イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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16話 整合騎士Ⅲ

 

 布団の中でもぞもぞっとしてる時に目が覚めた。寝覚めはだいぶ良くて、快適な睡眠を取れたんだなって実感できる。それは昨晩にあった出来事のおかげなんだけど。

 

 あたし結構恥ずかしいことになってなかった??

 

 いやいやまさかそんな。冷静になって思い返してみたらちゃんと判明することよね。カイルと話をしてたってぐらいだし。その流れでカイルの手を引いてここに押し倒される形になって。カイルの背中にあたしから手を回して、最後には額に口づけされただけで。

 

「ぅぁぁ……」

 

 大したことをしてた。結構一大事なことじゃないかしらあれは。寝る前にも手を繋いでもらってたし、あのあたし甘え過ぎじゃないかしら! 主人としての威厳がどこにもないわ!

 

「うん? イーディス起きたのか。おはよう」

 

 頭から布団被ってるのになんでおはようって言ってくるのかしらね! いやでもあたしがこのままにしといたら勘違いってことでやり過ごせるんじゃないかしら。

 そんなわけであたしは反応せずに布団の中で鳴りを潜めることにした。何かため息が聞こえてきた気がするけど気のせいよね。というか、なんでカイルは平然としてるのかしら。おかしいわね。カイルもカイルで相当なことをしてたのに。

 

 なんだかあたしだけってのも面白くない。

 

「なんで寝たフリしてんの?」

 

 カイルの疑問を無視して上体を起こす。ちょいちょいって手招きしたら素直に来てくれて、あたしは両手を軽く広げながらカイルの方に伸ばした。

 

「……イーディス?」

 

「ん!」

 

「いや何がしたいんだお前」

 

「昨日ぎゅってしてくれた!」

 

「幼児退行かなにか?」

 

 冷静になられるとひたすらにあたしが恥ずかしいだけじゃない!

 手がぷるぷる震えてきて顔に熱が溜まっていく。死なばもろともじゃないけど、カイルもこっち側に引き込みたいのに。なんでこんな平然としてるのかしらね。あたしだけってのが本当に意味わからないわね。

 

「~~っ! もういい!」

 

「まぁ待てって」

 

「うぇっ!?」

 

 布団の中に包まろうと思った矢先にカイルに片手を抑えられて、反対の手は腕ごと脇を通らされる。そのままぐいっと引っ張られると、体は布団から完全に出てカイルの腕の中に。

 

「これでいいのか?」

 

「ぇ、あ……えっと……」

 

「わがままなお姫様だな」

 

 前髪を掻き分けられて、昨日と同じところに同じことされた。その事にばかり意識が行って他の何も考えられなくなる。

 

「なにすんのよばか……」

 

「ははっ、さすがにやり過ぎだったか」

 

 ぽてんとカイルの胸に頭を押し付ける。目を瞑ってるとカイルの心臓の音がとくんとくんって聞こえてきて、それでだんだんと落ち着くことができた。

 落ち着いたら落ち着いたで今の状況に動揺する。

 

「着替えるから出てって!」

 

「りょーかい」

 

 いくらなんでも無茶苦茶だなって自分でも思うのに。カイルは笑い流してあたしから離れる。温もりが消えたことにちょっと寂しさを感じたけど、それは体が冷えるせい。

 

「あ、そうだイーディス」

 

 ドアを開けて首から上だけをこちらに覗かせてくる。話は後でもいいわけだし、先に言っとくことなのかな。

 

「鎧着てるより、そういう可愛らしい服着てるほうが似合ってるよ」

 

「なっ! ……っ、カイルのばか!」

 

 思いっきりぶん投げた枕がドアに激突した。

 

 

 

「まったくもう!」

 

 ぶつくさ文句を言いながら着替える。ダークテリトリーから帰ってきたばっかとはいえ、あれはお忍びで行ってきたことだから休みらしい休みも発生しない。カセドラルのいる間は休みみたいなもんなんだけどね。

 ここにいてもそのうち任務でどこかしらに向かうことになる。その時もカイルを連れて行くことになるわけだし、今のうちにカイルに鍛錬を積んでもらおうかしら。

 

「うん?」

 

 気配を感じてそっちに視線を向ける。あたし以外いないはずの部屋に誰かいた。

 

「おはようございます」

 

「え、うん。おはよう……じゃなくて!? あんた誰よ!!」

 

「どうしたイーディス」

 

「きゃああ!! 今入ってこないでよ変態!!」

 

 首輪越しに神聖術を放ってから風素の塊をぶつけて部屋の外の壁に叩きつける。これから着る服で前を隠しながら開けられたドアを叩きつけるように閉めた。というか、ついでにこの女の子も外に出せばよかったわね。

 

「それで誰なのよ」

 

「その前にお恥ずかしいのであれば服を着たらどうですか?」

 

「……」

 

 さっきのこともある。あたしは無言でささっと素早く袖を手を通した。

 着替えが済んだら外にいるカイルにも教えてあげる。頭を強く打ったようで、少し足元がおぼつかないようだった。一言謝罪を入れようと思ったのに、あたしが口を開く前にカイルが口を開いた。

 

「あれ? なんでここにいんの?」

 

「なんでカイルはこの子のこと知ってんのよ!」

 

 服を掴んで思いっきり揺する。

 

「あれ? イーディスは知らないんだっけ?」

 

「知らないわよ! というかカイルもいつ知り合ったのよ!」

 

「この前の遺跡でだけど」

 

「はあ!?」

 

 意味がわからない。あの時にこの子がいたなんて信じられない。だってあの場にはあたしとカイルしかいなかったし。そういえばカイルはいつの間にあの変な武器を手に入れたんだろ。あの出来事に関して、あたし知らないこと多い気がしてきた。

 一旦カイルの口を手で塞ぐ。まずは何から聞くかを整理しないといけない。あたしが知らないことが何なのかを、あの時の状況を思い出しながら考える。

 

「とりあえず、あたしが質問するからカイルはそれに答えていって」

 

 こくりとカイルは頷いた。あたしもカイルの口から手を離す。

 

「カイルが使ってた武器について教えて。いつの間にあれを手に入れたのか」

 

「あの武器は銃だよ。弾はリソースを溜め込んだやつみたいだけど。いつの間にって言うと、イーディスが混乱してた間だな」

 

「じゅう? ……あとで見させてもらうとして、やっぱりそれくらいの時しかないわよね。じゃあこの子は?」

 

「この子と出会ったのもそれとほぼ同時だな。俺に協力してくれる子で、一応神器だよ」

 

「意味分かんない」

 

「見せた方が早いかな」

 

 カイルがその子を手招きすると、彼女も頷いてカイルの側に寄る。二人が手を繋ぐと彼女は光に包まれだした。銀白色で絢爛さを感じる光。やがて形がじゅうってやつの形に変わっていく。あの時に見たやつと同じだ。カイルの両手に1つずつある。

 

「そんなわけで、これが俺の神器ってわけ」

 

「人が神器だなんて聞いたことないわよ」

 

「だろうな。性格には、彼女の意志が残った手枷が神器で、彼女は俺の天命を拝借することで人の姿になれるだけだ」

 

「……頭痛い。まあでも……あそこで出会ったのなら彼女にもいろいろ会ったんでしょうね。その辺りは聞かないことにするわ。カイルは知ってるんでしょ?」

 

「それはもちろん」

 

「ならそれでいいわよ。カイルが彼女のことを知ってるなら」

 

 元々あたし達は部外者なんだし、使用者であるカイルが知っているのならそれで十分でしょ。カイルはそういうの受け止められるだろうから。

 

「あ、もうその形じゃなくていいわよ。ありがとう」

 

 そう言うと彼女は人の形へと戻った。いや、その状態が果たして戻った状態なのかは分からないけども。

 

「それでこの子の名前は?」

 

 改めて彼女について聞く。肩の後ろあたりまでの長さのキラキラした白い髪。澄んだ瞳をしていて、同じ女性でも息を呑むほど整った容姿。可愛らしい女の子。

 彼女はあたしには答えず無言でカイルの方を見る。その目は何かを期待しているようで、事情を知らないあたしは首を傾げた。

 

「ん。彼女の名前はイリナだよ」

 

「イリナ……わたしの名前……」

 

 確かめるように何度か口にしてる。その様子を見て大体察することができた。カイルにしては可愛い名前をつけられたんじゃないかな。

 

「カイル」

 

「うん?」

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしましてイリナ」

 

 イリナはふわっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。それを見てるあたしもなんだか嬉しくなって頬が緩んでくる。

 でもそれはすぐに引き攣った笑みになった。

 

「カイル本当にありがとうございます」

 

「気に入ったもらえたなら俺も嬉しい、よっ!?」

「なっ!?」

 

 目の前の光景に体が固まる。

 イリナは本当に嬉しそうにしてて声が弾んでた。カイルも微笑んでそのお礼を受け止めてた。そのカイルの口に、あろうことかイリナは自分のその柔らかな口を押し当てた。

 

「なにしてんのイリナ!?」

 

「? 何かをいただいたらこうしてお礼するのではないのですか?」

 

「しないわよ! 赤ちゃんできるわよ!」

 

「!? ……カイルの子なら嬉しいですね」

 

「できねぇよ!! イリナも真に受けるな!!」

 

「できないの!?」

 

「イーディスのその誤った知識はどうなってるんだ!」

 

 あたしの間違った知識をカイルに指摘される。それが終わったら次はイリナだと視線を向けるも、お腹を擦ってるイリナを見てカイルは膝から崩れ落ちる。カイルの許容量を一発で超えるなんて、末恐ろしいわねこの子。

 でもカイルはすぐに立ち直った。その切り替えの速さは素直に感嘆する。

 

「いいか。お礼はそういうことをしなくていい。もうそんな簡単にしなくていいんだ」

 

「ですがカイルだってイーディスにしてました」

 

「……口同士ではしてないから」

 

「口同士なのとそうでないのとで違いはあるのですか?」

 

「俺はあると思うぞ。文化の違いで変わるだろうけど、俺に馴染みがあるやつだと、口同士は好きな人同士がするかな」

 

「カイルは私のこと好きですか? 嫌いですか? どちらですか?」

 

「そう聞かれたら好きだと答えるけども」

 

「では問題ないですね」

 

「そうだね。…………あれ?」

「問題あるでしょ!!」

 

 完全に話の主導権握られてたじゃない! 何をそんなにあっさりと誘導されてるのよ!

 

 カイルの頭をバシッと叩く。話を持っていかれるところだったってケラケラ笑ってるけど、今完全に持っていかれてたわよ。ものの見事に。あまりにもあっさりと。

 

「カイル。私はイーディスと話さないといけないことがあります」

 

「……そうだね。じゃあ俺はまた外に出とくから、終わったら教えて」

 

「はい」

 

 カイルが外に出て、部屋の中はあたしとイリナだけになる。今日は朝からカイルがよく外に出るなって思うけど、半分はあたしが原因なのよね。着替えのためだから当たり前だけど。見られるなんて恥ずかしくて気が狂うわよ。

 さっきから立って話してたけど、部屋の中で立ち話をする必要もないのよね。そんなわけであたしはイリナを椅子に座らせて、二人分の飲み物を入れて対面に座る。こうやって可愛らしい女の子と二人になるのも悪くないわね。最近はずっとカイルが側にいたし。

 

「それで話って?」

 

「イーディスが苦しんでいる失った記憶についてです。ごめんなさい。あれを想起させたのは私の力なんです」

 

「……そう」

 

 ぺこりと頭を下げるイリナに、あたしはなんて言葉を返すか迷った。その結果ただ一言だけになってる。たしかにあたしはその事で苦しんでる。一晩経ったけど、こうして落ち着いてるとその事を考えちゃう自分がいる。

 だけど、たとえイリナが原因だとしても、大元をたどれば彼女じゃないのなら、あたしはイリナを責める権利なんてない。

 

「別にいいわよ」

 

「え?」

 

「苦しい思いはしてるけど、嫌な記憶とかじゃないのはわかるから。寂しいのは確かで、虚しさもある。だけど、あなたを責める理由にはならないわ。むしろ感謝しないとね」

 

 感謝。そんな言葉が出てくるとは思ってなかったでしょうね。目をぱちくりさせてる。だけど、彼女に何か言うとしたら。許すとかでもなくてこれなのよ。

 

「幸せだと思える過去があった。それがわかっただけでも嬉しいのよ。だから、ありがとうイリナ」

 

「……いえ、そのようなこと……」

 

「ふふっ」

 

 お礼を言われるなんて慣れてないのね。恥ずかしそうに俯いてもじもじしてる。

 少し赤くなった頬を抑えて、イリナはひとつ咳払いを入れる。違う話題もあるようね。

 

「カイルについて、イーディスに話しとくことがあります」

 

「カイルのこと? なに?」

 

「あの人の限界点(・・・)についてです」

 

 

 

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