世ではあまり考えられません。誰かに殺されたとしても、その相手だって年で死にますから」

 

「………最後のは安心できんな」

 

「あれ?」

 

「整合騎士ってのは、年を取らない(・・・・・・)。召喚された時の姿を維持し続けている。オレも100年ほど経ってはいるが、ずっとこの姿だからな」

 

 衝撃的な話ではあった。衝撃的だったけども、ある程度察しはついていた。イーディスがそんな感じのことを軽く溢していたし、最高司祭が長い時を生きているってのも気になっていたから。

 

「そんなわけで、最後の場合だと思い当たる節がない騎士の方が珍しいな」

 

「えぇ……。ま、頭の片隅に入れておく程度でいいと思いますけどね。よっぽどのことがない限りありえない現象ですから」

 

「そうだろうな。お前さんの話でも、その『彼女』がいなければ起きなかったことだと推測がつく」

 

 騎士長も、いるかどうかすら分からない存在を警戒しようなんて思っていないようだ。それもそうだろう。ただでさえわかってる敵のことだけでも手が足りないのが現状なのだから。

 

「報告としましてはこのあたりでいいですかね」

 

「そうだな。ご苦労さん。神器も無事に回収できたようだしな」

 

「神器? いやいやそんな大層なものはありませんでしたよ」

 

「なんだ気づいてなかったのか。お前さんの左手首についてるソレ、神器だぞ」

 

「………………はい?」

 

「まぁ……なんだ。見た目が武器らしくないし、想像してたものと違ったから気づいてなかったんだろうが、優先度は間違いなく神器の域にいる」

 

 頭をガリガリ掻きながら苦笑いして騎士長がそんなことを言ってきた。本当にそうなのかと、左手首にブレスレットとなって巻き付いてる彼女に聞いてみる。

 

[どうやらそのようですね。私自身神器というものは全く存じませんし、私自身がそれだと言われましても……。申し訳ございません]

 

[いや謝らないでいいよ。君が知らないのは無理ないし、誰だって自分が神器だなんて思わないから]

 

[お気遣い感謝いたします]

 

[気遣いではないんだけど……]

 

「そういやその子の名前はなんだ? ずっと『彼女』と言ってたが」

 

「そういえば俺も知らないっすわ」

 

「あのな……。神器の名前を知るのは最低限必要なことだぞ。名前がないのなら命名者になる。神器を最大限理解して活用するためにもな」

 

 たしかに信頼関係は大事だな。相互理解だって必要だ。俺と彼女は生きた世界が文字通り違うし、その環境だって全く違う。それは価値観の違いにも繋がってくる。彼女が合わせてくれてるからいいものの、これから彼女自身の判断基準を持ってもらいたいと考えてる。そうなると衝突も起きるだろう。それだけで関係が崩壊しないようにするためにも、分かり合う努力をしていかないとな。

 

[名前ですか……。あの、やはり名前というものは必要なのですか?]

 

[うん? どうして?]

 

[名前がなくても生活できましたから]

 

[たしかに生活できるだろうね。だけど、名前はやっぱり大切なものだと思うよ]

 

[どうしてですか?]

 

[それがその人の存在証明になるからさ。イーディスという名前はあの子のことを指す言葉。騎士長もベルクーリという名前がある。その人が誰なのかってことと、それを認知されることで君はそこにいると証明してもらえる。なくて困らなかったかもしれないけど、あると嬉しいものなんだよ]

 

[嬉しいもの……。わかりました。でしたらあなたが私に名前をつけてください]

 

[え!?]

 

[あなたが私を連れ出してくださいました。あなたに存在を証明されると嬉しい……と、おそらくですが思います]

 

「どうしたお前顔を引き攣らせて」

 

「いやー、ははは。彼女に名前をつけることをお願いされました」

 

 まさかこの年で名付け親になるなんて思わなかったな。もう笑うしかないやと乾いた笑いを浮かべていると、アバター名を決めているじゃないですかと彼女にツッコまれた。あのね、アバター名と人の名前は異なるんだよ。

 とは思いはしたものの、カイルというアバターとして生きてるこの世界。そこに生まれた彼女。俺の記憶を見た彼女からしたら、自分の存在はアバターの1人ということになるんだろう。……それは嫌だな。これまでアバターの名前を適当に決めてたことを恥じた。彼女を人として捉えるなら、これからはアバターも同列に考えよう。

 

「ハハハ! いい名前をつけてやれよ」

 

「しっかり考えてから決めますよ」

 

「そうしてやれ。っとそうだ。今より強くなりたいなら付き合ってやるぞ」

 

「ありがたいですけど、忙しいのでは?」

 

「なに。他の奴よりはやることがあるってだけだ。時間はそれなりに作れるさ」

 

「なるほど」

 

「だが、天命を回復させるのが先だな。上の風呂にゆっくり浸かれ。あそこは天命の回復を促進させる作用もあるからな」

 

「なにそのデタラメな便利機能」

 

 そんなこんなで大浴場へと向かい、昇降係の人に「汚れてますね。ちゃんと綺麗になってください」と辛辣な言葉をいただく。整合騎士ならともかく、その従者という立場であるなら同列だろって認識らしい。異論はないな。仲良くなれそうだ。

 

「あ、カイル。ごめんね押し付けちゃって」

 

「いやいいよ。いろいろと話はできたし、俺も整理できたから」

 

 大浴場へと向かう階段でイーディスと会う。風呂を楽しめたようで、ほかほかな表情でご機嫌だ。風呂上がりだから髪が湿ってる。なんてよくあることにはなっていない。神聖術で乾かしたんだろう。場所を問わないのだからドライヤーも顔負けだ。

 

「ならよかった。……ねぇ、カイル」

 

「ん?」

 

「部屋に戻ったら話をしましょ」

 

「……うん。わかった。騎士長には風呂でゆっくり休めって言われてるし、遅くなるかもしれないけど」

 

「それは大丈夫。カイルは天命が減り過ぎてるし、ちゃんと休まないと駄目だから。それじゃあまた後で」

 

 少しシリアスっぽかったから茶化すのはやめた。いったい何の話があるのかは分からないけど、真面目にそれに付き合うとしよう。

 

 大浴場がある階にたどり着き、デカイ扉を押し開ける。ここに来る度に思うんだけど、ちゃんと脱衣所を用意しようぜ。

 

「はああぁぁぁ~。傷口なんてないけど傷に染みるわぁぁ」

 

 体を洗い終えたら肩までしっかりと浸かる。扉の外にいたとはいえ、イーディスの監視がない状態で入るのは初めてだ。気にしていなかったものの、なんだか心理的なリラックス効果がいつもよりある気がする。

 

「なるほど。あの効能はこの仕組みでできてるんですね」

 

「すぐに分析できるのとか凄いな」

 

「得意なことのようなので」

 

「それでも瞬時にわかるのはずば抜けて凄いよ。………!? なんでいんの!?」

 

「? 私はずっと一緒ですよ? 左手首にいました」

 

「そうだけどそうじゃなくて! え、人の形出せたんだ」

 

「はい。天命を半分ほど分けていただくと可能です」

 

 さらっと勝手に半分取ったってことだよね。この意外と大胆だしアグレッシブだね!

 

「この状態を解けば天命も戻りますのでご安心を」

 

「そうなんだ。……で、お互い裸なわけだけど?」

 

「私は見られることに慣れてますから」

 

「…………そうだね」

 

 ピトッと肌をくっつけ、俺の体に這わせてきた手を掴んでやめさせる。そうなるとは思っていなかったのか、彼女は怯えた様子で俺の顔色を伺ってきた。

 

「あの……お気に召しませんでしたか? いかようにすればよいですか? 私の体でできることならどのようなことでもいたしますから……!」

 

 ……あぁ、そうなのか。この子は異性と風呂に入るとこれが当たり前なのか。それが染み付いてしまってるんだ。

 憐れむなんてことはしない。彼女の生活が惨めだったなんて思わない。彼女にとっての普通と、俺にとっての普通が違うだけなんだ。

 彼女はまだ、意識してないとこういったことを止められない。毎日繰り返してきたこと。ルーティーンと化していた行い。それが普通じゃないと思っても、癖はすぐに治るもんじゃないから。

 だから彼女は、今の自分の発言を再認識して自己嫌悪に陥っている。

 

「ごめんなさい……わたし……」

 

「怒ってないよ。驚いただけだから。これからも同じように止めてあげる。君が癖ついてしまった行いを何度でも止めるから。自分を卑下にしないで」

 

「……はい」

 

 徐々に変わっていけばいい。焦る必要なんてないのだから。

 彼女と背中合わせとなり、彼女の行動を抑える目的も兼ねて両手とも重ねる。少しずつ、こんな感じでやっていけばなんとかなるだろ。

 

「言い忘れておりましたが、私も療養してる状態となりますので、戻れば本来の2倍の速さであなたの天命が回復する形となります」

 

「まじか。ありがとう」

 

 お礼が嬉しかったのか。少しだけ彼女は握る手を強めた。

 

 

 




  
 イーディスとイチャついてほしいな。だから次回はイーディスだ!
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